次の一手
「アレナちゃんとローザンちゃん、緊急事態が発生したので女王がお呼びです。至急女王の部屋に来てください」
「ララ様そんな白々しい言い方をしなくても、私たちはいつも女王の部屋にいるではありませんか」
「でも、なんか忙しく働いているみたいで、かっこいいでしょ」
「ところで何の用事ですか?」
「ふふ、アレナちゃん、昼食の果実捥ぎにあなたたちも参加することにしたからね」
「えっ? いつも雪様、小町様、華様が行かれていますが?」
「それが、今回は女性尉官以上を招待したから、その子たちの転移と食事の準備で、私のメイドは大忙しで、果実は私の責任になったのよね。それでセレス、ソフィア、リゼもその準備で忙しくて暇がないの。宰相秘書官も全員準備でてんやわんやらしくて、楓も転移に駆り出され、ヘルシスちゃんから果実の準備は私がするように言われてしまったわ。そこで、あなたたちに私の手伝いをさせてあげる」
「はあ~。なぜ今日思いついて今日の昼にしたのです?」
「ローザンちゃん、思いついたら、早いほうがいいでしょ?」
「でも、せめて将官以上にして欲しかったです。尉官と佐官が何人いるか知ってますか?」
「500人くらい?」
「全軍で15万人以上いるのですよ、ざっとですが、その中で女性兵士が約3万人、そのうち尉官未満の文官が1万人、尉官未満の陸上軍が1万8千人、尉官が2,000人、佐官が300人、将官が50名、つまり2,350人ですよ、実際は2,500人になるでしょう」
「多いわね? そんなにいたの?」
「よく考えてください。私たちだけで200人全員が尉官以上になったのですよ。それが毎月のように増えているのです。男性を入れなかっただけ、まぁ、褒めてあげましょう」
「では、あなたたちの執務室に60名いるでしょ? みんなでやればすぐ終わるわよ」
「何言ってるのですか? 第一から第五までの女王専属秘書官室の秘書たちは、全員ホールで作業しています。余っているのは、女王様と私とアレナの三人です」
「え――――――!! それは大変だわ。どうしよう?」
「「ララ様、とにかく三人でできるだけ多く取るようにしましょう」」
「ひゃい……」
△△△
私はアレナ・ストビアといいます。現在女王専属第四秘書官をしています。毎日とても忙しい。でも文句は言えません。第一秘書官から第三秘書官は私たちが入ったのにいまだお休みをもらえていません。今日も女王の思いつきで、尉官以上の女性を昼食に招待するため、朝から大忙しです。
確かに食事はいいのです。女王専属秘書官の部屋も宮殿内にありますから、安眠生活をしています。宰相秘書官のように別棟ではありません。休憩もあります。休みがないとはいえ、夜は交代勤務がありますが、休憩中の食事やおやつもあるため体が不調になることはありません。ただ、忙しいのです。普通に仕事をしていては書類が片付きません。先輩方はゲルス騎士国文官の誰よりも優秀な秘書官です。
ヘルシス様と先輩は順番に宮殿後方にある新築豪邸に帰られます。それ以外はこの宮殿にある部屋に寝泊まりされます。楓様は同じく宮殿後方にある豪邸から宮殿に通われています。宰相秘書官も優秀な方ばかりなのですが、私たちとは役割が違います。宰相秘書官は政治的に重要なことをしています。私たちはララ様が何を言い出すかわからないので、決まった仕事を割り振られていませんが、とにかく忙しいのです。次から次へと新しいことを始められるので付いていくのだけで精一杯です。
女王専属秘書官にはそれぞれ部屋とは別に執務室が与えられています。執務室といっても大きな部屋で各執務室には30名ほど秘書室から派遣された一般秘書が働いています。つまり女王専属秘書官5名だから150名の一般秘書と秘書課から派遣された黒服隊も数名含まれています。
そんな女王に任命されたことは光栄なことなのですが、唯一文句があるとすれば男がいない。結婚が遠のくのです。私は16歳なのでまだ先のことですが将来が不安です。ところが先輩方は全員相手がいるみたいなのです。それも同一の男性が相手というではありませんか。私にはそんなことは耐えられません。そっとお顔を拝見しましたが、一目で惚れそうな、いわゆる美男子です。でも戦闘は苦手のようで私たちが求める強さがありません。それに頭が特別いいわけでもなく、女性のように、ナヨナヨはしていませんが、料理、洗濯、裁縫が得意で、彼女たちの下着は私たちのように既製品ではなく、その方の手作りらしいのです。
確かにオーダーメイドがいいに決まっていますが、殿方の作ったものなど私たちの体にフィットする訳がない。と思っていましたが、緊急招集があったときに、全員でお風呂に入ったのですが、彼女たちの着けている下着は、それぞれ色もデザインも違うだけではなく、その装着感がすばらしかった。それからは私とローザンの下着はその方が担当している。今日のこれですか? 寄せて上げて大きく見えるように工夫されています。それに私は若いですから、チューリップの花柄模様を入れてもらいました。
私たちは剣を利き手で振ることが多いため左右の大きさが普通の方以上に違うのです。それを計算しつつ、見た目は同じように見せる技術はたいしたものです。それにデザインもすばらしい。毎回違うのです。裸を当然見せることになるが、彼は人のものだから気にならない。それに私より1歳年下だからなおさら興味はない。
彼は美男子だけど、ゲルス騎士国で育った私とローザンの趣味ではない。私たちは頭がよくて、強い男性が好みだ。できれば顔もいいほうがいい。
私とローザンはそれなりに優秀だという認識はあった。ゲルス騎士国の全国統一試験では私とローザンは学年が違っていたが常時首位だった。だから小さなラカユ国では昇格した。
そう思っていた。
でも、私たちの考えが間違っていた。
この国はおかしい国だった。私たちレベルでは太刀打ちできないバケモノだらけだった。ヘルシス宰相はもう別格だ。天の上の人だ。リデア元帥、ピノ元帥、メルトミ中将、ほかにもまだまだいる。その中でも私とローザンのハートを鷲づかみしたのが、昇格したエリツオ・ホヒリエ中将だ。決して顔で選んだのではない。とにかく頭がいい。それに剣も一流だった。しかもヘルシス宰相の弟だという。残念なことにすでにピノ元帥と楓様の手が付いていた。でも3番目でいい。ローザも4番目でいいと言っている。一人の男性に群がる先輩をちょっと軽蔑していたときもあったが、妥協して好きでもない男と引っ付くよりいい人生だ。
それに宮殿後方に豪邸がある。配偶者用の部屋も12部屋ある。ということは12人まではOKということだ。まだ部屋に余裕がある今こそチャンスだ。
先輩秘書官は言うに及ばず、宰相秘書官も優秀だから、私たちは必死について行く。
あ~、仕事の合間のコーヒーとカステラは天国よ。今日はクレープも追加したわ。1杯金貨20枚のコーヒーをガブガブ飲むことができるラカユ国は天国だわ。
「あ、雪様、砂糖とミルクもお願いします」
「いいのですか、そんなにのんびりして。早く帰って湯浴みしなくていいのですか? 今日はあなたの当番でしょ?」
「そ、そうでした? でもどうしてご存じなのですか?」
「ふふ、どうしてでしょうね? これ、子供が出来るお守りです。いりますか?」
「はい、もちろんいただきます。ありがとうございます」
「がんばってね」
△△△
私はローザン・メナードです。現在女王専属第五秘書官をしています。ラカユ国に来るまでは何をするにしても自信満々でした。上官には認めてもらえませんでしたが、それでも私とゲルス騎士国始まって以来の天才二人と言われたもう一人のアレナ・ストビアと同じ部隊に配属された。
彼女が隊長で私が副長として女性ばかりの部隊を任された。私たちは数々の手柄を立てたが私たちだけでなく部隊の誰も昇進することはなかった。
お偉いさんたちは私たちが目障りだったようで、旧ザバンチ王国が再編してできた新興国を滅ぼすまで帰国することを禁止された。完全な島流しだ。いくらなんでも全土を征服することなどできるわけない。こんな糞のような男たちが治めている軍隊は無くなくなってしまえばいいと思う。
グラン大公国とミゼット神国連邦、ガザール国も狙っているのに、ゲルス騎士国だけで征服することなどできない。ヘタをするとラカユ国を攻めている間に、グラン大公国とダグラス神聖ヨウム国に侵略される可能性すらある。私たち以外の兵士は本国の交代要員と交代していたが、私たちの隊は旧ザバンチ王国の征服ができるまで帰国は許されなかった。
今となってはラカユ国に捕獲されてよかった。ここは私たちの実力を認めてくれる。ただ一つ不満があるとすれば、私たちなど、この国ではカスみたいなものだ。優秀な人が沢山いる。食糧生産のための灌漑も進んでいて、とても豊な国だ。
ゲルス騎士国軍にはまともな男がいなかったから、男など全く興味がなかった。男に興味をもつなど軟弱者だと思っていた。そう思っていたら同僚のアレナが一人の男に一目惚れした。アレナもただの女だったかとがっかりしたが、女王の部屋にその男が来訪した。彼はヘルシス宰相付補佐官筆頭をしていた。
私のハートは打ち抜かれた。私も猛アタックして、なんとか5番目にしてもらった。一人の男に多人数の女が惚れるなどあってはならない、という昔の私はもういない。好きな男と一緒にいられることは女にとっては大切なことなのだ。
ところで、この剣は何?
ドワーフが鍛錬したものだという。
文官には短剣が支給される。昔は型に入れたミスリルだったらしいが、今はドワーフが鍛錬した、オリハルコンとミスリルの混合剣だ。時価はわからない。材料だけでも値段は付かない。
ドワーフの名人が作っている剣だから技術料だけでも値段が付かない。それが尉官以上と首都警備隊、文官に配布される。
私は毎日短剣と一緒に風呂に入っている。先輩に相談したが全員そうしているらしい。ヘルシス宰相さえそうしているらしい。
秘書官であっても戦場に出るときは帯剣する。その剣は女王の部屋に置いているから、いざ戦争となったら私たちも兵士として戦うこともある。だから女王専属秘書官であっても剣の訓練がある。当然だ。
鑑定書が付いてくるがミスリル10%と記載され、女王のサインがしてある。だからこれはミスリル10%の剣なのだ。決してオリハルコン30%、ミスリル70%の混合剣など口が裂けても言ってはいけない。
10%含有ミスリル剣は下士官に配布されている。それでも一般的には家宝となるものだ。それに彼等の剣はドワーフが鍛えたものだ。鉄製であってもそれだけで家宝となる。
王族と専属護衛官、宰相、元帥、メイド様、親衛隊隊長に配られたものはドワーフ国の国王が錬成したオリハルコン100%の超絶品の日本刀だ。
女王様は、帯剣しないが、戦場に出るときは帯剣している。そのときの日本刀は鉄製だ。古来から伝わる日本刀の材料である砂鉄から作っているらしい。オリハルコン100%の日本刀は儀式のときだけ帯剣される。
自分の剣は鉄製で、兵士にオリハルコンとミスリルを与える金銭感覚を私は理解できない。それに親衛隊長からよく焼き芋をもらっている。弁当箱を覗いてみたがビッシリ焼き芋が詰めてあった。私には理解できないが、他国の王族とあまりにも違うそれがいい。
100%オリハルコンの名人刀はシドル連邦大統領夫妻にもプレゼントされが、それはシドル連邦の国宝になった。
「あ、華様、私は来年成人なので、まだお子ちゃまだから、砂糖を2つ入れてもらえますか。コーヒーも美味しいですが、華様の手作りケーキは絶品ですよ。この国に来てから幸せいっぱいです」
「楓様は覚えたてなので今が猿状態です。あなたの順番までもう少し時間がありますね。あなたはこれから体力を使われるでしょうから、ショートケーキとコーヒーをおかわりされますか?」
「もちろんいただきます。華様につかぬことをお聞きしますが、身分からいって楓様が第一夫人、ピノ様が第二夫人となるのはわかります。でも楓様はあの年で、あの、聞きにくいのですが、10歳から私たちと同じことをしていたのでしょか?」
「同じ事というと、あれですね。残念ながら楓様は前の世界の常識でいらっしゃるので、12歳までは清いお付き合いでした。13歳までは子供を作らないのは宰相と女王の命令です。もし作ったらエリツオ様は絞首刑でしたからね。でも楓様も誕生日を迎えたので、毎日猿のようにやっていますが、そろそろ終わる時間だと思いますよ」
「そうなのですね。ではもう少し待ちます。三杯目をいただけますか?」
「いいですよ。これ子供ができるお守りです。いりますか?」
「はい、ぜひください。第五夫人でも長男を生めますものね」
△△△
私はマブナ・モレシィといいます。身長は160センチです。今年16歳になりました。貧乏な家の出でしたので、将校になるための学校に行くことはできませんでした。地方の名も無い学校に通いましたが、剣だけは男にも負けませんでした。
剣の国と言われているゲルス騎士国において2年連続全国剣術大会において優勝しました。今年も優勝を狙っていましたが、上官から今年は参加しないで前戦に行くよう指示されましたが女性ばかりの隊でした。
指揮官は確かに優秀でした。部下も全員優秀ですが、全国大会に出場できなくて少しイライラしていました。
私はトホギア連邦の兵士を斬って、斬って、斬りまくりました。敵兵からは悪魔少女と呼ばれました。みんな弱い。まともな男はいなかった。
とうとうラカユ国軍と直接対峙することになった。前方にはラカユ国軍がいる。私たち女性兵士は最前列で敵兵を受け持つが、とうとう戦闘になった。
私は何もできなかった。白いメイド服を着た少女に剣先すら合わすことができず、峰打ちされラカユ国の食堂に転移した。ああ、この世には本当に転移魔法があった。
私の仮説は正しかった。そしてここの食堂で食事をした。とても美味しい。私が招待された順番は第1号だった。隊長は2号、副長は3号、強い順に食堂に転移させられ、食事をする。5分もたたずに全員が食堂で食事をすることになった。
ラカユ国は小国だが、ゲルス騎士国程度でどうにかできる国ではなかった。ヘルシス宰相の頭脳はバケモノだったが、メイドはデタラメの強さだし、女王専属護衛官のつばさ様も同じくらい強い。
なんとか互角だったのが、セラーヌ・ブリガーグ大佐だった。10回戦って私が4回勝てるが6回は負けた。この世は広い。私などまだ赤子だ。つばさ様にはまだ右手だけで敗れる。それに日本刀はすばらしい。私の求めていたものだ。
剣の素材を知ってビックリしたどころではない。それもドワーフ国の国王が自ら錬成したオリハルコン100%の日本刀だ。私が風呂も一緒に入っていると言うと、セラーヌ先輩は頷いてくれたが、つばさ先輩は、たかだかオリハルコンなどただの金属だ。命に比べたらたいしたことはないと勤務以外では適当にそこらへんに置いている。
ちなみに時価はないに等しいが、私なりに鑑定してみた。オリハルコンの素材のみで金貨6千枚。名人の錬成で金貨1千枚。希少性で金貨1万枚(1億円)。もう訳が分からない。
「小町様、カステラのおかわりいただけますか? これ小町様の手作りらしいですね。とても美味しいです。ザラメがなんともうまさを引き立てます。こんな美味しいもの初めてです」
「コーヒーもおかわりしましょうね。確かブラックがいいのですよね。私と一緒ですよ」
「はい、ありがとうございます」
△△△
「みんなおやつを食べながら聞いて欲しいのだけど、ゲルス騎士国をどうする?このまま全滅させる気でいけばいつでもできるのだけど、難民が増えて押し寄せてきたらラカユ国は食糧不足に陥るのよね。アレナちゃんはあの軍を中から見ていたから何か意見はない?」
「あの国はそのまま放置しておけばいいです。今回の遠征で大打撃を受けました。しかもグラン大公国軍の侵攻を受けて、もう国外どころではないはずです。グラン大公国軍との戦いは拮抗していますが、どちらの国も潰し合いをしているようなものです。食糧不足も相まって自滅してくれるでしょう。それまで放置すればいいですよ。ただ、そうなるとダグラス神聖ヨウム国が押し寄せてきそうなので、一気に攻め入るか、国境を今より高い壁で閉鎖するしかありません」
「わかったわ。その時が来たら、また判断しましょう。あとはヘルシスちゃんに任せる」
「では、今日のミーティングは終わります。それぞれ持ち場に戻ってください。アレナ・ストビア大佐とローザン・メナード大佐は私の書斎に来てください。ちなみにあなたたちを推薦ししたのはエリツオ・ホヒリエ中将です。昨晩二人とも当番だったから聞いているわよね? なぜ二人同時に当番だったかも分かるわよね? 早く片付けないと子作りお預け期間が長くなるからね」
「「はい」」
「二人にはそれぞれ1,000人ずつ付けます。ゲルス騎士国との国境線を10㎞押し返して欲しいのよね。あなたたちなら出来るでしょ」
「10㎞ということは……」
「アレナ大佐もローザン大佐ももう分かったようね」
「はい、グラン大公国のことまで考え、ニイハチュ山脈まで国境を押し上げるのですね。あそこを越えるには相当の労力を要しますから。
駐留軍が本国に帰り、本国の軍と入れ替わるこの時期であれば、ニイハチュ山脈の内側から旧ザバンチ王国国境までの駐留軍は2千人程度しかいない。それも文官が主体ですから、盗るなら今ですね」
「アレナ大佐、よく分かっているわね」
「では私は北から侵入します。アレナ大佐は南からお願いします」
「いいわ。中央棟の占拠は3日後でいいわね」
「いいですよ」
ヘルシス宰相の考えた戦略をすぐに理解したこの二人もとんでも秀才さんだ。実は私、ヘルシス宰相から説明されるまで分からなかったのよね。
△△△
~4日後~
「アレナ少将、早く来なさい。昇格したのだから佐官の見本となるのよ」
「ララ様、私3日間全然寝てないのですよ。もう少し待ってください」
「駄目よ。ローザン少将とジャンケンをして負けたのでしょ。明日1日寝たらいいわよ。リデアが待っているのよ。早くしないと転移できなわ」
「ふぁ~い」
「ソフィア少将、セレス少将、リゼ少将も早く来ないとおやつ抜きですよ」
「「「今回の作戦で私たちも3日寝てないのですよ」」」
「これが済んだら好きなだけ寝ていいからね」
「「「ふぁ~い」」」
最後まで見ていただきありがとうございました。
よろしければ★評価をいただけますと励みになります。




