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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 10


 電車で下山する。花山院学園から奥多摩駅までの専用線、乗客は聖技1人だけだった。


 途中、携帯電話が鳴った。


(なんだろ? 作戦変更とかかな?)


 デカくてゴツい軍用携帯を確認するも、なんの新着記録も残っていない。


「あ、そっか」


 聖技は気付いた。花山院学園では、通常の携帯電話は使えない。その()()()を離れたのだ。UFOストラップが揺れる、ごく普通の携帯電話を取り出した。


 地元の悪友の1人、メカマンからのメールだった。防衛高校に進学したネッケツがもう帰省していると書かれており、加えて、


「ネッケツのお盆休みは、今日から一週間?」


 夏休みは始まったばっかり。盆休みにしては早過ぎない? そう思った直後、昔ネッケツの父親から教えてもらったことを思い出した。


 軍人とか警察とか、一度に全員が休むと困ることになる仕事は、全体で広く薄く時期をずらして盆休みを取るようにしているのだと。


 というのもネッケツの父親は現役の軍人であり、夏休みに帰省する時期が毎年バラバラで、どうしていつも盆休みの時期が全然違うのか、気になって聞いたことがあるのだ。


 たぶんだけど、将来の軍人を育てる防衛高校も、軍と同じ方式で盆休みをとらせているんだろう。聖技はそう予想した。


 可哀想に、と聖技は思う。普通の学校なら夏休みは一ヶ月以上あるのに、防衛高校の夏休みは1週間程度しかないのだ。


 やーいネッケツの夏休みセミの寿命以下~って言っといて、と返信した。


 葵の救出が早く終われば、ネッケツがいる間に帰省出来るかもしれない。その時は葵も連れて行こうと聖技は思う。あの伝説のパーフェクト・ゴールドが先輩なのだと自慢してやるのだ。


 奥多摩駅で乗り換える。花山院学園の関係者しか使えない専用通路を出て普通の電車へ。


 青梅駅で降りて、数週間ぶりに自分の部屋へと戻ってきた。すっかり埃が溜まっていたので、適当に掃除機をかけて回る。


 部屋を出る。目的地は春原花屋だ。


 春原花屋は閉まっていた。正面はシャッターが下りている。横に回り、ブラインドカーテンの隙間から覗き込む。店内には無数の花が残されていたが、見える限りその全てが枯れていた。


 殺されたラック以外にも、この店には老夫婦がいたはずだ。そういえば、と聖技は思う。いつも停まっている軽トラがない。車の無い駐車場には落ち葉が積もっていて、何日も使われていないようだった。


 花屋を離れた。次は葵の部屋へと向かう。


 合鍵で中に入ると、やっぱり埃が積もっていた。仏壇の水を替え、向日葵(ひまわり)へ線香をあげる。自分の部屋よりもしっかりと掃除をして、部屋の中に置きっぱなしになっていたキーを持ち出した。


 葵の愛車を、しばらく手入れされていない様子のカブを勝手に借りた。ちなみに免許は持っていない。もし警察に見つかったら、生徒手帳を印籠よろしく突き出すつもりだ。ビバ権力。


 向かう先は、春原花屋とは別の花屋だ。歩いて行くには割と遠く、カブが残ったままなのは正直助かった。


 買い物から戻ってくる。カブを元あった場所に戻す。


 その足で向かったのは、何の変哲もない道路だった。すぐ近くの自動販売機が真新しいことくらいしか特徴がない。



 向日葵が、殺された場所だった。



 しばらく来ない間に、お供え物はすっかり片付けられてしまっていた。梅雨でしばらく雨に晒されただろうから仕方がない。


「……うん?」


 よくよく見てみると、この献花台に使われている金属の板は、


「……これ、ドール・マキナの装甲板じゃない?」


 ビームハゲ、対ビームコーティングがビームを弾いた時に出来る、特徴のある痕跡が残ってる。今までは板の上に花やお菓子やジュースが置かれていたので、ずっと気付いていなかったのだ。


(……ドール・マキナに殺された子のお供え物を置くのに、装甲を使うのってどうなん……?)


 まぁいいや、と思い直した。だってもう、今更だ。


 献花台に残っているのは、ペットボトルを切って作った花瓶が1つだけ。これだけ撤去されずに残っていたのは、風で飛ばされないようにとガードレールのポールに針金を使って固定されているからだろう。


 買ったばかりの花を入れる。真新しい自販機で水を買い、花瓶の中に水を注ぐ。


 そして、静かに手を合わせた。


(……向日葵ちゃん。アオイ先輩を助けるのに、力を貸して)


 その願いはどこにも届かない。その願いは誰にもかなえられない。


 だって、ゴーストを操っているのは、他でもない星川葵本人なのだから。


   ●


 封鎖された三車線道路を、護送車が走っていた。前後左右には護衛のパトカーが一台ずつ。


 さらに後ろには、ゆっくりと歩く巨大なドール・マキナの姿があった。全身は漆黒で、胸には金に輝く五角星。頭部には天使の輪のようなアンテナ。聖技だけが操縦出来るドール・マキナ、ルインキャンサーだ。


 コックピットから視線を横に向ければ、歩道には珍しい新型機を見ようとする者たちでごった返している。歩道と車道の境目には、彼らが道路に出ないようにと警官たちが壁を作っている。


 虫取りにでも行きそうな短パン小僧ファッションから一転、アガルタに戻った際に聖技は、アストラの隊服に着替えていた。スカートなのが心許ない。オマケに長丁場に備えてのオムツ装備なので尻の座りも悪かった。


「あのー、今さらですけれど」


 アガルタへの通信は既に開いている。作戦司令室にいる石川たちへと問いかける。


「これ、ボク戦っちゃマズくないですか?」


『本当に今更だね……』


 ルインキャンサーの主兵装、ルインフィンガー・ランチャーは、攻撃範囲も広ければ破壊力も凄まじい。明らかに街中で使うには向いていない兵装である。


『だーいじょうぶ大丈夫ー! 市街地でも戦えるようにさー、突貫工事でルインザンバーを取り付けたんだからさー!』


 そう答えるのは、オペレーターとして参加しているボマーズだ。


 ルインキャンサーの両足側面には装備が追加されていた。未完成の合体機構、その一部を加工して作った収納機だ。その中には幅広のプラズマ短剣が収納されている。


『あ、なんか急に不安なってきた。火器管制パネル(FCS)にちゃんと表示されてるよね?』


「大丈夫です。されてます」


 麒麟は今回、アガルタには詰めていない。ルインキャンサーに乗っているのが花山院学園生徒会長東郷麒麟ではないというアリバイ作りを兼ねて、夏休みが始まったばかりの学生寮で羽目を外す馬鹿がいないか絶賛パトロール中である。


『そこまで不安になることはないよ。何せゴーストは現れない可能性の方が高いからね。スター3も知っているだろうけど、ドール・マキナは基本的に大きい方が強い。そしてゴーストはかなり慎重な性格だ。全長30メートルのルインキャンサーに対して、ゴーストは推定8メートル。仕掛けてくる可能性はかなり低いよ』


「それに今はお昼ですしね。ゴーストは夜に出てくることの方が多いみたいだし」


『いんや聖技ちん。ちょっとその認識はマズい』


「え?」


『最初の方こそ夜しか活動していなかったけど、最近だと夜じゃなくても容赦なしに動いてる。実際、一回目の護送車襲撃は夕方だったし』


『とは言え慌てる必要はないよ。ゴーストの武装はビームソードしか確認されてない。そしてルインキャンサーはビーム兵器に対しては絶対無敵だ。体当たりでもされたら困るけど、身内でなければルインキャンサーが見掛け倒しのポンコツ機だなんて知らないよ』


 突然だった。ブツリという音と共に、アガルタとの通信が切れたのだ。


 その瞬間、ルインキャンサーは大きく踏み込んだ。足からルインザンバーを引き抜く。金に輝く刀身を切り上げる。


 刃が護送車の真上を通った瞬間、 ビームの刃とプラズマをまとう刀身が、激しく鍔迫り合いをしていた。


 視界の端が、野次馬の姿を捉えた。まだパニックが起きる前の、何が起きているのかを誰も理解できていない群衆の群れ。


(あっちには、落とせない!)


 手首を返す。刃の角度を変え、勢いよく上方向へ。狙い通り、敵は歩道側ではなく道路の方へと弾き飛ばされた。


 前に出る。護送車と護衛車両がルインキャンサーの股座の下を通っていく。


 苦も無く着地した敵は、その全身に、黒いもやをまとっていた。


 ゴーストだった。



「って出てきてんじゃねーか! 隊長の噓つきィ!!」



小学生らしき男児がバイクを運転していると通報があったとかなかったとか

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