第二ララ自治区
次回分は本日アップしますが最終話となります。少し長くなりますが、よろしくお願いします。
今日は朝早くから元ジナイダ大帝国第二ララ自治区で月に一度行われることになった特別軍事訓練の第一回目を視察に来ている。私の側にセシール・トマイル宰相代行がいて、訓練内容を説明している。
ここでの訓練もラカユ帝国方式に変更し、完全実践形式で行っている。特別軍事訓練には特別庶務部の治療課が参加する。完全実践方式だから死ぬ者が出る可能性もある。そこで死ぬことがないように特別庶務部が参加している。
なかなか激しい戦いをしているが、怪我をする者がほとんどいない。ラカユ国の軍事訓練とは雲泥の差だ。
休憩が入り、セシール・トマイル宰相代行が感想を語った。
「お前ら!! ままごとをしてんじゃねぇ――――! 殺す気でやれ――――――――!! ララ様が見学に来てるんだぞ――――!!」
だが、一部の者から文句が飛び出した。
「宰相代行殿、我々は女帝様が来られたからといって手を抜いてはいません。いつも通りでやっています。むしろ普段の特別訓練よりも激しいくらいです」
「なんだと――――! これで激しいのか?」
セシール・トマイル宰相代行が現地訓練統括官に聞いた。
「ベルマト・マーヘル少将、これで厳しいのか?」
「はっ! セシール宰相代行やララ女帝は訓練などされたことがないから分からないでしょうが、ジナイダ大帝国時代の訓練と比べても相当厳しいものとなっております」
「分かった。では私が見本を見せる」
「セシール、ちょっと待って。あなたが本気でやるとここにいる人たちが全員死んでしまう。死んでしまったら特別庶務部であっても、雪ちゃんであっても生き返らない。私が見本を見せるから落ち着いて。ね……」
「ララ様がそこまでおっしゃるのであれば、私は諦めます。ではララ様と雪様、歩様のブートキャンプを披露いただければ、くそ野郎共も納得するはずです」
「いいよ。どうせ今日もしなくちゃいけないから。ここでしても一緒よ。どうせなら、華ちゃんとみちるちゃん、楓にもブートキャンプをお願いね」
「えっ? お姉ちゃん、私、観光に来たのだけど?」
「小町ちゃん、楓の回復要員をお願いね」
「はい、楓様が死なないようにがんばります」
「おいおい、女帝様のお出ましか?」
「お前、知っているか? あの女帝様だが、宰相、副宰相、そして3人の天才軍師がいたから、孤児だったくせに、あれよあれよと女王になり、瞬く間に女帝になったらしいぞ」
「ああ、知っている。出自は孤児といっても奴隷商に売られたらしいぞ。しかもそれを自慢しているんだってよ」
「そりゃあ違うと思うぞ。あれはきっとフラグだ。『私は孤児出身だけどこんなに立派になりました。みんなも諦めずにガンバレばきっと私のようになれます。だから私と一緒にこの国をよくしましょう』みたいな感じだ。よく考えてみろ、孤児が女帝になれるか? あんな気品ある態度ができるか? 天才たちが孤児に従うか? あれは高貴な育ちでは部下が萎縮するから、あえて底辺のそのまた底辺の孤児という設定にしたのだよ。明智くん」
「お前の考えも一理あるが、女帝はバカらしいぞ」
「そうそう本当にバカらしいぞ。ただ、運だけは強く、天才5名のおかげでぬくぬくとできているらしい」
「おい、親衛隊と訓練するんじゃないのか? だけど親衛隊はどこか人ごとのような気配だし、親衛隊長が女帝に誘われているが、土下座して断っているぞ」
「おいおい、メイドがぞろぞろ出てきたぞ。軍人は一人か? いや、あれは医官だ」
「女の医官と戦うのか? ははは、まあ、バカだが運だけでのし上がった世間知らずの女帝様の考えそうなことだ」
「いや、違うぞ、メイドと戦うようだ。ますます世間知らずな女帝様だ。メイドの使う剣はスパゲティだったりして……」
「お前ら、もっとトーンを下げろ。聞こえる。聞かれたら処刑されるぞ」
あぁ~、あなたたちの言っていること全部聞こえているわ。しかも顔まで確認できている。雪ちゃんが全情報を私の頭に送りつけてくる。ミリー少佐、アントス大尉、ゴンベルト中佐、ホレー少佐、ガリウ中尉、ソント少尉、グリモア大佐……。分かるわ、その気持ち。初見だったら私もそう思うもの。でももう止めて欲しい。雪ちゃんの顔つきが、にこにこ天使顔に変った。
「つばさちゃん、まりちゃん、そこで隠れてお菓子を食べているステンノーちゃん、私を全力で蘇生させてちょうだい。万が一のときは雪ちゃんを攻撃してもいいからね。セシールは全力でバリアを張ってよね」
雪ちゃんはまだ満面の笑顔でミリー少佐たちに手まで振っている。相当怒っているわ。ああ、もしかしたら本当に死ぬかも?
「セシールあなたがブートキャンプ開始の合図をお願いね」
「はい。それでは皆さん開始位置についてください。始め!!」
ブートキャンプを初めて見る尉官以上の元ジナイダ大帝国軍と新規採用者は現実逃避したくなった。そこにある光景は、メイドが最高難度魔法を放ち、アダマンタイトとオリハルコンにミスリルを混合したドワーフ王の最高級の剣を使い、女帝とその妹を悲惨な姿にしている鬼の姿だった。
そしてメイドの最高難度回復魔法により元の体に戻ると、構わず訓練を続ける女帝とその妹の姿はまるで、鬼教官にいじめられる新兵のようだ。
それが日常繰り返されていると知り、呆然とする者や、女帝の手と足が折れて明後日の方向を向いていたり、片足が千切れ鮮血する姿を見て吐く者や、それを一切助けず直視している親衛隊を見てこれが日常だと理解した。
「止め――――――――――!!」
私は両足が千切れていたが、そこに雪ちゃんが最大火炎魔法を放った。
「あ! 私、死ぬ」
小町ちゃんと華ちゃんが雪ちゃんにビーム弾を放ったから、最大火炎魔法がズレた。つばさちゃん、まりちゃん、歩ちゃんが急いで私の側で障壁を張った。セシールだけでは破壊されてしまうから、兵士を守るためにステンノーちゃん、みちるちゃんも障壁を重ね掛けした。
「あぁ、助かったわ」
楓は目を白くして倒れている。
雪ちゃんは?
「はっ?! ララ様、大丈夫ですか?」
「なんとかね。華ちゃん、小町ちゃん、ナイスフォローよ。あれがなければ、つばさちゃん、歩ちゃん、まりちゃんの障壁は間に合わなかったわ」
「す、すみません。あまりにもバカにしているものですから、ちょっと腹が立って、我を忘れて悪魔が支配してしまいました」
「いいのよ。私を思ってのことだから。でも次からはもう少し手加減してね」
「はい。死なない程度にします」
最後にセシール・トマイル宰相代行が特別訓練終了の挨拶をした。
「いいか――――お前ら――――!! 今日のブートキャンプのことは極秘だからな。ペラペラ喋るんじゃねえぞ。喋ってみろシドルの海に浮かべるからな!! 努々忘れるな!!!!!」
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
この日以来第二ララ自治区の特別軍事訓練はラカユ国と同じ超絶メニューとなった。今日も千切れた足を引きずりながらも、嬉しそうに泣く第二ララ自治区の兵士の姿があった。最高難度回復魔法超グレートエクストラヒールを使ってもらい元に戻ろうと、足が千切れたときは痛いなんてものではない。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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