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開戦準備

◇◇◇オフマンホルコ軍との交戦35日前◇◇◇


 カロリーナ中将に案内され国境となる地域の線引きをし、急いで土魔法で国境壁を造っていく。今回私と楓は壁造りに加わっていない。中心になっているのはステンノー女王だ。普通ならば他国の壁造成など嫌がるものだが、本人は喜んでやっている。

なぜなら、監督官が雪ちゃんだから。


 今回はエレン・メディス少将が最前線で見たオフマンホルコ軍の魔法使いに、最高難度形態の火炎魔法を使う将軍がいたとの報告を受けていたから、これまでのように土魔法だけでなく、中心に鉄板を挟んであり、しかもラカユ国側にはアルベスト山の岩石を並べてある。アルベスト山の岩石を積んでいるのは、つばさちゃんと小町ちゃん、鉄鉱石はステンノ聖女国から運び、その残骸でステンノー女王が壁を築いているからこれまでのものより強く硬い。そのうえ鉄板とアルベスト山の岩石を重ねているから強度は以前の比ではない。


 歩ちゃんが魔力を使うと兄姉に所在を知られてしまうが、華ちゃんが結界を張っているから魔力は外に漏れない。ステンノー女王は鉄鉱石を無償で譲渡したご褒美として、雪ちゃんに監督されている。どう見てもイジメのように見えるが、本人が大満足なので、問題ない。


 鉄鉱石の採掘と運搬は、華ちゃんと歩ちゃんがやり、鉄鉱石の錬成はまりちゃんとみちるちゃんがやっている。

 雪ちゃんも監督をしているだけではなく、ステンノー女王が築いた壁を焼成し強度を増している。ステンノー女王にとっては雪ちゃんと共同で作業していることが、ご褒美になっている。


 魔力が切れそうになっても幸せいっぱいだ。ステンノー女王は天使たちと暮らしているうちに魔族体質が抜けていき、今では世界樹の葉のエキスを飲んで回復している。本人は雪ちゃんと一緒に暮らしたことで、世界樹ドリンクを飲んでも消滅しない体になったと本気で思っているが、それは違う。エセ天使でも天使だから世界樹が効く。エセと本物の違いは、天界から認められた天使ではないだけで、体は天使だ。


 その実験がしたくて雪ちゃんは、ステンノー女王に世界樹ドリンクを飲ませた。もし消滅していたらどうするの? と質問したが、1千年後に復活しますから心配ないとのこと。彼女たちにとって1千年はため息をつく程度の時間だから、そこまで気にしていない。ただ、ステンノー女王は大喜びで、益々居候を止める気がない。



 5日後全行程の壁が完了し、ついでにミリトリア王国に接している国境壁とバン国の壁の改修も終えた。


 オフマンホルコ軍は国境壁が完成して2日後にやってきた。ガザール国の中に確かに最高難度火炎魔法を使う者がいたが、彼の火炎出力は楓のものより弱く、新しく築いた壁を破壊することはできなかった。ステンノー女王の築いた部分すらひび割れ程度で済んだから簡易な補修をした程度で済んだ。


 オフマンホルコ軍は本気で壁を破壊しようとしなかった。壁が弱ければそのまま侵攻しただろうが、壁が思ったり頑丈なため、侵攻ルートをミリトリア王国を経由することにしたようだ。最初からそうする気持ちだったようなそぶりもある。ミリトリア王国を経由すると同時にバン国を支配することもできる。バン国も今では備蓄ができるほど豊作だ。オフマンホルコ軍の食糧を十分に(まかな)える。




 ところで、鉄鉱石はステンノ聖女国から運んでいるが、ステンノー女王は良質な鉄鉱石の鉱脈があったのに黙っていたため、雪ちゃんから壁造りをさせられている。事前にリデア・ポミアン元帥が国境壁に鉄板を挟むことを提案したが、ラカユ国ではそれほど良質で豊富な埋蔵量を誇る鉱山がないので却下されていた。そのことを朝食のときに居候(いそうろう)のステンノーも聞いていた。


 雪ちゃんがミリトリア王国の鉱山から盗掘する案を出したが、私が却下した。今は反目しているとはいえ、私もミリトリア王国産まれだから、盗掘によってミリトリア王国の鉱夫を失業させたくない。この計画に必要な量の鉄板を作れば、ミリトリア王国の鉱山程度であれば、廃坑にしてしまう。雪ちゃんがため息をつきながら話した。


「誰か、いい鉱山を発見してくれたら、私が一晩添い寝してもいい価値があるのですが、そんな殊勝な者などいませんよね~」


 ああ、私はあれを知っている。あれは罠に()まるとわかっていて答えしまう『悪魔の誘い』だ。怖い。でも甘い褒美に答えてしまう。あ~ステンノーちゃん、油汗をかいている。そうなのね、ステンノーちゃんに向けられた罠なのね。


 あと何分耐えられるのだろうか?

私だったら、もう耐えられない。おやつの時間というのに、他のみんなも黙って、ステンノーちゃんをじっと見ている。


 ああ、耐えられずヘルシス宰相、ピノ元帥、リデア元帥、メルトミ元帥が下を向いてひたすらモンブランを食べている。うちのメイドは知らん顔しているし、女王専属護衛官は天井を見ている。女王専属秘書官はコーヒーを手に持ったまま時間が止まっている。私と(かえで)は、モンブランを食べているが、顔はステンノーちゃんを見たままだ。


 私ももう耐えられそうに無い。ステンノーちゃんの唇がわなわな震えている。ああ、もう、ゲロしそうだ。


 ここで、雪ちゃんが優しく微笑(ほほえ)


「ステンノー、私に何か隠しているのかなぁ? 二人に隠し事はないよね?」


 ステンノーちゃん、涙を流しながら


「雪姉様、申し訳ありません。ステンノ聖女国に大陸有数の鉄鉱石があります。どうかお使いください」


「あら、そうなの? ありがと…。さすがステンノーね」


「無償でいいので、このことは国民にも外国にも内緒にしていただけないかと。私の平穏がなくなってしまいます」


「もちろんよ。ねえ、ヘルシス?」


「はい、雪様、もちろんです」


「ところで、雪姉様、添い寝はしていただけるのでしょうか?」


「あら、発見した訳ではないでしょ。単に隠していたのよね? 私に殺されないだけ喜びなさい」


「は、はい、そんな雪姉様と添い寝したいなんて、大層なこと言う訳ありません。今の関係で十分であります」


「そう。これからもお茶会の参加を認めて上げるわ」


「はい!! 感謝いたします」



 ステンノーちゃん、結局、無償で優秀な鉱山をラカユ国に譲ってしまった。

鉱山は人里離れた山奥だが、必要なときはメイドが魔法で採掘し魔道カバンに収納するから誰にも知られることはなかった。


 私たちは何事もなかったように、桜餅を食べている。いい茶会になった。


 あれ? 雪ちゃんがステンノーちゃんの方を見て薄ら笑いをしている。雪ちゃんの唇が動いた。内容が怖い。ステンノーちゃんはまた脂汗をかいている。


 “”まだ他にも隠しているのは分かっているのよ。今回は、役に立ったから見逃してあげるけど、今度やったら半殺し……魚の餌……。それが嫌だったら、早めにララ様に白状することね“”


最後まで見ていただきありがとうございました。

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