バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 9
関東一帯は、すっかり平和になった。
葵たちが外国人犯罪者の拠点を多数潰したからだ。ドール・マキナの有無を問わず、犯罪自体が激減した。
そして、狩れば狩るほど獲物が減るのは当然の摂理である。葵が憂さ晴らしする相手もいなくなった。
ガーランも探しているが、成果は全く上がらない。妖精の眼は、大まかな感情が見える能力だ。既に大きな犯罪を犯した者や、その準備をしている者たちであることは判別できる。一方で、『犯罪目当てに不法入国したが、今は情勢が悪いので大人しくしていよう』と考えている犯罪者予備軍と、『バイト先のクソ客がムカつくんでぶん殴ってやりたいがそういうわけにもいかない』と考えている善良な外国人労働者とを区別することが出来ない。
勘違いをしてはいけない。葵は外国人を殺したいわけではない。罪を犯したにも関わらず、いけしゃあしゃあと生活している社会のゴミを処理したいだけなのだ。
その基本に立ち返ったことで、葵は新たなターゲットを見つけることが出来た。
護送車である。
護送車とは、犯罪者を輸送するために使う特殊車両である。
つまり、乗っているのは犯罪者に他ならないわけである。
「なるほど完璧な理屈だぜぇ~~~! 運転してんのが何の罪もない善良な警察官だっつー点に目をつぶればよぉ~~~!」
ライナスが日本から離れ、ガーランと2人だけになった薄暗いアジトで、葵たちは打ち合わせを続ける。
「その辺どうするつもりよ? 外国人っつー確証もねぇしよ、外に出た瞬間を狙うのか?」
「アンタの『眼』で外国人が乗ってんのかは分かんねぇのか?」
「無理だな。ローズ・スティンガーなら出来るんだろうが」
「ま、上手くやるさ。どーせ犯罪者が乗ってんのは変わらねぇんだからよ」
「おう、やってみ」
やってみた。同乗していた警察官と護衛車両を巻き込んで、多数の死者を出すことになった。
「やっちまったなぁ!!!」
「的が動くんじゃねぇよクソが! おかげで手元が狂っちまった!!」
「で、次はどうするよ? また護送車か?」
「いんや、実際やってみて思ったんだけどよ~、ちまちま狩ってたって埒が明かねぇよなぁ~。毎日シューチューなんてやんねぇしよ~」
シューチューとは集中護送のことだ。被疑者や犯罪者十数人をまとめて護送することを言う。
いいこと思いついたと、ニンマリと葵は笑った。
「オレぁ平成の人間だからよぉ~、やっぱ効率を考えて賢く生きねぇとなぁ~」
というわけで、次は外国人用刑務所を襲撃した。大量の死者が出た。巻き込まれた職員も大勢いた。
「うーし大量大量! この調子で全部回るぜ!」
「外国人用のとこだけにしとけよ。必要以上にゲシュペンスト・ローヴェの痕跡を残すのは避けねーとな」
「チッ、しゃーねーなぁ~」
葵の暗躍は止まらない。どこか近隣でテロが起きれば介入、犯罪者は殺し警察はドール・マキナを破壊するに留め撤収する。警察が外国人犯罪者グループの拠点を発見、制圧すると、その警察署を直接襲ってその場にいた外国人らしき風貌の者たちを全員殺した。この事件でとうとう警察から懸賞金が掛けられることとなったが、葵の勢いは留まるところを知らない。ガーランが妖精の眼によって犯罪に関与している者が大学にいることを突き止め、葵はその者たちが住む学生寮にすら、躊躇なくビームソードを突き刺した。
葵のタガは、完全に外れていた。
●
セミが、鳴いていた。
早朝、森からそれなりに距離があるはずの、花山院学園のヘリポートまで大合唱は届いていた。
そして、セミの鳴き声をかき消すほどの大声を出す少女が一人。
「せ、い、ぎ、さぁ~~~~ん!!!」
ガブリエラだった。
「あぁ~! 2学期まで会えないなんて、さみしさの余り死んでしまいそうですわ~~!!」
抱きしめるというにはいささか乱暴だ。まるで鯖折りかベアハッグか。外国人らしい大仰なボディランゲージであると言えなくもない。さもあれ大柄で爆乳のガブリエラの胸の中に、小柄でツルペタな聖技の身体が埋まっていく。
「ウサギと言うにはガブリエラ様はいささか大き過ぎると思いますが。それと、現在進行形で聖技さんが死にそうになっております」
まるで食虫植物の捕食行動だ。永はそう思った。
「あら、これはごめんあそばせ」
ようやく聖技は捕食行動から解放された。深呼吸をする。朝の清涼な山の空気が美味しい。たまにヘリコプターの鉄とオイルの臭いが混ざるのが玉に瑕で、あさりの味噌汁を飲んでる時に混ざる砂利を思い出した。
「ていうかガブちゃんさ、暑くないのそのカッコ」
「クッッッソ暑いですわ!!」
すごくいい笑顔でガブリエラは返事をした。
だよねー、と聖技はそう思う。聖技が半袖短パンという小学生高学年男子に間違われかねない姿で、永は避暑地を訪れた深窓の令嬢といった格好だ。どちらも涼しげな服装をしている。
ガブリエラが着るのは、シュッツエンゲルの正装である紺色のキャソックだった。首から下に肌の露出は一切なく、袖から先すらも白の手袋で隠されている。
首元にはマリウス教のシンボルマーク、二つの円が交錯したロザリオ。ガブリエラがいつも身に着けているものだ。
肌を全く出していない一方で、ガブリエラの豊満な肉体のラインはくっきり浮き出ていた。これはこれで興奮しそうな男が大勢いそうだなと聖技は思う。こういう事態でなければ聖技も素直に興奮したかった。
「一応ですけれど、これでも夏用なんですのよ……。日本の夏、ヤバすぎますわ……!」
「ちなみにですが、ドイツの夏は最高気温20度程度とのことです」
「うへ~涼し過ぎじゃん。いや涼しい通り越して寒そうだなオイ。ていうかその格好ってことはシュッツエンゲルのお仕事ってこと?」
「そう……そうなのです!」
ガブリエラは聖技の手を両手で掴み取る。
「2学期には間に合うはずですが、もし伸びれば聖技さんと再会できる時間が遠く、遠く……! なのでもう少し聖技さん成分を吸っておきますわ」
そのままスムーズに再びの捕食行動。
「ですが、ええ! どうか待っていてくださいまし! 戻って来た暁には、きっと聖技さんのお力になれること間違いなしですわ~~~!!!」
「で、永ちゃんも帰省?」
「あぁんいけず……!」
「はい。聖技さんもこれから出られるのですよね?」
「うん。外出禁止令も取り消されたし、とりあえず青梅行ってくる。その後はなんか財閥から頼みたいことがあるらしくって。そっちのスケジュールはガブちゃんと同じ感じかな?」
話を持ってきた石川曰く、新学期には間に合う予定だが、何か問題があれば延長される可能性もある、とのことだった。
「そうですか。葵様にもご自愛なさるよう、どうかよろしくお伝えください」
葵の性質の悪い風邪は、未だに続いていることになっている。
そして、それぞれの出発時間がやってきた。
2機のヘリコプターが浮き上がる。風で聖技の服がはためき、聞こえるはずもないのにヘリコプターからガブリエラが聖技を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ヘリコプターの音が遠ざかっていく。
セミが、鳴いていた。
葵が行方不明になっている間に、夏休みが始まった。
というわけで葵視点が終わって再び聖技視点です
どうでもいいけれどヘリコプターって『ヘリコ・プター』で区切るのが正しいのに、ヘリポートのことをヘリコポートって誰も言わないよね




