水都抗變・一
まず、触れていただきありがとうございます。これも僥倖ですから、つべこべ言わずに読んでください。
正直言ってしまうと、小説が書きたかったからじゃなくて、脳内で漢字が勝手に擬人化して、それがストーリー作っちゃうもんだから、文字起こししたかっただけです。
なんで──初投稿でもあるため──文章だのなんだのは滅茶苦茶です。その辺はどうか堪忍お願いします。
加えて、ちょっと考察要素を入れてみたくて頑張ったんです。漢字の意味とかも、意外と関係してたりします……?
その辺も頭の隅っこにおいて、お楽しみいただければ幸いです。
是非、見たことのない漢字と、バカみたいなストーリーを楽しんでください。
※挿絵にはAIイラストを使用しています(一部添削、生成過程のプロンプト入力は自分でしています)。
──人物──
・獠
殺し屋。二丁列称『迫夜警报』を有する。
漢一丁。
・猒
獠のビジネスパートナーであり、黑帮『嵐
歳』のメンバー。金髪に蒼い双眸を持ち、
軽度の楽観主義者。漢一丁。
・灱
幼女。様々な要因が絡み、裏社会では中々
の知名度を誇る。普段は獠たちの用意した
公寓で大家と共に、密かな生活をしてお
り、休日、獠と猒の二人に会えることが今
の楽しみ。漢一丁。
前註)
漢一丁 : 漢の地を生きる『漢字』そのもの。
大半は人間の風貌であり、『命意』たる漢字の意義に沿った特殊な才を有する。
二丁称 : 能ある漢字に与えられる称号。二丁称同士を合わせ、二丁列称を有する者も稀有にいる。
前註二)
『㺦』『獇』の漢字に於いて、双方とも音、訓読み共に未詳であるため、旁から音読みを通仮して㺦を「レン」、獇を「キョウ」と表記しています。
ナイトプール──。
響きすらもが最高で、様々な想像が広がり、心中は佷と享受する。
加えて、右を見ても左を見ても女がいれば、もうそれ以上に高興するものはないと言っても過言ではない。
ライトブルーに色づいた照明が邸の庭を眩く照らし、鼓動と錯覚を起こすほどの爆音の音楽に乗せ、男女は互いを誘惑しながら踊り狂う。
テーブルに豪勢に並ぶ料理も、シャンパンタワーから溢れる酒も文句なしで、総てが実に充実している。
今、ここで正にそのパーティーを主催し、両腕に女を抱き抱えたドン、淦はこの上ない──いやらしさを兼ね備えた──得意満面の表情でアルコールをぐいぐい飲み干しながら『大人の楽しみ』を一望し、また顔がすっぽり収まる程度の大きな手で、華美な水着を身に纏う女たちの豊満な胸を揉みしだいていた。
女たちもまた抵抗することを知らず、何故かと思えば手に握る札束が自ずと答を示していた。
さて、淦がなぜここまで金にモノを言わせ、しこたま自由に女を誑かせるのかといえば、理由は一つに限る。
──粉だ。
彼が鍛え上げられた肉体美を施しているのも、そこそこの人数でナイトプールを催しているのも、また女どもが黙って彼に躰を預けているのも、総ては彼の築き上げたカルテルに功があった。
──淼尼斯は漢の地に於いて最も重要な役割を担う社稷、亰より北東に位置する島ないし水都である。
領海ともいえよう領土の上に都市が器用に発展を遂げ、島国のために万年独自の文明繁栄を成してきた。
漢正教会並びに聖皇尊皇とする幾多省の統治下にある淼尼斯は、厳しく統制された法に則って公民を治め、またそれが淼尼斯の歴史の基盤となった。
やがて漢の先進国が続々と経済成長期を迎えると、濁流に呑まれる石が如く、淼尼斯もその波に乗じた。
然れども発展に悪性の出来が付随することは定め────淼尼斯は外交に問題を起こす。
淼尼斯と亰の狭間に位置する孤島『西西里』を巡った出来であった。
位置的な観点から見れば亰に分があるものの、領海の範囲内で見れば淼尼斯の分。
幾分厄介ではあるが、国交を行う上では大変要となる中継点であり、この小さな島を巡って亰と淼尼斯は対立、はては冲突にまで発展した。
しかし、西西里を生活拠点としていたその八割が水族にあり、初盤から淼尼斯軍の屯田兵団『㵘豪』が優勢を取っては、勝機翻ることなく亰は惨敗に帰し、西西里を取り巻く一事は九四八年より幾年、淼尼斯の統治下に治まることで収束を迎えた。
然して淼尼斯の勝利によって一時の平穏を迎えた西西里であったが、国交中継点を担う上で相乗して発達したのが、『カルテル』及び『黑帮』である。
淼尼斯の勝利に大きく貢献した㵘豪から抜粋された幾数が、その後の交易中継を担当することになったが、彼らは敗衄した亰に対し、より多くの利益を搾取しようと試み、中継網の表裏をよく心得ていた㵘豪は、正教会の目の行き届かぬ暗々裏に網を張り巡らして、高額な麻薬を流し、延いてはカルテル、黑帮が数多と誕生して、西西里の競争社会を織り成していく事態となった。
数多の組織が衝突し、西西里の地を血深泥の死体が埋め着くそう時代から、互いが様子見で姑息な手ばかりを打つようになった現在までに、圧倒的な成長を遂げたカルテルの一つが、淦を当主に組織される『泽丹』である。
あらゆる手段を問わず、仲間が血を流した分以上の代償は無論、強大になりつつある敵対組織にも、如何なる欺瞞と巧妙の策で陥れる。
はてや他組織との併合を機に、急速成長を謀り、裏で動く社会は暗々裏に底層を這う彼らを軽視したために、畢竟泽丹はカルテルの独占市場を形成するに至り、ここ数十年と汚れた金回りを壟断した。
然れども、首位を維持するのもそう簡単でないことを十二分と承知していた淦は、ありとあらゆる敵性分子に対抗するための組織の増強、及び備拡を厳しく取り締まり、新規に加入する構成員には敵組織の某人一人をその手で殺させ、心臓を取り出して食べさせるといった狂ったカニバリズムさえをも強要し、泽丹に対する絶対的な忠誠を誓わせ、また離背叛を徹底的に抑え込んだ。
──故に、淦の地位は確たるものになり、また彼の資質と汚れた功績が今の自由と仕合わせを構成する材料となっていることは、彼に関わる者にとっては言わずもがな、百も承知のことであった。
──急襲──
さて、監視を続けること軽く二時間。
外郭、当主邸宅を一望できる水路からの張り込みで見ている分には、特に変わった様子はない。
モダンチックな大豪邸の庭、何処ぞの男女がみっともない躍りを披露し、エレクトロニックな音楽が爆音で流れ、距離を図っていても鼓膜に緩い衝撃を打つ。
外から眺める分に加え、潜入した密告者の情報曰く、人自体はそこそこ多いものの、警備に当たる者の数は少なく、潜入及び拘束は容易くいきそうな風であるそう。
一大カルテルの当主が催すイベントというのは、これほど甘いものなのか。
舟の窓から望める夜空をふと見上げた。
無数の星辰が散りばめられ、雲一つなくよく晴れている。
都市からは幾許と離れた郊外であるからして、空気は澄んでおり、虫も優しく囀ずるが、蒸し暑さと生暖かい夏風が玉に瑕。
数分、無心茫然で空を眺めていた獠は、開けた窓いっぱいから頬を撫でる風の暑さを不快に思い、心成らずも窓の取手に手をやった。
密閉、完全に外とを遮ってからは、向こうで流れる音楽の煩さも少しばかりに和らいだ。
獠
その後も少しと監視を続けていると、やがて舟が大きく揺らいだ。
相方が夜食の買い出しから帰ってきたところだろう。
「へへっ、四番通りの角行ったとこのパン屋、まだ片付けやってたからちょっと分けてもらったよ。はい、メロンパンでいいかな?」
「買い出しじゃなかったの……」
獠はやるせない目つきで軽く振り向く。
視界にそそっかしく映るのは、僅かな波と自重のために揺れた足許で、あたふたしながらも茶色いパン袋を落とすまじとしっかり握る金髪の女、猒。
行動が煩いというのはなるほどこういうことなのだろう。
足の長く、黒色のズートスーツを如何にも黑帮の要人みたく纏うものの、仕草の一々がまったく品性の総てを台無しにしている。
猒
舟のざわつきが収まり、やっとこさ動きが静かになると、やがて二人は無性にパンを頬張り始めた。
「んむっ……、ここのん上手いな。今度灱にも買ってやろ!」
大きく齧っては、一口で幾分小さくなったパンを眺め、減らず口でぶつぶつ喋る其奴。
灱のことを話す即ちは、何時であっても瀛海の如き蒼い双眸は輝いている。
「んで、淦の方はどんな感じさ?」
猒は獠に躙り寄り、獠の望むほうに視線を移した。
「依然変わりはない。ただ、警備が手薄で……」
「んあ、伏兵がいたとしても──」
言葉を続ける前に、猒はゴクリとパンを呑み込んで、喉を軽く唸らせた。
もう此奴の煩い仕草にも慣れきったもんで、獠は特段何の反応も見せない。
「警报様なら蚊も同然だろ?」
『警报』の響きが耳を打った即ち、獠は激しい嫌悪の念を心中に抱き、敏捷に振り向いては、猒のニヤけた顔をキッと睨み付けた。
「なんだよ?」
猒も分かっているのに、素知らぬ顔を装って、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「その名前、気に入らない」
「いいじゃんか。誰もが恐れる称号なんて、滅多に貰えるもんじゃないぞ?」
「恐れられなくていいし……、大体、人の称に警报とか付ける……?」
端的にいえば、躴躿乱暴で嫌いな奴に『痴者怐愗』とあだ名付けているようなもので、警报などという渾名は捉えようによっては失礼に当たるもの、また獠にとっては、正に失礼そのものであった。
「いいじゃない。私だったらその称を権威に好き放題やってるさあ?」
「ふふっ、性格出てる」
間抜けた冗談にほんの少しだけ、獠の吊った真赤な双眸と口許が弛み、僅かな笑みが浮かんだのを見て、猒の内心には安堵の念が水に溶けた絵具の如く広まった。
然して、夜食とちょっとした談笑を終えると、二人の顔には聊か殺意の隠った表情が貼り付き、黙々と準備が始まった。
「ドリリング、取れる?」
「はいっ。……ぼちぼち?」
「──ん」
獠が柔い口調で頼み、猒はそれに優しく答え、二人はゆっくりと立ち上がる。
テンプレートと化したこのやりとりは、凡そ平々凡々でない要人たちが、最期を遂げる前に唱えられる呪いのようなものであった。
──────
────
──
邸に物騒な小銃を抱えた見張りが沢山といたら女が怯える────という理由から、見張りの数は極力抑えていた。
恐らく本意は、少数の立哨でもこれだけ大層なパーティーを開けるほどに、当主の地位が確立していることを見せつけたいのだろう。
「ふあぁ……、おつかれさん」
交代に来た大男が大層な欠伸をかきながら、銃を寄越せと手を伸べる。
「お疲れ様です────にしても、えらく壮大なパーティーですね」
細身の若者は、銃を手渡したその転瞬にして肩が軽くなるのを実感し、片腕をやんわりと回して蓄積した疲労を分散させた。
「んあ。なんでも、今日招いてる女ん中に北梑の方が居られるそうだ。しかも㹜罘会との関わりがある人だそうだから、当主も見栄張りてぇんだろうな」
「え!彼処とも関わりを持つ気ですか!?」
若僧に驚きの表情は隠せなかった。
目を見開き、一言吹いた大男をまるで珍妙な者の如く見つめる。
大男も声量をぐんと上げた若僧に驚き、少し身を引いて宥めた。
「んな驚くこたァねぇだろ。でも当主も当主だよな。敗戦後の北梑が奈落底まで衰退した経済の再生を企ててるってのに、それを邪魔する㹜罘会を推すってんだから。それが良い選択か悪い選択かは知らねぇが、隴を得て蜀を望み続けてたら、いつか足許が崩れるってんだ」
「聞こえますよ」
絶え間なく流れる爆音の音楽の中、「んなわけ」と冗談交じりに笑いながら、大男は口袋からくしゃくしゃになった煙草の箱を取り出し、そこから萎れた二本の煙草を取った。
「あ、ありがとうございます」
そこから暫しの間、二人は中庭の吹抜から無数に広がる星々を、地に足をつけて覘望しながら煙草を吹かした。