爆弾情報
今日は寝不足だけど、気持ちは明るい。妹の『楓』が突然現れたから嬉しくてしょうがない。夜中だったけど、急いでモニカを起こし、事情を説明し、妹を看てもらった。脱水症状だけで、食事を摂れば大丈夫と分かって、やっとオロオロしていた自分に気づいた。
念のため、私が「ハイハイヒール」を掛けた。『楓』に水分補給をしたら、安心したように寝入った。
でもなぜ? モニカのネグリジェの下がスッポンポンだったの? 相手はクロード様? 仲が戻ったの? そもそもモニカはパジャマ派だったはずよね。
『楓』は昼時に目を覚ました。その頃には宴会参加者にも情報を共有していたから、誰も帰らずに待機していた。
『楓』には事前に、この世界が異世界であること、私は『楓』とは違い、異世界転生したため年齢も容姿も違うこと、異世界人は転移したときに、何らかの能力が与えられていること、『楓』には特別な転移魔法が使えたこと、真司もこの世界に転移しているから近づかないこと、これから私の家族と食事をするが、今のところ優しいから怖がらなくていいこと、これからは私が『楓』を守ることを伝えると、やっと安心していた。
そして、最も大切なことを話した。真司は幼女趣味があるから避けるようにすること、私たちはここでは血が繋がっていないから、お母様を通して義理の姉妹になること、そして私が『詩』であることは誰にも話してはいけない。特に真司には、絶対に感づかれてはいけないと念押しした。
昼食時、宴会に参加した人たちが、食卓に座っている。私の側に『楓』が、その側には『真司』がいる? 国王と養子縁組が決まったとはいえ、まだ正式手続が終えていないあなたは、ただの居候なのだから、私たちと同じ食卓ではないはずよね?
しかも楓の側にいるのはどういうこと? ウラベル様以外の女性陣は頬を赤らめているが、むしろ怖い。普通にしてほしい。サラ様までうつむき加減で頬を赤らめている。
ああ~、どいつも、こいつも、発情雌豚になっている。
和やかに食事をしている。このメンバーで食事をして、和やかなのは、初めてだ。この人たちは宴会しかしないと思っていたけど、ちゃんとした食事もできるんだ。
へ――――――いつもそうして欲しいなぁ。
『楓』は食事をしながら、このメンバーにも慣れたようで、特に最高軍事顧問の『ウラベル様』に対しては、何かと質問していた。ウラベル様は高齢だけど、日本の母と同じ40代に見えるから、『楓』にとっては母親と話しているようなものだろう。
私も日本の両親が私の転生時に死んだことを知ったときはショックだったから、『楓』にとっては家族全員を失っていたのだからなおさらだ。
『楓』は前世界では、真司のことをあまりよく思っていなかった。勘がいい子だ。だから真司が寄ってきても相手にしていない。
端にいたウラベル様が、さっきから『楓』の正面に座っているクロード様に、眼を付けている。
クロード様は、その眼力に負け、
「姉さん、その席は寒いからここに来ないかい?」と言えば、
「あら、姉を心配してくれているのね。今度あんたが、ララの護衛任務に就かせていせた黒服たちの後釜を、私の方で手配してやるよ」
「そ、それはご勘弁を。今では彼らの唯一の楽しみなのですから、その代わり彼らの本業の代わりを魔法局に出向させていただけますか?」
「ああ、わかった。私の直属の部下の特殊暗殺部隊から、10名を明日にでもあんたのところに派遣してやるよ」
「ありがとうございます。この席は永遠にお姉様の場所です」
「ふふっ、やっとお前も空気が読めるようになったね」
楓はいつの間にか、私よりウラベル様と話す時間の方が、多くなっている。食事の最後頃にはウラベル様は『私の子になるかい? いつでもいいよ』と話していた。
楓もまさか、『ララお姉ちゃんも一緒だったらいいよ』と、冗談なのか本気なのか返事をしたから、びっくりした。
△△△
~夕食時~
昼食のときは楓に配慮して、差し障りのない話題に終始していたが、先ほどから急に真剣な話し合いになっている。
いつものようにお母様、私、なぜか最近夕食時に来るクロード様がいる。囲んでいる女の人の居宅には午前中に訪問しているらしい。この世界では普通らしいので、許容の範囲のようだ。
ちゃんと仕事しているのかな?
楓の隣はウラベル様の常設席になったようだ。真司は悔しそうに見ている。
ウラベル様はその日のうちに引っ越してきた。家督はウラベル様の長男に譲っているから、孫でミリトリア王国の天才といわれた、第一秘書のピノさんに、楓のための洋服を両手に抱えさせてやってきた。
「女の子の孫もピノだけで、小さい子はもういないのよね。ピノも今年23歳だから、8歳の楓ちゃんは可愛くて仕方ないわ。それに今までここまで懐いた子はいないのよね。ザザはやさしい子だけど男なのだから、もっとガツガツしてほしい」
ピノさんがボソボソと聞こえるように話した。
「そんな笑顔を私にさえ、見せたことありませんよね!」
ウラベル様の後ろには、ピノさんがいてメイドを兼任している。楓と楽しく話しているウラベル様はニコニコだ。
二人の会話を聞きながら、みんな嬉しそうだ。
私も嬉しい。
「あのね、楓がね、怖い人たちに囲まれていたとき、金髪の人も一緒に来てたの! それでね、その人と偉そうな人が、ニコニコして話していたよ」
その時、その場にいたすべての者が固まった。昨日も妖麗なネグリジェで、ウロウロしていたモニカさえ、手に持っていた皿を落とした。
幻影の魔女、私、魔法局長官クロード、最高軍事顧問ウラベル、第一秘書ピノ、幻影の魔女の専属秘書モニカ、数十秒あっただろうか。時が止まった。誰も知らない情報であり、最高情報だ。
我に返った私は、楓にどう聞こうかと考えたが、私より先にウラベル様が楓に聞いた。
「その金髪の人と、偉い人の話は聞こえたかい?」
「うん、意味がわからないこともあったけど、全部覚えているよ」
「さすが、私の妹だ。偏差値が高い」
「ララお姉ちゃんも知りたいの?」
「私もみんなも知りたいよ。でも怖い思いをしたから、話したくなかったら話さなくていいよ」
「ううん、もういいの。話せるよ!」
楓は知っていることは言葉としてはわかるが、意味がわからないことも含め、すべて話した。
その話をまとめると、こんな感じだ。
筆頭司祭ヤコブと話していた転移者の名は、ジョゼフといい世界の警察官を公言して、武器商人をしている星が50ある旗の国の出身者だった。
ヤコブの出した条件は、ブルセルツ皇国のために大陸統一に協力すること、褒美は金も女も選び放題で、ハーレムでウハウハ、あんなことやこんなことができること、ヤコブが魔法スキルを確認していたが火を出していたこと、『楓』も含めてみんなの体が急に重くなったこと、シドル連邦は勇者召喚をしたが、政変があって、勇者が最高指導者になり、ブルセルツ皇国と軍事同盟を結び、大陸の東はブルセルツ皇国、西はシドル連邦の領土とすることだった、それに協力したら征服した国のうち好きな国を一つジョゼフに渡すこと。
楓はあんなことやこんなことを、一字一句意味がわからないためか、話していたけど……私は止めて!! と言いそうになるくらい恥ずかしかった。
クロード様は天井を見ていた。
意外にもモニカとサラ様が前のめりになって聞いていた。
「お母様、どうしたのですか」
トイレ?
お母様が、席を外すと、真司もトイレに行くらしい。
「ふ~ん」
モニカとサラ様も行くんだ。ふ~ん。
急遽、王都魔法学園長リリア、魔法省大臣エドモンド様、モニカの長女で魔法省大臣第一秘書マリアも加わり、軍事会議兼食事となった。私はただの転移魔法使いのタクシー運転手代わりだ。
お母様と真司、モニカ、サラ様はここにいない。長いトイレをお楽しみ中です。
1時間後、お母様と真司はまだらしく、モニカとサラ様が顔を赤らめて帰ってきた。トイレが1時間もかかるとは二人とも便秘ですか?
『楓』を紹介したら、8歳の子はかわいいので、マスコットになっていた。ただ、サラ様まで私の子にならないかと言ったので、ウラベル様と睨み合いになり、今にも二人とも剣に手をかけそうな雰囲気になったが、『楓』が二人もお母さんができて嬉しいと言ったため、サラ様まで急遽長男に家督を譲り引っ越してきた。
サラ様、楓をここに来るための出汁に使わないで欲しいな。声が聞こえていましたよ。それにトイレと言っておきながら、どうして二人とも寝室から出てくるのですか? モニカもクロード様には黙っておきます。知っているかもしれませんが、お世話になっていますから。でも、きっと全員にバレています。二人とも乱れた髪くらい直した方がいいですよ。
対策はすぐにできないが、ブルセルツ皇国だけでなく、シドル連邦の勇者情報まで、すごい情報が入ったことで、楓の株は爆上がりだった。この情報だけで国王が直々最高勲章を出すレベルだ。
和気藹々とした雰囲気で軍事会議をするのってあり?
幻影の魔女が楓にいろいろ試したが、転移魔法以外は使えないようだった。ただ、私たちのように、一度転移する場所に行かなければいけない転移魔法と違い、イメージをすればどこでも転移することができるものだった。それは場所でなくても、今回の私のように、対象者をイメージすれば、その対象者がいる場所に転移できてしまう。
そして同伴転移することができるのは『楓』から2メートル以内に入った者は何人でも制限がなかった。楓の魔力値は530あった。この世界の者と比較したら十分に高いが魔法種がないのが残念だ。これだけ魔法値が高ければ、地道に訓練すると適正がなくても、中級魔法くらいは使えるようになるだろう。
楓の特殊転移魔法は、転移ポイントを設置して、亜空間を移動するものではなく、ワープ航法のように超高速移動するような感じだ。だからか魔力消費は全くないが、体力が必要なのは魔法と同じだ。
次の日から私は、お母様考案の筋力養成ギブスを身につけることになった。学校に行ってもギリギリと音がしてしまい、周囲の目が気になるのでお母様にお願いしてもらい、筋力養成ギブス2号を身につけている。1号と比べ音はしないが、威力が増しているので、食事をするフォークを口に入れるのに苦労している。まるで二人羽織のようで、口のまわりはベチャベチャだし、テーブルの前は落とした料理が沢山、もう嫌。お母さん、どうしたの? こんなことを思いつくようなお母さんじゃなかったよね。
あの子、どんどんかわいくなっていくのよね。今のままだと、女性らしい体になったら真司を盗られてしまう。私は悪魔化を防止するため、真司の体液が必要なのよ。私は1日5回以上の回数が必要なのよ。それさえ済めばお下がり目あての女どもは、好きなように楽しめばいい。だけど、ララだけは駄目だ。あの子は人を虜にする能力がある。盗られてしまうと、私は規程回数がこなせなくなる。そうすると悪魔化がまた進行してしまう。
だから、男のような体にしてしまえば、ふふふ。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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