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東グラン公国

 オフマンホルコはブルセルツ皇国が危惧していたように、大回りしてブルセルツ皇国側から西側諸国に、侵攻するつもりだった。しかしブルセルツ皇国がラカユ帝国の一員となったことで西側への侵攻を止め、オフマンホルコより東側の国々に派兵することに変更した。


 ラカユ帝国誕生で最も影響を受けたのは、東グラン公国と西グラン公国だった。2つの国は完全にラカユ帝国に囲まれることになった。これは両国を極限まで追い詰めた。



 東グラン公国のヘリット・グラン国王はラカユ帝国ララ女帝に恭順の意を示す書簡(しょかん)を送った。


「ララ様、東グラン公国のヘリット国王から長い文面の書簡が届いています」


「ヘルシスちゃん、そうなの? 何かな? 長い手紙だったら簡潔に教えてくれない」


「はい、簡単に言いますと、国民は奴隷にしていいよ。降参するから、僕の自治は認めてね。です」


「こいつもクズね。どうしようか? 滅ぼす?」


「それはいけません。ヘリット・グラン国王はクズですが、ラカユ帝国に何かしたわけではありません。条件としたらとてもいいのですよ。国民を奴隷にするかどうかはラカユ帝国の判断ですが、他の帝国でしたら認めると思います。ただし、併合後の自治を認める帝国はないでしょうね。返事を書いておきますから、ヘリット国王の反応をみましょう」



△△△

 ~1週間後~


「ララ様、ヘリット・グラン国王から返事がきました」


「ヘルシス宰相がなんと書いたか知らないけど、一応聞くわ。でもその書簡? ちょっとぶ厚くない? 簡潔に説明してくれる?」


「では、じっくり聞いてくださいよ『国民を奴隷にしたくないのか。では俺がお前を奴隷にしてやろう。そんなに俺がいいのか? 分かった。自由に楽しめだと。いい返事だ。では俺の自由にさせてもらう。お前を第五夫人にしてやる。夜はあんなことやこんなことをして俺を楽しませ。帝国は俺がもらう。俺のテクで喜べ。1週間後に会おう。俺様が直々行ってやる。又を開いて待っていろ』みたいな感じですね」


「ねえ。ヘルシスちゃん、あなたどんな書簡を送ったの? どう考えてもおかしいでしょ」


「普通に簡単な文書ですよ」


「写しがあるでしょ。読んでちょうだい」


「時候の挨拶と結文は決まり文句ですから省略しますね。では本文いきますよ『この度の申し出ですが、お断りいたします。ララ女帝はあなたとは違い常識があります。奴隷など卑劣なことはしません。こちらとしては貴国がどうなろうと関知しません。あなたの望みは受けることはできません。そちらは一人でご自由にお楽しみください』という文面です。嘘っぽいでしょうから、見せますね。この写しには秘書官4名の署名がありますから本物です」


「そうね。そのとおりの文面だわ。これで、なぜあんな返答になるの? そのぶ厚い書簡を見せてくれる?」


「見ない方がいいと思いますが、どうしても見たいですか?」


「そう言われると見たくなるわね。でも、(ろく)な事が書かれてないことは想像できる。ん~。1ページだけ見せて!」


「1ページから3ページまでは同じ文面の繰り返しですから、いいですよ」


 確かに1ページから3ページまで同じ文章が並んでいた。


 “”やらせろ。やらせろ。やら…………“”


「ヘルシス宰相、こいつは他国の王に対する不敬罪で処刑するわよ」


「ララ様、直接手を下すのは侵略になります。後々国民の理解を得られません。私にお任せください」


「わ、分かったわ。ちょっと頭にきたから……あなたに任せるわ」




△△△

 ~2週間後女王の部屋~


「ララ様、よろしいですか?」


「ヘルシスちゃん、その改まった言い方は、少し怖いわね」


「別に大したことないですよ。東グラン公国で住民が蜂起し、ヘリット・グラン国王が処刑されました。革命軍代表ボリジト・メンコ大将からララ様にラカユ帝国へ併合願いの書簡が届いています」


「それ誰?」


「革命軍の代表です」


「いつできたの?」


「2週間前です。詳細を話しますと、ヘリット・グランの書簡が届いたその日です」


「誰の仕業?」


「以前より黒服隊が潜入していますが、革命軍を後押ししたのは? だ~れでしょ?」


「メフィス・ゴルチョフ元帥よね」


「まぁ~流石『女帝秘密黒服隊』はどこにでも暗躍していますね~。発足当時はメンバー全員把握していましたが、発足時のメンバーは元の職場に戻しましたよね。私のところにも戻りました。最高のメンバーを戻して、軍所属でない者を一本釣りしていますね。残念ながら私ももう追跡できていません。『女帝秘密黒服隊』が発足時のメンバーより優れていることは理解できました。何名か交換しませんか?」


「嫌よ。国内外の隅々から苦労して集めて、やっとここまで訓練したのよ。言う訳ないわ」


「はい、はい。がんばりましたね。それ雪様たちがやったのでしょ。私に分からないほど優秀な暗部を育てるのは雪様ぐらいしかいません」


「やっぱり、あなた食えないわね。そうよ、うちのメイドがやっていますよ。私にはあんな非道な真似はできない」


「それで、全部知っているのなら、明日セシール・トマイル元帥に迎えに行かせます。謁見の間に10時からにします。ではメフィス・ゴルチョフ元帥をお呼びしますから、(ねぎら)いの言葉をお掛けください」




△△△

「メフィス・ゴルチョフ入ります」


 ドア越しにメフィスにしては声を振り絞るようにした小さな声だった。


「他人行儀にしなくていいわ。早く入りなさい」


 東グラン公国の情勢は報告があり、メフィス・ゴルチョフが、リベッタ様の遺言を守り、ラカユ国のために命を懸けて、2月前から潜入していたことも報告を受けていた。今となってはラカユ帝国となったから、帝国のためにやったことになったのだけど、それでも当時は、他国のために報われないかも知れないのに命をかけた……。


 私の前に現れたメフィス・ゴルチョフは、私の知っている彼の姿ではなかった。


 そこまでして、なんで?


「こんな見苦しい姿で申し訳ありません。これじゃ、もう軍人ができませんね。今日は退官の挨拶も兼ねて来ました」


「何のこと? 私、許さないわよ。私はあんたからまだリベッタ様の遺言に見合う恩恵を受けていないわよ。だから、これからは私に尽くしなさい。いいわね」


「……。こんな私でいいのですか……」


「間抜けな家来もいないと退屈するからね」


「うっ……」


「最高難度回復魔法超グレートエクストラヒール」


「……」


「あんた、バカなの? 何やってんのよ。私の魔力をこれだけ奪って、まだ回復しないじゃないのよ。どれだけ無理をしたの?」


 メフィス・ゴルチョフはセシール・トマイル東ラカユ統轄司令官が付き添い、ガーゼイル・ブラン中将とニコライ・チャプトイ中将が抱える担架に乗っていた。


 その左目は刀傷で失い、左手は肘から下がない。右足は膝から下がない。全身包帯まみれで、包帯は血で(にじ)んでいる。しかも右半身は悪魔から呪術をかけられ皮膚が黒く変色している。毒も飲まされた形跡がある。こんな状態でよく生きていたものだ。


 メフィス・ゴルチョフだったから生きていたのだろう。一般兵だったら呪術だけで死んでいるだろうし、毒だけでも死んでいただろう。どれだけ苦労したんだろう。こんな姿になって。しかも天使の(かせ)まで()められて。同一人物でこれだけ死に直結する魔法のデパートを初めて見たわよ。普通死んでるわ。




「歩ちゃん、これは悪魔の影響も受けているから、その部分の廃除は歩ちゃん、お願い」


「はい、『魔族式最高難度呪術解除オールクリーン』」


「残りは天使の枷があるから小町ちゃん、お願い」


「はい、&%$&&%$#*&%$$##! オールクリアー」


「よかった。まだ心配だから、雪ちゃん、世界樹をお願いするわ」


「はい」


 雪ちゃんは魔道カバンに入っている世界樹ではなく、わざわざ迷宮ダンジョンの大木から絞ってくれた。


 やっと、立ち上がれるようになった。


「血を失いすぎたようだからまだ立ってもふらつくから、そのまま担架に乗ってなさい。あんたはバカだから、重要な任務をやらさないと死ぬことがよ~く分かったわ。西ラカユの統括官がいないから、あんたやりなさい。ラカユ帝国元帥メフィス・ゴルチョフ、今日からラカユ帝国西ラカユ統轄司令官よ。私に恩を返しなさい」


「はい」


「素直でよろしい。体力が回復するまで首都ウーベで私をヨイショしなさい」


「はい…はい…はい…………うっ……」


最後まで見ていただきありがとうございました。

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