ステンノ聖女国の危機
祝賀会から1週間が過ぎて、私、ステンノー女王、バレンシス教皇でババ抜きをしている。誰にも邪魔されないまったりした時間が流れている。
まだ午前11時、これからもまったり時間が流れていく。宮殿は一部の者を除き戦争続きだったから休暇を与えている。ただしラカユ国の軍には朝から盛りがつくようなことをする者はいない。いや、いないと信じている。
と思っていたら、ステンノ聖女国グリメッチ宰相が鏡の部屋から直接やってきた。この鏡から出てくるのはちょっとビックリするから、いつか違う方法を考えないといけない。
「ステンノー女王、大変です。我国にダグラス神聖ヨウム国が侵攻してきました。国境は火の海になっています。今すぐお帰りください」
「ボレス山脈はまだ越えていないよね?」
「はい、国境は越えましたがボレス山脈で止まっています。ただ、麓の民家は女子供を含め全員皆殺しにしたらしく、被害は2,000人を超えています。ダグラス神聖ヨウム国軍はこれからボレス山脈を大回りするでしょうから1週間は王都に被害は出ないと思われますが、それも時間の問題です。
敵の兵力は約50万人です。たぶん我国を越えてそのままラカユ国に侵攻するつもりでしょう。いや、本当の目的はラカユ国でしょう」
「わかったわ。亡くなった人はもう戻らないけど、1週間あればなんとかなる。これからララちゃんと話をするから、すぐ戻って全軍に最高警戒態勢を取らせなさい」
「はい。早いお帰りを」
「いいわ」
グリメッチ宰相は鏡の中に消えた。やはりもっと違う手段が欲しい。スマートではないわ。
「ねえ、ララちゃん、うちの国守ってくれない? 軍事同盟はあるけれど、それ抜きでも守ってほしいの。だってステンノ聖女国は軍隊が3,000人しかいないのよ。絶対勝てない。私一人で、さすがに50万人はムリ――――――!!」
「いいわよ。雪ちゃんもステンノーちゃんの国を守ってくれない?」
「ララ様がそう言われるのであれば、ステンノーを守るのはどうでもいいですが、微力ながらやらせていだきます」
「華ちゃん、ここにヘルシス宰相、リデア元帥、メルトミ元帥、ピノ元帥を呼んでちょうだい!!」
「はい」
「雪ちゃん、ステンノ聖女国に進軍しているダグラス神聖ヨウム国の様子を調べてくれない?」
「はい」
「歩ちゃん、ニイハチュ山脈の付近にダグラス神聖ヨウム国軍か、ゲルス騎士国の捕虜がいると思うから、配置も含めて詳しく調べてくれない?」
「はい」
「つばさちゃん、今日の護衛は雪ちゃん一人でいいから、シドル連邦とダグラス神聖ヨウム国の国境付近の様子と、隠れているダグラス軍の兵力数と、隠れている場所を調べてくれない? 調べるだけで、手を出したらダメだからね」
「はい」
「みちるちゃん、ブルセルツ皇国とダグラス神聖ヨウム国の国境付近に、終結しているダグラス神聖ヨウム国軍の兵力と潜伏場所を調べてくれない?」
「はい」
あとは華ちゃんに念話で話すだけだ。
「・「華ちゃん、猿化している4人に服は着せなくていいから、ひっ捕まえてちょうだい。作戦に必要だと思うから」・」
「・「はい」・」
3分後華ちゃんが4人全員連れてきたが、思った通り全員裸だった。
ヘルシス宰相とメルトミ元帥はキスマークがあるが、髪が濡れていたから終えたあとお風呂に入っていたのね。リデア元帥とピノ元帥は髪が乱れて、キスマークがあちらこちらにあるから、最中だったようね。
「小町ちゃん、歩ちゃん、ヘルシスちゃんとメルトミちゃんに水をぶっかけて部屋着をわたしてくれない」
「雪ちゃん、みちるちゃん、リデア元帥とピノ元帥は水風呂に入れてから連れてきてくれない?体が火照っているみたいだから」
「「「「はい」」」」
「「「「キャ――――――――――。寒い――――――――!!」」」」
「そこで寝ている居候!! 聞こえていたわよね! 楓に伝えておくから、人魚国に戻って、ダグラス神聖ヨウム国からシドル連邦を経由して、ブルセルツ皇国に向かう軍船と怪しい船を沈没させてくれないかな?」
「はい、承知しました。宰相に伝えます」
「伝えるだけだったら、楓一人でいいのよね。あなたが行って宰相以下重鎮を説き伏せるのよ。わかった?」
「はい、がんばります」
「よろしい。今から楓に話すから、楓が戻ってきたらすぐ行きなさい。それから、大事な話だからパジャマを正装に着替えて行きなさいよ!!」
「はい」
△△△
~10分後~
「リデア元帥とピノ元帥、お楽しみのところ無理に来てもらって、ごめんね? リデアはまだ足らなそうだけど?」
「いいえ、私は十分ですよ」
「わたしは、まだ始めたばかりでしたので……」
「ピノ元帥、あなたは嘘はついていませんが、始めたばかりと言っても……華ちゃんは4回目を始めたと言っていましたよ。それにあんな粗末なもののどこがいいのかともね」
「愛があればいいのです」
「はいはい、事が解決すればいくらでもがんばってちょうだい。でもピノ元帥、今日は楓の順番だったはずよ、楓が知ったら怒ると思うよ。ひさしぶりの休暇だからエリツオくんを自由にしてあげる日にすると言っていたわよ。その隙間を狙うのは作戦としてはいいけど、人としてどうかな~? 第二夫人の地位も怪しいかな?」
「ララ様どうにかうまく、よしなに……」
「いいわ。今回うまくいったら黙っておくわ」
「はい。よろしくお願いします」
「それからヘルシスちゃんとリデアちゃんは昨日まったりと激しい夜を過ごしたみたいね。朝から2回戦を終わり朝風呂で余韻を楽しんでいたようだけど緊急事態だからね。目は覚めた?」
「「はい!!」」
「では、みなさん準備はできましたね。始める前に苦いコーヒーを飲んでね。これから大変なことを話すから、頭はフル回転よ」
緊急呼出をした時点で彼女たちは何が起こっているか分かっているはずだ。体の火照りも静まったようだ。
私はダグラス神聖ヨウム国がステンノ聖女国に50万人の兵士を派兵したことを話した。さすがに全員驚いていた。私だって予測していなかった。大方の予測ではまだ先になるが、来るときはラカユ国に直接侵攻してくるだろうと思っていた。
ダグラス神聖ヨウム国はゲルス騎士国を滅ぼしていたが、ゲルス騎士国を安定化するまでは国外派兵しないだろうと思っていた。たとえ派兵しても、資源も何もない山だらけのステンノ聖女国には派兵しないで、ラカユ国に直接来るだろうと考えていた。
ダグラス神聖ヨウム国とラカユ国の国境はニイハチュ山脈で塞がれている。ダグラス神聖ヨウム国とステンノ聖女国の国境はボレス山脈で塞がれている。どちらも高い山々で守られているが、ニイハチュ山脈を越えたら直接ラカユ国と戦うことになる。山脈の低い場所を大回りしてもそれなりに体力を使う。それで資源は何もないが、軍隊も少ないステンノ聖女国を経由し、そこで体力を回復して直接ラカユ国を征服するつもりだろう。
ラカユ国とステンノ聖女国の国境は平地だから一気に攻めることができる。バン国は元々軍事国家で兵士も80万人いるから、今回は対象となっていないだろう。ただし、ラカユ国を征服したらそのままバン国に攻め入るつもりだろう。
と相手が考えることまで予測し、行動している気がしてならない。相当頭が切れるやつだ。ヘルシスとリデアを足して2で割ったような頭を持っている。転移魔法を使える者が複数いなければこちらが詰んでいた。
これらは、すべて推測だが、ダグラス神聖ヨウム国はこちらが思ったよりも食糧事情が悪い。破れかぶれに近い。そうなれば、世界戦をもくろんでいる。そう考えれば、すべての謎が解ける。ステンノ聖女国などに50万人も派兵した謎が解ける。
これは陽動作戦だ。
「では、5時間以内にいい作戦をお願いするわよ。これからステンノーちゃんとバレンシスちゃんでブルセルツ皇国に行って、それからシドル連邦を経由したらバン国に行って、それから戻るからね。それまでに早く同盟諸国には連絡しておいてね」
「「「「はい。いってらっしゃいませ!!!」」」」
私はステンノーちゃんとバレンシスちゃんを伴いブルセルツ皇国に行った。ブルセルツ皇国にはステンノ聖女国から『鏡』を通して伝達されていた。
私たちを、バレンシスちゃんのお父さんでベンドル・ラプチェト宰相が出迎えてくれた。
「祝勝会ではお世話になりました。手土産はとても美味しく、妻もラカユ国に行きたいと申しておりまして、今回特使として大使館に常駐することになりました。これからもよろしくお願いします」
「そうですか。でしたら、これからお願いがあるので、後ほど小町ちゃんがここに来ますから、荷物を用意していただければブルセルツ皇国大使館にお連れします」
「ありがとうございます。では要件をお伺いします。例のことですよね」
「はい。教皇もいますし、軍のトップの方もいらっしゃるようですから、軍事同盟に基づき派兵をお願いします」
「ですが、ステンノ聖女国には派兵しなくていいのですか?」
「ステンノ聖女国には必要ありません。ダグラス神聖ヨウム国に派兵してください。まだ作戦も立てられていませんが、このままダグラス神聖ヨウム国を放置するといずれ他の国にも派兵するでしょう。
今回、私はダグラス神聖ヨウム国を滅ぼします。ステンノ聖女国に進軍したダグラス神聖ヨウム国軍はステンノ聖女国とラカユ国とバン国で対処します。
合図は私がダグラス神聖ヨウム国の首都『ヘガロ』を攻撃したら一斉にダグラス神聖ヨウム国に南下してください。兵は多いほどいいです。なるべく早く降伏させます。もし降伏しなかったら、地位がある者から順に殺していきます。それでも降伏しなかったら全殺してもいい」
「わかりました。全面的に協力させていただきます」
「では、5時間後には作戦も決まっているでしょうから、『鏡』からラカユ国に来て下さい。後ほどお会いしましょう」
「はい」
よい返事をもらったので、バレンシス・ラプチェト教皇を置いてシドル連邦に行くことにした。バレンシスちゃんが残らないと最終的に決まった文章が決済できない。それでも5時間後には『鏡』を通って女王の部屋に来ているはずだ。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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