それから② ・・・天使たち
私はひとまずウーベ宮殿女王の部屋に戻ってきた。その理由は誰にも見せたくない人たちがいるからだ。
「ねえ、あなたたち、この部屋は広いと言ってもさすがに300人が入るには狭いのよ。なぜ一緒に来るの?」
「ララ様、申し訳ありません。帰れと言ったのですが、あまりにしつこいので……他の者に見られる訳にもいかず……それに勝手についてきました」
「華ちゃんのせいじゃないから謝らなくていいわ。でも、せめて事情を聞かしていただけませんこと?」
「では、わたくし長老代行のラファエルがお話しさせていただきます。わたくしは前長老ウリエル様に下界は何も無くつまらない処だ。自分一人で天使の犯した罪を受けるから天使の里に戻れと言われ、渋々帰りました。
それからはウリエル様一人に罪を負わせ悶々とした日々を過ごしておりました。前々長老のガブリエル様も何もない人間界などのことは気にせず、天使の里で幸せに暮らすように言われました。
今回お二方から天使病を治していただいたことと、世界樹を頂いたことの恩を返す機会ができたと話され、喜んでやってきました。役目も終わりすぐ帰るつもりでした。ところがですよ。なんですか? 何もない? はぁ? ラカユ国の文官たちがテントで何か食べているのが見えたので、文官の振りをしてコーヒーとカステラなるものを戴きました。
私はあんな美味しいものを初めて知りました。コーヒーって苦いのに癖になります。それに文官たちが戦争だというのに楽しそうにしているではないですか。
わたくしたちは天使の里で昨日、今日、明日と同じ時間を過ごしています。こんな変化のある時間が過ごせる人間の世界は、私たちにとっては新鮮なのです。あんな嘘つき女の言葉を信じた私がバカでした。私たちも人間界に暮らしたい。ただ、ララ女王様に助けられた恩義がありますから、交渉に来ました」
「そ、そうなの。でも300人が人間界に来ると天界の役目はどうするの?」
「天界からの指示など、最後にあったのが20万年前の天魔大戦に総動員されたときくらいです。あれから何の指示もなく、やっと最近天使が一人増えたと連絡があったのみです。あそこには毎日交代で連絡員を一人置けば十分です。それにわたくしたちがララ様の生存中人間界にいる時間など、たとえララ様が特殊魔法で千年生きても、万年生きても、わたくしたちにとっては人がコーヒー一杯飲みながらサンドイッチを食べる程度の時間です。
それに天使界では最後の子供ができたのが18万年前です。天魔大戦で失った天使の穴埋めに数人生まれただけで、本来ならば天使の里は3千人が暮らすよいところでした。そこで今回子供も作って元の人数まで増やしたいと思っています。
わたくしたちはララ様が亡くなられるまでは絶対に人間界から離れません。ウリエル様とラファエル様だけのうのうと楽しんでいるのは許せません。我ら全員でこれから宮殿前でハンスト運動を起こします」
天使が全員ラカユ国にいることがバレると、軍も一般民も全員ひれ伏してしまい、大混乱するわ。帰る気はなさそうだし、他国に行かれて敵対されても困る。この間と違い全快した末端天使一人でさえ、私がやっと互角に相手できる程度だ。どうしようか?
「歩ちゃん、元悪魔だったら何かいい案ないかな?」
「やつら天使は迷宮ダンジョンのエルフと同じで働く気がありません。そのくせ要求だけはします。全員殺しましょう。小町と華もその気ですよ」
「小町ちゃん、華ちゃん、同じ天使なのだから、殺すなんてことはしないわよね?」
「いいえ、この間助けてもらったのに、それ以上望むとは、全員殺しましょう。どうしても天使が必要になれば、将来私と華が子を増やせばいいだけです。天使は永遠と思える寿命があるのです。それだけあれば3,000人くらい二人で産んだ子がまた子をなせばあっという間です。そのときは私と華がきちんと教育します。私がラファエルを殺すから、華と歩は残りを始末してくれる?」
「小町、いいわ。ラファエルはあなたに任せ、中堅は全員私が殺し、残りは歩に任せる。10分もあれば終わる。さあすぐ始めましょう」
ラファエルの白い顔がさらに青白く変った。小町ちゃんと華ちゃんが本気で殺すつもりだと分かったようだ。
他の天使は……完全にビビって震えている。
「小町ちゃん、華ちゃん、歩ちゃん、ちょっと待って! その人たちは私がなんとかするから。そうそう、これからシーオリ神国の復興もしないといけないから、インフラの整備要員として使いましょう。それが終わったら文官が足りないから、別棟に庶務部門を設けて、そこで働いてもらい、様子をみましょう。そこで働らかなければ、全員殺して構わないから」
「ララ様、ありがとうございます。では、私にもかわいい名前をいただけませんか?」
「えっ? 名前?」
そう呟いた瞬間、ラファエルの顔に小町ちゃんと華ちゃんの蹴りが入った。
「小町ちゃん、その子死にそうだけど、いいの?」
「こいつは最高難度回復魔法超グレートエクストラヒールが使えますから死にません」
「もう死にそうよ。本人の意識がないと、自分に掛けることが出来ないよ」
「そうですね。そろそろ死にそうですね。ではとりあえず、死なない程度で、ハイヒール」
ああ、意識が戻った。鼻血が出てるけど大丈夫かな? と思っていると、ラファエルは自分で最高難度回復魔法超グレートエクストラヒールをかけ、元通りに戻った。
「失礼しました。ちょっと欲張りました。仰せの通り、働かせていただきます」
「だったら、雪ちゃんに監督をしてもらって、各地のインフラと第三宮殿を造ってもらうわ」
「ズド――――――――ン」
あら、またラファエルちゃんが雪ちゃんから蹴りを入れられ吹っ飛んだ。今度は警戒していたから避けたようで、失神まではしていないから、自分で治すわね。
チッ、バカ天使のおかけでララ様から一時的だけど離れないといけない。こいつら全員監督ついでに殺そうか?
「みんな――――――仲良くしてね。そうそう、天使さん、セシール・トマイル、ガーゼイル・ブラン、ニコライ・チャプトイの言葉は、私の言葉と思って素直に聞いてね」
「「「「「「「「「「は~い」」」」」」」」」」
◇◇◇
「小町ちゃん、洗濯中なのにガーゼイルを連れ来てくれてありがとう」
「はい。いつでもお使いください」
「ララ女王様、俺、何か失敗したのでしょうか。ノグソ金銀鉱山の最高司令官解任通知を受けました。無役になってしまって、嫁に何と言い訳していいか……先月3人目が生まれたばかりで、かっこいい父親でいたかったのですが……泣いていいですか?」
「もう一人来るから、それまでそこで泣いておきなさい」
「やっぱり、もう一人と一緒に左遷なのですね!」
「女王様、突然の解任、ニコライ・チャプトイにとんでも不始末があったでしょうか?」
「ごめんね。歩ちゃんが突然やって来て、第二首都警備隊隊長解任通知を渡されて、何事かと思ったでしょ?」
「いいえ、軍人はいつ何事があってもいいように心構えしておかなければなりません。自分の知らないところでミスをして国に多大な迷惑をかけていることもあります。ただ、もしできることでしたら、処刑される前に妻と子に別れをさせて頂ければ幸いです」
「歩ちゃん、ニコライの運搬ありがとう。ついでに、そこでめそめそ泣いているだらしない男の奥さんと子供さんも、運搬してくれない?」
「はい」
「華ちゃん、悪いけどニコライの奥さんと子供を運搬してくれる?」
「はい」
「あ、アンジェちゃん、ごめんね。そこでめそめそ泣いている、あなたの夫を慰めてくれる?」
「あらら、また病気が出ましたか? オラオラお前はいつになったら一人前になるんだぁ? 三人の父親だろうが? もっとしっかりしろや――――――!!」
「アンジェ、それが……ノグソ金銀鉱山の最高司令官を解任されちゃった」
「だったら、私と子供のためにもっと頑張ればいいじゃないのよ」
「パパ、ガンバ」
「パパ、よいしょ」
「ぶばぁ――」
「そ、そだね。うん俺がんばる」
「ララ様、その節は数々の美食をいただきありがとうございました。夫に何か不始末がありましたら、お詫び申し上げます。私共も軍人の家族ですから、いつでも覚悟はしておりますが、できればもう一度夫に名誉挽回の機会をいただければ、家族一丸となって苦楽をともにしたいと思います」
「何か勘違いしているようね。別に今生の別れのために家族に来て頂いたのではないですよ。今からセシール・トマイル女王専属特別補佐官が旧シーオリ神国の自治をするから、その補佐をして欲しいの。二人とも東ラカユ統括官補佐だけど、身分は中将だから昇進よ。ただ、たぶん苦労するから覚悟してね。お家と家財道具は全部雪ちゃんにお願いしていたから、すぐに住めるよ。がんばってね」
最後まで見ていただきありがとうございました。
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