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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第4話 天蓋の箱庭
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蓋天の箱庭 12


「オイオイオイなんだ今の。この学園に似つかわしくない格好の奴がいたぞオイ」


「不良ファッションが言えることかなぁそれぇ!?」


 再び音を立てて扉が開いた。


「まぁいいから早く入って。このカッコ見つかるとヤバいからさー」


 後ろに回った永に押されながら全員が入室する。最後にギャルが首だけを廊下に出して左右を確認し、人の姿が他にないのを確認すると扉を閉める。さらに後ろ手にガチャリと鍵までかけた。


 葵は室内を観察した。大きめの机が等間隔で並んでいて、それぞれにミシンが設置されていた。葵はミシンに詳しいわけではないが、小中学校の家庭科の授業で使った物に比べればかなり新しいもののように思える。


 そして、ギャル1人を除いて、他に人の姿は無かった。そのギャルの隣に永が移動する。


「というわけで皆さま、こちらの方は」


「おっとストップだよ永ちん! ここで正体をばらしちゃあ面白くない!」


「つーかなんなんだコイツ」


 葵は無遠慮に、その姿をジロジロと観察した。着崩されているが高等部の制服だ。ぶらぶらと揺れるゆるゆるのリボンは緑色で、たぶんこれは2年生を表しているものではないかと葵は思う。推測止まりなのは、どう見ても制服で使っているリボンではないからだ。


「つまり不審者だなテメー! おい聖技、ツーホーしろツーホー!」


「いやーんまってーなんでそうなるのー?」


「テメェみてぇなやつ見たことねェんだよ! いくらこの学園がだだっ広いっつてもよー、ンな目立つ格好してりゃーいやでも気付くだろ!」


「あれ、でもボク見たことある気がしますよ。前にどっかで会ったことあります?」


「何ナンパしてんだテメェ……!」


「いやナンパとかじゃあなくってー」


「アタシ中学まで読モやってたからねー。ファッション誌で見たんじゃない?」


「毒物モルモット……!? だからそんな頭がカワイソウな感じに……!」


「読者モデル! どーくーしゃーモーデールー!」


「あーそうかも。誰かが学校に持ってきたやつに乗ってたかも」


「授業に関係ねぇモン学校に持ってくんじゃねぇよ」


「やだ、不良とは思えない発言……! ちなみに普段は普通の恰好してるよー」


「もう一つ付け加えると、葵様と同じクラスです」


「あ、バラされちゃった」


「ツラも名前も覚えてねぇよ」


「都合よしこちゃんじゃ~ん! それじゃあこの格好の時は~、マリンって呼んでね♪」


「分かったよよし子」


「全然分かってなくてウケる~~~!」


「もっかいおんなじこと聞くけどよ、なんなんだよコイツ。他に誰もいねーしよ」


「1人夜な夜なファッションの研究をしているファッション研究室の室長、よし子様です」


「よし子になっちゃった!? ちなみに顧問もいないんだよー。そう、私は孤独なファッションゴリラ……!」


「それを言うならゲリラですマリン様。ファッションゲリラ」


 うんざりした顔で、葵は思ったことをそのまま口から垂れ流した。


「日本語が話せても人類との対話は出来ないタイプ?」


   ●


 一着目。白のオフショルダーワンピース。


「うっは髪色あわね~~~! ボディラインはいい感じなんだけどなーこれ」


 二着目。黒のストラップレスチューブトップにタイトジーンズ。


「腹がガリガリ過ぎて逆に駄目っすわ~~~。内臓がないぞうってやつ~~~?」


 三着目。サラシにボンタンに特服~木刀を添えてウンコ座り~


「もうまんまじゃ~~~んウケるぅ~~~!」


「ぶっ殺すぞよし子ぉ……」


「いや~これはお約束だしやっとかなきゃでしょ~~~」


 場所を移して購買部、婦人服売り場だ。マリンの提案でそれぞれ服を選ぼうという話になった。夏が近いからだろう、聖技たち以外にも、無関係な女生徒たちの姿もちらほら見えている。


「本当になんでこんなの売ってるんです? お土産コーナー?」


「演劇用にイロモノも取り扱ってるのよココ。それに回転率も悪いから、案外当時の流行り物が残っていたのかもね~。ほ~らほら、聖技ちゃんも探した探した~」


「ゆっくりでいいぞーゆっくりでー。一気に3つも着替えて疲れたからなー……」


「もう5着くらい用意してるよ」


「はえーよよし子」


 葵のファッションショー(着せ替え人形化)も気になったが、自分でも何か良さげなものがないか見て回る。マリンに全部任せるわけにはいかない。今後、葵とデートする時に、毎回同伴させていいわけがないからだ。


「あら、聖技さ~ん!」


 こういう機会が無かったであろうガブリエラは、当初の目的も忘れて目を輝かせながら色々と見て回っていたようだった。


「聖技さん聖技さん! このお洋服なんて似合うと思いません?」


 案外小さい。ガブリエラの体格がいいせいで、まるで母親が子供服を持っているようだった。


「ガブちゃん、その服どう見てもサイズ合ってないと思うよ?」


「いえ、これは聖技さんに着せようと思って持ってきたものですわ」


「も~、自分の着る服探しなよ~」


「うふふ、それではわたくしのは聖技さんが選んでくださいまし。あぁ、スリーサイズも伝えておきますわね」


 思わぬところで女子のトップシークレット情報を得てしまった。ガブリエラと別れた後、改めて数字を吟味する。


「え~っと、ボクのウエストが確か51だったから、これの2倍ちょいがガブちゃんのおっぱいか……。よく分かんないな。いや、待てよ。ボクが2人に増えて腰をくっつけ合ったサイズよりも大きいってことか。これ、ガブちゃんのおっぱいでボクの腰がまるごと挟めるんじゃ……!?」


 ともあれ、葵に加えてガブリエラの服も探すことにした。


「あ、永ちゃん発見。永ちゃんもガブちゃんの服探してんの?」


「はい。在野を回る時に、制服やキャソックでは目立ってしまいますし」


「あんだけデカくて滅茶苦茶美人な金髪白人なんだから、どんな服でも滅茶苦茶目立つと思うんだけど……」


「…………それもそうですね」


「そういや聞いてなかったんだけどさー、マリンちゃん先輩と永ちゃんって、結局どういう関係なの?」


「ふむ、そうですね……。聖技さん、レムナント財閥の主力製品が何か、御存じでしょうか?」


「え~っと、ミスリル・リムスだよね」


 ミスリル・リムスは、ミスリルの精神感応を利用することで、通常の手足同様に動かすことができる義手義足のことだ。


 なんで聖技がこんなことをきちんと覚えているのかというと、このミスリル・リムスの技術は、マガツアマツにも流用されているからだ。マガツアマツは、ミスリルを用いて人体の骨格と筋肉を再現することで、達人が身に着けた武術をストレートにドール・マキナの戦闘能力に反映させるという構想で設計された、J.I.N.K.Iと呼ばれるカテゴリーに属している。


「え、もしかしてマリンちゃん先輩ってそうなの?」


「いえ、マリン様は五体満足ですよ。私がお世話になっていた卒業生が、両手両足の全てがミスリル・リムスだったのです」


「ほぇ~、なんか大変そうだね。まぁ周りに使ってる人いなかったから、何が大変かっていまいち分かんないんだけどね」


「公言しなければ気付かれないものですから、想像よりも多いと思いますよ。近年のは人肌に近い質感のものばかりですし、握手をしたり、撫でまわしてもまず分かりません。発熱を利用して、体温を再現する機能もありますので」


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