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授業

 初日からいきなり魔法実技だった。魔法専門校なのだから普通に考えればあたりまえの話だが、一般クラスでは机上の授業がある。魔法実技のほか、魔法工学、魔法理論、召喚魔法学、法律学を覚える。


 ところが特進クラスは、教室で行う机上の授業はなく、実技のみとなる。


 特進クラスには、魔法教師が生徒と同じ数だけ付き、マンツーマンで教えてくれる。しかも教師それぞれが得意とする魔法種が違う。特進クラスの生徒は、多様な種類のスペシャリストに習うことができる。



 幻影の魔女ジーニュアの狙いもそこであった。ジーニュアはジーニアに比べ扱える魔法種が少ない。ララを通して学校にいる、スペシャリストの新しい魔法を、手に入れることが目的だった。


 例えば魔力測定器に、火炎魔法が表示されなくても、魔力値の高い者であればそれなりに使えるようになる。魔力値が300以上あれば適正がなくても初級魔法くらいは身につけることもできる。だがそれ以上を身につけることは出来ない。


 魔力測定器に表示された魔法種を身につける方が、取得に要する努力も、時間も、少なくて済むし、何よりも上位の魔法を使えるようになる。


 生徒には事前に教師が、得意とする魔法を記載した紙が配られている。生徒が先生を選ぶ。習いたい教師の下に生徒が集まると、生徒が集まらなかった先生は、安全監視員を務めることになる。



 一番人気は火炎魔法が得意な、ミスラン教師だった。次が水魔法のドンガ教師、地味という理由で治癒魔法が得意なミレーヌ教師は人気がなかった。


 それでも火炎魔法があまりにも人が多いから、諦めた女生徒がミレーヌ教師の下に集まった。治癒魔法は回復魔法のように欠損した部分を治すことはできない。傷であれば治癒魔法と回復魔法は差がないが、絶対的な差は、治癒魔法は最終形態までいっても欠損は治せない、だが最終形態の回復魔法は欠損まで治す。


 火傷であれば治癒魔法ではケロイドは治せないが、回復魔法であればケロイドになった部分まで治す。回復魔法は治癒魔法の上位魔法だ。

 だから中途半端な治癒魔法は人気がない。ただし、回復魔法が使える者はごく稀だ。


 召喚魔法が得意なメリー教師には2人の生徒が習った。彼らはどちらも召喚魔法の適正があった。これも4桁魔力測定器のおかけだ。


 誰一人近づきもしなかったのが、闇魔法の得意なクリス教師だ。その容姿が暗いことも原因かもしれない。美人なのだが、生徒には人気のない魔法だ。


 今年の入学者に回復魔法、神聖魔法、闇魔法の適正者はいない。再測定した上級生にそれぞれ一人ずつ適正者がいたが、専攻していた魔法が違っていたため、今更ということで誰一人教師を変更することはなかった。



 ララは他の生徒が、先生を選択し終わるまで、待っていた。他の人の習う機会を奪いたくなかったのだ。一番習いたい魔法があったが、他の生徒と重ったら、譲るつもりだった。最終的にはチラ見でコピーできるが、直接教えてもらうほうが精度も高いし、その魔法の取得期間も早い。


 その先生の下には誰も集まっていなかった。


 ララは大喜びで教師の前に行き、『先生よろしくお願いします』と挨拶した。クリス教師は驚いていた。彼女はこの3年間ずっと安全監視員を務めていたからだ。



 習ってみるとクリス教師は優秀だった。確かに闇魔法が得意だが、氷魔法・土魔法・精霊魔法・防御魔法・重力魔法・雷魔法もスペシャリストほどではないが次点位の能力だった。


 クリス教師は、ララという優秀な生徒から指名されたことで、これまでの3年間に戻りたいと思うほどハードな、教師生活を送ることになった。なぜなら、クリスの所有している魔法種類は、ララが取得していなかったからだ。ララは最上級魔法まで取得しなければ納得しない子だ。


 クリスに習ったことで、ララは新たに『闇魔法、氷魔法、土魔法、精霊魔法、防御魔法、重力魔法、光魔法、雷魔法』の魔法種を取得した。


 召喚魔法についても初日に、メリー教師をチラ見していたから、既に初級程度はできる。

 そのようにしてララは卒業するまで、特進クラスの教師の魔法を、すべて取得することになる。


 学園長は魔法教師に、ララから教師指名されたら、必ず二重結界が張ってある特別訓練場で、教えるように指示していた。



 クリスはララを連れて特別訓練場に来ていた。

 まずは、ララの基礎能力を見るために『火炎魔法』を撃たせてみた。

 ララはジーニアに言われたとおり、初級魔法のみを放ったが、その威力はクリスの知る上級魔法だった。


「ララさんの魔力が、大変すばらしいものであることはかりました。ここは安全ですから、これからも、あなたの訓練はここでしましょう」


 その日から闇魔法を中心に、クリスの使える他の魔法も、さわり程度だが、一緒に教えていた。



 そして2ヶ月後のこと。



 あなたの使える最高出力の闇魔法を放ってください」


「え!! いいのですか?」


「ここは安全です。昨日『幻影の魔女』が結界を上塗りし、二重結界にしてくれました」



「だったら安全ですね。ではいきます。『闇魔法 出でよ! 黒騎士』」



 ララが短縮詠唱をすると、地面から黒い影が、竜巻のようにグルグル回り、邪悪な顔をした黒い骨の塊が、黒い甲冑を着て出てきた。その黒い骨はクリスが、これまで見たこともないほど邪悪なものだった。危ないと感じたクリスは対抗するために短縮詠唱をした。


「闇魔法 出でよ 闇オーク」


 すると茶色い骨のオークが出てきた。



 ところが黒騎士は『あ、すんません。少し邪悪でしたか?』と言うとクリスにペコッと頭を下げた。


「え! えっ!!! なんで喋るの?」


「いや~。毎晩ララ様に呼ばれるうちに、なぜか話せるようになりました。それに生前の記憶まで蘇ってしまいまして、昔はもっとかっこよかったのですよ。ララ様はかっこいいと言ってくれますけどね」


「はあ~そうですか」


 クリスは闇オークを消した。黒騎士と話すと、生前はクリスの祖父と友人だったらしく、その頃の話をしてくれた。


 黒騎士の生前の名前は、チンタ・カンタと言うらしいが、初めてララに召喚されたときに『黒騎士だ。かっこいい!!』と言われてからは、『黒騎士』で呼び出してくれと懇願されたらしい。


『出でよ チンタ』でもいいのだが、『チンタ』より『黒騎士』のほうがかっこいいらしい。本人の希望だったので、そのまま使っている。



 ララの闇魔法は最上級魔法まで、取得したが、残念ながら最高難度までは取得できなかった。彼女の能力は『複写』なので、相手が最高難度の闇魔法が使えないとコピーできない。ララの上級魔法は、一般の魔法使いが使う最上級魔法に相当するため、一般の魔法使いは、ララの最上級魔法と同じ威力は出せない。ましてや最高難度魔法などは使えない。


 訓練を繰り返すうち黒騎士は、くすんだ黒から光り輝く『光沢黒騎士』に変り、ララの召喚も『黒騎士』から『ブラックナイト』に変えてみた、チンタ・カンタは気に入らなかったようで、『黒騎士』に戻して欲しいと懇願したため、結局元の『黒騎士』に落ち着いた。


 黒騎士は涙を出すことはできないが、嗚咽し喜んだ。彼は生前から横文字の呼び名が嫌いだったらしい。



 闇魔法はもう教えることがなくなったため、残りの期間は、ララが初級魔法までしか取得していなくて、クリスが取得している他の魔法種を教えることになった。


 クリスはララが多種多様の魔法を使えることは、ララに指名されたのときに学園長から聞いていた。


 ただしオールランドプレイヤーであることは、秘密にされているし、その適正が複写であることは誰も知らない。それを知っているのはジーニアだけで、ジーニュアさえ知らない。

 ジーニアは自分を含めて、魔法種と?卵は二度と見せないように厳命していた。そこだけは必ず見られないよう、ララのときだけモザイクを入れている。


 それを行ったのもジーニアだ。ジーニアは姉のことがあったから、ララの不利になるような情報は隠すようにしていた。そのため新魔力測定器にも同じ処理が施されている。


 ララが相当数の魔法で上級魔法が使え、幻影の魔女の使う魔法はすべて最高難度魔法まで取得している異次元魔法使いであることは秘匿された。



 確かに目前の少女はクリスが知っている最上級魔法の威力と比較すると桁違いだった。今だって幻影の魔女を除けば、この少女に勝る魔法使いは、いないであろうと思われた。それなのに他の魔法も最高難度魔法まで、ランクアップさせたいのは、なぜなのかがわからず、興味本位からララに尋ねてみた。


 ララは淡々と答えた。



「私を救ってくださった、優しいジーニアお母様に、死んでほしくない。長生きしてほしい。お母様は強いですが、世界は広いですから、初見の魔法で強い魔法使いが出てきたら、対処できないかもしれません。だから私がどんな魔法がきても対処できるようにしたいのです。そしていつまでも、優しいお母様のままでいてほしい。私と同じような境遇の孤児に、夢を与え続けてほしいのです」



 クリスはこれまで数多くの魔法使いを見てきた。その誰よりも幻影の魔女は強い。彼女より強い魔法使いなどこの世にいないと思っていた。だけど、目の前にわずか13歳で幻影の魔女に迫る魔法を使う者がいる。ララのことは最近まで全く知らなかったのだ。他国にはもっと強い魔法使いがいるかもしれない。そう考えるとララの言っていることにも納得してしまうのだった。


 ララは幻影の魔女の言動が、少しずつ彼女の知っている幻影の魔女とは、違っていることには気づいている。以前はララの意見も尊重していたが、最近は自分の意見を押し通そうとする。


 以前は人を殺さない方法があれば、そちらを選択するように話していたが、今は先手必勝と言い、殺すことを前提に話しをしている。


 相手を殺す威力を磨くには最大出力で訓練しなければ身につかない。だから訓練であっても本気でしなければならない。だから二重結界を張る。そう言って結界を張っていた。


 そして、ララと過ごした日々を忘れていることがある。ララをライバル視している気配もある。


 ララはもしかしたら若年化による記憶障害が出ているのかと思った。




 話は魔法学園の初日に戻るが、ララの初日は魔法実技だけで終わった。クラスメイトと話すこともなく、そそくさと帰宅するつもりだったが、一般生徒が待ち伏せし、ララに告白する者、決闘を申し込む者、遠巻きに騒ぐ者、帰り道を塞ぐ者など、帰宅することにも苦心するありさまだった。


 そのため翌日からはララは直接特別訓練場に早く行き、一般生徒より早く帰ることになった。そのおかげで、他の生徒を教えている教師の魔法を、チラ見することができ、特進クラス担当教師の魔法種を複写することができた。


 特進クラスに進むことができるのは、入学試験で満点を取ることだ。入試では問題が2枚配られる。一般生徒の合格基準点は60点だ。1枚目の60%が正解すればペーパーテストは合格点に達する。2枚目を答える必要はない。1枚目が満点でないと2枚目を答えても採点されない。特進クラスの者は1枚目が満点であること、そして2枚目が80点以上なければいけない。ジャンはこの2枚目が63点だったから、一般クラスは合格となったが、特進クラスは不合格となった。


 2枚目の問題は魔法学園の3年間で学ぶ机上学問の範囲から数問を出しているため、この問題で80点以上を取ることができれば、もう教科書で教えることはない。それゆえ特進クラスは実技しか学ばない。



 結局ララの実力を他の生徒は誰も知らない。自宅も校門の目前のため、徒歩で帰宅している。空間魔法を使って空を飛ぶこともない。帰宅時間は一般生徒よりも、10分早く帰れるように手配されていた。


 それでも一般男子生徒の数人は、授業を抜け出し、2日目というのに告白するため、ララが帰宅するのを門前で待っていた。だがララの姿が見えると、一人また一人と男子生徒は消えていった。



 ララの姿が校門に近づく頃には、目付の鋭い黒服の男たちが、ゾロゾロと校門前で頭をさげているのだから、至極当然の行為だ。事情を聞いたクロードが、顔の治療をしてもらったことに、えらく喜び、魔法局の部下のうち、暗殺とスパイを生業とする者を、ララの護衛として派遣していた。


 帰宅すると、幻影の魔女がやけにララに引っ付いてくる。何かを言いたいようだが、なかなか言ってくれない。とうとう我慢できずに……。


「お母様!! 何かいいことがあったのですね!! ()らさないで教えてください」


「知りたいかい? そんなに知りたいかい!! ふふふ、ふふ、ふふふふふ、ははは!!」


「そんなに焦らすのだったら、もういいです。お風呂に入ってきます」


「ま、待ってくれ! 教えるから」


「はい、はい。それで……」


「さっき魔力測定器で魔力値を測ったら、なんと魔法種に『転移魔法』が増えていた」


「すごいですね。話には聞いていましたが、実際にあるのですね。魔法書にもありませんでしたよ」


「だから、国立図書館の持ち出し禁止図書の中から、転移魔法について、記載のあるものを借りてきた」


「持ち出し禁止なのに?」


「しばらく保管場所を、この屋敷にするだけだから持ち出してはいない。それにさきほど国王から、この家の書庫を国立図書館の別館にすることを許可してもらった。絶賛浮気をしていた女の名前を、数名書いた手紙を奥方に、届けると言ったら、国王の方から是非にと言われたぞ。あのバカ、私がいるというのに、つまらん女たちに手を出して。女どもは全員安眠させたからもう浮気できないがな。この本は、今日から読むからララも、興味があったらいつでも読んでいいぞ。そのうち転移魔法合戦をしよう」


「そ、そうですね。経緯はともかく、私もぜひ読んでみたいです」



 この日は二人で夜遅くまで、転移魔法に関する書籍を読んでいた。


 この日の幻影の魔女は、出会った頃のように優しかった。


 ああ、また昔のようにお母様と暮らせるのかしら。


 だが、ジーニュアの考えは違っていた。転移魔法使いはめったにいない。いても使い物にならない程度のものだ。ジーニュアの欲しい転移魔法は、好きな場所に行くことができるものだ。だから一人で悩むより、ララと共に使えるようになった方がいい。ララは幻影の魔女には逆らわないと、分かっている。それにもしララと敵対することになったとしても、魔法合戦では全戦全勝している。これからもララに敗北することはない、という自信があった。


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