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竊 彣 恠 亊  作者: 㐑༒狄萨斯ت
3/22

水都抗變・三

怪しい女は颯爽とパーティーを後にし、続いて訪れたのは急襲にきた獠と猒だった。

予想していなかった淦は周章てて銃を手にし、襲ってきた殺し屋たちを迎え討つ準備を始めた。


連続して聴こえる銃声が、次第に判然(はっきり)したものになり、やがて相手が散弾銃を使っていることを悟ると、彼は若僧の口袋(ポケット)から予備の武器がないかを探し始めた。

相手が何なのかは別に知ったことではない。

しかし、それが何であれ、(おの)が生命に危害を加えようならば、総て排除するのが泽丹当主、淦のやり方だ。

淦はそう己に言い聞かせて、久々に心底から感じる闘志を唸らせた。


──バルコニーの左手にある、一面ガラス張りのダイニングから男の鈍い大声と、同時に耳に厭しくこびりつく呻き声が聴こえたかと思えば、次に聴こえるはガラスが粉々に割れる音であった。


然して何発かの銃声と、幾重もの苦痛や呻き声によって、ナイトプールの会場は卒爾に修羅の巷と化した。


途轍もない勢いで巨漢が小銃と共に、ガラスを突き破って投げ出されると、淦の反射神経は研ぎ澄まされて拳銃をその方向へと向けた。

本当に、久々に感じる感覚である。

全身に微かな痺れが伝い、幾つもの壁を超えて聴こえる咆哮の如き銃声が、目を醒ませといわんばかりに脳を震動して刺激する。


──(しこう)して邪魔者が、現れた。


撃たれた箇所を懸命に押さえて悶える巨漢を踏みつけては、銃身を月明かりに反射させる散弾銃で脳天を撃ち抜くと、其奴は辺りを素早く見回した。

濃緑の髪を後ろで一つに結わえ、もふもふの獣耳を生やす。

抑えきれぬ殺意と、返り血に染まったかのような真緋で恐ろしい目付きの双眸に、淦は心成らずも硬直し、拳銃はガチャリと音を立てて床に身を打った。

(めい)()らず、称を『警报』と知られる其奴の情報と、まるで変わりのない者であったからだ。

顔立ちは文句無しに整っているものの、畏怖を打ち付ける雰囲気がそれを凌駕し、闘志の十中八九も絶望へと変わり果てた。

──そして、淦は獠と、目が合った。


「…………泽丹当主の、淦?」


「────そうかもな」


こうなればあとは早いもの。

淦は目にも止まらぬ早さで、拳銃を拾い上げて照準を合わせ、直ぐ様引鉄を引いた。

然れども、警报も圧巻のスピードで以て彼の射撃を敏捷に(かわ)し、避けたスピードの余韻でL字に成ったバルコニー角の下半の塀へと身を投じ、すっぽりと全身を隠す。

このままでは遮蔽無し、ローブ姿で丸腰の己はまるで夜猟の獲物。

然して、淦も手にした拳銃をフルオートの如く単発連射しながら、先ほどまで女たちとたむろしていたテラスのベッドルームへと逃げ切った。

気がつけば金亡者の女たちは疎か、会場で奄虞していた者たちは、危険を察知したのか、誰一人、影すらをも残さずに消えていた。


「──何を目的に?」


目の前にいるというのに、相手の顔を窺わずして話をするというのは、幾分違和感のある行為である。


「泽丹当主の拘束、それだけ」


警报はやけに落ち着いた声で、息切れの一つもしている様子がない。


「だが、このままだとただの戕戮だ」


淦は這って、ベッド脇に据えていた小さな木製のチェストから、.45 ACPのぎっしり詰まったマガジンをわなわな総て取り出し、ローブの口袋に荒く突っ込んだ。


「多少の傷害は見込んでいるが、殺害の意はない」


「ハッ、よく言うよ」と、聞こえぬようにぼやきながらマガジンを素早く、しかし確実に交換し、プレスチェックを済ませる。

ワンポイント、金鍍金(メッキ)のカラーリングを施したコルトダブルイーグル。

どうやら月明かりに照らされ輝くのは、奴の散弾銃だけではないよう──。


──────

────

──


当主が二階にいるとの情報を掴み、獠に捕獲を急がせたために、猒は一階にいる見張りの全員を相手しなければならなかった。

細い柱に身を収め、凡そ一人に対して浴びせる量でない程度の銃撃をなんとか凌ぐ。

しかし、猒とて黑帮『嵐歳(らんすい)』の要人ゆえ、このまま容易くやられるわけにはいかない。

然れば一瞬の銃撃が止んだ隙に、手にするリボルバーをお返しといわんばかりに撃ち放つ。

そして出方の甘かった敵を正確に撃ち抜き、同時にそれは敵に対しての恐惧の念を打ちつけるいい材料となった。


激しく点滅する照明と共踊、また重低音で鼓膜を刺激する音楽と共鳴するは、数多の銃から吹き出る炎の息吹、霹靂の如き咆哮にあり。

続いて聴こえるのは、数多の男たちが一人の華麗な女に翻弄されて上げる呻き声であった。

猒は敵以外の誰かに見られているわけではないのだが、リボルバーを洒落てリロードする癖がある。

リロードを終えると、呼吸を整え、敏捷に顔を出し、敵目掛けて重たい拳銃を一発二発と吼えさせる。

さすれば、相槌の如く敵が呻き、ばたりとひれ()して、彼女の仕事が一つひとつ着実に終わっていった。


──二階には二人しか居ないというのに、我知らず目を背けたくなるような銃撃戦が展開していた。

片や近接無敵の散弾銃、片や小柄にも威勢の屈強な拳銃。

双方とも凄まじい火力を誇示しては、弾は互いの寿命を縮めるが如く二人の側を掠めていった。


然れども、世に終焉の節理があるように、一時に静まり返った戦闘にも、呆気のない終りが訪れた。

淦がもう一丁といわんばかりにマガジンを交換した即ちである。


「水の低きに就く如し。んでからあんたの仲間は皆易きに流れちまったよ」


気づかぬうちに、月光に照った銀鍍金のリボルバーが己の顔面を覗き込み、見上げてみれば、それは皆目味方とは思えない蒼い双眸の、嗤う金髪の女であった。


「──さすれば己も流るるのみ、か……?」


猒は答えず、ただにんまりと笑い、長物を構えて出てきた獠が「銃を置け」と、淡白に言い切る。

然して、敢闘に帰したダブルイーグルは乱雑に主の許を離れ、軽い音を立てて再び床に身を打った。


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