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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第4話 天蓋の箱庭
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蓋天の箱庭 7


 交戦開始から、1時間程度が経過した。


「減らねぇー!!!」


『いやー減ってはいるんだけれどねぇ……。スター4、見える? 木馬の下側、ちょうど今敵機が出てきた穴。発着場』


「補給してんのかよ……!?」


 葵は即座に状況を理解した。敵が木馬という本丸を中心に侵攻しているのに対し、日本軍側は空母を後方において艦載機(ドール・マキナ)を前線へと投入している。自然、補給に要する時間が増え、手数が減ることになる。


『それに予備戦力もいるみたいだ。入った数より出てきた数の方が明らかに多い』


 画像解析。発着場の穴の大きさを計測。推定全高15メートル。


「チッ、狭ぇな」


『狭くて良かったよ。マガツアマツが侵入できるんならスター4が突撃しかねなかったからね』


L.L.L.(トリプルエル)ならブッ刺せるんじゃねえか?」


『後が続かなくなるから駄目でーす。性能露呈のリスクも高いしね。次、マーキング位置へ照準』


「あいよ! 照準よし!」


『撃ち方始め』


 撃った。同時、石川も別方向へ射撃を開始する。包囲を抜けようとした敵機が慌てて静止し、そこに友軍機のミサイルが当たって爆散した。


『撃ち方止め』


 撃つのをやめた。次の指示も来なければ、新しいマーキングも表示されていない。なのでそのまま待機する。


 この1時間の交戦で、葵は敵が2つに分類できることを察していた。つまり、木馬を守るのを主目的とする敵と、木馬を気にせず、隙を見て日本へ向かおうとする敵だ。葵たちが狙うのは主に後者だ。


(木馬に無関係な連中が首突っ込んでんのか……?)


 そうなると、木馬を停止させただけでは終わらない。むしろ、


(止めた後が本番ってか)


 十中八九、そちらには参加させてはもらえないだろう。マガツアマツの情報が漏れないようにするためだ。既に作戦に参加しているのに何を今更と思わなくも無いのだが、思い返してみれば、これまでの戦闘行動は、どれも既存のドール・マキナでも可能な範疇のものばかりだった。……麒麟の方は何かやらかしているかもしれないが。


「つーかいつまで続くんだよ……! 軍艦(ふね)特攻(ラムアタック)とか出来ねぇのかぁ!?」


『無茶苦茶言うなぁ……。全裸野郎(フルフロンタルマン)がなんて言われてるのか忘れたのかい?』


 別名、世界最小の駆逐艦。全高30メートル乗組員1名。駆逐艦を1隻建造する資金で、全裸野郎は100機以上量産できる。大量生産で陣を敷いての一斉射は、海戦のあり方を変えたとさえ言われている。


『対艦ミサイルも飛んでってるけど、まぁ()()が厚いこと厚いこと。有効打どころか直撃の1つもしてないときた』


「こんだけ技量(ウデ)があんなら確定だろ! あいつらゼッテー難民じゃねえ!!」


『それは同感。次、マーキングAからBに向けて薙射(ていしゃ)。……撃ち方始め』


   ●


 さらに時間が経過し、葵は少しずつ鬱憤が溜まって来ていた。


『ウエハースを積んでもらっとくべきだったなぁ』


「あ゛!? 何言ってんだテメェ」


『ほら、あれってカルシウム多いらしいじゃない。イライラ対策に』


「テんメェから先にぶち殺してやろうか……!?」


『…………』


「……なぁ、隊長?」


『ん、なんだい?』


「テメェ、今、煙草(ヤニ)吸ってねぇ?」


「……ヤダナーソンナコトナイヨー」


絶対(ゼッテー)吸ってんだろ!? 何だ今の不自然な間ァ!!」


『ははは。冗談はさておき、戦線を維持するのもそろそろ限界だ。全体的に補給が必要になる』


 推進剤も無限ではない。機体ごとに補給が必要なタイミングは異なるが、基本的にドール・マキナの飛行可能時間は非戦闘状態でも2時間程度だ。葵たちは後方であまり激しい戦闘機動は取っていなかったものの、それでもあと30分程度で補給が必要になるだろう。


『……どうやら、()も同じことを考えてたみたいだね。ようやくお許しが出たよ。―――こちらはレムナント財閥特殊部隊アストラ。隊長機より日本軍全機に通達。本機はこれよりトールハンマー発射準備に入る。各機に支援を求む。射線退避勧告が出たら従うように』


 コンテナからビームサブマシンガンが2丁射出される。リンドウは危なげなくそれらを受け取った。


『スター2、スター4、敵機を近付けさせるな。無理に撃墜は狙わなくていい。電子戦のフォローも切るから要注意ね』


 石川が言い終えるが早いか、後方から高速で飛行物体が近付いてきた。巨大なミサイル状のものだったが、その表面が炸裂ボルトによって分離していく。その中から飛び出してきたのは、全長60メートルにも及ぶ巨大な大砲―――トールハンマーだ。同時にオロスタキスはマジックカーペットごと高速で前進する。


『相対速度合わせ。確保……完了』


 マガツアマツがトールハンマーを両手で保持し、トールハンマーから延びたアームがマジックカーペットに連結する。さらにオロスタキスは腰からケーブルを伸ばし、そのコネクターを接続した。


『電送コネクタ接続、レドームL、R、パワーオフ。……トールハンマー、ブレイザー・シーケンス・スタート』


 そして、砲身が唸り声のような音を立てながら、各部から光が漏れ始めた。


 トールハンマーを確保するために前進したことで、木馬との距離がかなり近くなった。周囲の敵がオロスタキスを、トールハンマーを狙おうと近付いてくる。クロユリはビームガトリングガンで牽制し、弾幕を抜けてきた敵はL.L.L.(トリプルエル)を直接ぶつけて叩き落とした。海上から全裸野郎(フルフロンタルマン)が放った大砲を、左腕のS.S.S.(巨大な盾)でかろうじて受け流す。リンドウもビームサブマシンガンをやたらめったら撃ちまくるが全く当たらない。苛立って銃を投げつけると、見事に敵に命中した。他の友軍機からも支援射撃を受けながら、石川は準備を進めていく。


 トールハンマーの照準を木馬へ。射線退避勧告が発令され、速やかに射線上の友軍は退避を始める。


『ビーム粒子過圧縮率150%オーバー、ターゲット、ロックオン。カウントダウン開始』


 クロユリやリンドウ、友軍機にもカウントダウンが表示される。10から始まったそれは1秒ごとに数字を1つ減らしていき、


『―――トールハンマー、発射』


 馬鹿みたいに極太のビームが、螺旋を描きながら発射された。


 多数の敵機を巻き込み爆散させながら、木馬目掛けて直進する。


 直撃した。海が蒸発し、莫大な水蒸気によって一面が真っ白に霧がかる。


「やったか……!?」


『む、それは私も知っているぞ。旗というらしいな』


「翻訳しちゃったら雰囲気台無しだろ……!」


 トールハンマーの照射は、実に10秒以上も続いた。そして、



 ―――霧の中から、木馬が無傷で姿を現した。



○トールハンマー

マガツアマツ専用の超高出力ビームキャノン。

仮にプラズマ・タワーシールドを持ったパラディンが相手でも、正面から撃墜できる程の威力を持つ。

(プラズマ・スキンでビーム自体は防がれるが、相互反発作用によってタワーシールドを保持している腕に過負荷を与えて破壊することで、ビーム本体を直撃させる)


いわゆる『秘密兵器』の類であり、最初から使わなかったのは軍上層部が使用を躊躇したため。

最終的に多数の機体の補給によって戦線が大きく後退することが予見されたため、作中のタイミングで使用に踏み切った。石川や葵は「最初から使っとけばよかったのに(このボンクラぁ……!)」と思っている。

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