蓋天の箱庭 3
「デヴァイサーって、ルインキャンサー用のデッカイ輸送機ですよね?」
『そうだね、でもそれは、デヴァイサー理論を構成する要素の3分の1でしかないのだよ』
「アオイ先輩は知ってます?」
「知らん」
「え、アオイ先輩でも知らないことが?」
『知らなくても当然だよ。3、40年くらい前に提唱されて、結局ボツになった理論だからね。私もまだ生まれてない頃の話だし』
「はぁ」
『詳しく説明するとなると、時代背景から始めないとだね。まず当時、東京オリンピックやらなんやらあって全国で道路整備が進んで、自動車が爆発的に普及したのね。葵ちゃんはこの辺の話なら知ってるんじゃない?』
「クルス計画の切っ掛けッスよね。大型マキャヴェリーを運搬するには二車線道路が必要で、だけどダースが必要な規模の事件が起きると現場から逃げる自動車で渋滞が起きる。すると一車線じゃあ対向車が邪魔でダースを運べなくなる。この問題を解決するためにドール・マキナを一車線道路でも通れるサイズに変形させて、ついでに変形状態での自走能力も持たせちまおうって計画」
『で、失敗作になったんだよね。聖技ちゃんはこの理由を知ってるかな?』
「えーと、道路を走らせるために機体が小さくなりすぎてー、それでミスリル・リアクターも搭載できなくなってー、パワー不足とー、あと変形機能のせいで強度不足、でしたっけ?」
『うん、正解~。で、デヴァイサー理論っていうのはね、そのクルス理論と同時期に提唱されて、クルス理論の方が採用されたから使われなかった概念なのよね』
「で、失敗作が出来たワケじゃないですか。ていうかなんで空飛ばさなかったんです? デヴァイサーが輸送機なんだから、デヴァイサー理論ってたぶん空飛ばす系ですよね?」
「テメェにしちゃあ冴えてんじゃねぇか。オレに隠れて変なキノコでも食ったか?」
「今日のお昼は松茸でした! 松茸パゥワァー!! ……で、なんでなんです? 昔は飛べなかったとか?」
『バリッバリに飛んでたよ。世界大戦時どころかゴーレムからドール・マキナへの過渡期、400年以上昔から飛べるやつは飛べる。で、これ時代背景の補足なんだけれど、当時は公害が問題視されていた時期でねー、推進剤による大気汚染も問題視されちゃって、ドール・マキナが飛ぶための技術がかなり制限されてたんだ』
「そのせいで?」
『まぁ大体そんな感じ。といっても10年くらいで解決したんで、本当に短い間だったんだけど。だから今はバリバリに飛びまくってるし』
「へぇー」
『さてさてそれでは! デヴァイサー理論における3大要素についてご説明しよう! 1つ目はさっき聖技ちゃんも言った通り、ドール・マキナを空輸すること。2つ目、空輸後の輸送機は上空に留まり、地上のドール・マキナの支援をすること』
「支援?」
『上空からの目になったり、火力支援をしたりだね』
「それ、真っ先に輸送機が狙われません?」
『そう、葵ちゃんの言う通り! その問題を解決するための3つ目の要素、それが』
ボマーズがキーボードを一瞬操作した。壁一面のモニターがまとめて切り替わり、2文字の漢字をデカデカと表示する。
『合体だぁー!!!』
「「が、合体!?」」
モニターがさらに切り替わる。そこには3Dでルインキャンサーの肩や腕が分離し、デヴァイサーがいくつものパーツに分離、変形しながら合体するシミュレーション映像が表示されている。
「こ、こんなことが出来るんですか!?」
浪漫あふれるその映像に、聖技のテンションは思いっきり上がった。
「いや無理だろ」
『うん、無理だねー』
「じゃあなんで教えたんですか!?」
そして直後に叩き落とされた。
「つーかよ、新型クルスの2次元的なコンバインですら失敗してんだぞ。こんな3次元的コンバインが成功するわけねーだろ」
『ドラマとかアニメとかだと見栄えがいいんでよく採用されてるんだけどねー』
「コンバインって何?」
『えーっとねー、ドール・マキナの合体って3種類あるの。1つがドッキングね。複雑な変形とかをしないやつ。例えばデヴァイサーでルインキャンサーを空輸する時に固定しているやつなんかもこれ』
「サンガ、ヒューガ、スーガがゲート・ガーディアンになるみたいな感じ?」
『そんな感じ。で、2つ目はちょっと特殊な奴なんだけど、ヒュージョン。マンティがその能力でドール・マキナの部品を取り込んだり、逆にドール・マキナ本体に融合してパワーアップさせたりするやつ。文字通りの”融合”だね』
「でもあれ英語版のカード名はPolymerizationですよ」
そういえば、と、聖技は数日前に幼馴染の一人とした電話の内容を思い出した。
「あ、そういえばですけど、アメリカ? でマンティを武装しているみたいな話は聞いたことあります」
「あぁ、ZAPだな。ゾイック・アンドロイド・プロジェクト」
『ZAPとは違うやつだねー。ZAPは外科手術的な方法でマンティを改造したり、マンティじゃない動物をマンティ化出来たりしないか実験してたりするやつなんだけど、ヒュージョンはあくまで”ドール・マキナと融合する能力を持ったマンティ”の話だから』
「ていうかなんでゾイック? たしか動物って意味でしたよね。マンティなんとかプロジェクトじゃないんですか?」
「知るか。MAPになったら地図の方のと混合するからじゃね?」
『そもそもマンティって言葉も略語だからねー。えーっと、Metal Absorb Notably Trait Identify、だったかな。金属含有顕著性特徴個体。どう見てもこいつ金属の体を持った生き物だよね、って意味』
「へぇー」
『で、3つ目。コンバイン。まぁもう予想出来てると思うけど、パーツの分離とか複雑な変形とか、そういうのが必要なタイプね』
「マグネットバルキリオンみたいな?」
『そうそう。で、このコンバイン機能こそが、デヴァイサー理論が採用されなかった最大の理由なんだと思う。だって技術的に無理っしょこれ。ドール・マキナを車に変形させる方がまだ現実的で、お金もかからないってのは、まー火を見るよりも明らかだよねぇ』
まぁでもクルスはクルスで失敗したんだけどねー、とボマーズは声を上げて笑い飛ばした。
その後、聖技たちは全3種のデヴァイサーについて補足説明を受けた。
飛行能力試験用のテストフライト・デヴァイサー。
合体検証試験用のテストコンバイン・デヴァイサー。
そして武装積載試験用のテストウェポン・デヴァイサー。
うち運用可能なものはテストフライト・デヴァイサーのみであり、テストコンバイン・デヴァイサーは一部の追加装甲のみで、輸送機の状態に組み上げることすら出来ない。テストウェポン・デヴァイサーに至っては、ルインキャンサー用の兵装自体がまだ開発されていなかったこともあり、一部のフレームが存在するのみに留まっている。
つまり技術的以前に、物理的にコンバイン運用は不可能なのだ。
そして最後に、
『言うの忘れるところだった。ルインキャンサーの解析だけどね、しばらく中止ね。パラディンとの交戦でも~のすっごい量のデータ取れちゃってさー。そっちでしばらく手が空かないからね。いやマジで。最短でも半年以上は余裕で必要なくらいに』
「よしアオイ先輩! デート行きましょデート!」
「全教科赤点回避したらな」
「無理難題……!?」
『よーしじゃあここでもう一つ講義してあげよう! 期末の小論文のテストだけどさ~、私の予想だと豊菱重工の新型クルス関連だと思うんだよね~』
「うぁ~やめてください~今そんなの言われてももう覚えらんない~~~!」
ルインキャンサー、見た目はサイコガンダムのパチモン
実態はハイメガキャノンとIフィールドを積んだボール