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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第4話 天蓋の箱庭
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蓋天の箱庭 6


「にしても大決戦だなこりゃ。警報は第四次止まりなのが不思議なくらいだぜ」


『三次と四次が有事と平時の分水嶺だからね。いたずらに国民の不安をあおる必要はない、ってことらしい』


「つーか今更の話なんだけどよぉ、なんでオレらまで出撃させられてんだぁ? マガツアマツは秘密にしとかなきゃいけねぇんじゃねえの!?」


『まぁ秘密兵器だからというか。こうやって堂々と飛行試験と訓練が出来る機会なんて滅多にないからね。木を隠すにはってやつさ』


 と石川はうそぶくが、その半分は方便だ。


 すこし前から、葵の様子がおかしい。それに気付いた(正確には石川本人は全く気付かず、ボマーズやプラム、リセからの報告でそのことを知ったのだが)石川は、こう考えた。そろそろまた誰か殺(うさばらし)したくなったのかなぁ、と。


 そして今回の事件を聞きつけて、後方からの電子戦と火器支援を行うという口実で、石川はアストラの出撃を軍と政府に取り付けたという訳である。


「んじゃテメェらもテメェで飛べや……!」


 葵がそう責めるのは、クロユリが自機に搭載された推進装置で飛行しているのに対し、マガツアマツ弐号機リンドウ、そして同参号機オロスタキスは―――()()()()()()()()だ。


 マジックカーペットだ。ドール・マキナが飛ぶための、『空飛ぶ足場(まほうのじゅうたん)』である。2機とも同型のものだが、オロスタキスのマジックカーペットには左右にタル状のものが増設されていた。マガツアマツ用の武器弾薬類が入ったコンテナである。


『足場が無くては戦えんではないか!』


 石川より先に麒麟が反論した。


『人間用の武術をベースにする人たちの弱点だよねぇ』


 言いたいことは葵にも分かる。武術を修めている者たちは、ドール・マキナの戦闘においてもその武術を活用できる者が多い。しかしながら大きな問題が1つあって、……人間は、空を飛ぶようには出来ていない。なので当然、空中戦ではその強みを活かせなくなる。だから麒麟がマジックカーペットを使うのは理にかなっていた。


「んじゃあなんで隊長もマジカ使ってんですかねぇ~え!?」


『狙撃するならこっちの方が楽だからね。機体側の推進装置だと、姿勢を少し変えただけで狙いが大きくずれちゃうし。それにアニマキナを持ってこれないから、補給武器を携行する必要もあるわけだし』


「クソが……!」


『うっかり海に落ちちゃっても平常心でね。マガツアマツは水中活動も出来るけど、流石に深海レベルの水圧には耐えられないから。その前に海軍機が引き上げてくれるとは思うけど』


 マガツアマツは陸海空で活動可能な、全領域対応型ドール・マキナだ。これは結構凄いことだと葵は思っている。空陸両用や水陸両用は数多く存在するのだが、陸海空の全てで活動できる、正確に言うならば、水中と空中の両方に完全に対応したドール・マキナというものは、葵の知る限りでは存在しないからだ。


 ちなみに宇宙空間での活動も可能らしい。とは言え流石に実際に試してはいないだろう。現在の人類の技術では、国家プロジェクトで月面に足跡を残すのが精一杯のはずで、そこまで考えて、いや、と葵は自身の考えを否定した。


(ローズ・スティンガーなら大気圏くらい余裕で突破できるだろうし、マジで宇宙で試験しているかもしれねぇな……)


 とはいえ敵が宇宙にでも出ない限り、宇宙空間で活動する必要などありはしないだろう。


『海に落ちたら落ちたでいいデータ取れそうだしね~!』


 遠く離れた地下基地アガルタからボマーズも会話に参加する。ちなみに今回、聖技とルインキャンサーはアガルタで留守番中だ。マガツアマツ3機の周囲に他の機体の姿は無かった。


『それよか向こうからの声明文がやっとこさ出たよー。そっちにも転送するねー』


 戦術()情報()表示器()に表示された声明文を確認する。すぐに葵は表情を歪めた。


「ンだこりゃ? ふざけてんのかよあのカスども……!」


 端的にまとめた内容は、こうだ。


 ―――当原子力空母には多数の国から誘拐された者たち5万1068人が乗船しており、総員を日本への難民として申請する。


 日本、ロシア、そして今は滅びた中国では、しばしばポツダム半島による誘拐事件が起きていることは周知の事実だ。その他の国からも非合法的な()()が行われていることも知られている。だが、


「誘拐された連中が空母なんか()って脱出できるわきゃねぇだろ!! 馬鹿にしてんのか!?」


『それなりの割合乗せている可能性はあるけど、結構な数の工作員も紛れ込んでいるだろうね』


『というか、それなら周りの護衛機は一体何なのだ? もしかしてそちらも奪ったのか?』


「犯罪者の主張を真面目に取り合うなよ……!」


『突っ込まないでよースター4ー。僕たちは後方支援なんだからねー。ブリーフィングで説明した通り、L.L.L.(トリプルエル)をビームガトリングモードで準備。こちらが指定したポイントへ射撃するように』


「へーへー」


 言われた通り、全長60メートルにも及ぶ巨大な黒い槍、レスト・リー(トリプ)サル・ランサー(ルエル)の準備を始めた。


『……ところで、私は? 突っ込まなければ何もできないのだが』


『スター2は僕の護衛で。抜けてこっちに来た敵を落としてくれ』


『なるほど、了解した』


 そうしている間にも、TIDには政府からの返信のメッセージが表示される。『現状では要求に応えることは出来ない。武装解除し日本国領海外にて静止せよ』、と。


 合わせて、超巨大ドーム状空母について、以後は『木馬』と呼称する旨が連絡される。


『木馬? どこかに馬らしい要素があったか?』


 麒麟には伝わらなかったようだが、葵は何を意味しているのかを理解した。


「ハッ! お偉いさんの頭ぁメロンパン入れじゃねえみてぇで一安心だぜ!!」


 木馬から政府の要望を拒否するメッセージ。再度の入国と難民申請。


 双方のやり取りは数度続く。木馬は停止することなく日本へと近付いていく。そして―――



 午前9時27分58秒、木馬が日本国領海へ侵入。政府会見の直前に、交戦は開始された。



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