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新食材

 ララ自治区から王都の瓦礫を片付けていたら地下空洞が発見されたと知らせがあった。それは旧王城の地下のその下にあった。そこにあるのは自然の空間ではなかった。雪ちゃんの説明によると前文明時代の何かしらの研究所らしい。形が残っているものもあったが、触ると灰が落ちるように崩れる。ここにあるものは全部使い物にならない。


 ところが、1カ所だけ中が厳重な場所があった。そこには入口らしいものはない。


 私の期待としたら、中からロボットがガオーと出てくるとか、ドラキュラが眠っていて開けたとたん噛みついてくるか、金塊が積んであるといいなぁと思っている。


 だけど、黒く四角い部屋というか、大きなサイコロは、どうにもならなかった。


 みんなで火炎魔法と氷魔法を交互に使ってみたけど、その物体は壊れることはなかった。


 転移魔法は受付けず、楓のワープも受付けない。宮殿に戻って解体するため魔道バッグに保管しようにも魔法を受付けないから魔道バッグにも入れることができない。



『歩ちゃん』も見たことがないという。天使も悪魔も見たことのない物体だった。もう(あきら)めることにしたが、居候二人が私たちがいないことを知り、ヘルシス宰相から行き先を聞き出し、やってきた。



「あんた、それ(うそ)でしょ。ヘルシスちゃんが(しゃべ)るはずないよ」


「ララちゃん、そうなのよね。ヘルシスちゃん、強情なのよ。だから覗いちゃった」


「あんた悪魔なのに(のぞ)けるの?」


「へへ、エセだけど、天使になったらできちゃった」


「人の国の宰相の頭を覗いていいと思っているの?」


「待って、これまで覗いたこと無いわよ。そんなことしたら雪姉様に半殺しにされるもの。でも、雪姉様もいないし、私たちはララちゃんが何処に行ったか知りたいし、ララちゃんが帰らないと食事が出ないのよ。食堂に行ってもいいけど、やっぱり雪姉様のスイーツも食べたいじゃない。だからほんの少し覗いてしまったの。許して、へへへへ」



「いいこと、今度覗いたら、女王の部屋出禁だからね」


「それは嫌だー――――――――!!!!」


「だったら、もうしないわね」


「はい、もうちまてん」


「よろしい」


「…………」




「ところで何をみんなで悩んでいるの?」


「あなたの目の前にあるでしょ?」


「わかるけど?」


「何悩んでいるのよ?」


「何に?」


「あれの開け方よ」


「そんなこと?」


「誰がやっても開けられないのよ」


「それ、前文明のものだから、開かないわよ」


「それはわかっているの!!でも開けたいの!!」


「ララちゃん、そのなんだから開かないのよ」


「ステンノーちゃんと問答をしている時間はないのよ?」


「それ、生物だから」


「はっ?」


「だから、それ生物よ。名前は『金庫番』というのよ。私が命名したのよ」


「生物?」


「それ、この研究所で突然生まれた変異体なのよ。餌もいらないのだけど、一度蓋を閉めると、もう二度と開かないのよ。だから開けるときは溶かすのよ」


「溶かす?」


「そう、そいつは、ナメクジの仲間が突然変異したものなの。魔力で巨大化したのね。餌はいらないのだけど魔力がないと死ぬの。ここはいつの時代でも国が変っても王都の真下だったから、微弱な魔力を吸収して生きたのね」


「それで、どうしたらいい?」


「ナメクジといえば?」


「塩」


「そう。塩を振りかけると表面が溶けるから中に入れるよ」


 塩をかけると、本当にその四角い生物は、表面が溶けていった。もっとかけるとどんどん溶け、小さな塊になった。

 中には、宝箱のようなものがあった。



「わぁっ、中味は埋めたときのまんまだわ」


「ステンノーちゃん、それは何?」


「これ! 私が幼稚園の時に埋めて卒業のときに取り出したタイムカプセルよ。それをほかのものと一緒に缶詰の空箱の中に入れていたのよ。雪姉様の写真も入れてあるのよ。かわいいでしょ」


「ちょと待って? それだけ?」


「これだけよ。私にとっては何よりも大切な宝物よ」



 ステンノーちゃんは古い白黒の写真を見ては懐かしいと喜んでいる。その写真は全部雪ちゃんとつばさちゃんのアップ写真だったが、その奥に小さく写っているステンノーちゃんがいた。

 彼女は幼稚園児のときから二人のストーカーだった。

 どうしてステンノーちゃんが写真に入っているかと聞けば、写真機は沢山仕掛けてあって、自分も入るアングルになったときにシャッターの指示をしていた。

 写真機といっても機械作りの写真機ではなく、雪ちゃんがよく使っている使い魔のことだ。


 二人がステンノーちゃんを煩わしそうに扱うのはその頃からの因縁なのね。まあそうよね、何十万年も引っ付かれたら、『うざい』かも?


 タイムカプセルを取り出した謎の物体は数センチまで小さくなっている。


「ステンノーちゃん、これ、どうなるの?」


「ああこれ? ナメクジと同じよ。いずれ溶けてなくなるわ」


「もったいないね」


「欲しいの?」


「あったら、何かに役に立つかも?」


「欲しいなら、いっぱいあるよ。はい」



 ステンノーちゃんは、魔道バッグから米粒大の謎の物体の入った30g入り袋を出した。



「こんなにもらっていいの?」


「足らない? まだ100袋あるからいくらでもあげるよ?」


「ううん、これで十分。使い方はどうするの?」


「魔力を与えたら大きくなって、口を開けるからその中に変化してほしくないものを入れるといいよ。でも生肉とかはダメよ。臭いが移っちゃうから」


「使い所が悪いのね」


「だから、魔道カバンができてからは捨てられたのよ」



 一通り写真を見終わったステンノーちゃんは、缶詰の空箱から小袋を出した。なんでもおやつの豆を入れたままにしていたらしい。



「ララちゃん、これ何十万年前のものかも忘れたけど、食べる?」


「ステンノーちゃん、これ、もしかして、(はす)の実?」


「よく知っているわね。大好物だったのよ。でも今はどこにもないのよね」


「それ生よね?」


「そうよ。私、生が好きだったから」


「ステンノーちゃん、グッジョブよ」



「?」



 女王の部屋に戻り、急いで私とステンノーちゃんは作業着に着替える。

 ステンノーちゃんがやる気満々なのは、蓮を植えると言ったからだが、種をまく程度でなぜ作業着まで着るのかというと、それは『レンコン』を掘るためらしい。

 収穫は来年になるよ?


 でも、ステンノーちゃんも一国の女王だから、彼女一人に(はじ)をかかせるわけにはいかないので、私も着替えることにした。



 新宮殿近くの女王専用の芋が植えてある空き地を耕しているのは『歩ちゃん』だ。雪ちゃん曰く、彼女は汚れ仕事が得意らしい。ほんとかな? 嫌そうにやっているけど?


 土を1メートル掘り、その土で50センチ高さの壁を造り、配水用の水路まで準備し、高速で中を耕し、水を張った。この作業が始まって終わるまでわずか10分で、しかもその大きさは50メートプールと同じ大きさだ。



「『歩ちゃん』すごーい」


 心なしか歩ちゃんの口角は上がり瞳が光った。



 蓮の種を均等に()くのは私とステンノーちゃん。蓮の種は硬いので発芽しやすいように一部を削る。まんべんなく撒いたから、あとは来年まで待てばいい。


「ステンノーちゃん、この作業着はいらなかったね。むしろ『歩ちゃん』に必要だったよ。綺麗な若草色のメイド服が泥まみれになっているわ」



「何言ってるの!! これからレンコンと蓮の種の収穫のために、蓮を掘るからに決まってるでしょ」


「あのね。種を植えてからすぐ花が咲くわけではないのよ」


「ララちゃん、甘い!! そろそろ始まるわよ」



 そこには信じられない光景が展開された。ビデオを早回ししている世界がそこにあった。

 蓮の葉がどんどん増えたと思ったら、花が咲き、そして種になり、そして枯れていった。その光景は30分程度で終わった。


 種は数十万年分の魔力を吸収していたから、一気に育った。


「さあ、ララちゃん、掘るわよ」


「そうね。頑張って掘るわ」



 そういっても手で掘るわけではない、二人とも蓮田に入ることなく、土魔法で掘っている。綺麗に掘った後は池を水で満たし、株分けをして来年を待つ。魔力を含んだ種を全部使ったから次回からは普通の育て方だ。


 取ったレンコンはシドル連邦、ブルセルツ皇国、バン国にそれぞれお裾分けし、ついでに蓮池のお願いをされたので、『歩ちゃん』に頼んだら、気を良くして他の国でも50メートルプール大のものを作ってくれた。今回は株分けの茎がたくさんあるので、種からではなく、茎から育てることにした。来年は沢山の蓮の花が咲くことだろう。


 種を発芽用にする気だったけど、ステンノーちゃんが恨めしそうな目をしていたから、種を半分あげた。ただし、半分は保存してある。これからラカユ国の国内の池に撒くし、蓮池を作るときにも使う。ステンノーちゃんはいつもどおりステンノ聖女国で蓮を育てる気はない。ラカユ国から買うつもりだ。


 国民にもお(すそ)分けしてあげたいと私が言ったら、雪ちゃんがステンノーちゃんの種から1箱を残して全部ステンノ聖女国の池に撒いてしまった。これでステンノ聖女国でも蓮が育つ。



 ステンノーちゃんから食事代はもらっていない。これまでのオリハルコンとミスリル剣の総量だけでも金銭価値にするとラカユ国が10個くらい買える。ステンノーちゃんには前回剣をいっぱいもらったのに、また持ってきた。前回はデブセン大陸に隠していたもので、今回はダレカイル大陸から持ってきた。その量は前回の倍はある。


「ねえ、ステンノーちゃん、これで終わりよね?」


「そうね。すぐ回収できる程度の量はこれが最後よ。次からは数倍あるから、またよろしくね」


「何カ所埋めたの?」


「う~ん、覚えてないけど、たぶん数十カ所よ。でもあの頃はオリハルコンもミスリルもあまり価値がなかったのよね。むしろ鉄のほうが価値はあったのよ。鉄は錆びるでしょ。それが刺激的で、鉄が発見されたときは世界中が鉄に変えて、オリハルコンもミスリルも捨てたのよね。私はゴミ捨てを頼まれたから、バレない場所に隠したのよ。まあ、今で言う不法投棄ね。普通に捨てられたオリハルコンとミスリルはどこかに霧散したけど、主な鉱脈は掘り尽くしたから今はオリハルコンとミスリルのほうが価値があるわね。私は同じ場所に捨てて、満杯になったら次の場所に捨てたから、錆びないオリハルコンとミスリルは未だに昔のままあるのよ。それから鉄鉱石の鉱脈が沢山発見されて、鉄は価値を失った。いつの時代も希少性が価値を生むのよね」




 ちなみに、ステンノーちゃんは、自分で蓮を育てる気はない。勝手に育ったものは国民が勝手に取るだろうが、自分は雪ちゃんが料理してくれるからいらないのだと。


 来年は同盟国中でレンコンが食べられることだろう。


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