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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第5話 バッドガール・ミーツ・バッドボーイ
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バッドガール・ミーツ・バッドボーイ 2


 葵が行方不明になってから、数日が経過した。


 聖技は一応、その間も登校を続けていた。


 ガブリエラたちには石川から指示された通り、「葵はたちの悪い風邪にかかったので、しばらく休むことになりそう」と伝えている。


 ロシア文化研究室は今はそれどころではない。一時休止にしてもらった。


 そして、学園が終わった今、


「むむむむむむ……」


 聖技は地下基地アガルタの応接室のテーブルを占有し、広げた新聞に目を通している真っ最中だった。


「むむむむむむ……」


 横にはまだ目を通していない新聞が置かれていて、その上には黒猫マンティのルキが寝転がっている。


「むむむむむむむ~~~」


 葵に繋がりそうな情報がないかを探しているのだ。なお、進捗は芳しくない。


 この状況で登校しているのも、生徒たちが何か情報を得ているのではないかと期待してのことだった。が、有力なものは何もない。考えてみれば当たり前だった。花山院学園は山奥の閉じた環境だ。その状態で生徒が手に入れる外部の情報と言えばテレビや新聞を除けば親兄弟からのもので、そしてその親兄弟の立場は政府官僚や軍将校、大企業の経営者などばかりである。主婦の井戸端会議みたいに、どこそこの家に見知らぬ怪しい人間が出入りしているといったうわさ話をするはずがないのだ。


 普段は使っていない脳の部分が熱を持っているのを感じながら、苦労してようやく一部を読み終わった。


「ルキ~どいて~、下の取るよ~」


 動かなかったので持ち上げる。金属生命体(マンティ)だからだろう、サイズの割にずしりと重い。成猫程度の大きさなのに、まるで重いダンベルを持ち上げているようだった。


(そういえばリセちゃんとかけっこう軽々と抱いてるけど、ひょっとして結構なパワーの持ち主……?)


 猫をどかして次の新聞へ。再び脳を過熱させながら長い時間をかけて読み終える。またもや猫をどかして夕食を食べながら読み進める。


 聖技がその情報にたどり着いたのは、日付が変わろうとする頃だった。最後の新聞の、一面の目次にも載っていない小さな記事だ。


 ―――『未確認機、テロリストを撃退』


 ふと、葵から教えてもらったことを思い出す。テロリストというのは、政治や宗教的な主張を、犯罪を通してアピールする者たちのことだ、と。しかしながら昨今においては、テロリストというのは『ドール・マキナで暴れる犯罪者たち』という意味で使われることが多い。記事の内容を確認する限り、ここでのテロリストは後者の意味のようだ。


(えっと、昨日の夜、暴れていたドール・マキナ3機を、軍や警察の到着より先に撃退した謎のドール・マキナがいる、か……)


 この『テロリスト』たちは、もしかしたら葵と何か関係があるかも知れない。だがこの謎のドール・マキナによって、パイロットたちは全員死亡してしまったらしい。暴れていた方のドール・マキナは全機パッチワーカーで、ポツダム半島からの不法入国者ではないかと推察されていた。新聞記事にはさらに、警察はこの謎のドール・マキナに関する目撃情報や映像データの提供を求めている、とのことだった。


(謎のドール・マキナ、か……)


 日本の法律では、全長が5メートルを超えるドール・マキナは戦闘用に区分され、無許可での所有は禁止されている。もし所有が発覚した場合にはテロ等準備罪や内乱罪といった、非常に厳しい罰則が課せられるのだ。アストラのマガツアマツやルインキャンサーのように秘密裏に開発された新型機なのかもしれない。


 もう日も遅いが、石川に聞いてみよう。そう思った聖技は、石川がいるであろう執務室へと足を向けた。


   ●


「話は聞いてあげるから、終わったらもう寝なさい。休むのもパイロットの仕事だよ」


「いっつも大きなクマがある隊長が言っても説得力無いで~す」


「管理職の辛いところだねぇ……。その件についてだけど、こっちにも問い合わせがあったよ。お前らがやったんじゃないだろうなって。知ってるだろうけど、答えはもちろんノー。アストラみたいな新型機開発組織は他にもあるけれど、そちらからの回答も同様らしい」


「えーっと、それって、つまり……?」


「軍や政府も、その未確認機については把握できていない。それと、これを見て欲しい」


 壁に取り付けられた巨大モニターが点灯する。表示されたのはインターネットブラウザ、ネットニュースだ。


 聖技が見つけた記事と似たような内容だった。だがどうにも違和感を覚え、持ってきた新聞、その内容と見比べてみる。


 時間帯、倒した敵の数、それに場所も、全部違う。さらには事件が起きた日付も、昨日ではなく今日だ。


「似た事件が連続で起きてる……?」


「そうだ。二日目のほうはまだ調査中だけど、最初の事件の犯人、っていうと区別がつかないな。殺された方の犯罪者たちのアジトはもう捜索されていて、誘拐した人間をかくまっていた痕跡はなかったそうだ」


 聖技はふと、とんでもない可能性を想像した。


「アオイ先輩が抜け出して誘拐犯たちの機体をパクって、暴れまわってる可能性は無くないです?」


「……………………流石に無事を知らせる連絡くらいはしてくると思うよ」


「今の間、あり得るかもって考えてませんでした?」


「脳内でシミュレートしていただけだよ。それに無理でしょ、あの運動能力じゃ」


「まぁボクもそう思うんですけどー」


「現時点では情報が少な過ぎるんだけれど、ポツダム半島の勢力争いが国内で起きている可能性がある」


 石川がそう考えるのは、先日に起きた超大型ドーム状原子力空母による領海侵犯事件が原因だ。ポツダム半島内での勢力争いの敗北者たちが日本に潜り込んでいて、彼らを排除するためにこのアンノウン機が暗躍しているのではないか。そう思ったからだ。


「いや急にそんなこと言われてもよく分かんないんですけど……」


「じゃあ関連することだけ。このアンノウン機のパイロットは、犯罪者のアジトに心当たりがあるかも知れない。その中には、星川さんが捕まっている場所があるかも知れない」


「かもしれないばっかりじゃ、え? アオイ先輩の場所を知ってるんですか!?」


「可能性があるってだけだよ」


「捕まえなきゃ……!」


「だから待ちなって」


 再び飛び出そうとする聖技に対し、石川はドアを遠隔操作でロックすることで対処する。激突音と悲鳴が、部屋の中に響いた。


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