バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 12
二合、三合と打ち合い、聖技は確信した。
「やっぱコイツ、9Yじゃない!」
普通、中型マキャヴェリーは数メートル程度のジャンプ力しかない。ルインキャンサーよりも高く跳ぶことなんて不可能だ。
バスター・ビームソードだってそうだ。中型マキャヴェリーのガソリンエンジンでは、出力が足りなくて使えないはずだ。
機動力だって腕力だって、明らかに中型マキャヴェリーのものではない。なるほど警察や外国人犯罪者たちが手も足も出ない訳だ。違法改造モーターを積んだミニ四駆にノーマルモーターで挑むようなものである。
剣先が道路を擦るようにルインザンバーを切り上げる。ゴーストが受け止め、再び距離が開いて正対する。いつもなら射撃による追撃をするところだが、
「あ~クソ着地狩りィ!」
ルインフィンガー・ランチャーは使えない。威力も高過ぎるし攻撃範囲も広過ぎる。野次馬の避難もまだ全然進んでいない。流れ弾1発だけでも軽く数十人は死ぬだろう。ちゃんと死体が残るかも怪しい。
避難警報は未だに鳴らない。ゴーストの通信障害能力のせいだ。効果圏外に移動しなければ、避難警報を発令しろという連絡そのものが行えない。
そもそもだ。仮に住民が周囲に一人もいなかったとしても、どちらにせよルインフィンガー・ランチャーを使うことは出来ない。辺りに大量に粉塵が広がるからだ。
聖技はこう疑っていた。あの黒いもやは、色を自在に変えられるんじゃあないだろうか、と。
聖技の勝利条件はゴーストを撃墜することだが、ゴーストの勝利条件はルインキャンサーを撃墜することではない。護送車に攻撃を加え、中にいる犯罪者たちを殺すことだ。
これが普通の相手であれば、粉塵に隠れたところで気配を追えば済む話だが―――
(やっぱりコイツ、どこかにいるのは分かるけど、どこにいるのかが分からない……)
ゴーストは、随分と気配があいまいだった。そこにいる、という感覚がボヤけて、焦点が合わない。どこかにいる、ということは分かる。だが分かるのはそこまでだ。だから見失うわけにはいかないのだ。
「てかな~んか、さっきから上手いこと逃げられるなぁ」
獲った。そう思える斬撃は3度あった。その全てを、ゴーストはきわどい所でしのいでみせている。
「受けるのが上手い……?」
あるいは、自分に悪い癖が付いているのかも知れない。これまで無意識に気配を頼りに距離感を調整していたのではないか。こんな相手は初めてなので、聖技も確証が持てない。
(帰ったら会長に特訓してもらうかなぁ……)
「……よし、やり方を変えてみよう。肉を食らわば骨まで作戦だ」
『肉を切らせて骨を断つ』と『毒を食らわば皿まで』が混ざっていたが、それを突っ込んでくれる者はいなかった。
今は昼間、プラズマ・スキン・フルボディが目立たない時間帯だ。そしてプラズマ・スキンは、あらゆるビーム兵器を防ぐことが出来る。どれだけ威力が高かろうと関係ない。ビーム兵器の威力が高ければ高いほど、ビーム自体がプラズマ膜に対して反発作用を強めるからだ。だからビーム兵器では、プラズマ・スキンは決して突破出来ない。
(ビームソードを身体で受け止めて、そこに生まれた隙を付く……!)
左手もルインザンバーを引き抜いた。これでゴーストは武装した左右ではなく、その中央を狙ってくる可能性が高くなる。
「でもカウンターって、あんまやったことないんだよなぁ~」
聖技がDMMAで得意としたのは、自分のテンポを相手に押し付ける戦いだ。というより聖技とそれ以外の大半は、速度域が違い過ぎた。対戦相手が1つのアクションを取る間に、聖技は3つも4つも行動出来てしまう。だからわざわざカウンターなんて狙う必要は無かった。
「まぁでも両手に武器持ってるからさぁ、成功率は2倍でしょ2倍!」
問題があるとするならば、ゴーストにこのまま逃げられる可能性がある、ということだった。事前に警察からは逃がしてもいい、と伝えられてはいる。昼間であれば目撃者数は劇的に増える。未だ見つからないゴーストの拠点を発見する絶好の機会でもあるからだ。
さぁ来い。そう思っていると、ゴーストはバスター・ビームソードの刃を消し、グリップを左腕へと収納した。
「うわ、もしかしてマジで逃げる?」
そして、空手となった右腕をこちらに向ける。
―――光。
ルインキャンサーの左腹部が、吹き飛んだ。
●
葵は、瞬発力な対応でルインキャンサーの攻撃をしのいでいるわけではない。
先読みだ。葵はルインキャンサーが動くよりも早く、その行動を読み、事前に対応できるように立ち回っていた。
ところが、聖技は自分の動きが読まれているとは露ほども考えなかった。
理由は複数ある。
まず1つ目。黒い森の深い闇がゲシュペンスト・ローヴェの細かい挙動を隠しているから。ゆえに先んじて動き始めているのに、聖技にはそれが分からない。
加えてこの黒いもやは、葵の操縦の癖を隠すことにも役立っていた。だから聖技は戦っている相手が葵であることに気付けない。
そして2つ目。聖技と葵の間にある、圧倒的な技量差だ。だから葵の方がスタートは早いのに、聖技の動きが速過ぎて追い付かれてしまう。だから聖技から見ると、自分が動いてから相手がギリギリのところで対応しているように見えてしまうのだった。
(やっぱ撃ってこねぇな)
距離を取った後、着地に射撃を挿し込んでこない。DMMA時代の聖技であれば、高確率で着地狩りをしてきたはずだ。
(野次馬への流れ弾、それと土煙で姿を見失うのを警戒して、か)
その理由を、葵は完全に看破していた。
ルインキャンサーが構えを変えた。左手にも短剣を持っての二刀流。聖技のことを散々調べていた葵でも見たことがない未知の構え。今の状況、これまでの交戦の積み立て、聖技の思考、嗜好、指向、それら全ての情報を吟味することで、
(狙いはカウンター)
その目的を、正確に推察した。それ以外の全てを知っているのであれば、知らないことも知っているのと同じであり、
「チッ、詰んだなこりゃ」
同時に理解する。理解してしまう。防げない、と。葵の技量では、聖技がカウンター狙いだと分かっていても対処することは不可能だと。反撃が、いつ、どこに、どれだけの速度で飛んでくるのか、その全てがわかっていても、自分では防ぐことが出来ないことまでもが分かってしまった。
だからこそ、必殺の一撃が通用する。
本来、8メートルサイズのドール・マキナでは、どんな攻撃をしてもルインキャンサーは倒せない。ビームは全て弾かれる。通常弾もプラズマ・スキンを突破できる威力ではない。ミサイルやロケットランチャーならば多少の手傷は負わせられるだろうが、例え直撃させようとも致命傷には程遠い。ルインキャンサーは、対中型マキャヴェリーに特化したドール・マキナなのだ。
だがここに、ゲシュペンスト・ローヴェ―――世界最悪の男が作ったドール・マキナという例外が存在した。
バスター・ビームソードを収納する。ゲシュペンスト・ローヴェの両腕には、それぞれ4つずつ武装モジュールが搭載されている。左腕にはビームシールド発生器が1つと、3本のバスター・ビームソード。
右腕にもビームシールド発生器が1つ。そして、残る3つの武装、その1基を起動させる。
狙うは右腕。聖技の利き腕を吹き飛ばす。
数少ない例外。プラズマ・スキンは、プラズマを使った攻撃を防げない。
チャージにかかる時間は一瞬。放たれた弾丸は狙い違わず―――とはいかず、ルインキャンサーの左わき腹を吹き飛ばした。
聖技と葵の技量差をスパロボで例えるなら、聖技は葵に再攻撃が発動するくらいの差です
というか学生相手なら9割以上に聖技は再攻撃を発動できる。なので葵の技量が低過ぎるのではなく、聖技の技量が異常に高い。




