緊急女子会・真の目的
「どうでした? ちゃんと大きな声で言えましたか?」
「はいはい、ヘルシスちゃん、しっかり売り込みしてきましたよ」
「それはいいことです。ところで雪様、何カ国くらい来ていましたか?」
「204カ国だから、今回女子会に参加した国以外のスパイが必死に見てましたよ」
「雪様のおかげです。昨日ビラを撒いて頂いた効果はバッチリですね。今のうちに大量生産をしないといけないわ。ドワーフたちに魔道チンも急がせているのに、新人魚の木探知魔法器改め消滅型まで急がせたら怒ると思うから、手土産がいるわね。雪様、チョコレートを500人分お願いできますか? ちょっと急ぎです」
「ララ様の睡眠中に作ってもいいわよ。夕食が終わったら小町、華、つばさ、ステンノーを連れてアニフホリンカ大陸に収穫にいきましょう。ララ様のために多めに摘んできましょう」
「ステンノー女王を使っていいのですか?」
「やつは、チョコレートを多めにやると言えばほいほい付いてきます」
「カカオの木をやっと探されたのに、ステンノー女王に知られてまずくないですか?」
「やつは昔から面倒くさいことが嫌いなのです。そんなことをするぐらいなら、金を払ってでもできあがった品を食べる悪魔なのです。それに自分以外のためには働かない」
ヘルシス宰相が狙ったのは、ラカユ国の認知と外貨の獲得のためと次なるラカユ国発展のためだ。現地通貨でないと取引してくれない商人もいるから、金だけでなく現地通貨も準備しなくてはならない。いずれ両替もできるようにするつもりらしい。今年は世界大干ばつが終わったが、まだ例年並みの雨量はない。各国の備蓄は底をついている。今年の小麦の生育はいい国と悪い国がある。地域差が大きい。そこで行き交うのは不作の国からの備蓄がある国への買付依頼だ。大干ばつのときはどの国も備蓄が苦しかったから金を出しても売ってくれなかった。今年は豊作の国もある。大干ばつは終わり、各国の動向は次の段階に入った。
備蓄のない国は買い付けをするが、競争が激しくなるから価格は釣り上がる。これからはお金が物を言うことになる。ラカユ国も万が一のときのために蓄財をする。
△△△
さあ、待ちに待った初披露の新大ホールでの夕食会。今回は楓の好きなイタリア料理を中心に揃えている。私も大好きだ。ピザは時間に会わせて焼きたてが用意されている。私たちが出かけている間に、同盟国の首脳陣や上層部の軍人並びに貴族は招待している。それぞれ雪ちゃん、小町ちゃん、華ちゃんが転移させてくれた。それにラカユ国の軍人もいる。すでに女子会ではなく、各国交流会となっている。
ただし、大ホールには全て映画館のように黒く厚いカーテンがされている。窓から外は見えない。ここにいる者たちは全員直接この新大ホールに転移してきたから、外を見ていない。照明は迷宮ダンジョン9階層の壁からゴロゴロ出ている発光石を使っている。
カーテンを開ける者がいるため注意書きがされている。注意書きの最後には『雪』とサインがしてある。だから、誰も逆らわない。雪ちゃんの怖さは全員知っているようだ。私の知らない裏雪ちゃんが軍人を恐れさせているのは知っているが、そこには触れない。私にはとても優しいのだから。
あのリデア・ポミアン元帥でさえカーテンを開けていない。誰も外に何があるか知らない。私だって知らないのだから、不公平ではない。
懐かしいチェーン店で食べたピッツァ・マルゲリータ、私の好きなきのこ・ピザ、カルパッチョ、ミネストローネ、スープパスタ、和風アサリパスタ、ドリア、シーザーサラダ、コーヒーゼリー、高級店には行ったことがないから、私の記憶にないため、雪ちゃんが再現したものは全部チェーン店ものだ。チェーン店ものは日本人の舌に受けるようアレンジしてあるから私も食べやすい。
勇者山田五郎は和食のための素材となる作物を植え、家庭風ではあったがそれなりの商品開発もしていた。しかし洋食や中華については感心がなかったようで、ラーメンすら開発していなかった。
リベッタ様は、留学生を増やすからイタリア料理も教えて欲しいと駄々をこねた。
残念ながら雪ちゃんは忙しいのだ。そんな時間はない。ラカユ国の料理人でさえ、雪ちゃんが毎日のように増やすメニューのレシピを覚えるのに精一杯だから、人に教える時間などない。雪ちゃんの方針は見て覚えろだ。
「うちのシェフ10人をラカユ国で下働きさせるから、勝手に覚えるのはありかい?」
「リベッタ様、それだったらいいですよ。でも勝手に来るのなら無給ですし、家賃もいただきますよ」
「宮殿の近くにうちの大使館を建築し、そこに住まわせる。レシピをもらうのだからノウハウ料も支払う。徹底的にこき使ってくれ。同じものを永遠と作るやつらの鼻っ柱を雪様にポックリ折ってもらえたら、それだけでも十分だ。詳しい話はヘルシス宰相と詰めよう」
「私はここに来るからそんな面倒くさいことはいいわ。雪姉様の直接料理されたものを食べるのが一番よ」
「あ、あの、バン国も若い料理人を派遣します。大使館もシドル連邦の隣に建てたいと思います。そこに住まわせますので、下働きでいいので指導してやってください」
「うちとは貿易協定しかしていないから、今すぐ軍事協定も結びましょうよ。それに貴族の剣に続いて軍の剣も発注しているから、外部からみたら軍事協定していると同じですものね。ブルセルツ皇国大使館兼私の宿泊所を女王の部屋の前にドドーンと大きなものを建てて、廊下で繋ぎましょうよ。
料理人の宿泊所は郊外に建てましょう。彼等は軍に属しているので毎日走って来させるわ。それに私がいなくても宰相が全部やっているから楽なのよ。まあ宰相は父だけどね」
これで少なくともブルセルツ皇国が焼け野原になることはないわ
メイドとつばさという護衛官は絶対に怒らせたらダメだわ。ブルセルツ皇国が滅びる。ブルセルツ皇国の河川整備をたった3日で仕上げたのよ。でたらめな土魔法を使うし、転移魔法なんて他の大陸まで行くし、剣の腕は達人級、料理を作らせたらピカイチ、なのにララちゃんには絶対服従している。分からない。ララちゃんも強いと思うけど、彼女たちと比較すると足下にも及ばないと思う。ララちゃんは不思議な子だわ。
◇◇◇
急に大きくなったラカユ国ではまだ極小国だった頃に建てた宮殿を建て増し続けていた。ところが、短期間でラカユ国が大きくなり、貿易相手も増え、同盟国の大使館も増えることになった。現在の宮殿は建て増しに継ぐ建て増しをしたため、やや歪な形状になってきた。これからは同盟国以外の大使館や領事館の建築ラッシュも続く。
そこで、宮殿を建て替えることにした。ヘルシス宰相は前々から旧ザバンチ王国をラカユ国が統一するだろうと考え、新都市計画を設計していた。建築場所はブルザ王国との最終攻防をした首都ウーベ攻防戦で1万人を焼却した場所だ。運河を造ったときに掘った土を一帯に盛り土してある。宮殿の裏側になる場所だが、あれから放置したままだった。商人から払い下げの要望があったが、すべて却下していた。
ヘルシス宰相はあのときからここに宮殿を移転する計画を立てていた。宮殿を中心に軍と役所を配置し、その周囲に大使館や領事館を置き、要人用の施設も建築する。ただし、軍事同盟国の大使館は、宮殿のすぐ側に置いている。
ヘルシス宰相はウーベ攻防戦の後に慰霊碑を建立し、周囲を見えないように囲んだ。私にさえ見せなかった。都市計画案に決済印を押したのは私だけどね。500頁もあるんだもの見るわけないわよ。ヘルシスちゃんにまかせていればいいから、お金についてはノグソ金山の備蓄金を使うことと、時間のあるときにメイドを貸す許可した。まさか全額使っているとは思わなかったけどね。それほど広大な計画だった。
この計画にはうちのメイドが関わっていた。宮殿と私の母とその友人の家については、全面的にメイドの設計案に従うが、それ以外の建築に協力することでヘルシス宰相と協定していた。
都市計画のたたき台はヘルシス宰相、リデア・ポミアン元帥、ピノ・バルセン元帥、メルトミ・ルドリフ大将の天才たちが作っていた。それを女王専属秘書官と宰相付き秘書官が新都市計画として500頁に及ぶ計画書にした。その中には当然ヘルシス宰相たちと大和、エリツオ・ホヒリエと楓たちの自宅も含まれていた。旧宮殿近くに建てた自宅さえ豪邸だったのに、まるでホテルのような建物を建ててどうするの? そんなに夫人を増やす気なの?
本日除幕式が行われる。
ミリトリア王国に営業出張をしている間に囲いを取り払い、旧宮殿とその周囲の建物を解体し、公園としている。これはすべてほんの1時間で行われた。雪ちゃん、小町ちゃん、華ちゃんが全力で土魔法を駆使した結果だ。
建築にあたっては全面的にメイドの土魔法が使われている。建築に使った素材はアルベスト山のトンネル工事で掘削した岩石をふんだんに使っている。大理石も使っているが、それは見栄えのためだ。建物は堅牢で何百年経とうとびくともしない。
各国の文官は大変だろう。荷物は雪ちゃんたちが旧建物から一斉に転移してくれるが、後片付けがあるし、整理もしなければならない。
というわけで、夕食のためにミリトリア王国から、つばさちゃんの転移で戻ってきたのは、新大ホールだ。
食事を終えると、いよいよヘルシス宰相が新大ホールのカーテンを開けた。そこから見えたのはなんとも広大な敷地に建っている新宮殿、軍事同盟を結んだ国の大使館や沢山の建物群、噴水、緑地公園などが見える。
招待客も含め全員が新大ホールから歩いて宮殿に向かう。新大ホールから宮殿までは、徒歩で2分だが、屋根も窓もあるローカだから、景色を見ながら移動できた。
屋上では、ビアガーデンのように、軽い食事と飲み物が用意されていた。
私の実母ハンナ・ステンマとお友達のグリスさんのお家は、宮殿から少し離れているが、女王の部屋から見える場所に建ててある。他の建物からすると木造の質素な造りで、20坪程度しかなく、廻りには家庭菜園用の小さな畑があるが、それが彼女たちの望みだったようで、要望通りに建築してあった。
招待客を宮殿の展望台に案内し、完成した都市の全貌を見てもらった。それぞれ口をあんぐり開けて呆然としていた。
そうだろう。私も今日初めて見たから口が開いたままだ。説明しているのはヘルシス宰相だ。軍事同盟を結んだ、シドル連邦、バン国、ステンノ聖女国、ブルセルツ皇国の大使館はひときわ大きく、宮殿の側にある。これがヘルシス宰相の女子会の真の目的だ。その周囲に親衛隊の軍事施設があり、首都警備隊の軍事施設に囲まれるようにして他の国用の大使館や領事館となる建築物がある。大きさも形もまちまちだが、それはその国のとの関係性で入る建物が決まる。ヘルシス宰相はゴルデス大陸のすべての国が来るだろうと計算して建てていた。確かにそうなった。
それから、各学校や教会、病院もここに移動することになっている。当然商業施設もあるが、それはこの区域の住人のための施設で、建物も国から提供されている。商業施設の入居者はすべて厳正なるくじ引きで決めた。必ず儲かるわけだからその倍率は激しいものがあった。その周囲には軍や官公庁職員の住居があり、その周囲にやっと一般商業施設があるが、それらはすべて住人が購入し建築したものだ。
こんなに短期間でできたのもうちのメイドの魔法があって初めてなし得る。感謝感謝。
私も含め招待客は、目視だけでなく、雪ちゃんの双眼鏡で感嘆の声を上げている。全部で700人はいるのに全員分の双眼鏡が用意されていた。雪ちゃんのカバンの中にはいったい何個入っているのだろう。
「ステンノ様、うちの、大使館のほうが、ステンノ聖女国より大きいし、大国にふさわしくガッシリしているに感じますね」
「リベッタ様、それはしょうがないわ。うちにはシドル連邦のように無駄な人員を抱えていないもの。だけど聖女の私にピッタリ白を基調に可憐に造ってあるわ。シドル連邦館はあんなに黒っぽく威圧感のある建物だと誰も近寄りたくないわ」
「まぁ、私のとこの大使館は、かわいらしい建物ですわ。これで軍事国家と言われなくて済みそうですわ」
「ベティ様、バン国の人もあの建物だったら、イメチェンできていいですね」
「バレンシス様、ブルセルツ皇国の建築物は、宗教観たっぷりで、大きさもシドル連邦と同じですよ。玄関正面のレリーフの女神のモデルは絶対バレンシス・ラプチェト様ですよ。私は天使など見たことないのですが、女神の廻りを囲む天使など本物のように感じます。いつか天使に会えるといいですね」
「ベティ様も天使に会いたいでしょ? ただ、ミゼット神国連邦のように四天使に会えても不興を買うのは嫌だわ。穏便に楽しく会いたいものですね」
「あっ、小町様、アイスコーヒーをいただけますか?」
「はい、ベティ様」
「華様、私はマンゴージュースをいただけますか?」
「はい、バレンシス様」
最後まで見ていただきありがとうございました。
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