ラカユ帝国大お茶会作戦会議
ヘルシス宰相も軍服を着ている。階級は大元帥、実質的な軍の最高位だ。だが現場には出ることはない。お腹が少し出ているから、この軍服を着るのはこれが最後だ。
今回の作戦会議を仕切っているのはリデア・ポミアン上級元帥だが実際に現場を指揮するのは、セシール・トマイル元帥となる。
作戦会議にはエドモンド・オベルツ名誉大元帥、ウラベル・バルセン名誉大元帥、クロード・オベルツ名誉大元帥も参加している。全員揃って軍の全体会議に参加するのは今回が初めてだ。メイドのフミちゃんとアヤちゃんも参加している。流石独自に情報収集しているだけある。
今回は本格的にラカユ帝国滅亡の危機だ。クロードおじさまの秘書は6人全員が参加している。西グラン公国との戦いで功績があり中将に昇格したマゴイ・ハイヤット中将もウラベル母さんの側で真剣な顔をしている。楓も急いで私の側に来た。
リデア・ポミアン上級元帥が作戦会議の前にこれまでの経緯を話した。
「これまで黒服隊が調べ、本部で検討したことを話す。一度しか話さないから聞き漏らさないようにして欲しい。
まず、ジナイダ大帝国が強いのには理由がある。特別優秀な魔法使いがいるわけでも、悪魔が味方している訳でもない。ましてや天使が味方している訳でもない。それは征服した国は植民地とし、その兵士全員に呪術をかけ、食事は1日1食しか与えず、2交代で24時間戦わせる。
相手は24時間攻撃受けるため、兵力差で勝るジナイダ大帝国は常時勝利している。そんなことをしているから年中征服しないと使い捨ての兵士は死んでしまい、補充ができなくなる。
表面上は幻影の魔女がいなくなったミリトリア王国と、その幻影の魔女を滅ぼしたラカユ帝国への侵攻だが、実情は違う。
北上するしか、方法が無かった。南下すると数カ国を置いてゴルデス大陸の帝国の中で最大のギール大帝国がある。あそこは現在のジナイダ大帝国の5倍の大きさがある。そこでミリトリア王国とラカユ帝国を征服すればギール帝国に近づくことができる。ラカユ帝国を征服したらいずれギール大帝国に進軍するつもりだろう。ジナイダ大帝国はもう止まれない状態になっている。マグロと一緒だ。止まれば死ぬ。
ジナイダ大帝国軍の兵士構成は純然たるジナイダ軍は130万人、北上しながら小国を滅ぼし植民地とし、呪術により支配している奴隷兵90万人、旧ミリトリア王国全土を支配すれば得られるであろう生き残りの奴隷兵は60万人と想定されるから、ラカユ帝国に侵攻するのは280万人となる。ラカユ帝国軍は110万人いるが文官や他国との国境に充てる兵も必要だからジナイダ大帝国に対することができるのは80万人が限度となる。ジナイダ大帝国は純然たる本軍だけで130万人もいるということは文官や国境警備兵なども考えたら200万人は抱えていることになる。
以前のミリトリア王国であれば、共闘してジナイダ大帝国に打ち向かうこともできたが、小国化し、内戦を繰り返している状況ではそれもできない。
ジナイダ大帝国が本格的に侵攻したら、まず南部の新ミリトリア王国との戦いになるが、あそこは逃げた者たちが作った国だから兵力が徴兵により20万人いても、短期間で敗走すると考えられる。3日もてばいいところだろうが、逃げるのも速いので奴隷兵になる者も数万人程度と思われる。
次にダカレタイ連合国との戦いになると思われるが、あそこは屈強な兵が多いが全兵力を集めても15万人程度しかいない。新ミリトリア王国の敗走兵が合流しても5日で決着するだろう。
中央で覇権争いをしている貴族たちだが、まとまりに欠けるため、ここは2日~3日で陥落するはずだ。
途中歩きながら進軍するから、ここを抜けるまで最短でも3週間程度を要する。
次に北部連合国と衝突することになるが、ここはオフマンホルコとの戦いから軍を強化し、総勢50万人に膨れている。その練度もかなり優れているようだ。たぶん文官から国境警備兵まで総動員すると思われる。北部連合は我が国とも年中衝突しているから練度はなかなかのものがある。ジナイダ大帝国は、あそこで10日~20日を要するはずだ。
それからラカユ帝国に進軍する。旧ミリトリア王国の生き残り兵60万人に呪術を掛け、小国奴隷軍とミリトリア奴隷軍の合計150万人でラカユ帝国軍80万人と対峙し、ラカユ帝国軍が弱ったところで本軍130万人が怒濤のごとくなだれ込んでくるという作戦だろう。
だが、やつらはミリトリアのことが分かっていない。あいつらはこれまで良くも悪くも幻影の魔女に頼っていたから、本格的な戦いになったら逃げる。北部連合軍と戦ってきた我が軍であれば、知っているが、勢いがあるときは攻めてくるが、負けそうになると、さっさと逃げる。
だから60万人も奴隷にできるわけがない。せいぜい20万人だろう。だが、それでも240万人は我が軍の約3倍だ。まったく話にならん。数では我が軍のボロ負けだ。
ラカユ帝国軍に残された時間は最短30日~40日だが、それはラカユ帝国で争うことが前提だ。守りの戦いとなる。それでは国民が危ないし、やっと整ってきたインフラもめちゃくちゃになる。勝利しても復興に多大な困難を要する。
やつらは食糧のこともあるから、予定を早め、本軍も使うはずだ。そうなると15日後には北部連合軍と衝突する可能性もある。
我々に残されたのはあと2週間だ。
ラカユ帝国で待つことなく、旧ミリトリア王国まで進軍する。
2週間前から親衛隊隊長メドモス・クライシス大将に各国の軍部に旧ミリトリア王国王都を占領地としているララ自治区に直行する転移陣を描いて貰った。
なお、これから先の作戦はここでは話さない。敵にこちらの動きを察知されないためにも、これから先のことは各隊ごとに指示しているからそれに従うこと。
では、明日現地で戦闘が始まるから、今日はこのまま楽しんでくれ。現場の全権限はセシール・トマイル元帥に譲っている。それぞれしっかり役目を果たしてくれ。今日はしっかり体の疲れを抜いてくれ。ただし、酒は飲み過ぎないこと」
話し終わると、リデア・ポミアン上級元帥は、杯を持ち乾杯の音頭をとった。
「ラカユ帝国に勝利を!!」
「「「「「「「「「「「ラカユ帝国に勝利を!!!!!」」」」」」」」」」
今回の作戦は、ヘルシス大元帥、リデア・ポミアン上級元帥、ピノ・バルセン上級元帥、メルトミ・ルドリフ上級元帥、セシール・トマイル元帥の天才たちが集まり練り上げたものだが、この場で将官全員に話してしまうと、酒を飲み過ぎてうっかり奥さんに話してしまうかもしれない。ミリトリア王国出身者も多いため、北部連合国に親族がいる者もいる。
現場指揮はセシール・トマイル元帥が行うが、彼女はヘルシス、リデア、ピノ、メルトミの4人の天才から帝王学を学んだこれまた天才だ。彼女に任せれば安心だ。
というか、彼女しかいない。なにせ、ヘルシス、リデア、ピノ、メルトミは全員妊娠している。
ラカユ帝国となり、国の基本も整い、周囲にはもうラカユ帝国をどうにかしようという国は存在しなくなったから、ここぞとばかり妊活に入った。そのこともありセシール・トマイルに帝王学を詰め込んだ。彼女たちが現場にいなくても大丈夫だと思い、見事懐妊したのに、そこを狙ったようにジナイダ大帝国が進軍してきた。
幸いなのはセレス以外の女王専属秘書官と宰相秘書官はまだ妊娠していない。どうもあの4人が懐妊するまで我慢していたようだ。
現場で指揮するわけではないから妊娠していても構わないが、ラカユ帝国はブラック企業ではないから、産前産後休暇も、育児休暇も与える。
国の滅亡がかかっているのに、酒を飲んで騒いでなんと楽しい国だ。私はこんな国の女帝になれたことが嬉しい。それを邪魔する悪党は許さない。
会議が終わり、それぞれ自分の家庭に帰った。独身もいるが、それらは軍食堂でたむろしている。明日は午前8時00分にはそれぞれの師団を連れララ自治区に行かなければならない。そのためには午前5時には起きないといけない。ゆっくり家族と話す時間もないが、少しでも長い時間家族との時間を楽しんで欲しい。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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