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それから①

 ◇メフィス・ゴルチョフ◇

 シドル連邦裏大統領リベッタ・テスラノキ様が亡くなった。若く見えたが、幻影魔法で若くなっていたらしい。天寿を全うしたのだからいいことだが、私をここまでにしていただいたのはリベッタ様だから、リベッタ様がいないシドル連邦は空虚に映る。

 リベッタ様は寿命を覚悟されていたようだ。私宛の遺言があった。それには、リベッタ様が亡くなったら、ラカユ国女王ララ様に忠誠を誓い、ラカユ国のために働くように書き記されていた。それがシドル連邦のためになると。


 当然オスモイ・テスラノキ大統領にも見せた。国を裏切る行為になる。だが、大統領も同じことを言った。それがシドル連邦のためになると。


 俺はリベッタ様の遺言をララ女王に見せた。女王は無理をして自分の一生を女王に捧げる必要はないと言ってくれた。だが、もう覚悟したし、リベッタ様なきシドル連邦に俺が仕えていいと思える傑物はいない。ラカユ国は傑物だらけだ。俺などラカユ国に来たら50番に入れるかどうかも怪しい。


 俺にセシール・トマイル女王専属特別補佐官見習いを、一人前にしてほしいとお願いされた。この国にまた傑物が増えた。俺は心底ララ様に俺の一生を捧げる決心をした。と、そのとき、雪様の背中に白い羽が生えた。


 おお、雪様は天使だった。なんと神々しい。俺はただひれ伏すことしか出来なかった。

 ララ様から雪様が天使だったことを忘れるように認識阻害魔法を掛けるか、心臓麻痺の呪術を掛けるか選択するよう言われた。俺は当然呪術を選択する。忘れることなど嫌だ。俺が喋ることなどない。天使様を毎日見られるのだから。ああ、華様も、小町様も天使だった。俺はもう死んでもいい。


 でも、死なない。死んでたまるか。こんな嬉しいことは一生大事にする。もう暴飲暴食はやめ、健康食にする。太く短く考えていた俺はもういない。なにがなんでも長生きしてやる。


「俺も幻影魔法覚えようかな?」




△△△

 ◇ヘルシス・ホヒリエ◇

 私はとても忙しかった。ラカユ国の一員になったその日から社畜人生だったが、私が予測したよりも早くラカユ国が大きくなってしまった。そのうえシーオリ神国を滅ぼしてしまったから大事(おおごと)だ。それは旧ミゼット神国連邦全部を滅ぼしたことになる。


 私はシーオリ神国を併合したくなかった。ララ様も併合を望んでいなかった。なぜなら益々国が横に広がってしまい、他の国に対する軍事費は(かさ)むし、あの国は食糧事情がよくない。過去にラカユ国の備蓄を狙ったことがあるくらい食糧に困窮している。しかも偽装難民という働かない民族が多い。


 ラカユ国が大きくなり、私以外に政治的重要事項を独自で決済できる者が必要となった。国土が東西に広くなってしまい、時間的問題が生じた。軍部が全員どこにいても転移魔法が使えればいいが、転移陣は便利だが、どこにでも設置するわけにはいかない。敵が転移陣を使えば敵に便利なものを与えることになる。


 そんなときに天才が現れた。魔法もララ女王に比肩するのではないかと思え、頭脳は私の親族ではないかと噂されている。しかもちょっと頭がいい文官や軍人など問題にならない。リデア・ポミアン元帥にも似た切れ味だが、どちらかというと政治向きだ。交渉もできる。もう副宰相にしてもいいほどの能力を身につけた。


 ただ、まだラカユ国に帰属して間がない旧ダグラス神聖ヨウム国の出身のため、もう少しキャリアを重ねることにさせた。そこで副宰相に任命せず、女王専属特別補佐官の身分を継続させた。ララ女王の後ろ盾が見える公称のほうがやりやすいだろうというララ様の判断だった。それはいい考えだと思う。


 ところが面倒なことにシーオリ神国が滅亡してしまった。しかも今度は天使と悪魔の両方が協力して滅ぼしてしまった。


 過去には天使に不興を買ったのに、今度は水色の天使まで増え、黒羽の悪魔まで加わった。悪魔にも不興を買った国としてどの国も援助しないし、どの国も侵略しようともしない。他国には天使と悪魔が協力して大国シーオリ神国を滅ぼしたと伝わっている。悪党も悪魔に見放され、絶望していた。


 どの国も恐れ、シーオリ神国が滅ぼされても知らない振りをした。オフマンホルコでさえ見向きもしなかった。国民は絶望し、内乱すら起こすことがなかった。国を再統一してもまた天使と悪魔に滅ぼされてしまう。そう考えるととてもそんな気持ちになれなかった。


 とうとう軍部が無条件降伏した。そこで賠償金交渉となったわけだが、とてもそんな状況ではないことは一目瞭然だった。


 私は宰相としてシーオリ神国のことにのみ全神経を使うわけにはいかない。ミリトリア王国との国境線が広くなったことで、北部連合とのいざこざも出ている。他国との同盟も大事だが、差し迫っているのが北部連合との停戦合意交渉だった。しかもこの交渉がうまくいかなければ北部連合と戦争になる。そうなれば、いずれ旧ミリトリア王国と全面戦争となる可能性もあり得る。


 これ以上厄介(やっかい)ごとを背負えない。この交渉結果をまだ経験の浅いセシール・トマイル女王専属特別補佐官に背負わせるわけにはいかない。失敗しても私だったら誰も責任追及しないだろう。


 シーオリ神国を併合する国はない。それに援助を申し出る国もない。ラカユ国しか引き取る国はない。だったら結果の見えている交渉はセシール・トマイル女王専属特別補佐官に任せてもいい。


 私が交渉しても結果はラカユ国の言うことを素直に聞かない国民を抱えることになり、歴史的に働かない難民風国民を抱えることになる。誰がやってもいい結果が出そうな気がしない。

 誰がやっても失敗が前提となっているから、失敗しても責められることはない。最後は別管理で強制恐怖政治をするしかない。


 失敗しても誰も責めることはないから、セシール・トマイル女王専属特別補佐官にやらせることにする。彼女にしてみれば本格的な対外国交渉デビューだ。




◇◇◇

 ヘルシス宰相がシーオリ神国との交渉をセシール・トマイル女王専属特別補佐官に任せると報告してきた。今回ラカユ国兵の死者が数人で済んだのは、彼女の活躍があったからと言われている。


 それにしても、さすが元悪魔が転生しただけあって、あんな方法を使うとは思わなかった。歩ちゃんさえ呆れていた。いや、歩ちゃんは最後まで嫌がった。


 セシール・トマイル女王専属特別補佐官は小町ちゃんと華ちゃんを使い、天界の天使を全員地上に呼んだ。その数300人が突然空を覆い尽くし、新しく天使の里の長老となったラファエルがシーオリ神国民に告げた。


「我らは、シーオリなる教皇にラカユ国を攻撃しろ。などという神託をしたこともなければ、シーオリ教皇を知らない。又も我らの名を利用するとはこのまま焼け野原にしてもいいが、ラカユ国女王から我にシーオリ神国を救って欲しいという『祈り』が届いた。(ゆえ)にラカユ国女王に服従を誓うのならば、我らはシーオリ神国の地を焼け野原にすることはしない。分かったか。愚か者ども――――――――!! 難民を語る者共よ働け、働いて自分で稼げ。働かざる者食うべからずだ。そんな者は我らの鉄槌をくらわす。わかったか――――――!!」


 シーオリ国民は天使が本当にいたことに驚いたが、空を埋め尽くす数に恐怖した。

 天使が空から消えると同時に、一人の悪魔が現れた。顔は凶悪そのもので、図体は3メートルはあろうかと思われる。その枯れたおぞましい声は悪魔を崇拝する裏の組織の者ですら恐れおののいた。


「我はシーオリなる者など知らぬ。我の名を使ってラカユ国を攻撃するなど愚かしいことよ。だが、ララ女王が我に毎日貢ぎ物をするから、シーオリ神国民を許してくれと懇願した。それ故、我はこのままこの地を灰にしてもいいが、お前たちがララ女王に服従を誓うのであれば我はこのまま魔国に戻ることにする。貧民を語る者、難民を語る者、働け。もし約束を違えればこの地帯一帯を炎に包み、お前らを地獄に引きずり込み、二度と人間に転生できないようにしてやる。覚悟するがいい」


 歩ちゃんはどんな形態にでも化けることができるが、一番やりたくなかった役だったらしく、最後まで嫌がっていたが、雪ちゃんが、私と一晩添い寝をする権利を与えることでやってくれた。


 華ちゃんが悔しがっていたが、私はそんな趣味はない。ブルセルツ皇国教皇バレンシス・ラプチェトとも清い仲だ。


 いつものことだがシーオリ神国は、ミゼット神国連邦時代から貧富の差が激しく、食糧事情は悪い。それを隠すために鎖国をしていた。


 ダグラス神聖ヨウム国との戦争の結果、ステンノ聖女国を除く同盟国は、ダグラス神聖ヨウム国をそれぞれに分割し併合した。そのことで国内の備蓄を放出し、余裕がない。


 ラカユ国はもっと深刻で、小さな国が大きな国を併合したことで、備蓄のほとんどを放出した。それがあったことで混乱もなく、灌漑と土壌改良に取り組むことができ、やっと落ち着いた矢先のシーオリ神国の併合だ。


 私もセシール・トマイル女王専属特別補佐官にシーオリ神国の運営を任せてみたくなった。ヘルシス宰相は、自分の仕事のうち任せることができるものは宰相秘書官に任せ、文官の中から優秀な者を宰相秘書官補佐にも任命したが、ヘルシス宰相一人ではもうどうにもできないほどラカユ国は大きくなりすぎた。彼女に与えられた1日も他の者と等しく24時間しかない。


 そこに大きくなったラカユ国より、さらに大きな食糧の足らないシーオリ神国を統治することは、ラカユ国の屋台骨をぐらつかせるのに十分だった。


 ダグラス神聖ヨウム国を併合したが、あそこの国民は働くことに抵抗なく、ラカユ国の指示に従ってくれた。灌漑や農地改良はダグラス神聖ヨウム国の軍にやらせた。軍事国家だったからバン国と同じく軍人が多いことは食糧不足を招くが、統制がとれているから、上官が命令すれば従う。


 ところがシーオリ神国は軍事国家ではないから、使える駒が少ない。昔のようにメイドの力を使うこともできない。なにせ広すぎる。もしできたとしても、国に甘えて働かなくなる。

 シドル連邦やブルセルツ皇国の灌漑を手伝ったが、元々下地ができている国だったから成功した。


 悪い言い方をすれば、どうでもいい国だ。他国であれば植民地とするだろうが、それは私が許さない。セシール・トマイル女王専属特別補佐官がどうするのか、興味本位で私もヘルシス宰相も丸投げした。最後は官僚組織も法律もラカユ国とは変えて、厳しく管理することも視野に入れている。



「セシール・トマイル女王専属特別補佐官、あなたを旧シーオリ神国あらため東ラカユの統轄司令官にします。旧シーオリ神国に関してはあなたにヘルシス宰相と同じ権限を与えますから、好きなようにやってみなさい。


 ただし、植民地扱いは認めません。灌漑や農地改革などをしないといけませんが、ラカユ国にはそれに割く人材がいません。なお、旧シーオリ神国との国境壁にはラカユ国への門を1カ所しか造りません。制限が多いですが、あの国の信仰が他の国と全く違い、天使と悪魔なのでラカユ国に制限なしに併合できないのです。失敗してもかまいませんから、好きなようにやりなさい」


「はい。ただ、補佐官が欲しいのですが?」


「いいわよ。でも女王専属秘書官と宰相秘書官は手一杯だから無理よ」


「いいえ、村長がいいのですが? あの人は荒くれ者との折衝には慣れてます」


「村長?」


「ニコライ・チャプトイ小将です」


「ああ、彼ね。いいわよ」


「もう一人いいですか?」


「誰?」


「ガーゼイル・ブラン少将です。彼はピノ元帥の教育を受け、ノグソ鉱山の採掘を火薬の発明で画期的に向上させました。それにシーオリ神国の前国家ミゼット神国連邦の軍の出身ですし、貧民街とも関係していますから適役です」


「そうね。もうノグソ鉱山は彼がいなくても、昔のように敵国が近くにいるわけではないから、メーソン・ポイポイ次官を責任者に昇格させましょう」


「ありがとうございます。文官は第二宮殿から数名連れて行きます。あとはシーオリ神国の軍と文官から選抜します」


「分かったわ。でも、それでは二人の身分が低いから二人とも中将に昇格させるから、今から呼びつけましょう」


「早速動いていただき恐縮いたします」


「いいのよ。その代り、様子を見学に行くね。楓もあなたの活躍を見たがっているから一緒にいくわ。邪魔はしないよ。私たちはあなたの専属メイドになるから」


「は……い……。もしかして私を(さかな)にしてません?」


「そんなことないわよ。女子会の話題にするだけよ。ほほほ」


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