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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 3


『次のニュースです。武装勢力と疑われる拠点が、ドール・マキナと思われる攻撃によって倒壊しました。被害者は全員死亡、身元は判明が不可能な状況とのことです。他の構成員の有無は現在も調査中となっており、同勢力の管理下と思われる戦闘用ドール・マキナ4機が押収されています。警察は情報提供を呼びかけており―――』


「……これ、例のヤツと同じだと思います?」


 さらに数日後、応接室のテレビで流れるニュースを見ながら、聖技は石川に質問を投げた。


 石川は一度煙草を吸ってから、


「鑑識の報告待ちだね。そんなのを予想しても意味ないよ」


「うーわつまんない答え。部下とコミュニケーションとる気ないんですか?」


「はいはい。とは言え僕の予想が当たってたみたいだね」


「? 何予想してましたっけ?」


「件の襲撃犯は、ポツダム半島勢力のアジトを把握しているかもしれないって話」


「そんな話してましたっけ?」


 こいつの方こそ上司とコミュニケーションを取る気がないんじゃないか。そんなことを思ったが、大人だった石川は口には出さなかった。


「まぁ痕跡が同じでも同一機ってのが分かるだけで、同一犯かの確証は得られないんだけどね」


 次の煙草に火を付けながら、石川はそうぼやいた。


「え?」


「同型機の攻撃なら、痕跡は酷似、似通うことになるでしょ」


「ダメじゃないですか!? ていうか今回アジトを直に襲撃じゃん!” うあ~どうしよ~~~アオイ先輩無事かな~~~!?」


 すっかり葵がポツダム半島勢力に誘拐された前提で話しているな、と石川は思った。現状、そうだという証拠は何一つとして見つかっていないのが実情だ。


(けれども逆に、そうではないって証拠も見つかってないんだよなぁ……)


 護衛が襲撃されたのは単なる偶然で、何もかもが嫌になった葵が追跡を避けるために服や荷物を捨てて逃げ出した可能性だってゼロではないのだ。せめてクレジットカードや預金の引き落としの痕跡でも見つかればと思うのだが、カードも通帳も葵は持ち出していなかった。もちろん事件発生の前に大量の現金を引き落としてもいない。


 とはいえ、今は聖技のメンタルケアの方が優先だ。


「手土産にされてる可能性はあるなぁ……」


「手土産?」


「そう。殺されたくない連中が、花山院の小娘を渡すから命だけは見逃してくれとか、傘下に入れてくれとかの交渉材料にされてる可能性」


「……その場合、アオイ先輩ってどうなるんです?」


「連日の事件の襲撃者、警察が『ゴースト』って名付けたアンノウンの下にいることになるね」


 ゴースト。それは、その未確認機の外見的・性能的特徴から付けられた名前だった。


 まず第一に、ゴーストはレーダーや遠赤外線カメラなどの、非光学的な探知器や観測機器に映らない。


 第二に、全身が常に黒い()()で覆われており、外見的子細が不明瞭なままである。


 そして第三に、ゴーストの活動時、周辺一帯に強力な電波障害が発生する。これは今回の拠点襲撃事件で新たに判明し、世間にはまだ公開されていない情報だ。発覚がこれまで遅れたのは、そもそもアーバン・ジャミングによって治安を維持する側が通信障害を起こしていたせいだった。


(……春原ギャラクシィが襲われた時、同じく謎の電波障害が発生していた。何らかの関連性はある、と考えていいだろうな)


 無論、捜査当局も同様の推測に至っているだろう。


(ま、こんなことを考えたところで、僕に出来ることはないんだけどね)


 イタリア半島が消滅した件の首謀者と疑われている石川は、多数の外国人に恨まれているからだ。下手に表を歩こうものなら様々な組織が多種多様な手段でその命を狙ってくるだろう。普段から地下基地アガルタに引きこもっているのもこういう理由からである。


 そんな状況で捜査に加われるはずもなく、今の石川に出来ることと言えば、葵の捜索隊に指示を出すことと、聖技と推理ごっこをすることくらいなものだった。


「厄介なのは、彼女が既にポツダム半島に連れ去られてしまった、というパターンだ」


「そうなんですか?」


「逃げ出してしまえばすぐにでも助けを求められる日本と違って、ポツダム半島では仮に逃げ出せたとしても、助けを求められる相手がいない」


「あ~~……」


「とはいえ、悪いことばかりでもない。そうなった場合、しばらくの間は身の安全は保証されるだろうからね。何せ大切な()()()なわけだからさ」


「え~っとぉ? ……本当にそれ、安全なんです?」


「あぁ。それなりの規模の組織の元にいるってことだ。仮に内輪もめを起こしても手は出されにくいだろう」


「でもアオイ先輩の場合、内輪もめに乗じて逃げだしたらそこら中で殺したい放題だぜやっほい! ってなりません?」


「……………………君、星川さんシミュレーター上手いね」


 石川は長々と紫煙を吐き出しながら、絞り出すようにそう言った。苦笑しようとしていたが、全く笑えていなかった。あの女ならやる。やりかねない、ではなく『やる』。そうありありと石川にも確信できたからだ。


 その後も聖技と石川は推理にもならない推察を続けていく。ケーキスタンドの軽食は全く減らず、喉をうるおすための紅茶ばかりが消費されていく。灰皿には吸い殻が積もっていき、


『見てくださいこの大きなカニ!!』


 いつの間にかニュースは終わり、次の番組が始まっていた。


 カニなんかどうだっていいよ。そう思いながら、聖技は他にニュース番組をやっていないかとチャンネルを変えていく。一通り回しても目的の放送はやっていなかったのでテレビを消すと、フン、と鼻息荒く今日の新聞をテーブルに広げた。


   ●


 高そうなスーツを着た大人たちが並んで頭を下げていて、バッシャバッシャとフラッシュが炊かれる様子がテレビに流れていた。右上には『生放送中』の文字もある。


 葵の所在は未だに分からず、未確認機にゴーストという通称が付けられてから数日後。本日の授業を終えた聖技がアガルタの応接室に来て最初に目にしたのは、何らかの謝罪会見らしき放送と、それを視聴している石川の後頭部だった。


(オッサンのハゲ頭と隊長のふさふさ頭くらいしか情報がない……)


「何やってるんですこれ。政治家がお米券配ったとか?」


「そこはせめてお食事券っていいなよ」


 聖技の方を見もせずに、石川はそう返事をした。


「とある企業がねぇ、ロシア経由でポツダム半島との繋がりがあったみたいで、今その親会社が」


 石川が説明している途中だった。突然テレビ映像が砂嵐になって、ザーザーと耳ざわりな音を立てたのだ。


「あれ?」


 石川がチャンネルを切り替える。同じく謝罪会見を生放送中だったであろう放送局は同じように砂嵐が流れており、そうではない放送局の番組は普通に映っている。


「受信機が壊れたのかと思ったけど、違うみたいだね」


「アーバン・ジャミングじゃないですか?」


「いや、アーバン・ジャミングなら事前に避難警報が鳴っているはずだし、ジャミングの実施には少し猶予時間がある」


 石川はノートパソコンを起こして操作した。


「やっぱり、警報はどこにも発令されていない」


 テレビは砂嵐が映ったまま、画面左下には司会者らしき男のワイプが表示されており、生中継先へと呼びかけを続けている。


「そうだ、『ゴースト、正義の味方か』だそうですよ」


「何それ?」


「2ちゃんねる。インターネット掲示板で、ゴーストが軍や警察より先に犯罪組織を倒しまくってるから、そういう意見があるみたいです」


「最も危険なのは愚者でも賢者でもなく、無能な働き者ってことだねぇ」


「なに意味の分からないこと言ってるんですか。かっこつけ?」


 ハンスとゲーテが混じっているぞ、と突っ込んでくれる知識人はこの場にいなかった。


 急に砂嵐が映ったのと同じように、急にテレビ映像が復活した。



 死体が、映っていた。



 誰がどう見ても死体だった。死んだふりなんかではない、100人が見れば100人が死んでいると確信できるような状態の、死体だった。


 直後に画面が切り替わる。色鮮やかな紅葉が映り、『しばらくお待ちください』の文字。


 石川がチャンネルを切り替える。同じく生放送中だった別のチャンネルだ。そちらも同様に砂嵐は収まっていた。しかもまだ放送が生きている。幸運にも死体が映る角度ではなかったらしい。いや、よく見ると端っこの方に誰かの腕らしきものが映っている。放送局はまだ気付いていないのだろう。床に転がったらしいテレビカメラが、砕けた壁を映していた。


 遠くに、黒いもやが動いているのが映った。


「……あの、隊長、今ちょっとだけ映ったのって」


「どうやら、正義の味方とやらではなかったみたいだね」


 皮肉気に顔を歪めながら、石川はそう言った。


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