異世界人
ここはどこだ。バチカンか? 変なおっさんがいっぱいいるぞ。おいおいそんなに顔を近づけるなよ。歯が臭いぞ。ちゃんと磨けよ。
何語を喋っている? さっぱりわからんぞ。そもそも俺は公立高校の卒業式の帰りに、同級生の『鹿野詩』から話があるというので、川辺で話していた。まあ内容はこれまでよくあったことだ。
何のことはない、母親と別れてくれというのだ。もう飽きていたし、ちゃんと石を投げて水切りをした。いや、縁切りをした。
鹿野詩には随分と金を貢がせた。俺と詩の母親とのことを、同級生やその親に、バラされたくなかったら、俺と寝ろと言ったが、断りやがったから、コンビニのアルバイトを紹介し、給料日には全額巻き上げ、他の女との遊興費に充てた。
馬鹿な女だ、お前は俺の金蔓だぞ。これからも、巻き上げるに決まっているだろ。
つまらんことを言うな。
俺は詩が逆らえないように、外部から見える箇所以外を徹底的に殴った。
そして、母親と別れる条件を付けた。
だが、『鹿野詩』は、怒った……。
俺の条件は簡単なことなのに……。
俺は、興奮した。少しやり過ぎたかもしれないが、詩が悪い。俺は悪くない。
そして、『鹿野詩』は俺の前から消えた。
俺が『詩』と知り合ったのは、同じ高校だからではない。『詩』の母親と裸で交わる、清いお付き合いをしていたときに、姉の『詩』を紹介されたからだ。それからは同じ高校だと分かったから何度が話したが、『詩』は顔だけはよかった。
だが頭がよすぎた。なぜこんなやつが、ボンクラ公立高校を受験したのか、不思議だったが、高校の勉強は中学のときに全部終えたから、どこに進学しても変らないという理由で、家から近い公立高校にしたらしい。
賢いやつを殴る蹴るで、自由にするのは、気持ちがいい。
話があるというから母親と別れてやる、と話したら喜んでいた。ついでに俺の将来設計を話したが、俺は『詩』の誘導尋問に、引っかかってしまった。だから本音で答えたら、突然怒りだしやがった。
妹の楓ちゃんと、したいだけだ。どこが悪い。
俺は警察に駆け込むやつを許さない。これまでも、これからもだ。
『詩』が俺の目視から消えたと思ったら、俺は変なおっさんたちの集まる場所に、移動していた。まったく理解できない。おいおい、こいつら全く言葉が通じないぞ。
なぜ俺を牢屋に入れるんだ。
鉄格子の前で偉そうにしているおっさんが、俺に向かって話しているが、さっぱりわからん。自慢じゃないが俺の学力偏差値は30だ。俺の腰振は偏差値80だ。平均すると偏差値55だから、りっぱなものだ。俺の母親は、きっとこれに惚れたんだろう。自信はある。俺はこれだけで勝負してきた。
おいおい、その身振り手振りは、ジェスチャーゲームか? 今どき流行らないぞ。それより腹が減ったから早く飯を食わせろ。
こいつは馬鹿か?
なんか偉そうな女の前に出されたぞ。この女の言葉もわからんぞ。こらこら猿轡をしたら喋られないだろうが!
あの豚女は危険だ。突然椅子から降りて、俺の頭を蹴りやがった。気を失ってしまったじゃないか。
ジェスチャーゲームを始めたおっさんが、来なくなったぞ。違うおっさんが来たが、こいつもジェスチャーゲームを始めやがった。
これで何人目だよ。どいつもこいつも、ジェスチャーゲームを始めやがって。
なんか知らんが、どこかに移送されているようだ。だんだん扱いが酷くなってきて、最近は毎日殴られるようになった。俺は殴ることは好きだが、殴られるのは性に合わん。こんなところは、早く抜け出さないといけない。
だが、又殴られ気を失った。俺はどうしたんだろう? 格子のある馬車で移動させられていたから、出してくれと叫んだら、槍の柄で殴られ、また気を失ってしまったぞ。
どこまで行くんだ? 深い森の中を通っているみたいだ。
なんかこの馬車が襲われているようだ。血しぶきが格子の中まで入ってくる。
「「「「「ギャ――――――!!」」」」」
静かになった。どこからも声がしない。みんな死んだみたいだ。
ゲゲゲ――――――!!!
巨大な狼が格子を破り始めた。俺も食われてしまう。怖いぞ。
とうとう格子を壊しやがった。どうすんだよ。
「ア――――――!!!!」
俺を食おうとしている。
俺の人生終わった……。
ところが目を開けたら巨大な狼が死んでいた。
俺なんかしたか?
確か怖くて手を握りしめたら、なんか手からビームのようなものが出てきて、巨大な狼に当たっていたな。
奇跡だ。
もうこんな場所は嫌だ。とりあえず逃げる。
この森は危険だ。いろんな生物が襲ってくる。その度に、手から何か光の束が出て殺していく。
なぜか分からないが、まあいいや。助かる。
歩くのに疲れるが、森の中を歩いていたから、食べ物には困らなかった。自然の果実があったから食べ放題だった。
森を抜けると馬車の一団が、巨大な狼に襲われていた。俺にとっては、もう危険な生き物ではないが、こちらに向かって、大きな牙をパクパクしてきた。
すでに自分のものとした、手から出るビームのような光で退治する。護衛をしていた者は、殺されてしまったようで、男は全員殺されていた。女は生き残っていたから、町まで送ることにした。別に送りたかった訳ではないが、女たちが俺を離してくれない。
馬車は6台で、中には母子が2名、各馬車には御者と護衛が2名ほどいたのだが、護衛と御者は魔獣と戦い殺されていた。俺が助けなかったら女子供も殺されていただろう。
それぞれの馬車の母子はお礼をしたいと言った。いや、身振りでそう感じた。金はないらしい。これから娘をシスターとして送り出し、自分たちも教会で下働きとして、奉仕するらしい。シスターになる予定の子は、10歳から12歳で、みな美人だ。
町まではあと3日かかるから、俺が送ることになったが、夜、足下がごそごそした。懐かしい匂いだ。推定40歳の母親が俺のなにを『あれこれ』している。おっと、見た目16歳、身長150センチの子はマグロか。俺を狼にした母親が悪い。
おいおい、いいのかよ。母親と思ったが祖母で58歳だった。だが俺は許容範囲だ。これまで何度も経験した。
孫ギャルは10歳だった。これも何度も経験してきたことだ。今更年齢を言われても、もう遅い。それにここは元の世界ではないから法律も違う。
祖母の身振り手振りによると、結婚適齢期は10歳~18歳で、成人年齢は16歳。10歳~15歳までに結婚したら成人したとみなされ、また結婚していなくても子を産むと成人したとみなされる。成人とみなされると、親の同意は必要なく働くことが出来る。
貴族は結婚適齢期でない子と結婚するし、そんな子を妾にもするようだ。
貴族は政略結婚があるから、実際は年齢制限などない。それに身長と成長速度が日本人とは違うようだ。俺にとってはなんといい世界だ。
この世界は平均寿命が短いことが、これらの原因のようだ。魔力の高い貴族は長生きだが、魔力の少ない平民は寿命が短い。
馬車から外を眺めると、子供が赤ちゃんをあやしていたが、あれは姉妹の子守をしているのではなく、自分の子を子守していたのだ。言葉が分からなくても、俺にはわかる。
この日は、各馬車を訪問してやった。どういうわけか、全員俺を歓迎してくれた。俺はこの世界では美男子らしい。シスターになるには、生娘でなければならないらしいが、命の恩人の方が優先するようだ。黙っていればわからないことだ。3日で町の教会に到着する予定が、1ヶ月もかかってしまった。その間、森で宿泊した。小川があり、野草があり、それに手からでるビームで動物も取り放題だったから、食糧には困らなかった。
母親も子も、俺を離さないのだ。しまいには森で一緒に暮らそうと言い出す始末で、一時的にそれもいいかと思った。結局毎日12人とすることになった。俺はなにだけは強い。それは唯一の自慢だ。
そんな日々を続けていたが、シスター見習いの到着が、あまりにも遅いのて、協会が捜索隊を出し、俺たちを発見した。
母親たちは、魔獣が出て、危なかったが、今暮らしている場所は、魔獣が出ないから、そのまま捜索隊に発見されるのを待っていた、と話した。
捜索隊に発見されたときの、母親たちと子供たちの落胆ぶりは激しかった。だが、それを見た捜索隊は、魔獣に襲われたことで不安がっていると、勘違いしていた。
母親たちは、教会の近くで一緒に暮らしたい。と言い出したが、必ずまた来るからと納得させ、別れることにした。
いつものことだ。
こちらが理解しようとすれば、つたない身振り手振りであっても、意思疎通は図れるものだ。娘たちは俺と別れたくないようだった。教会から夜抜け出して、逢いに来ると言うので、落ち着いたら教会の近くで、暮らすからそこで待っている。と応えると安心したようで、教会に入っていった。
俺はもう二度とここに来ることはない。この1か月で森の暮らしに飽きていた。
この世界はテレビも娯楽もない。することは毎朝、毎晩あれしかない。俺はもうこいつらにも飽きてしまった。
それに、12人全員にできたであろう、俺の子供を養う能力はない。58歳の祖母も、毎月のものが復活したと、喜んでいた。
俺には不思議とそれがわかる。これまでこの能力のおかげで、早めに女と別れてきた。日本にも俺の子が30人はいる。
母子と別れてから、森に入り生えている果実を食べた。下痢をすることもあるが、いつの間にか耐性ができた。少々青くても、美味しくいただけるようになった。
そのうち変な森に着いた。やたら甘い匂いがして、メロン並みに大きい果実が生っている。俺はメロンが嫌だ。あれを食べると口が痒くなる。まだここに来る前の森で食べた、青いバナナ風の食べ物のほうが美味しそうだった。
俺は昔、メロンは好きだったが、高校一年生のときに、寝る前に1玉食べてオネショをしてしまった。一度は起きたんだ。だが『あれ』で疲れていたから二度目は、『ここはトイレだから出していい』という悪魔の声に……。
気づいたときには大きな地図を描いていた。
こっそり干そうとしたら、5歳になった弟が、
『兄ちゃんがオネショした。ぼくでも3歳までしかしなかったのに、チーズ、大きなチーズ』
あれ以来メロンは食べてない。母親は慰めてくれた。
「私も昨日濡らしたから一緒に干そうね」だと。
その濡れたのとは違うぞ。俺が起きれなかったのは、何度も求めてきた、お前が俺を疲れさせたからだろうが。それに俺は兄ちゃんじゃないぞ、お父さんを敬え。
あれからメロンを食べると、口が痒くなった。一度に食べてアレルギーになった。
最初に襲われたのは俺だ。酔った母親が、まだ幼い俺の布団に入ってきて……俺の変態気質は母親譲りだ。
母親も俺も、夜の生活には満足している。
あれから誰でも相手ができるようになった。俺の守備範囲が広いのもそれからだ。
この森は早く出たい。変な赤い編み目のマスクメロンばかり生っている森は気持ち悪い。見ているだけで口が痒くなる。
俺は……飽きたはずなのに、やはり女のいない森は嫌だ。早く町に出て出会いが欲しい。
「ああぁ!!!」
女の子がいるぞ。こっちを見ているし、手を振って挨拶しよう。できれば、あんなことがしたい。
女の子の前に水色の膜があるぞ。シャボン玉の大きいのか? シャボン玉で遊んでいるのか?
女の子の先には家がある。家の周りがピンクの幕で覆われている。ちょっと趣味が悪いと思うが、Gカップの匂いがする。許容範囲だ。
ああ、あの手に触れたい。
金髪美女は俺の夢だった。少女の金髪、もう耐えられそうにない。
<<<<おーい。金髪ちゃ~ん>>>>
△△△
男の人が叫びながら手を振って走ってくる。
「あれ?あんたなぜ結界を越えたの?」
<<<<どうしたんだい金髪ちゃん。何を言っているのか? 変なおっさんと同じでわからない>>>>
「その顔、その言葉、あなた日本人よね?」
<<<<金髪ちゃん。一人かい? 今からデートしようよ>>>>
<<<誰だか知らないけど……気持ち悪い男ね>>>
<<<<君? もしかして日本人かな?>>>>
<<<私は、日本人ではないわ>>>
<<<<日本語を喋っているぞ?>>>>
<<<ところであなたは何しに来たの?>>>
<<<<迷った>>>>
<<<だったら一緒に来てくれる。お母様に紹介したい。結界が破られた謎を解き明かしたいからね>>>
私はなぜこんなことを言ってしまったの? ララがこの男はヤバイと感じているのに。つい同郷のよしみで情けを掛けてしまった。同郷? どこの? 私、頭がおかしくなった?
ララである私は、この男を拒絶している。いや、詩も拒否しているが、それがなぜだか、今の私は思い出せない。少し様子をみよう。でも久しぶりに日本語が話せたことは嬉しい。
? 私は『詩』? 日本語? どうしてそんなことを思ったのだろう。
ああ、でもこの男の側にいるだけで、吐きそう。なぜか悪寒がするわ。
私は魔法結界を張り直し、男を連れて王都の自宅の、お母様の部屋に転移した。お母様の部屋だというのに、私の胸を触ろうとしたから、金蹴りをしたら唸っていた。信じられない。この男は気持ち悪い。ヒールは使わない。殺してもいいけど、とりあえず結界が破られたことを聞きたい。
<<<お母様、結界を破った男です。お母様にも検討して欲しいので、連れてきました>>>
「ララ? その男は誰だい? それにお前は何を言っているのかい? まったく理解できない」
「あれ? 私、今、日本語で話してしまいました?」
「日本語? それ、なんだい? まあ落ち着きなさい。その青年は異世界人だね。黒髪だし、異世界語を話している。話はゆっくり食事をしながら聞こう」
「はい」
この時、男は幻影の魔女を見て思った、あ、いい。楓ちゃんの次にストライク。ピンクGカップの本人か。ここは俺のためにある世界か? 夜にはGカップのベッドに忍びこんでやろう。