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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 13

 実は聖技をドール・マキナに乗せて葵の捜索に参加させていた場合、高確率で葵を、正確にはガーランやライナスを感知できていました。

 ガーランやライナスは血中ミスリル濃度が異常に高いため、例え2人が生身であったとしても、ドール・マキナ同様に聖技の気配察知能力で感知出来てしまうからです。


 まぁ捕獲する前にガーランが妖精の眼で勘付いて脱出されてしまうんで、結局確保することは不可能なんですけどね。


 被弾。コックピットに鳴り響く警告音。戦術情報表示器(TID)には赤文字の英語で『左腹にデカい破損があるぞ』という意味の言葉が点滅していた。


「何……!? 爆弾でも貼り付けられてたの!?」


 レールガンを使われたと、聖技は思わなかった。


 レールガンは重く、大きい。仮に8メートルサイズのドール・マキナが使う場合、戦隊シリーズの武器を合体させて全員で発射する必殺技みたいに、複数掛かりでなければ使えない程の大きさになるからだ。そんなものを目の前のゴーストはどう見ても持っていない。


 左わき腹。近接格闘戦での速度と威力に影響が出る類の破損部。


「やっぱ近付いてくるよねぇ!」


 弱った相手に追い打ちをかけるのは常道だ。


 迎え撃つ。被弾箇所をゴーストからは見えないように身体を半身に。


 さっきの未知の攻撃を使ってこない。やっぱり爆弾かと予想した。あの右腕をこちらに向ける動きはおそらくフェイク。あるいは爆弾を遠隔起動させるためのものかも知れない。黒いもやは電波妨害を引き起こすが、作った側であれば妨害されない種類の通信方式だって把握しているはずだ。


 剣を振るう。動きが遅い。身体(きたい)が重い。ゴーストはビームソードを抜いてこない。鍔迫り合いを嫌ったか。ルインザンバーを避けてから抜刀するつもりだろう。


 ゴーストは、右腕を使わなかった。左腕でルインキャンサーの右腕を殴る。


 衝撃が伝わった瞬間、右腕は粉砕されていた。


   ●


 ワンショット・レールガン。


 それが、ルインキャンサーの左腹部を吹き飛ばした武器の正体だった。レールガンに必須の冷却装置と反動吸収装置、更には弾倉機構すらも取っ払って超小型化に成功したものだ。


 ワンショットの名の通り、一発しか撃てない―――物事は正確に伝えよう。撃った瞬間に自身が放った弾丸の衝撃に耐えられず、自壊してしまう。だから撃てるのは一発限り。


 ゲシュペンスト・ローヴェの右腕には、3基のワンショット・レールガンを搭載している。予備部品もないので、使えるのは正真正銘あと2発だけだった。


 だが、葵はこの武器をもう使わないことを決めた。


「クッソ照準がぁ!! なんでこんな欠陥品搭載してんだあの天才(バカ)は!?」


 何か少しでも違う要素があれば、ルインキャンサーのコックピットか、あるいは動力機関ルインドライブを直撃していただろう。


 葵は聖技に勝ちたいだけであって、聖技を殺したいわけではない。


 葵はルインキャンサーを倒したいだけであって、ルインキャンサーを破壊したいわけでもない。


 照準がずれた理由を葵は即座に理解した。小型化の弊害だ。反動吸収装置の欠落が、発射時に照準を大きく狂わせてしまうのだ。だからもう使えない。どこに飛んでいくのか分からない武器など使えるはずがない。


 なんでこんなものを、という疑問には、頭の中で食い気味に結論が出た。ガーランの特異体質、妖精の眼。その力があれば、照準なんて付けられないワンショット・レールガンがどこに飛んでいくのかを視ることが出来るのだろう、と。


 バスター・ビームソードは使わない。被弾した部位であれば攻撃が通るが、あの場所はコックピットに近過ぎる。左腹部を隠すようにルインキャンサーは姿勢を変えた。どちらにせよ狙えない場所だ。


 見えている。聖技の狙い。機体のプラズマ・スキンでわざとバスター・ビームソードを受けて、発生した反発力でこちらの姿勢を崩すつもりだ。


 この時点で、葵は読みだけでなく行動でも勝っていた。カウンター狙いは、想定外の攻撃には合わせられない―――!


「ぶち抜け……! シュトラール・シュタークゥ!!!」


 バスター・ビームソード3本の柄がプラズマで覆われる。


 迫る短剣を避けるのではなく、短剣を握る右腕目掛けて左拳で殴りつけた。


 三連撃式プラズマ・ステークが、短剣がゲシュペンスト・ローヴェに届くよりも早く、ルインキャンサーの右腕を粉砕した。


 まだ終わらない。右側だ。ルインキャンサーの左手に持つ短剣が迫っていたのを、


「読んでんだよぉ!!」


 右腕の回転機構を起動する。内側に位置していたビームシールド発生器を外側に。展開。ビームシールドとプラズマ・スキンをまとった短剣が激突し、反発し、


(しのいだ―――!)


 瞬間、葵は見た。離れていくルインキャンサーの左腕。その手指が短剣を持ち替える。順手から逆手へ。そのまま再び切っ先がビームシールドへと迫る。


 見えている。だが反応できていない。


 短剣が、ビームシールドの上から右腕に突き刺さった。


「な……!?」


 何故、という言葉が最後まで出ない。その前に理解したからだ。ビームシールドの弱点。ビームシールド発生器そのものには、ビームシールドは展開されていない。聖技はその場所を、ピンポイントで突き刺したのだ。


 だがビームシールドの縁は見えていても、ビームシールド発生器は黒い(フィーテ・)森の(ダンケルハイト・)深い闇(シュヴァルツヴァルト)で見えていないはずだ。それを、


「なんで分かんだよクソがぁ~~~!」


 理屈は分かる。シールドの形状から、発生器の位置を割り出した。


 右腕が完全に両断される。火薬も推進剤も無いので爆発はせず、血のようなオイルが噴き出すこともない。


 いいさ、と葵は思った。右腕はくれてやる。代わりに、


「左足もぉ! 貰ったァ!!」


 再び左腕を引き絞る。身をねじり拳を放つ。落下しながらの再度のプラズマ・ス(シュトラール)テーク三連撃(・シュターク)は、ルインキャンサーの左膝を殴り砕いた。


 着地。直後に再跳躍。


 葵は知っている。ルインキャンサーの構造的弱点。全身をプラズマ・スキンで覆うルインキャンサーは、胴体にカメラを持っていない。カメラは、頭部にしか存在しない。


()()()にぃ、してやらぁああああ!!!」


 絶好調だった。


 普段なら目にしていても気付けないことに気付ける。


 微を見、細を聞く。


 あらゆる情報が、頭の中でなんのノイズにも変換されること無く、戦いに利用できるデータとして瞬間的に整理されていく。


 どうすれば勝てるのかが分かる。


 どうしたら負けるのかが分かる。


 明確な勝つためのイメージが、何十、何百と頭の中で瞬間的に並列的に並行的に整理されていく。



 ()()()、気付けるはずがないことに、気付いてしまった。



 空から見下ろす地上の光景。


 戦場よりもはるか遠く、ルインキャンサーとゲシュペンスト・ローヴェの直線上はるか数十キロも先に見えるのは、葵が住んでいるマンションだ。


 すぐ近くに、見覚えのある道路が見えた。


 以前は、そこら中の建物がブルーシートで覆われていた。随分と復興も進んで、ブルーシートが掛けられた建物はもう一つもない。


 以前はボロかった自販機は、真新しいものになっていた。艶のある塗装が、太陽の光を反射していた。


 前年度までは無かった献花台。前はあんなに花やお菓子やジュースが置かれていたのに、今は綺麗さっぱり片付けられていた。今更気付いた。あの献花台に使われている金属板は、もしかしなくてもドール・マキナの装甲板ではないだろうか。


 そして、その献花台に固定されたペットボトル製花瓶に挿されている、見覚えのない、


(ヒマワリの、花―――)


 聖技が用意したものに違いない。そう思った。



 思考が、加速(逆転)する。



 勝利のために使われていた頭の中でイメージする大量のモニターが、そこに映る未来の予測(勝利演算)が、この3ヶ月の間に過ごした、無数の聖技との思い出に上書き(フラッシュバック)されていく。


 始めは、怪しい男たちに絡まれているのを助けたところから始まった。


 毎日一緒に登校して、


 たまに泊まりに来た聖技と一緒のベッドで寝て、


 麒麟と馬鹿な話をして、ガブリエラと詰まらないことで張り合って、


 そして、



 そして、




 そして、





 葵は、ラックを撃ち殺した。


 その姿が、銃口を向けられたラックが、何故か聖技の顔をしていた。





 なんで



 オレは



 こんなことを



 やっている―――?






 ルインキャンサーに殴り飛ばされた。



○シュトラール・スターク

 三連プラズマ・ステーク回転式打撃機構。

 『シュトラール・スターク』という名前は 『ジェット・マグナム』を少しアレンジいれつつドイツ語訳したもの。


 左腕に搭載された3本のプラズマ・ステークで殴る攻撃がジェット・マグナムじゃねえわけねぇだろ! わざわざ『ゲシュペンスト・ローヴェ』なんて名前でよォ!!(頭ハロウィン)




 今回の話の最初の方で出た、中型マキャヴェリーがレールガンを使う場合に戦隊シリーズものの合体必殺技みたいにならざるを得ない理由についてちょっと補足。


 まず前提として、大型マキャヴェリーは特に問題なくレールガンを使えます。

 そして中型マキャヴェリーがレールガンを使いたい場合、単純に動力であるガソリンエンジンやディーゼルエンジンでは出力が足りません。

 なのでレールガン用の動力、大型マキャヴェリーの主動力にも使われているミスリル・リアクターをレールガン本体に取り付ける必要がある訳ですね。

 そしてミスリル・リアクターは放熱能力が不足すると自身の発する熱でメルトダウンを起こします。加えてレールガン本体にも冷却装置が必要で、ミスリル・リアクターとレールガン分の冷却機能を組み込むとレールガン本体がかなり大型化してしまいます。


 ぶっちゃけた話、中型マキャヴェリーがレールガンを使おうとした場合、数機がかりで大型マキャヴェリー1機を担ぐのと大差ない状況になるわけです。


 なら最初から大型マキャヴェリーでええやんけ~~~!!! となるわけで、中型マキャヴェリーは理論上はレールガンを使えるけれど、実用性は全くありません。


 じゃあなんでゲシュペンスト・ローヴェはレールガンが使えるのかって?

 そりゃあガソリンエンジンなんてチャチでチンケな動力じゃないからです


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