水都抗變:一六
猰は獠を盛大に迎え入れ、もてなしと言わんばかりに大男二人を獠にぶつけた。しかし、明らかな体格差がありながらも、獠は物怖じせず、其奴らを殺る準備を冷静に整えた。
「あらぁ?伊達な予想で来ちゃっただけなんだけど、まさか本当に来るなんてね」
「………………」
嘲るような笑みを浮かべる女は、一言も喋らず、僅かに俯いてやって来る迫夜を盛大に迎え入れる。
猰
然れども、迫夜は素知らぬ顔を取り繕って、彼女との開いていた距離を徐々に詰めていった。
「あっ、そーだった。あなた、私と喋るのが嫌いだったわね」
何も考えないように、できるだけ思考を虚無にして、獠は沿道を横切るように闊歩する。
「──でも安心して?あんたももう、二度と口の利けない軀にしてあげる」
紫色の髪を纏う女は、小さな独り言を溜め息のように溢した。
──目前に映る、懐旧をシルエットに象った迫夜の其奴は、手にした散弾銃を握り締め、沸々と湧いた殺意をこちらへ向けて迫ってくる。
その殺意を見せつけられて、部下の二人は少しと怖気づいたが、女は微々たる興奮を覚えるばかりだった。
「まずは、その冷えたカラダを温めてちょうだい────ねっ」
女がぴっと指を前に突き出すと、デカブツの男二人は声の一つも発さず、軽く頷いて敏捷こく迫夜を目掛けて猛進を始めた。
獠も地面を強く踏ん張ると、やがて呼吸を整え、射撃の体勢に入る。
適切な距離を保ちつつ、長物をスッと静かに構えた。
それを見るが早いか、男たちは散開し、ジグザグに走って迫夜の狙いをぶらすことを試みた。
然れども、彼女にそれは通用しない。
これまでに幾度となく、この散弾銃で戦い抜き、数多の獲物を仕留めてきた迫夜にとっては、撃ち落とすことは至難ではなかった。
ドンっ、という鈍い音が二度、辺りの静寂を切り裂いた。
しかして、敵も大物。
腹部への一発命中ではどうも死なないようで、多少動きに鈍りが宿りつつも、奴らは止まることをまるで知らない。
ドタドタと重たい足音が、徐々に近づいてくる。
僅かに震え、覚束なくなった手で次弾を装填をするが、終える寸前に面を上げては、それが遅かったことを理解した。
男らは偉丈夫な巨体で以て、敵を突く矛戟の如くに突進して来、気づけば格闘戦が有利な距離にまで詰められていた。
「あんまり格闘は得意じゃないんだけど……」
溜め息を一つ、獠は構えていたドリリングのストックで以て、それを左手から襲ってきた男の顎に目掛けて思い切りに振翳した。
あまりの速さにも、咄嗟の反射で白羽取りの如くそれを掴む男であったが、両手の塞がったところに彼女の蹴りを一発鳩尾に喰らい、よれよれとふらつきを見せてしまう。
左手を囮に、右手から襲わんと来た其奴には、白刃取りから抜け出したドリリングの銃身で渾身にど突き回すと、男たちは完全にペースを失った。
形勢不利を覆そうと、大振り自慢のフックを仕掛けたものの、Uの字を描く華麗なウィービングで見事に躱されてしまい、挙げ句にはそこから繰り出されたカウンターフックを顔面でもろに喰らう。
しかも右側から繰り出されたフックを二発。
力任せの己が技は、その全てが敏捷な女に通用しなかった。




