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異世界陣召喚

 ララの頭の中はどこにいても、あの日の光景だった。肩を打ち抜かれ、吐血し、今にも死にそうなジーニアの顔……。


 魔力値が高いことが強いことではないことは、ジーニアとの戦闘訓練で全戦全敗しているから分かっていた。でもそれではいけない。実力を身につけなければいけない。老齢の剣術の名人のように、腕力がなくても、技で凌駕する。一段も、二段も、上位の能力を身につけなければならない。


 それに突然の攻撃に、耐える対策をしなければいけない。探索能力を高める必要もあるが、もっと実践的な方法を見つけなければいけない。理屈ではわかっている。


 そう思っても、いい考えが浮かぶことはなかった。


 ララは気づいていなかった。ジーニアにしても、ジーニュアにしても、ララが本気で戦えば足下にも及ばないほど一方的に、勝利することができるのだが、幻影の魔女に対しては、どうしても無意識に能力にブレーキをかけてしまう。そのことにララ自身が気づいていないことが問題だった。


 校庭には全校生徒が集まっていた。これから2学期の始業式だ。学園長が壇上に立って、挨拶をしている。


「…ということで、これから行事も目白押しです。気を抜かないように学園生活を送ってください。特に今年入学した一年生は、初めての学園行事……」


 と、その時、新月のように真っ暗になった。夜であれば家から灯りが漏れるから、完全な真っ暗になることはない。しかし朝なのでそんな灯りはないから、隣の人すら見ることができない、黒一色の暗闇の世界になった。暗闇は数秒間だったが、その間は誰も身動きできなかった。


 すると、空にはこの地域では絶対に見ることないオーロラが……。それも本来のオーロラより、はるかに明るい色をしたものが……。


 生徒は驚きよりも、何が起こったか分からないでいた。ポカンと口を開けて、空を見ている生徒もいる。キョロキョロしている生徒もいる。そうこうしていると、天が割れるように、光がある国の方向に流れた。それが終わると、空はいつものような青空となっていた。


 学園長はしばらく考えていたが、おじいちゃん先生が、学園長に耳打ちすると、学園長は血相を変え、今日の授業を中止し、全校生徒に急いで帰宅するように告げた。


 自宅に帰ったララは、幻影の魔女に朝のことを話した。幻影の魔女も見ていたらしく、どうも心当たりがあるようだった。



「お母様はあれが何なのか、知っているのですか?」


「あれはブルセルツ皇国が、異世界人を召喚したのだろう。あの国は昔からよく異世界人を召喚している」


 今思っても悔しい。あのときジーニアではなく、私が師匠の側にいれば、私があの果実を食べることができた。だが、あのとき私は、各国の王族の宝飾品を預かる旅に出ていた。


「異世界人?」


「こことは違う世界の人間を召喚するのだよ。そいつらはとんでもない魔法力をもっているから桁外れに強い」


「どれくらい強いのですか?」


「師匠も『魔力の木の果実』を食べて、幻影の魔女と呼ばれたから、魔力も相当あったはずだ。それが異世界人には、手も足も出なかったらしい」


「そんなに強いということは、筋肉ムキムキの人だったのですか?」


「いいや、10歳前後の黒髪の幼女だった。それでも大人と子供くらいの実力差だったらしい。その幼女の放つビームは、師匠の放つ火炎弾どころの大きさではなく、10倍以上あったようだ。師匠の火炎弾は、幼女の放つビームに消され、あと少し逃げるのが遅ければ、死んでいたと話してくれた」


 そのときに、幼女のビームがサタンの張った結界に当たり、結界は跡形も無く砕けた。そのおかげで、ちょうど師匠と幼女の戦闘を見学していたジーニアは、1つだけ生っていた魔力の木の果実を食べた。


 ああ、私も食べたかった。あれさえ食べていれば、魔族と交わることもなかった。



「そんなに強いのに、よく侵略されませんでしたね」


「たぶん異世界人召喚と、あの巨大なビームは、幼女には負担が大きすぎたのだろう。それからまもなく死んだよ。そうでなければ今頃この大陸は、ブルセルツ皇国になっている」


 ガザール国といい、ブルセルツ皇国といい、半魔といい、ガルジベスといい、一度に難題が……。




「国王は頭が痛いだろうよ。まあ苦しんだらいい。ブリタの又に恋して自分で選択した道だからね。だから言ったんだよ。私がいるのに……あの女はやめた方がいいと。

 今更『ママ国王辞めたい』と封書をよこしてもねぇ」


「今回は、私も協力しますから、その異世界人をやっつけましょうよ」


「ああ、国王の味方をするのも(しゃく)だが、異世界人が私の邪魔をするのならば、卑怯な手を使ってでも殺す。まあ今でも重臣がいるのに、私を『ママ大好き』と言って、抱きついてくる国王も困ったものだ。人前ではするなと言ったのに。ほんとうに昔から……」


「お母様、国王様はいい歳ですよね?」


「ああ、もう50歳を過ぎているのに困ったやつだ」




 △△△

 ~ブルセルツ皇国~


 神父たちが一カ所に集まっていた。


 安全圏に離れていた高位の司祭が、のしのしと司祭たちのいる場に歩きながら『成功したのか?』と尋ねた。



「グレゼ様、成功しました。これで奪われた物を取り返すついでに、大陸統一ができます」


「そうか。どんなやつが召喚できたか。そこをどけ!」


 司祭たちは高位の司祭に道を空けた。


「今回は記録にあるようなひ弱な幼女ではないな。男か! これはいい。おい、お前はどこの誰だ」


<<<<俺は日本人だ。お前たちは誰だ!!!>>>>


「なんだ? この男が何を言っているかわからんぞ」


「おかしいですね。前回の記録によれば、こちらの言語を話したとあります」


「まあいい。そのうち話せるようになるだろう。わからなければ、身振り手振りで、伝えても良い。あとは任せる。儂は教皇様に成功したことを伝えてくる。その男はとりあえず牢屋に入れておけ」


 筆頭司祭グレゼは、教皇に異世界人召喚が、成功したことを伝えるため、教皇の待つ『謁見の間』を訪れた。


 グレゼは、異世界人と言葉が通じなかったことで、次の段階に進めなかったことを、どのように誤魔化そうかと、必死に頭をフル回転していた。



「困った。困った。どうしよう……。教皇様が前の教皇みたいに、男だったら女を充てがえば誤魔化せるが、あの女は妙に頭が回る。はあ~」



 ドアが開き、グレゼが話すより早く教皇が話し始めた。



「おい! グレゼ! つまらん話はいらん。(わらわ)を満足させぬ報告ならば、お前は豚の餌にするからな。早く言え!」


 教皇はいわゆるブヨブヨ太った中年女だ。飲み食いを好き放題している教皇の楽しみは、美食と、美男子の食い散らかしだ。


 これまで犠牲になった衛兵は数知れない。逆らえば翌日には、親族一同処刑されている。軍隊に入った者は、教皇の間と謁見の間の衛兵はやりたくなかった。


 衛兵を命じられた者は、不細工に見えように、化粧をしていた。グレゼは教皇と同じく中年ブヨブヨだったから、能力はあるのに不細工だから、教皇には(うと)まれていた。



「もちろんでございます。大成功です。これで教皇様の望む物を取り返すことができます。このグレゼは、カルロッタ・ベックス教皇様の、忠実なる下僕で幸せです」


「であるか。それならばよい。ではどのようにミリトリア王国を征服するかを、妾の夕食時までに計画して提出せよ」


「精鋭な計画は、既に私の頭の中では、最終段階まで出来上がっています。すぐに報告書を作成し、夕食までお届けします」


「であるか。ではすぐに取り掛かかれ!」


「はは――――――!!」



 グレゼは謁見の間から出た。




「あぁ―――――――どうしよう。嘘をついてしまった。計画どころか、異世界人と意思疎通すら取れていない。何とかしないと、俺は本当に豚の餌になる。あの教皇は絶対にやるからなぁ。


 前筆頭司祭が豚の餌になったから、俺が代わりに筆頭司祭になった。俺の代わりなんて、いくらでもいるし。ああぁぁぁ。どうしよう。しょうがない身振り手振りで意思疎通を試みよう」


 今日はなんとかごまかせた。夕食時までに適当に、計画書を作って報告しよう。とにかく俺の得意な空想計画で、お茶を濁すことにする。


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