読み切り[鳴神伝、外伝春の道編]
息をするたびに、意識が持っていかれそうになる。
出血も゙酷い、今日を乗り切るのは無理だと悟る。
「大将殿…生きてますか?」
涼しい顔をしながらも俺より血を流す、腐れ縁の方に顔を向ける。
「ああ…なんとかな。お前は今直ぐにでも死にそうだがな。」
「ええ、痛すぎて本当に死にそうです。だけどまだ私の役割は終えてませんので、ここで死ぬ訳にはいきませんよ。」
こいつは、死の直前になっててもヘラヘラした顔で言葉を吐く。
儂はこいつのそういう所が嫌いだった、だが何処か憧れに近いものを持っていた。
「どうせ、お前とこうやって話すのは最後だと思うから、聞いておこうと思ったんだが、なんで儂に付いて天下に喧嘩を売ろうと思ったんだ?お前の性格上俺を売って、成り上がろうとすると思っていたんだが。」
「普通、そういう事って最初に聞きませんか?
…まあ良いか。そうですね、貴方の言う通り最初は貴方を売ろうと思いましたよ。ですが、その考えは直ぐに捨てました。この行動に意味を持たせようと考えましたが、深い意味はないですね、だが貴方を納得させる理由とするなら…ムカついたと言うべきでしょうか。」
「……」
「何か言ってくださいよ。」
内心驚いた、こいつとは50数年一緒にいたが、まさかそんな感情で行動するとは。
信龍がかつて言っていたな、人間の感情は神ですら測ることはできないと、長年付き添った友の事すら完全に把握することはできないと。
「ふっ!」
「何笑ってるんですか、私おかしな事言いましたか?」
「いや、馬鹿だなと思ってな。」
「酷い人ですね、こんな明らかな負け戦に着いて来てあげたのに。」
「悪かったよ…アリガトナ」
「最後何か言いましたか?」
「何も…‥幸長俺はこれから、最後の突撃をかます、このままだらだらと死を待つんじゃなく、儂ら侍(死にぞこない)の思いをあいつに見せつけに行く。」
「そうですか、なら私はここで相手さんを迎え撃ちます。存分に暴れてください、晴道殿。」
愛刀を構え、傷だらけの老体に鞭を打ち、馬に跨る。既に部下たちは満身創痍状態だが、活を入れる。
「聞け!武士達よ、これより我等は最後の突撃をかける、ここより先に生き残る道は無し、あるのは死だけだ。犬死にになるかもしれない、後世我等は笑いものになるかもしれない、だが我等はそれを恐れてここに集ったのか?、断じて違う!我等は己が信じる道を貫く為にここに集った、我等はここに己が生きた証を刻むために刀を取ったのだ!、行くぞ侍よ、我等が死に損ないの意地を見せつけるぞ!]
侍(死に損ない達)の掛け声が、戦場に響く。
そして俺は高らかに叫ぶ。
「敵大将、織田前関白信龍(おだ、さきのかんぱく、のぶたつ)の陣に突撃!]
我ら侍の最後の日が始まった。