義賊あけぼの①
東ラカユ(旧シーオリ神国首都メータル)メータル、代々教皇が拠点としたお城とその周囲にあった貴族街の周囲は真っ黒な障壁が張られた。外からは見えないし、中の音も外には漏れない。障壁の中に入ることもできない。黒い障壁を出す天使10人が昼夜交代で張っていた。
障壁の中では天使290人がお城と貴族街並びにその周囲にあった悪徳金持商人の建物を破壊し、その跡地にさまざまな建物を建築していた。
ここにも女王の部屋を造ることになった。設計はそれぞれ天使に任せ、外観ができたところで女王の部屋だけは、雪ちゃんが造った。今回はこれまでと違うコンセプトで造ってある。それに伴い、ニューボルスワイにある第二宮殿の女王の部屋を首都ウーベと全く違う仕様に替えることになった。
表面的な理由は転移に同伴してきた者が首都の女王の部屋と勘違いするからだが、実際は3個目の女王の部屋の増設をしたことで、ニューボルスワイの女王の部屋が気に食わなくなった雪ちゃんの単なる気まぐれだ。
でも、私は雪ちゃんを褒めて狂喜乱舞して嬉しがる。嫌がると、また作り替えられてしまう。私は女王の部屋にある部屋割りを覚えなくて済むから全部同じがいいのだけど、そんなことはとてもではないが言えない。言ったが最後その場で3カ所全部の作り替えを始めてしまう。
「今回の女王の部屋はどうですか?」
「うん。すごく気に入ったわ。やっぱり雪ちゃんにしか任せられないわ。少し私にはかわいすぎるような気もするけど?」
「ララ様には、この部屋でもかわいさが足らないくらいです」
「そう? ありがとう。やっぱり雪ちゃんは私になくてはならない存在だわ」
「ありがとうございます。早く第四の女王の部屋が欲しいですね」
それ、どこかの国がなくなる事よね。私、もういらない。これ以上ラカユ国が大きくなると、のんびりできない。
天使たちはこれまでだらだら生活をしていたとは思えないほど一生懸命働いた。そのおかげで新宮殿を含む周辺地域の建物も新しくなり、下水施設もウーベを参考に整えた。貴族街の跡地には軍の施設を造っている。悪徳商人の建物跡地には商店街用の建物を建築している。ここはすべて一般商人が入りやすいように賃貸にしている。
その周囲には一般人の建物があるのだが、ここには手を付けていない。一人分造ると全員分求められる。働かない民族に無償で与えることは、益々堕落させることになる。土地は適正な価格で売却する。ここに建築することができる者はそれなりの金持ちで美観を損なうようなものは建てられない。
施設整備だが、天使たちは宮殿周辺の施設整備は本気でしたから、首都ウーベと同じ位りっぱな施設となった。
ただ、宮殿の後方には立派な建物が建っていた。もし宮殿が手前になければ後方にあるものが宮殿ではないかと勘違いしてしまう。
その建物は当初7階建てだったが、雪ちゃんに6階と7階を破壊された。宮殿が5階建てなのにその後方に7階建てを建てたら、宮殿が全く目立たない。それで5階建てとなった。このことがあり、首都ウーベ宮殿は3階建てから7階建てに改築された。それに伴い魔道エレベータが導入された。また第二首都は6階建てとなり、魔道エレベータも導入された。雪ちゃんは首都が一地区より低い建物となったことが許せなかった。
1階は一般庶務部(各施設の受付け業務を主体に人間だけが働く)と2階は天使たちだけが働く特別庶務部(セシール・トマイル女王専属特別補佐官と補佐官2人の依頼をこなす)で、3階が天使たちの住居となっている。本来は7階までが天使の住居だったが破壊されたため、3~5階だけとなり、一人当たり6畳一間となった。
トイレ、バスは部屋にある。風呂のお湯は蛇口に天使の里の熱湯石を使っている。熱湯石は面白い性質をしていて、お風呂に水を溜めて熱湯石を入れても全く反応せず温度は変らない。流水と反応すると熱を発する。流水が早いほど熱くなる性質だから、蛇口を絞ればぬるくなる。
そこで流水量を段階的に調整する蛇口を発明した。最速度で熱湯石を通貨した水は一瞬で80度に熱される。残念ながら100度にはならないから、100度にしたいときは沸かさなければならない。ぬるま湯が大量に欲しいときは水の出る蛇口から水を出し、適度な温度にすればいい。この熱湯石は1センチ程度の大きさで3センチ程度の水道管を通る水を80度まで上げてくれる。しかも熱湯石そのものは熱くない。水と触れあうことで触媒のような働きをするため減ることもない。
現在宮殿の風呂は全部この熱湯石に変えたが、さすがに天使の里の熱湯石を取り尽くすのは申し訳ないと思いウーベ宮殿、第二宮殿、第三宮殿のみにしていたが、官庁施設と軍施設からも熱湯石を使いたいという要望が上がった。
小町ちゃんに詳しく聞くと熱湯石はどこにでもあるらしく人間界全部に配布しても0.2%程度しか減らないらしい。私が熱湯石の存在を知らなかったのは、魔法があるから必要としなかったし、そもそも天使の里では熱湯石を使うことがない。水魔法と火炎魔法を操ればお湯が出るから、必要としなかった。需要がないから、私も知ることがなかった。
そもそも熱湯石を使い始めたきっかけは、天使たちが羽を広げ魔法を使ってシャワーをしていたからだ。晴れた日は人目などきにせず外で300人がシャワーを浴びているから、その度に天使のお湯浴びを見た者に認識阻害魔法を掛けなければならない。何かいい方法はないか考えていた矢先に熱湯石のことを知った。
天使の里では熱湯石が見捨てられて数十万年経っていたから、小町ちゃん以外熱湯石のことを知らなかった。小町ちゃんすら前長老から聞いた話だから、思い出すこともなかった。体を綺麗にするだけであれば神聖魔法で、いつでもクリーンな状態にできるから風呂に入る必要はないが、癒やしの一つとして魔法を使い入っていた。
私は各部屋にお風呂を作ることで天使が外でシャワーを浴びないようにした。
小町ちゃんの魔道カバンの中には熱湯石がこれでもかというほど入っている。
おかげで、ラカユ国の宮殿は風呂と水道施設が充実している。
このことがあってから、首都、第二宮殿、第三宮殿の周辺は水道施設の敷設及び普及が顕著になり、限定的だがお湯のある生活ができるようになった。まだまだ先になるだろうが、いずれラカユ国は貧乏人でも暖かいお風呂に入れるようになるだろう。
水道施設の敷設は完全囲いの中で行われる。特別庶務部の中に水道施設課を新設し、ラカユ国全体の敷設を行っているが、彼女たちの正体は完全秘匿だ。特別庶務部の中には土地造成課、建築課、都市計画課、河川管理課、農地課を設けている。
彼女たちの普段の服装は、チェックのミニスカートに白のブラウスにリボン、ブレザーという日本の女子高生の服装そのものだ。これは首都高等専門学校の服装を見たラファエルがどうしてもあのような服装がいいと訴えたため、少しアレンジしているが、天使の容姿はどの子も12歳~16歳くらいにしか見えないから一般の人は中学生か高校生と勘違いする。
ただし、現場に出るときは、目出し帽を被り、服装はニッカポッカを主体としている。私のイメージで作ったから、日本のとび職の服装をそのまま使っている。ヘルメットと安全靴は必須としている。いくら治癒魔法が使えるといっても、怪我をした時点では痛い。彼女たちはこの服装が気に入っている。
女子高生の服装から土木作業員の服装に変るギャップがいいらしい。今では現場作業の後の一杯を楽しんでいる。彼女たちの通う食堂は秘書棟の隣に建てた庶務部専用の食堂だから、軍部用の食堂とは出るものの割合が違う。スイーツ類も多種あり、コーヒー、紅茶、ダイエット食、特別庶務部のためのガッツリ系トンカツやラーメン、日本酒も置いている。天使たちは洋酒よりも日本酒が好みのようで、土木作業が終えると、女子高生服に着替え、毎日のように日本酒でドンチャン騒ぎをしている。最初の頃は遠目に見ていた一般秘書部の者も今では一緒になってドンチャン騒ぎをしている。
なお、一般庶務部はリデア・ポミアン元帥が選んだ文官の中から選抜しており、彼女たちには土木専門魔法使いだが完全秘匿要員だと説明している。毎日繰り返される宴会は文官の中では有名になり、しかも全額国家予算から出ていると知れ渡ると、文官たちの憧れの職場となった。しかも任命されたときには一階級昇格するのだから、応募比率は120倍に達した。
働かない住民は悪魔の言葉を恐れ、働くようになった。だが悪党は所詮悪党だ。上を廃除しても、下から現れるから減らない。隠れて悪事を働く役人や商人はいくらでもいる。そいつらを廃除するには悪事の元となる金を取り上げるのがいいが、正面切ってやってもそういう輩に限って証拠を隠すのがうまい。
悪党をうまく利用するのも政治なのだ。シーオリ神国が国を統一する過程において軍と住民の3割を殺害していたため、いざ復興しようとすると人が足りない。働かない国民がいなくなっても人が足りない。そんな状態になっても、楽をしようとする輩はいる。
難民を騙る一団は働こうとはしなかった。そんな者たちを集めて大きくなり盗賊集団ができた。その名を『義賊あけぼの』という。本人たちがそう語って金を配っていたから、そういう評判だった。
金を配る場所は『お頭』と呼ばれる覆面をした女が指示する。誰もその女の正体を知らないが、配る場所は主に孤児院で、その次が正当な教会や慈善事業をしている団体だった。『あけぼの』は奪った金の7割を配り、3割をその活動資金とし、そこから給料を配っていた。
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