蓋天の箱庭 4
ガブリエラ・サルヴィアは思った。
聖技さんのおパンティが見たいですわ~~~~~!!! 、と。
「というわけで失礼」
言うが早いか聖技のスカートの中に手を突っ込んで、邪魔な短パンを引き下ろした。
「ぎょわーっ!? 何やってんのガブちゃーん!!?」
幸いだったのは、ここが女子更衣室だったということだ。
不幸だったのは、勢い余って短パンどころかその下のボクサーパンツまで一緒に降りてしまっていたことだ。
「あら、ツルツル」
「にょわーっ!!」
スカート越しに頭部を連続で殴打されながら、けれどもこれは聖技さんに非がありましてよ、とガブリエラはそう思う。だって聖技は着替える時は妙にガードが堅くて、スカートを脱がずにズボンを履き替えるのだ。そういう着替え方をするのは他の生徒では見たことがない。だから仕方が無いことだったのだ。好奇心は猫だって殺すし、時に賢者すらも愚者にしてしまうのだ。
そうしてスカートの下から出てきたガブリエラは妙にいい笑顔で、
「わたくしと同じですわね」
「えっ、ガブちゃんもそうなんだ!」
釣られて聖技も笑顔になって、
「騙されてはいけませんよ、聖技さん」
「永ちゃん?」
「ヨーロッパやアメリカには陰毛を剃る文化があるのです。日本のように形を整えるといったものではなく、綺麗さっぱりパイのパンです。もちろんガブリエラ様も全剃りしてます」
「よくもボクをォ! だましたなァ!! よくもぉだましたアアアア!! だましてくれたなアアアアア!!」
「ご、ごめんなさい聖技さん。まさかそこまで怒らせてしまうなんて……」
「いえ、ご安心くださいガブリエラ様。聖技さんは大して怒っておりません。日本にはこういう怒り方をするジョークがあるのです」
「あら、そうなんですのね」
「まぁそうなんだけど。ネタバレ早いよー永ちゃーん」
「けれども聖技さん、これ、男性用の下着ではありませんの?」
「だって楽だしー」
「いけません、いけませんわ、聖技さん。ところで、わたくしも最近サイズが合わなくなってきておりますのよね……。というわけで、放課後、下着を買いに行きましょう」
●
「―――というわけでー、今日はガブちゃんたちも一緒の電車なんですー」
と、聖技は電車の中で葵に説明を終えた。ちなみに聖技が座っているのは、電車の座席……ではなく、ガブリエラの膝の上だ。
「テメェコラ聖技下ろせコラ」
葵は引き剝がそうとするのだがびくともせず、
「オーホホホホホ! 上級生といえども力尽くでは真実の愛は引き裂けるものではありませんわ~~~!」
「ていうかアオイ先輩のフィジカル貧弱過ぎてどうやってもガブちゃんには勝てませんよー」
「チッ、クソがぁ……!」
最終的に葵は諦めた。別の席に座る永やおとめをちらりと見る。そして対面の窓を指差して、
「あ、UFO」
「どこどこ!? どこですか先輩!?」
聖技は一瞬で拘束を抜けて窓にくっついた。その様子を葵はケケケと笑いながら、
「つかわざわざ山降りなくてもよ、購買部でいいだろ購買部でよ。デケェ下着売り場あったろ確かよ」
「いえ、わたくしやサオトメさんくらいにもなると、一般的なサイズでは入るものが無くてですね」
「特注品~? 取り寄せりゃいいじゃねーかそんなの?」
「あんな僻地に数千人も住んでいるのです。毎日の輸送だけでも相当な量になりますわ。それに送ってもらっても、実際に付けてみると合わなかったりすることも多いんですのよね。結局、専門店に直接行くのが一番確実なんですのよ」
「オレにゃわっかんねー悩みだなぁ。つかテメェよぉ、こないだの連中、テメェ狙いだったんだろ? 出歩いて平気なんかよ」
「わたくしを直接狙ってきたわけではないようですし、そこまで予定が流出しているとは思えませんわ。特に今回のは突発的なものですし、護衛についても既に連絡済みです」
葵や石川が推測した通り、先日のパーティの日に現れたドール・マキナ軍団の正体は、元イタリア軍のテロリストたちだった。
会場の政治家たちを人質にして、ガブリエラの身柄を確保するのが目的だったのではないか、という石川の推測は、聖技たちにも伝えられている。
「ちなみに今から向かうところは獅子王閣下御用達のお店です。信用は置けますわ」
「あー……、確かに姐さんも大概デカかったな」
「アオイ先輩も一緒に行きますー?」
「いやオレはいーわ。バ先に顔出してーし」
「じゃあ今度一緒にいきましょーねー」
「へーへー」
後輩たちの会話を聞き流しながら、こいつも大概平和ボケだな、と葵は思う。ガブリエラの身柄を狙う組織は多い。生徒の中に、それどころか薔薇の二重円の会にスパイが紛れ込んでいる可能性だって無視できるものではない。学園内で携帯電話は使えないし、有線電話は全て傍聴されているが、それでも外部へ連絡する手段は何かしらあるだろう。
―――ふと、あの夜を思い出した。もう一ヶ月半ほど前のバルサン作戦。初めての実戦。L.L.L.で敵を突き刺し、コックピットごとパイロットを刺し殺したあの感触を。脳が弾けて溶けるようだった、中毒になりそうなあの快感を。
父を、殺された。
母を、殺された。
そして、妹さえも殺された。
今度はドール・マキナ越しではない、自分の手で、外国人犯罪者共に風穴を開けてやりたい。そう思わずにはいられない。
脚を組む。腕を組む。左脇、制服の下に隠した物が確かに存在することを感触で確認する。ニューナンブM60の存在を。
ガブリエラの行動が突発的なものであるのならば、同様に計画的ではなく突発的にガブリエラの身柄や命を狙う者がいてもおかしくは無いのだ。そんな者たちが襲ってくるのであれば、合法的に鉛玉をぶち込む理由が出来るのだ。だが―――
前後の車両に軽く目をやる。そこに客は乗っていない。乗っているのはガブリエラの護衛たちだ。
(あいつらいるなら、こいつに出番はねぇだろうしなぁ……)
そう、残念に思った。
「何してんだガブリエラ・サルヴィアーッ!行動はともかく理由を言えーッッッ!!!」って言わせようとしたけど元ネタの掲載号は2004年30号(作中時間は2004年5月末~6月初頭)なんでまだ世間に出てねーなこれ、と思い中断
脇に生えてないのは処理の手間が無くてラッキーと思ってるけど下がまだ生えてないのは聖技のちょっとしたコンプレックス