バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 6
暗い。照明がついていないし、窓は全て板か何かで塞がれているようだった。
それでも、その暗闇の中でも、そこに誰かが座っているのは分かった。
巨体だ。ゴリラに長い足を付けて毛を刈り取って人間の顔を付けたような、巨大な男がそこにいた。無造作に伸びた金髪を雑なオールバック風に後ろに長し、目にはスポーツ型の偏光サングラスを装着している。
葵はこの男のことも知っている。ライナス・ロンゴミニアドを知っていて、この男を知らないはずがない。ライナス・ロンゴミニアドがこの国にいて、この男がこの国にいないはずがない。
自然と、頬が歪んでいた。
「よぅ、教皇殺し」
第三次世界大戦を引き起こした元凶―――ガーラン・リントヴルムが、そこにいた。
「ンだよ、思ってたよかビビってねぇな」
「アイツがいる時点でテメェがいるなんざバカでも分かんだろ」
ライナスを顎で指す。いつの間にか変装は解かれて、元の顔と紫色の髪に戻っている。
「ま、そりゃそうだ」
ガーランとライナス、2人の関係を端的に表すと、『親友』だ。
ドイツの皇族であり、同時にローマ教皇の孫でもあるガーランは、工学面での才覚にも恵まれていた。イギリスの名門、ケンブリッジ大学を10歳で主席卒業している。その留学中に交流を深めていたのが、イギリス王族で同い年のライナスだ。
「で、天才サマが単なる女子高生に何の用だよ」
「ただの女子高生じゃあねぇだろうよぉ? えぇ? 『ブラックオーガ』のパイロットがよぉ」
「なんだそりゃ。アニメのマスコットか?」
そう誤魔化したが、葵はブラックオーガの意味を完全に理解していた。マガツアマツ壱号機リコリスは、現在中国で試験運用中だ。その正式名称を知らない者たちが付けた通称が『レッドオーガ』であることを葵は知っている。つまりブラックオーガとは、どう考えてもマガツアマツ肆号機クロユリのことに違いない。
「なぁ、つまんねえ腹の探り合いは無しにしようや。確信してなきゃあライにわざわざ助けさせねぇよ」
「助ける? 別にオレぁ助けられてねぇぞ」
「オイオイオイ耄碌したかぁパーフェクト・ゴールドさんよぉ? テメェが花屋の小僧を殺すのを、テメェの護衛に止められなかったのはどうしてだぁ?」
「あ?」
「答えは簡ッ単ッ! テメェが仕掛けるのにタイミングを合わせて、ライに排除させたからさぁ!!」
葵は露知らぬことだが、石川が的外れな推測をすることになった原因こそがこれだ。
石川は、葵の善性を半分ほどは信じていた。まさか友人を殺すまいと。けれどももう半分ほどは、まぁうっかり魔が差したら殺しちゃうかもしれないなぁ、とも思っていた。それでも状況次第では護衛が事前に止めれるだろうと考えていたし、最悪殺してしまったとしても、葵の戦闘能力では護衛から逃げることはどう考えても不可能だと確信していた。
だからこそ想像の埒外にあった。かつての仲間であるガーランが、葵の復讐に協力することを。世間では第三次世界大戦を引き起こした悪人であると言われていても、どうしてガーランがローマ教皇を殺さなければならなかったのかを、その真意を知っているからこそ、今でもガーランとライナスを仲間だと思っている石川には、2人を疑うという下地が無い。
「で? 親切の押し売りをしたからその分を返せってか?」
「別にンなこたぁ言ってねぇよ。オレサマはなぁ、世界を平和にしたいんだ」
「…………は?」
「ンだぁ? 聞こえなかったのか? オレサマの目的は」
「聞こえてるよ。何馬鹿な妄想言ってんだって呆れてんだよ」
「荒唐無稽だって思うかい? けれどもよぉ、オレサマには世界を救った実績が2度もあるんだぜぇ?」
事実だった。石川からも、ガーランの話は何度も聞いている。特に一度目の世界滅亡の危機が中国人10億人の虐殺と中国が滅びる程度で済んだのは、間違いなくこの男が発明したローズ・スティンガー鎮静装置によるものだ。
「その上天才だ。だったら出来るに決まってんだろ、世界平和くれぇよぉ」
出来るかも知れない。そう思わせるだけの説得力が、確かに目の前の男にはあった。
「で? その世界平和の伝道師サマが、オレに何の用なんだよ」
ガーランは暗闇でも分かる程にニンマリと笑い、
「ハッピーバースデートゥユ~♪ ハッピーバースデートゥユ~♪」
野太い声で、突然歌い出した。バチンバチンと馬鹿でかい手拍子も添えて。
もちろん、今日は葵の誕生日でも何でもない。
「ハッピーバースデーディアアオイ~~~♪ ハッピーバースデー! トゥ! ユゥウウウウウ!! ハーァッハッハッハァ!!!」
ダダダダダンッと高い音を連続で鳴らしながら、強力な照明が灯った。思わず目をつむり、腕で影を作って顔を反らす。しばつく目蓋を無理矢理に開く。
巨人がいた。
ドール・マキナだ。頭部はライオンの形をしている。さらにドール・マキナなのに服を着ていた。パラディンを始め、一部の欧州系ドール・マキナに使わる装甲服だ。袖は無く、肩から先は露出している。露出した両腕には四角いブロックが、まるで拘束具のように左右に4つずつ付いていた。
何よりも、葵はその姿に見覚えがあった。
知っている。
それは、世界でもっとも有名なドール・マキナだ。
それは、初めて作られたドール・マキナだ。
だが、知らない。葵はこんな機体を知らない。葵が知るそのドール・マキナは、こんな色をしていない。
「黒い、ローズ・ローヴェ……!?」
「力を貸せ! アオイ・ホシカワ!! 世界平和を実現させるために! 共にオレサマが! テメェが!! 望む世界を作るために!! 今日はそのために、テメェが生まれ変わる日だ!!!」
ガーランが起動キーを投げ、葵はそれを掴み取った。
「ゲシュペンスト・ローヴェ!!! 生まれ変わったテメェへの、誕生日プレゼントだ!!!」
そう言われた葵は、目をらんらんと輝かせて、獰猛な笑みを浮かべていた。
凄い前にどこかで説明したはずなんですが、この世界の多摩地区は長年にわたりドール・マキナ開発を主力産業としていました。
なのでその辺の倉庫でもドール・マキナが収納できたりするんですね。




