構成国精鋭部隊と本部採用新人②
「ミヘル・メナシ隊長、なにやらバン国軍どもが手を振って近づいてきますよ」
「待て、ちょっと警戒しろ」
「何か持っていますね。隊長の大好きなメイドを同伴していますが、あれは酒と鶏肉ですね」
「そうか。メイドか。それはいい。やつらは小国だから俺の大好きメイドを連れて、俺にヨイショするつもりか? まあ、俺は優秀だからな。その気持ちはわかる。メイドが来たら儂の所に連れてくるようにしろ」
「はっ!!」
シドル連邦軍の魔法部隊はバン国と違い、ミヘル・メナシ隊長を守るように回りを囲んでいる。ミヘル・メナシ隊長は臆病な性格のため、四方から守ってもらうよう中央に配置されていた。食糧を抱えたバン国軍40名はメイド3名と一緒にミヘル隊長に挨拶に行った。
「ミヘル・メナシ少将、戦闘期間は3日もありますし、ミヘル少将がいれば、絶対に負けないと分かっていますから、挨拶にきました。メイドは3日分として連れてきました。3日3晩、相手を替えて、『むふふ』なことをしていただけば、よろしいかと……」
「さすが、バン国はよく分かっていらっしゃる。俺にまかせれば、あんな新兵はちょちょいのちょいだ。とりあえず、そこのメイドたちよ。俺のそばで酒を注いでくれ」
「「「はい」」」
「むふふ。今日は気分がいい」
「パン」
「スド――――――――ン」
「バ―――――――ン」
メイドがグーパンでミヘル隊長と副官2名を殺した。あれはあばら骨が折れている。しかもご丁寧に足で踏みつけ腕の骨を折っている。
同時に中央のシドル連邦軍の魔法攻撃隊をバン国の魔法部隊が戦意喪失させ、それぞれ腕の骨を折り殺した。だが中央まで入っていたバン国軍は一気に襲いかかったシドル連邦軍により戦死した。だがバン国軍はシドル連邦軍のように悶絶して騒ぎ立てていない。
この攻撃でシドル連邦軍は魔法攻撃隊を失い。138名が戦死した。痛かったのは指揮官と副官のどちらも死亡したことだ。
怒り狂っているシドル連邦の前方に、バン国軍が指揮官を先頭に正面から攻撃を仕掛けてきた。
「バン国軍が攻めて来たが、ミヘル・メナシ少将とバルゴ・チラク大佐と、ヘデルト・ヨシマット大佐の敵討ちだ! やつらを殺せ――――――!!」
右翼窪地ではバン国軍とシドル連邦軍の戦闘が始まった。
本当に殺してはいけないが、本気で戦っていた。どこから見てもヤクザの喧嘩だ。
△△
~ブルセルツ皇国軍~
「おい、ゲダマ大佐、右翼が騒がしい。窪地はここから見えん。様子を見てこい」
「メシタキ軍曹、お前が様子を見てこい」
「はっ!」
「何? 味方同士で戦っている? ゲダマ大佐、なぜかシドル連邦軍とバン国軍が戦っておりました」
「やつらはバカか? まあいい。やつらがつぶし合いをしている間に儂が新兵を殺しまくってやる。ゲダマ大佐、我らで総攻撃をかける。人数差があるから、力押しで勝てる。それに相手はたかが新兵だ。一人でいい、腕の一本でも折れば他のやつは萎縮して棒立ちになる。負けることはない。号令をかけろ!」
「全軍、これらラカユ帝国本部軍新兵どもを潰しに行くぞ!!」
「オ――――――――――――!!!!」
△△
~ラカユ帝国本部軍~
セニア・タラソア大尉はララ女王の昼食を盗んだことがきっかけで、ヘルシス宰相から教えを受け、ラカユ国軍学校に入学し首席で卒業し、そのままラカユ国軍に入隊してから実力を発揮し、トントン拍子と昇進していた。
「オルカナ少尉、シドル連邦軍攻撃隊はどうなった?」
「バン国軍偽装はうまくいきましたが、メイド3名と魔法隊90名全員戦死です」
「そうか。やはり全員死んだか」
「セニア隊長、ですが、300名近いシドル連邦軍を戦死させ、魔法部隊を全滅させたことは大きいです。我が軍は魔法部隊が10名残っていますから、まだ勝負はわかりません」
「そうだな。油断は禁物だ。グロック少尉、それにしても、バン国軍の軍服をよく揃えることができたな」
「あれですか。あれは敵軍の着替えを拝借してきました。敵兵を殺してから奪うことも考えたのですが、こんな開けた場所ではすぐに発覚しますので。ただ、ワッペンが揃えられませんでしたから、全員上着を手に持たせました。それを狩猟で汗をかいたとごまかし、肉や酒を持参しましたら、まんまとひっかかりました」
「いい考えだ。中尉への昇進も間近だな」
「ありがとうございます」
「アンナ少尉、肩の紐をかわいく見せたのは見事だった。よく気づいた。ロリのやつにはあれが決め手だったぞ」
「セニア隊長、実は学生時代メイド喫茶でアルバイトをしておりました。そのときのメイド服に着るエプロンは肩紐だったのでかわいくないと思っていました。ひらひらにすることでかわいく見せれば油断すると思いましたが、やつらは色目を使って嬉しそうでした。それもこれもセニア隊長の的確な分析のおかげです」
「ふふふ、あの手のやつらは、みんなロリだと思えば間違いない」
「私もかわいいので気をつけます」
「そっ、そうか。自信たっぷりだな」
「当然です」
「すぐにブルセルツ皇国軍がやってくるわよ。準備は抜かりないわよね。女だと舐められるんじゃないよ」
「「はい」」
△△
~混戦~
ラカユ帝国本部軍の新兵は森の中でそれぞれ落とし穴を掘っていた。目標は一人2個だが、土が堅い場所もあり394名が掘った穴は603個だった。
そこへブルセルツ皇国軍は意気揚々と進軍してきた。
当然穴に落ちる者がいたが、全員落ちる訳ではない。落ちたのはわずか27名だから痛手は少ない。当初いた1,000名もステンノーから殺された95名を差引き905名だったが、数で圧倒的に勝るブルセルツ皇国軍は油断していた。
足を骨折し27名が戦死したが、まだ878名が生きている。落とし穴の区間を越えたブルセルツ皇国軍は、一気に森を抜けるべく駆け足で進んだ。
ところが、しばらく進むとまた落とし穴があり、今度は42名が戦死した。このことがあり、あと少しで森を抜けるというのに、木剣で前を刺しながら進んだので、進行速度は遅くなった。
そこへ、ラカユ帝国本部セニア軍の魔法部隊10名が無差別に攻撃した。ブルセルツ皇国軍836名の進行速度はなおさら遅くなった。
しかも、ラカユ帝国本部軍の新兵が木の上から石を投げてくるから、いよいよ前進速度が遅くなった。ただ、石がなくなると攻撃は止み、新兵は一斉に木を下り、剣で勝負を挑んできた。
「いいか、相手は我らと比べ遥かに少数だ。落とし穴があるから走るわけにはいかないが、こいつらは儂らが相手する。グロック少尉は100名を連れて森を抜け、10名しかいない守備隊を殺し、姫を奪うんだ!!」
「隊長! くれぐれも戦死されませんよう。検討を祈ります!」
「そんな心配は不要だ。俺がこんな新兵に負ける訳がない。早く行け!!」
「はっ!!」
石攻撃で死んだものはわずか1名だったから、グロック少尉が連れて行った100名を除けば、ブルセルツ皇国軍724名がラカユ帝国本部軍新兵375名と戦うことになった。新兵もがんばったが、さすがに正面から戦えば数の差は大きく、一人、また一人と戦死した。それでも相手はブルセルツ皇国軍最強軍団なのに、新兵は健闘した。
ここでも、ブルセルツ皇国軍とラカユ帝国本部軍新兵の差が出た。ブルセルツ皇国軍は木刀で綺麗に折ってもらっていたが、痛いと騒ぎ立てていた。ところが新兵は相手が加減をできていないので、無残な折れ方だった。それでも苦痛に耐えながらも軽傷の者が傷の深い者の手当をしていた。
グロック少尉の引き連れた100名は2名が落とし穴に落ちたが、98名は森を抜け、正面にある小屋の前でお茶を飲んでいるセシール・トマイル元帥を守る10名に一斉に切りかかった。
そのとき、セシール・トマイル元帥が立ち上った。
「ブルセルツ皇国軍は剣を置け!! 勝負はついた!!」
それを聞き、ブルセルツ皇国軍は、自分たちが勝ったと一斉に雄叫びをあげた。
「オ――――――――!!!」
「グロック少尉、お前たちの負けだ。ステンノー女王は帝国本部軍が攫った」
「はっ? セシール・トマイル元帥殿どういうことでしょうか?」
「聞こえないか? お前たちは負けた」
「え――――――――!!」
△△△
ステンノー女王を守る者は、各国軍から出され、ステンノー女王の命令で、ラカユ帝国本部軍にあわせ10名が守っていた。
ブルセルツ皇国軍とラカユ帝国本部軍新兵が戦っているとき、セニア隊長、オルカナ副長、アンナ副長はステンノー女王を守る10名に向け総攻撃を仕掛けた。10名対3名だったが、相手は勝つ気満々だったから、負けることなど露程思っていなかった。そのため、守備隊員は主に食糧部隊と後方部隊所属の者を置いていた。その中で剣が得意な者はわずか3名だった。
セニアたちは鬼神のごとく、疾風のごとく、攻撃した。食糧部隊と後方部隊所属の兵士は次々と紙風船を割られていた。
いよいよ3対3の戦いになるはずだったが、セニアは剣を下ろし、ステンノー女王に向かって歩いて行った。
2対3の戦いになったが、すでにブルセルツ皇国軍3名はオルカナ副長とアンナ副長により殺されていた。セニアは2人が負けることはないと確信していた。
「ステンノー女王様、予定より1時間も遅くなり申し訳ございません」
「いいのよ。戦いは生き物だから予定どおりにいかないものよ。でも、よくがんばりました。セニア・タラソア大尉、これより少佐に昇格させる。なお、オルカナ少尉は中尉、アンナ少尉も中尉に昇格です。リデア・ポミアン上級元帥から連絡を受けています。おめでとう」
「「「「ありがとうございます」」」
こうして各国の最強部隊とラカユ帝国本部所属部隊との戦いは終わった。
△△
最後に全員の見守る中、リデア・ポミアン上級元帥がララ女帝のブートキャンプの様子を見学させることになった。
「なんか、ララ女帝の訓練を見られるらしいぞ」
「女帝だから、花をもたせるんだろうな」
「まあな。女帝といっても、女だからな。女帝を近くで見られる機会もないから帰国土産に楽しもうぜ」
この日、全員が見守る中、私と雪ちゃんのブートキャンプの見学が始まった。こんな日は嫌な予感がするのよね。雪ちゃんが張り切ってしまう。
「小町ちゃん、華ちゃん、歩ちゃん、みちるちゃん、つばさちゃん、私死ぬかも知れないから、早めに回復魔法を掛けてよね」
「「「「「はい」」」」」
「おいおい、見間違いか? 今女帝の足が吹っ飛んだぞ」
「じ、女帝の指が降ってきた――――――!!」
「ギェ――――。血吹雪が顔に……」
繰り返される惨劇とそのたびに最高難度回復魔法超グレートエクストラヒールにより治癒され、再度繰り返される惨劇を見たラカユ帝国軍は顔を青くした。
ラカユ帝国本部軍は自分たちの訓練は、出身国の訓練と比べたら、雲泥の差があるほど過酷だという自負があった。
各国の最強軍団は、どこよりも強いという自信に溢れていた。だが、負けた。そして目前で繰り返される女帝の惨劇を見て、自分たちがどれほど甘い訓練をしていたか悟った。
この日以降、ラカユ帝国本部軍との給料の違いにつき文句を言う者はいなくなり、軍服についてもワッペンで我慢していた。
「ねえ、ヘルシスちゃん、軍服の用意はできた?」
「はい、帝国構成国への支給分もやっとできあがりました」
「なんか、ワッペンで済ませたことで誤解されていたようなのよね?」
「そうですね。考えれば分かりそうなものですが、一度にあれだけの人数分の軍服を揃えることなんてできるわけないですよ」
「そうよね~。それに給料だって、軍事費拠出金協議が終われば、全員を本部採用にするから、今の3倍支給するつもりだったのだけど、私が1万人につき年間金貨2万枚でいいというのに、5万枚払うというから断るのに苦労しただけなのよ。おかげでラカユ帝国軍への移動手続が遅れて、元のまま本国から支給されていたから、給料に差がついていたままになってしまったわ」
「それはしょうがありませんよ。5万枚でも安いくらいです。ララ様が給料分しか加算しないから、5万枚でもこれまでかかっていた軍事費の半額で済むのです。2万枚ではあまりに少なすぎて引き下がれなかったのでしょう」
「ヘルシスちゃんがいいのなら、それでいいわ」
「くれるというものは遠慮無く貰っておきましょう」
「そうね。これで軍服と給料の件は片付いたわ。今から臨時女子会をするけど、ヘルシスちゃんも参加する?」
「私はまだ乙女です。当然参加します」
「だったら、各国に連絡お願いするね。今回はセニア少佐、オルカナ大尉、アンナ中尉の昇格祝いも兼ねるから、それぞれにプレゼントを用意してよね」
「はい。ララ様のブートキャンプ参加券をプレゼントします」
「喜んでくれるかな?」
「勿論ですよ」
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