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飯炊き部隊

 オフマンホルコ軍がミリトリア王国北部連合軍を抜け、国境壁の前に陣取ったと連絡があった。私の位置からもよく見えている。北部連合軍は途中から戦うのを止め、それぞれ自国の領土に戻った。オフマンホルコ軍はミリトリア王国に全く感心を示さなかった。いくら国土が広くても侵略に値しない国だと判断されたようだ。オフマンホルコ軍の指揮官はよく調べている。そこは褒めてあげたい。


「こら! そこの二等兵、なにをボサッとしている。さっさと夕飯の支度をしろ!!」


「上官殿、申し訳ありません」


「わかればいい。早く支度しろ!!」


「あいあいさ――――!」


 私はオフマンホルコ軍の飯炊きをしている。まだ入隊20日だから重要な任務は任せてもらえない。それでも部隊の中で美味しいごはんを作ると有名になり、私たち同日入隊者は10人飯炊き部隊として有名になった。


 オフマンホルコ軍の食糧は現地調達が基本だ。本国からの支援などない。支援分は最初の1ヶ月で使い切ってしまった。ガザール国で調達する予定が荒廃した国だったため必要な食糧は集められなかった。そこで最短距離でラカユ国を目指したが、国境壁に遮られ、仕方なくミリトリア王国を経由する大回りをすることになった。私たちが入隊後飯炊きとされたのは、現地調達した肉類で美味しい食事を提供したからだ。当初最後尾の期待されていない部隊に配属された。


 しかし、夜になり、現地食糧を調達し、朝には美味しい食事を提供すると有名になり、10日後には中位の部隊に配属替えとなった。所属はやはり飯炊き部隊だ。そこでも美味しいご飯を提供すると有名になり、3日前から最前線部隊に配属されている。


 私たちの前には城壁に立って、焼き鳥を食べているピノ元帥、ケーキを食べている楓、楓と手を繋いでいる『さくら』と四人の世話をしている『みちるちゃん』の姿が見える。『さくら』は世話をする者が全員出かけてしまったので、楓が一緒に行動している。『みちるちゃん』は実践分析のため見学だ。

『まりちゃん』は壁の向こうで医療部隊として待機している。


 ピノ元帥たちの姿を見上げているのは、私、ヘルシス・ホヒリエ宰相、リデア・ポミアン元帥、メルトミ・ルドリフ元帥、カロリーナ・アベリウム中将、雪ちゃん、小町ちゃん、ステンノー女王、歩ちゃん、華ちゃんの10名だ。


 私たちは有名になった。その名も『10人の飯炊き部隊』だ。今ではオフマンホルコ軍にとって、なくてはならない存在なのだ。私たちは佐官以上の食事を担当するようになった。そうはいっても1,000人近くいるから、10人で準備するのは大変だ。


 私たちの能力が認められたのは、なんといっても食材調達能力が優れていること、それにできた料理がとても美味しいこと。私たちは服の中に詰め物をし、太っているように見える容姿となり、どんくさい化粧をしているから、残念ながら男どもには相手にされていない。


 それにしてもピノ元帥は美味しそうにコーヒーを飲んでいる。私たちが飯炊き女をしていることは見えたはずだ。これまではガザール国のS級魔獣のいる森から食糧を調達してきた。今日の夕食は佐官以上はマグロと果物、100万人もいるとすごい人数だから夕食時には佐官以上の者は最前列に待機している総指揮官のメドモス・クラシス大将軍の元に集まる。彼は大魔法を使い短期間で大将軍まで駆け上った。国境壁に(ひび)を入れたのも彼だ。


 マグロは冷凍したものではなく、雪ちゃんがアサリ女王を連れて現地調達したものだ。冷凍処理していないから病原菌も虫もいる。どうせ死ぬのだから急速冷凍処理する時間がもったいない。果実はアサリがヨダレを垂らしながら恨めしそうに見ていたものだ。



 佐官が食事を始めたので、私たちは自分たちの食事を摂る。あれだけご馳走をしたのに私たちの食事は、堅パン1つと水が1杯だ。それもミリトリア王国北部連合から奪い取ったものだ。私たちは最後尾に移動する。


 食事の提供が終われば私たち新参二等兵の飯炊き女は最後尾に移動させられる。そして食糧調達が済むまで帰還することは許されない。私たちと同じ飯炊き部隊は1,000人いる。ここにいる者たちに実戦能力はない。


 昼食でマグロの刺身をほんの少し出すと、明日もマグロにしろと命令が下った。量が確保できないので人数が足らないというと、全員を連れて行けと命令された。そこで私が飯炊き部隊を連れて移動している。全員強制徴兵された二等兵だったが、私はマグロの調達を認められ一等兵に格上げされ、飯炊き部隊の指揮権をもらった。



 飯炊き部隊は夜ということもあり、100人ずつ転移しラカユ国の壁側で待機している古い倉庫で待つ宰相秘書官たちに預けた。そこにはエリツオ・ホヒリエ中将とセニア・タラソア中尉が待っていた。当然監視兵も一緒に配置されている。暴動が起こる可能性もある。

 全員の移転が終わり、今、私たちは狼煙(のろし)のための紅蓮の火炎弾を打ち上げる。私たちは壁の上に立っている。眼下に『新雄叫びの森』ができあがっていた。


 佐官以上の食べた果物は人魚の木(悪魔の木)の果実だから、人魚の木(悪魔の木)の果実が生っている。ただ一人メドモス・クラシス大将軍だけは元のままだ。彼は悪魔だから人魚の木(悪魔の木)にはならない。歩ちゃんがメドモス・クラシス大将軍に向かって軽くビームを放ったが、彼はこともなく片手で跳ね返した。


「ひさしぶりね。シタンにいちゃん」


「サタミも、元気だったようだな」


「その名で呼ぶのは止めてくれない。歩という名があるの」


「ははは、お前が? そうか、お前も変ったな」


「黙りなさい!!」


 歩ちゃんはシタンに蹴りを入れた。シタンは後方の人魚の木(悪魔の木)をなぎ倒し吹っ飛んだと思ったら、歩ちゃんに蹴りを入れた。歩ちゃんは腕で受けるとシタンの顔面にパンチを入れた。またもやシタンが人魚の木をなぎ倒し吹っ飛ぶ。

 私たちは加勢しないで見ている。歩ちゃんが見物するように言ったからだ。私は心配で心臓がはち切れそうだ。


 雪ちゃんは、にこにこ顔だ。私の方を見ると、歩のほうが強いと説明してくれた。

 確かにそのとおりだった。力の差は圧倒的だった。歩ちゃんはシタンに最後まで体に痛手をもらうことなく勝利した。


 それから、雪ちゃんが魔力を込めた綱でシタンを縛り、私の前に差し出した。歩ちゃんには事前に伝えてある。殺さないで私の前に連れてきて欲しいと。殺し合いをしてきたとはいえ、歩ちゃんの兄なので、呪術をかけるが、私の配下になってもらえるか聞いた。

 残念ながら私はシタンから顔に唾を掛けられてしまった。


 雪ちゃんが怒ってシタンを蹴り上げた。わざとしたと分かっていても雪ちゃんは許さない。


「人間の女に従うぐらいなら死を選ぶ」


「では、どうして人間に従って大将軍をしていたのですか?」


「この戦に勝利したら、帰国して国王を殺し、私が人間を支配するつもりだった」


「嘘でしょ。国王を殺そうと思ったら、あなたであれば、いつでも殺せるでしょ。それには訳がありますよね。それにあなたは歩に殺されるつもりで戦ったでしょ。あんなに簡単にやられるあなたではないでしょ。あなたはガザール国との国境壁を壊さなかった。あなたの実力であればいくら鉄板で遮断しようと、最高難度火炎魔法を使えばひび割れ程度ではなく破壊できたはずです。でも、あなたは壁に歩ちゃん、ステンノー、まりちゃんの魔力を関知した。だから最終決戦をわざわざ知らせるようにここまで来た。それにいくらなんで飯炊き部隊にいる歩ちゃんに気づかないはずないわ」


「そんなことはない。俺は知らなかった」


「もう、そんなに無理しなくていいですよ。奥さんは綺麗で、息子さん、娘さん、2人ともかわいいですね。心配しなくてもこちらで預かっています。」


「……まさか」


「国王がご家族を人質に取り、幽閉していました。もしあなたが裏切れば奥さんとお子さんは殺されてしまう。あなたは1月前に国境壁に火炎魔法を放ちましたが、他の姉弟に分からないようにするため、放った魔法を障壁で隠したので油断したようですね。あなたの魔法を放つときの右手をくるくる回す癖がでていました。見ている者がいました。たぶんあれもわざとでしょうね。


 あのときからあなたのことを調べ尽くし、ご家族のことに行き着きました。それから私たちで救助計画を立て、国王の城の地下で幽閉されている奥様方を発見しました。かなり衰弱し危ない状態でしたが、今はみなさん元気ですよ。それにあなたは大将軍といっても実際の指揮権は全くないですよね。指揮権はドス・グロイ元帥が持っていましたよね。あなたの軍での本来の地位はメドモス・クラシス少佐ですね。でももう意に反して戦う必要はありません」


「あなた……」


「父上……」


「パパ……」


「お前たち……なのか?」


「はい、ララ様に助けていただきました」


「そうか。よかった。俺はいつ死んでもよかった。ただお前たちのことが気がかりで死んでも死にきれなかった」


「私たちが助かったのは、ララ様のおかけです」


「もう一度お聞きします。あなたは実力からいって、私より上なので呪術を掛けさせていただきますが、私に従って頂けますか?」


「こちらこそ、お願いしたい。ぜひあなたの部下にして欲しい」


「では、契約が成立しましたから、雪ちゃんに呪術をかけてもらった後、ラカユ国少将女王親衛隊副隊長メドモス・クラシスとなります。ご家族とゆっくりお休みください。雪ちゃん食事の用意もお願いね


「はい。喜んで」


「う……ララ様、ありがとうございます」


「これからお幸せに」


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