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竊 彣 恠 亊  作者: 㐑༒狄萨斯ت
12/22

水都抗變・一二

獠は刑務所に籠る敵私兵と交戦し、着々と全員を殺してく──。


「どうだ?彼奴は今、どの辺りまで来ている」


よれた薄い肌着を来て、片手にはショットグラス、もう片方にはボトルを握っている────そんな大きな男が、焦る様子の一つも見せずに、華美の過ぎる大きな部屋の中を牛歩彳亍していた。

所は泽丹の直轄にある──皆目それとは言い難い──刑務所『峻宇』である。


「はい。彼女は既に敷地内に侵入し、丁中隊と交戦中です」


厚い装備を施した部下は、即席に展開した電子機器を睨みながら、忙しく拠点周辺の状況を確認する。


「中隊は持ち堪えられそうか?」


「い、いえ……。このままでは壊滅は不可避です。恐らく、丁中隊だけでなく、于鋭(うえい)小隊も…………」


部下は歯切れ悪く、雰囲気に任せて言を茶に濁した。


「精鋭がやられれば、最終は全滅か…………。ふぅ……。やはり、彼奴はこの世のものとは思えんな」


喉を通らなくなったのか、男はボトルとグラスをテーブルに落ち着け、次いで、両手もついて項垂れていた。


「当主、どうなされますか…………?」


男はふぅ、と深い溜め息をつき、隔靴掻痒の心中を落ち着かせては、口を細めてゆっくりと息を吸い込み、俯いたままで言を発した。


「泽丹はこれよりを以て崩壊に帰す。お前、奴に跳ねられる前に逃げるが吉だぞ」


苦悶であった。

己の業績、地位、権威、延いては生命を投げ出した瞬間であったのだ。

淼亰(みょうきょう)冲突事以来、これまでに尨大な発展を遂げ、『西西里』という蜜を過去の栄光に縋って壟断してきた泽丹は、今夜を以て、一人の女のために命運を尽きる。


直到現在にも、己は数多の窮地を味わってきたが、これまではその総てを、持ち合わせる思考と運で凌いでこれた。

が、此度ばかりは、貧乏鬮を引いてしまったようで、自省すること他ない。

もぬけの殻となった部屋を、意味もなく茫然と見渡す。

──そういえば、若い時に一度、この部屋で一〇〇万淼幣分をポーカーで儲けたような。

僅かな懐旧の念を催したが、それもこれも、今夜で総てお仕舞いである。

畢竟、己は定めるべき味方を見誤り、勝負には見事に敗衄したのだ──。

男は背凭れの長い、華美絢爛の椅子を引いて、それにゆっくりと腰を落とした。


──右足を前に突き出し、曲げた左足で自重を支える。

低くした背で被弾率を下げ、序でに射撃時に於ける、散弾銃から受ける反動を低減する。

体勢はベストで、狙いも文句ない。

警报はなんの踟蹰もなく、軽く引鉄を絞った。

バシュッと、密閉された空間の中で、行き場を失った銃声は壁を反響し、凄まじい音波で以て鼓膜を刺激する。

この脳の細胞を潰すような銃声を、何度聞いたことか。

彼女は一〇数メートルと先にいた泽丹私兵の、重装を施した敵をいとも容易く撃ち落とすと、屍の崔嵬(さいかい)を掻き分けて、長い廊下を猝然と駆け抜けた。

ドリリングをブレイクオープンすれば、チャンバーから僅かな煙が上がり、大理石に身を打った空薬莢がからんころんと音を奏でる。

その音を享受する暇もなく、警报は手慣れた手つきで次弾を装填した。

然して、銃を軽く振ってチャンバーを閉めると、軽い足どりは止まることを知らず、次から次へと出てくる敵兵に火を吹かせた。

後方からの不意討ちや、敵前逃亡を図る者も逃さず着々と殺し、然れども、顔色一つと変えずに、ただ只管に目的地へと歩みを進める。

最大限厳重に敷いた警戒も、警报を前にしては無用の長物であった。

泽丹の衝突事を度々解決してきた丁中隊も、組織の峻厓窮地時には必ず救済の機をもたらした遊撃分隊も、はては㵘豪時代から泽丹を支えた于鋭小隊でさえも、警报というたった一人の女に歯が立たなかった。

恐らく、それが百分之百で彼女の心技体から来る高級別な実力というわけではなく、彼女の後方で漂うおぞましき謡言(うわさ)と、自身の神通力たる資質も兼ねてのことだろう。


──而して、総てが片付いた。

陽が沈んでから二時間後に始まり、そこから約一時間半といったところで、戦闘は終わった。

あと一人を除いて──。


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