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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第4話 天蓋の箱庭
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蓋天の箱庭 2


「ていうか隊長、パラディンと戦わなくても忙しすぎて死ぬんじゃ?」


「過労死って言うらしいぜそれ。で、実際どうやってパラディン倒すつもりだったん? 知らないと聖技も安心して後退出来ないっしょ?」


「ビームですかね? 装甲服(ドレス)に実弾は効果薄いし。あ、でもアイツでっかいプラズマ・シールド持ってたか」


「ハイブリット系じゃね? 実弾とビームを撃ち分け出来るやつ。こっちじゃあんま見ねーけど、ヨーロッパだと多いらしいし」


『まず前提として、パラディン相手に射撃はとても効果が薄い』


「そうですね」


「まぁ一般常識だし」


『けれどもこの世の中にはね、パラディンがどれだけ頑丈だろうと一撃必殺出来る怪物が存在するでしょう?』


「あー、ローズ・スティンガー?」


「そういやアガルタ(ここ)の資料で見たな。推定3000機程度のパラディンの群れ、ローズ・スティンガーが長距離砲撃だけで殲滅したって」


『そういうこと。ローズ・スティンガーからすれば世界で最も硬かろうが柔らかろうが大差ないんだよね。防御力が1000だろうと10だろうと、攻撃力が1000兆とかあれば、どっちにしてもオーバーキル』


「じゃあ隊長、ローズ・スティンガーを呼びに行ったんです?」


「あー、確かに。アーバン・ジャミングの圏外に出るためにマガツアマツ肆号機(オロスタキス)取りに行ったんか」


『ハッズレー。正解はねー、”ローズ・スティンガーがもう使わなくなった武器を使う”、でしたー』


「使えるんです?」


『持てる持てる。ローズ・スティンガーが人型に擬態した時の全長はだいたい12メートルだったからね。こないだ色々取り込んで今は15メートルくらいに大きくなってるけど。で、手持ち武器もそれに合わせた大きさだからさ、マガツアマツにはちょい小さいんだけど、その辺はジョイント噛ませばいいしね。だからまー、またパラディンが出ても安心して後退するよーに』


 ボマーズは”使える”とは答えなかった。さらに、一部の説明をわざと省いた。


 この武装はボマーズも説明した通り、12メートル程度のドール・マキナが使う、平均的なサイズのアサルトライフル程度の大きさだ。が、発射時の反動や衝撃波は、12メートルのドール・マキナでは決して耐えられない。腕が吹き飛ぶどころか、余波で機体が粉微塵になる。当然ながらパイロットはぺしゃんこ(即死)だ。


 対策として巨大な反動軽減装置で囲まれているし、加えて使用する機体は馬鹿みたいに分厚い耐衝撃シールドに隠れる必要がある。着弾時の衝撃波もすさまじく、少なくとも半径100メートル以上が軽く吹き飛ぶ。


 まぁそれでもルインドライブの自爆、推定半径5キロもの甚大な被害に比べれば可愛いものだとボマーズは思う。


「それで、ブレイザー・システムの基部の負荷については分かったんスけど」


『うん?』


「そもそもですね、直せるんスか? ルインキャンサーの腕。出撃出来ねーんなら気にする必要もねーっていうか」


『そっちは全然平気。胴体以外の予備パーツはまだあるし。ていうかもう修理終わってる』


「あ、予備パーツとかあったんですね」


 その新情報に、聖技は安堵の息を漏らした。


『まー胴体を除いてだけどね。ちょうどいい機会だし、2人には今までに判明したルインキャンサーについて説明しておこうかな』


 ボマーズがキーボードを叩くと、複数のモニターが様々な映像を表示した。ルインキャンサーの実写真や、リアルタイムでのルインキャンサーの映像。スキャンしたと思われる資料。家電の取扱説明書(マニュアル)のような雰囲気の資料もある。


『まず大前提としての話なんだけどね、ルインキャンサーは、戦闘用のドール・マキナではありません』


 2人して何言ってんだこいつ、という顔になった。


「いやいやいやいやいや」


「無理無理無理無理無理」


「あんな馬鹿みたいな威力のビーム積んでて非戦闘用はないですよ、ないない」


「町の1つくれーなら更地に出来るから土木工作用って意味?」


 ボマーズは2人の反論を無視した。


『恐らくだけれどね、ルインキャンサーはルインドライブの性能を検証するための実験機、あるいはデモンストレーション用の機体だね』


「「はぁ……」」


『納得してなさそうな返事だなー。根拠はいくつかあるよ。例えばだけど、乗降装置が搭載されていない。施設外での乗降を想定していないんだよ。30メートルものドール・マキナで、これは普通ありえない』


 そういえば、と、聖技はルインキャンサーで初めて戦った後、機体から降りるのに随分と苦労したことを、葵は先日のパーティで、降下するルインキャンサーのコクピットに聖技がバルコニーから飛び乗ったことを思い出した。


『で、次に重量。実はルインキャンサーってとんでもなく軽いの。ドール・マキナには全長をもとに算出できる適性重量帯ってのがあるんだけれどね、ルインキャンサーはこの基準の最低値を、3割近くも下回ってる』


「アオイ先輩みたいですね」


「るっせぇぞ」


『何でこんなに異常に軽いのかっていうと、装甲が滅茶苦茶薄いから。ぶっちゃけ中型マキャヴェリー以下』


「ベニヤ板?」


「せめて鉄板って言えよ」


『さすがにもうちょいマシだけれどね。ベニヤも鉄板もプラズマ・スキンで焼けちゃうし。たぶんこれ、デヴァイサーで飛ばすために軽量化が必要だったんだよ。それと、プラズマ・スキンだね。全身展開出来るってデモンストレーションさえ出来ればいいんだからさ、抗プラズマ材でさえあれば、ぶっちゃけ強度は要らないわけ』


装甲(ガワ)が簡単にベコってたのはそのせいってワケっスか」


 ビーム同士が接触するとお互いに弾き合う。ビームとプラズマは相互に反発作用が働く。だが、プラズマ同士が接触した場合、弾き合うことも反発作用も働かない。お互いのプラズマが、一体化してしまうのだ。その結果、プラズマ・スキンによる攻撃力や防御力の上昇効果は失われ、素の性能同士の戦いになる。


『で、これが一番の理由なんだけれどね、ルインキャンサーは、デヴァイサー理論で設計されていること』


この世界の宇宙開発は我々の世界の2004年と同一なので、人型ロボットの活動範囲に宇宙が含まれていません。

つまり、地上での乗降が当然という前提があります。


膝立ちして機体添いに降りる? プラズマ・スキンを切っても余熱で水が一瞬で蒸発する状態の装甲を歩けるなら歩いてみろってんだ。

なのでルインキャンサーに乗降装置が無いのはアホみたいな設計ミスか、あるいは設備無しでは乗り降り出来ないように制限するための仕様のどちらかというわけですね。

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