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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 8


 買い出しに出かけていたライナスが、大荷物を持ってホクホク顔で戻ってきた。その荷物の大部分は、誰がどう見ても食料ではない。なにせ葵でも知っている程度には有名な、大型書店の紙袋だったのだ。


「いやぁ、日本に来た甲斐がありました! 世界があの情勢ですからねー。ジャパニーズコミックなんて海外には全く出回ってないんですよ」


「その元凶、そこのご親友だぞ」


 呼ばれたガーランはノートパソコンを注視したまま、こちらの方を見もしなかった。


 薄暗い倉庫の中、隙間から差し込んだ光が、床に転がったままだったレンチに反射する。ゲシュペンスト・ローヴェのメンテナンス用の道具の一つだ。


 そこからさらに視線を奥にやれば、複数の種類の週刊少年誌や月刊少年誌が大量に積まれていた。号数や月号を見るに、ガーラン達は2、3ヶ月ほど前からここを拠点としていたのが推測できる。


 とりあえず何か腹に入れようと、葵はライナスの下へと近付いた。袋から取り出したのは有名どころの肉まんだったが、食事に興味の無い葵にとっては5個入り100円のレンチン肉まんと大した差はない。


「アオイも読みますか?」


「読まねぇよ」


「まぁまぁ、そう言わずに。これなんかお勧めですよ。ちょうど昨日、続巻が出たばかりなんです」


 そう言うと、ライナスは一度に3冊を葵に渡した。どれもイラストが描かれた表紙で、なんと無しに中身を覗いてみる。


「……?」


 漫画みたいな表紙に反して、中身はズラリと文字が並んでいた。妙に空白が多いように感じるし、妙に擬音が多いようにも見える。が、どうにも小説のようだった。


「……???」


 葵は混乱した。例えばだが、授業中に教師の目を盗んで漫画を読むために、教科書をカバーにして中身を隠すのであれば理解できる。まぁ授業中に漫画なんか読んでんじゃねえよとも思うのだが。


 表紙を見た。少なくとも葵の知識の上では、どこからどう見ても漫画の表紙だった。


 中身を見た。たまに漫画チックな挿絵が入っているのが気になるし、妙に空白が多いのも気になるが、やはり中身は小説のようだ。


 理解出来なかった。逆の事象に。小説の表紙が、漫画になっていることに。


 漫画と小説。水と油のように交わらないと思っていたものが融合しているのを見た葵は、混乱の坩堝へと落とされた。


 あははははは、とライナスの笑い声が聞こえる。


「未知のスタンド攻撃を食らっているみたいな顔してますよ」


 星川葵、ライトノベルとの初遭遇だった。


「分かったぞ!! 分かったぞ!! 分かったぞーーー!!!」


 突然、ガーランが勢いよく立ち上がった。


「うっせーな今度は何だよ!?」


「オレサマにはな、長年、調査しているものがあった……」


「オイ急に語り始めたぞ」


「まぁしばらく聞いてみましょう」


「オレサマの『妖精の眼』は色んなモンが見える特異体質だが、最初からそれが何なのか分かってたワケじゃねぇ。観測による情報の蓄積が必要だ。特に厄介だったのが感情だ。人間は感情を隠す生き物だからな」


「はぁ」


「大抵の感情は状況と観察と調査で突き止めることが出来ていたんだが、ずっと昔から、一つだけ不明な『色』があった。かなり珍しい色でな、その日見えていたと思ったら、翌日からはもう見えなくなっちまうばかり。皇族っつー立場もあって、一般人相手の追跡調査も難しい。だがついにっ! オレサマはこの謎を解決することが出来た!!」


「それで、一体何だったんです?」


 ライナスがそう聞くと、ガーランはドヤ顔で、鼻から息を大きく吸って、こう言った。



「『風俗で童貞を捨てようと覚悟を決めた男の感情』だッッッ!!!」



「…………」


「…………」


「なーなーロン毛ー。アンタの髪ってめっちゃキューティクル効いてんじゃん。どんな手入れしてるん?」


「特別なことは何もしていないと思いますよ。ですがまぁ、そうですね。強いて言うなら、日々をストレスなく楽しく生きているからとかですかねぇ」


「おうこら聞けや天才サマの世紀の大発見だぞ。つーかアオイ、テメェ髪なんぞに興味ねーだろーが」


「おいおいオレだって女だぜ。髪の手入れに興味津々勇気爆発だわ。つーかなんなん、そのテンション?」


「たまにああなるんです。宝探しで宝を見つけた時とか」


「……何? お前らそんなことしてたの? 王族様皇族様ってお暇なの?」


「あまり馬鹿にしたものでもありませんよ。例えば私の愛機はガルが10歳の時に設計したものですが、ベースになったのは城内の宝探しで見つけた、50年も昔の設計図です。それに古本屋でずっと探していた漫画を見つけた瞬間なんて絶頂ものですよ。私もほぼイキかけましたね」


「テメーの変態性癖は聞いてねーんだわ。話の上下落が激しすぎんだろ」


「は~ああ~ああ…………」


 ガーランはこれ見よがしに落ち込むポーズを見せた。図体がデカいのでため息もデカい。しょーがねーなぁ、と葵とライナスは顔を見合わせ、


「キレてるよ! キレてるよ!」


「肩に冷蔵庫乗せてんのかい!?」


 急に一芝居うつことにした。


「なぁ~に言ってんだテメーら」


 そう言いながらも、ガーランはニッコニコでポージングを取った。



 その日の夜、狙っていたグループがドール・マキナを隠し持っているのを昼のうちに突き止めていた葵は、被害を無駄に広げる意味もないだろうと、アジトを直接攻撃した。


 ただ、ちょっと不法に入国して、ちょっと軍用ドール・マキナを不法に保持していただけの若者たちを、全員しっかりと、殺した。


   ●


「ワッハッハッハッハ!!!」


 両手をバシバシ叩きながら、ガーランは馬鹿笑いしていた。


 眼前、ガーランの巨躯からみれば呆れるほど小さいブラウン管テレビに映っているのは、砂嵐から復帰した謝罪会見会場だ。動く人間は無く、人間だったものだけが映っている。その映像の中でも、ガーランの眼はしっかりと捉えていた。、夜闇の中に消えていくゲシュペンスト・ローヴェが発生させた黒いもや、黒い(フィーテ・)森の(ダンケルハイト・)深い闇(シュヴァルツヴァルト)を。


「クッククク、やるかねと思ってたがマジでやりやがったぜアイツ。リークした甲斐があるってもんだ」


「笑って出ていきましたからね、アオイ。……ところでガル、迎えに行かなくていいんですか?」


「イクスん中じゃテレビ見れねぇだろうが。それにファーフナーだけでもお遣いくらい出来らぁ」


 う~ん、とライナスは少し唸った。この拠点が見つかるかも知れないと不安視したが、すぐにどうでもいいや、と思い直す。


「まーガルがそれでいいならいいですよ。どうせ私はもうすぐ日本を発つわけですしねぇ……」


 そう言うと、読みかけだった漫画の続きを読み始めた。テレビの中では局員が気付いていないせいで、今もまだ、死体の腕が映ったままだった。


Q.4話で一回聞いたけど、葵の服を買いに行く辺りの話って必要だった?


A.発信機が付いていなくて顔を隠せて護衛も持っていると知らない服を手に入れるために必要だった

  たのしい!たのしい!地獄への道を善意で舗装するのたのしい!!!

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