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軍事国家バン

 女王の部屋ではめずらしく専属秘書官5人全員が(そろ)い、あることをしている。

 私が指定した2年に1度の全軍軍服変更が迫っている。最終期限は明日、それまでに決めないとエルフの感情が爆発してしまいそうだからだ。


 昨日、私と(かえで)とメイドが迷宮ダンジョンの果実を()ぎに行ったが、そこではエルフたちが早く発注して欲しいと、裸でやってきた。どこでも盛るから服を着ようともしない。エルフには果実のある9階層に来るときは、男性が来るときもあるので、服を着るように言ってあるが、私が来たことを知ると、それぞれ直前まで盛っていたのであろう。男女とも顔を紅潮させながらも、やってきた。


 人口が増え、ミスリル発掘だけではエルフが余ってしまい、夫婦交換で性欲が増してしまったエルフたちを満足させることができなくなった。そんなときに私が女性用下着と女性軍人の制服を発注した。それがミスリルと同じ効果があったため、女性用下着と女性用軍服の縫製は喜んで行った。男性用も発注してみたが見向きすらしない。


 エルフは服作りをするとミスリル鉱石発掘と同じ効果が出るらしい。よくわからないが、迷宮ダンジョンのエルフのみの特性なのでしょうがない。性癖(せいへき)のようなものと理解している。


 男性用の軍服は色もデザインも建国当初から変らない。エルフが見向きもしないので、こちらは縫製技術育成も兼ねて、軍が管理する工場で作っている。色と形を変えないことで技術を習得できるようになっている。というのは表向きの理由だが、男物のデザインを考える者が誰もいない。


 ここで縫製技術を学んだ者が、私が個人で運営する洋裁店でさらに一般服の技術を学びつつ、国民に提供する。独立して洋裁店を開業する者もいる。


 私も楓も男性ものには興味がないので、男性用の服は残念ながら流行らしいものはない。大和がときどき自分用の服を縫ったものが流行になる。大和の縫う下着や私服は一般には出回らない。当然ヘルシス宰相や楓様、女王専属秘書官や女王専属護衛官たちだけのものだ。私の下着や服はすべてメイドブランドだ。





「今日はそれぞれが考えた軍服のデッサンから得票数の多いものが次の軍服となることはわかっていると思うから、私から紹介するね。

 私のデッサンは奇抜さを売りにしているわ。スカートの(たけ)は今よりもう3センチ短くし、胸のラインをもう2センチ下げた。どこから見てもセクシー軍服よ」


「リゼのデザインはいいけど、身長の低いララ様だと見えちゃうよ。これは没では?」


「ソフィア、そこがいいのよ。見えるかもしれないというスレスレがいいの」


「私のデザインが一番かもね。(ひざ)上は今までと同じだけど、スリットを入れたわ。前回のデザインは雪様が作られて、動きやすいように1カ所スリットを入れていたけど、私はスリットを3カ所に増やしたのよね。特にヒップに入れたから少し屈んだだけで見えちゃうのよ。ララ様にピッタリよね」


「ソフィアは足が長いからそれができるけど、楓様は無理と思うよ。屈まなくても見えてしまう」



「私、初めてですが、皆さんのデザインは変態ですよ。女性はやはり美しさを出すべきだと思うのです。その点私のデザインはラカユ国始まって以来初めての膝下ですが、大きなスリットを入れることで女性らしさとエロさも出した優れものですよ」


「アレナ、あなたは大国から来たから経済観念に欠けているわ。ラカユ国がミニにしたのは元々生地を節約することができるからなのよ。まあ豊になってもダサいロングスカートの軍服には興味が無いけどね」


「私は、その、少し幼いかもしれませんが、ララ様もまだ幼さがあるので肩紐をつけてみました」


「ローザン、それいいわ。でも私のが一番ね。丈の長さを変えたの。後ろより前を短かくしてみたの。ちょっとこれまでにないデザインでしょ」


「さすが、セレス様です。新入りの私には思いつきません」


「いいのよ。ローザン、そうやって人は学ぶのよ。ほほほ」


「「「「「あっ、ララ様」」」」」



「みんな集まって~!! もうデザインは決まった?」



「あの~その服装は?」


「これ? 今日はステンノーちゃんが正式に国交樹立書類に調印にくるから、雪ちゃんが新作のドレスを作ってくれたの。セレス、似合っているかしら?」


「楓様の服装は?」


「これ? セレスちゃんは鋭いわね。私は13歳でラカユ国軍学校を卒業したから、私の丈に合う軍服がなくて……私はまだ成長途中だから140センチなのよ。だから雪ちゃんが作ってくれたのよ。これまで軍服は単色だったから、今回は3色を織り交ぜているの。それにこのスカーフも三色から選ぶようにしたのよ。色でも、結び方でも、結ぶ場所でも、個性を出すことができるのよ。かわいいでしょ」


「そんなものを出されたら私たちのデッサンなんて(くそ)みたいなものです。それでいきましょう。みんないいよね」



「「「「はい」」」」





△△△

「ゴレス宰相(さいしょう)、軍務大臣を呼べ」


「軍務大臣はラカユ国とミリトリア王国に攻め入るため、国境沿いで国王様の指示を待っております」


「もういい。呼び戻せ」


「準備に1ヶ月要した作戦をチャラにするのですか?」


「そうだ。ミリトリア王国にはもう幻影の魔族はいないが、魅力もない。元王都は廃墟となっているし、中央部は内戦まっただ中だ。まともな南部でさえ流民の山だ。あそこはもう昔のミリトリア王国ではない。何の魅力もないただの荒れ地だ。あんな土地を手に入れてお前はどうやって維持するのだ? 人魚の木と難民だらけだぞ。軍事国家バンから少ない食糧を持ち出すのが関の山だ」


「ですが、ゴルデス大陸はどこも大干ばつの影響で荒れ果てています。そんな食糧が豊富な国はありません」


「お前の秘密部隊もたいしたことないな。俺の手下は見つけたぞ」


「そんな馬鹿な?」


「あるのだ。そんな馬鹿な国が俺らの隣にあるのだ」


「ステンノ聖女国は閑散とした山ばかりですよ」


「そこまで節穴だと、お前を褒めてやりたいぞ。お前の父親は優秀だったが、お前は本当にポンコツだな。お前の次からは世襲制はやめて公募にした方がいいかもな?」


「それはやめてください。父と比べられたらここにいる者は全員ポンコツですよ。それより、もしかしてラカユ国のことでしょうか。あそこは確かに女王が灌漑を進め、備蓄に努め、シドル連邦にも備蓄の3分の2を寄贈するほど太っ腹な国ですが、あそこはいけません。あそこに手を出した者はすべて滅びるか、大国でも著しく国力を失っています。あそこを食うつもりで、食われてしまいます」


「なんだ、ちゃんと調べているじゃないか。俺もそう思うぞ」


「お前はこの剣をどう思うか?」


「これは、ミスリルが配合されていますね」


「ああ、調べたらミスリルが10%配合されている」


「では、あの(うわさ)は本当だったのですね」


「ああ、間違いない。あそこは軍人にミスリル10%配合剣を支給している」


「で、この剣は何処で手に入れたのですか?」


「ラカユ国のスパイが持っていた」


「ラカユ国は我国にスパイを派兵していたのですか?」


「いいや、元々俺がラカユ国に放ったスパイだ。それが戻ってきたが、俺に報告すべきなのに真っ先に婚約者に会いに行きやがった。気に食わんから呼びつけてみたらこの剣を持っていた。やつはいつのまにかラカユ国の手先になっていた」


「そのスパイは誰ですか?」


「ホリスト・ジェリック大佐だ」


「え――――――! 我国最高のスパイじゃないですか?」


「分かったか? あの国の女王はスケコマシだ。いいや、ちょっと違うか。『人コマシ、人たらし』か?」


「であれば、なぜ軍務大臣をお呼びですか?」


「俺はこれまでの方針を撤回し、ラカユ国と正式に国交を結び軍事同盟を結ぶ。国境でいざこざを起こしたが、あれは間違いだった。素直に謝ろう。俺たちは軍事国家だから国民の半数は軍人だ。だが、その分食糧備蓄が著しく少ない。このままでは人は存在するが、もやしだらけになる。ラカユ国の軍は精鋭だらけだぞ。


 特に天才ヘルシス宰相とそれに次ぐ3人の秀才がいる。いいや、やつらも天才だ。俺に言わせれば女王専属秘書官と宰相秘書官が秀才だ。この国にあの秀才の中の一人でもいれば俺は枕を高くして寝ることができる。


 だから、あそことは国交を樹立し、文化交流と軍事交流を推進する。よく考えて見ろ、すでにステンノ聖女国とラカユ国は国交を樹立している。それに我らが国交を樹立し、軍事同盟を結べば小さな三国の大きさはゲルス騎士国を上回る。その北にはシドル連邦がある。間に挟まれていた小国が実は大国を挟む形になるじゃないか。面白いと思わないか? 俺は親父(おやじ)とは違う。


 四方八方に戦争を仕掛けて存在感を示す時代は終わった。親父の代で1ミリでも国が大きくなったか? 人口が減っただけだぞ。むしろ負け戦だ。このままだと軍事国家バンは滅びる。これからはラカユ国を見習う。今すぐ軍務大臣を呼び戻し、ラカユ国に俺の使者として派遣する」





△△△

「ララ様、入室よろしいでしょうか?」


「ヘルシスちゃんね、いいよ。今ちょうどコーヒータイムにしたから一緒にどうぞ」


「ありがとうございます。今日は華様が()れてくださるのですね。ケーキは小町様ですか。こ、これは新作ですね。何というのですか」


「これは、チーズケーキというものです。楓様から好物のお話を聞きましたから、再現してみました。まだまだですが、そのうちもっと美味しくなるようにしてみます」


「いいえ、とても美味しいです。これまで味わったことのないものです」


「で、ヘルシスちゃん、なんの用? 大和と喧嘩(けんか)でもした?」


「それはありません。最近ちょっとリデアが毎日のように雪様に連れられて戻ってくるので、私の楽しみが減ってしまいましたが、それでも満足しています」


「だったら何? また面倒なことかしら?」


「そうでした。実はトホギア連邦を併合したことでステンノ聖女国だけでなく、軍事国家バンとも国境が繋がったため、国境紛争が起きていることは話したと思いますが、その件で相談があります」


「また、ラカユ国に侵攻しようとしているの?」


「いいえ、それが、国交を樹立したいという親書が来ています。それにできればステンノ聖女国と同じく軍事同盟も結びたいと言っています。それに国王自らしたためた文章にはこれまでの国境紛争に対するお詫びがたらたらと書かれてありました」


「だったらうちに損はないわね。でも相手にもそんなに得がある?」


「あると踏んだのでしょうね。それにホリスト・ジェリック少将を返還したいとのことです」


「あら? ホリストちゃん捕まったの?」


「いいえ、客品として扱われているようです。身バレしたのではなく、国王より先に婚約者に会いに行って、国王が怒って捕縛したようです。そこで一般兵に与える10%ミスリル剣のことを知って、軍剣の注文もしたいらしいのです」


「それだったら、ラカユ国に損はないわね。いいんじゃない。ただ、国王って何歳なの?」


「昨年即位したようで、(めかけ)の子と言われています。並み居る実子を()ね除け前国王に第一順位と認められたようです。ところが前王が幻影の魔族の奇襲で逝去(せいきょ)し、急遽国王となったようです」


「おいくつ?」


「現在26歳とのことです」


「ふ~ん。会ってから考えようか? いい人だったら国交を樹立するし、嫌な人だったら断るけどいい?」


「ララ様の好きなようにしてください。どちらであっても私の進む道は同じです」


「じゃあ、大臣じゃなくて、国王が直々ここに来るように返事をしてね」


「はい、軍務大臣が来訪していますから、そのまま返事を持たせましょう」


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