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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第3話 黄金の螺旋
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黄金の螺旋 20


「やったか……!?」


 葵は避難を中断してバルコニーに戻ってきた。この位置からはルインキャンサーがパラディンの上に覆いかぶさっているのがかろうじて見える。


 ルインキャンサーはプラズマ・スキン・フルボディが展開されたままなので、まだ動いているはずだ。


 が、パラディンの方はまるで分からない。推進装置を搭載していないので、どんな形で撃墜されても爆発することが無いからだ。


 その時、ルインキャンサーがゆっくりと腕を持ちあげた。サムズアップだった。


 安堵の余り、全身から力が抜けそうになった。


 もう駄目だと思っていたのだ。


 なにせルインキャンサーの兵装は全てビーム兵器だし、パラディンは巨大なプラズマ・タワーシールドを持っている。つまりはこちらの攻撃は一切通用しないし、巨大で無駄にピカピカ光るせいで非常に目立つ。


 なのに突然自分から突撃していったのだから、気付いた瞬間には仕事もほっぽりだして「何考えてんだあの馬鹿!?」と思わず叫んでしまったくらいだ。


 その時、バルコニーに足を踏み入れた者がいた。護衛しなければならなかったはずのガブリエラだった。麒麟も後を追ってくる。


「あ~、聖技のやつ、無事っぽい」


 さてどうするかな、と葵は考えた。パラディンが倒されたのなら避難を急ぐ必要はない。石川が戻ってくるかもしれないからここで待つべきかとも思ったが、他の避難者たちと合流した方が面倒も少ないように思う。石川は葵たちが避難している前提で行動するだろうし、と。


「とりあえず、オレらもシェルターに行こうぜ。他の連中と一緒に保護された方が、って聞いてる? オイ」


 ガブリエラは無言で、バルコニーの端まで寄ってきた。そうして胸の前で手を組むと、潤んだ瞳でルインキャンサーを凝視している。


 そして、熱っぽい表情でつぶやいた。



 ―――す♡


 ―――て♡


 ―――き♡



「……は?」


 葵は、少女が恋に落ちる瞬間を目撃した。


「…………はぁあああああ~~~ん!!!?」


   ●


「さぁ~聖技さん! 今日もお勉強の時間ですわよ~~~!!!」


 抱きしめたガブリエラの胸の中に聖技がずぶずぶと埋まっていく。底なし沼ならぬ底なし胸だ。20㎝の定規を縦に突き刺したら全部埋まるくらいの深さはあると聖技は思う。


 礼拝堂にも似た雰囲気の部屋だ。薔薇の二重円の会(ドッペルローゼン)が拠点として借りている建物で、信徒たちの手によって礼拝堂風に模様替えしたものだと、部屋に入った時にガブリエラからそう紹介された。


 部屋にいるのは2人だけではない。薔薇の二重円の会に所属する多くの生徒たちが、先に部屋の中にいたからだ。彼ら彼女らは部屋に現れたガブリエラに穏やかに挨拶をし、次に現れた聖技を見てほとんどの脳が状況を理解できなかった。


 というかガブリエラが幸せそうに聖技に抱き着いている今もそうだ。ガブリエラが何も説明していないせいだった。


 一足先にガブリエラの変体を知っていた同じクラスの取り巻きたちが散っていき、物言わぬ銅像となった信徒たちに状況を説明していき、騒動にならない騒動は、少しずつ沈静化していった。


  ●


 葵が訪れたのは、聖技たちが来てからしばらく経ってからのことだった。左耳にはいつもの金の3連ピアスではなく、聖技と分けたピアスを一つだけ付けている。


 不機嫌さを隠そうともせず、出入口付近にいた長い白髪に糸目が特徴的な女生徒に声をかけた。よくガブリエラの側にいる、聖技と同じクラスの生徒だった。


「おい、そこの取り巻きA」


「おや、これは星川葵様」


「あの馬鹿が馬鹿を連れ込んでんだろ」


「はい。ガブリエラ様は聖技さんにご指導中です。ご心配なさらずとも、変な内容ではありませんでしたよ」


「チッ」


「お待ちになられるようでしたら、どうぞご入室ください。良い茶葉が手に入りましたので、御馳走させていただきます」


「出入口に突っ立ってんじゃねえよ邪魔だってかぁ?」


「京言葉もご堪能なのですね」


「チッ」


 葵は自分が周りからどう思われているのかを把握している。初等部(ガキ)を泣かす趣味は無く、少女の誘導に従い、奥の方にある席に座って待つことにした。紅茶を用意した少女が同席する。


「さすがは葵様、私のこともご存じですのね」


「あ?」


「ご不要かもしれませんが自己紹介を。私、学園内にてガブリエラ様の補佐を務めさせていただいております、鳥牧永(とりまきえい)と申します。鳥類の鳥に遊牧の牧、永遠の永で鳥牧永です」


「ガワがどう見ても白人じゃねーか」


「両親が帰化人でして。ですが生まれも育ちも国籍も日本人ですよ」


「ああそう。で、永だっけ。お前あれいいのか?」


「ガブリエラ様の貞操という意味でしたら、聖技さんであれば私どもも安心です」


「そーかよ」


 葵は紅茶に口を付けた。ミルクも砂糖も無しのストレート。


「聖技さんにはチンポが生えておりませんから」


 葵は紅茶を噴き出した。


「おや? 間違えましたでしょうか? チンポ、ペニス、おちんちん、男性器」


「合ってっから連呼すんな!!」


「これは失礼いたしました。しかし、いけませんよ葵様。そのようなことをしては、小さい子たちが真似をするかもしれませんからね」


「そもそもテメーが原因なんだわ。つかアレだろ、アイツにその手の言葉教えたのってテメーだろ」


「うふふ、知識は身を助けますので。自衛のためにも必要なことです」


「知識じゃなくて芸だろ」


「あらあら、ガブリエラ様も聖技さんも女性ですよ?」


「そっちのゲイじゃねえんだわ」


「そうそう、それと葵様」


「なんだよ」


「実は、私の名前が鳥牧永というのは嘘でございます」


「じゃあ誰なワケお前!?」


 思わず立ち上がったところで、遠くからガブリエラの大声が聞こえた。



「ああ、わたくしの教えが聖技さんに染み込んでいく……! 至福の時間ですわ~~~!」



 立ち上がったついでに、とりあえずあの馬鹿2人を殴りに行くか。葵はそう思った。






 ――――――第3話   (ああ~聖技さ~~~ん) (!わたくしの人生はき) (っと聖技さんと出会う)(ためにあったのですわ) (ね~~~!いいえ、こ) (れまでの人類の歴史そ) (のものがわたくしと聖)(技さんが出会うために) (紡がれていたに違いあ) (りませんわ~~~!そ) (う、これこそが世界最)(先端のアダムとイヴ、) (いえ、イヴとイヴ!ど) (うかわたくしと共に禁) (断の果実100%ジュ)(ースをカップルストロ)   -完-


〇鳥牧永(自称)

もちろん偽名。本当の名前はガブリエラも知らない。というか教員すら本名を知らない。長い白髪で糸目の白人女

本当の名前はヨーロッパ系かつカトリック系のマリウス教徒なのでミドルネーム(洗礼名)も持っている。日本生まれで日本育ちで日本国籍持ちなのは本当


父方の祖父がレムナント財閥、母方の祖父がアメリカの大企業レムナント・インダストリアルそれぞれの役員で、結構な重役の孫娘だったりする

(アメリカ大陸を開拓していたレムナント開拓団はアジアに向かった一団とアメリカ大陸に残った一団に分かれており、日本に到着した一団を母体とした組織がレムナント財閥、アメリカ大陸に残った一団を母体とした組織がレムナント・インダストリアル)

鳥牧永の一族はレムナント・インダストリアルとの連携を重視しており、何代にも渡ってレムナント・インダストリアル役員との政略結婚を繰り返している。純白人系なのはそのため


偽名を使っているのは”漢字の名前”に憧れがあったから(自身の名前にコンプレックスがあるわけではない)

花山院学園は皇族などが身分を隠して入学する場合があり、ある程度高い地位があれば偽名入学が認められる。つまりその程度には権力者の家であり、家名を聞けば獅子王家とも強いコネクションがあると分かってしまうことから余計な騒動を防ぐため、という意図も兼ねている

特殊部隊アストラの存在は知っているが、アストラでの聖技と葵の正確な立場や地下基地アガルタの存在までは知らない


『取り巻きA』という言葉から生まれたモブキャラ……のはずなんだけど、なんか君、妙にキャラ濃くない???

ギャルゲーだったらファンデスクで追加される系攻略対象。専用ルートに入ったら本名を教えてもらえる





……というわけで3話はこれにて終了です。スペースにもルビが振れるシステムで助かりました

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