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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第3話 黄金の螺旋
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黄金の螺旋 16


「あー中国ですね、中国。……いやいやいや、騙されませんよ。流石にボクでもヨーロッパだってことくらいは知っていますよ?」


「だから中国だって。リヴァイアサンのこと知らねぇの?」


「えーっと?」


「そうか知らねぇのか」


「イタリアは半島でね、その正体は陸地ではなく、超巨大なマンティの死骸だったんだ」


 見かねた石川が説明を始めた。


「マリウス教は2000年近い時をかけてそのマンティを改造し、とあるものを作り上げた」


「とあるもの?」


()()()


「はい?」


「地球脱出用宇宙船、リヴァイアサン。神の鉄槌戦争の最後、マリウス教が繰り出した最終兵器だ。色々あってリヴァイアサンはコントロールを失ってねー。で、元あった場所に戻すと津波で大被害が発生することが確実だったからさ、無人地帯になってた中国にまで運んで捨てたんだよ。だから今、イタリアは中国にある」


「つーかイタリア山ってニュースでやってただろ」


「そのせいでヨーロッパにはイタリア難民が大量発生してしまってね」


「他人事みたいに言ってるけど難民を大量発生させた原因テメーだろ隊長。あいつらテメーにお礼参りしにきたんじゃねえのか?」


「あっはっはっはっは、そのせいで僕、外を歩けないんだよねー」


 いつ殺されるか分かったものじゃないから、と石川は言う。何故なら、中国へのリヴァイアサン(イタリア半島)投棄、それを決めたのはラプソディ・ガーディアンズの隊長だった石川だからだ。


「で、あれだけ数を揃えれるなら、まず間違いなくイタリア軍。鉄槌戦争の時にはパラディンばかりだったから、あの大型マキャヴェリー、カリタだっけか。ほとんどが被害を免れたんだろうね。で、星川さん、相手の様子は?」


「こっちに真っ直ぐ近付いてきてる」


「ガブちゃん大丈夫? 怖い? 気分悪い?」


 聖技がガブリエラの様子がおかしいことに気付いた。ガブリエラは弱々しく首を横に振り、


「いえ……彼らの狙いは、わたくしかもしれませんわ」


「あ、聖女戦争ってやつ?」


「セイギ・シモツケもそのくらいは知っておりましたか」


「うん、ついさっき教えてもらった」


 ガブリエラは恐怖とは別の意味で頭痛を起こしそうな気分になった。


「なぁに、安心しろ、サルヴィア」


「キリン生徒会長?」


「敵が攻めてきたとしても、私が手ずから叩き切ってやる」


「アンタ今日刀持ってきてねぇだろ」


「しまった、私としたことが……!」


「今日もノルマ達成しちゃいましたね」


「達成しちまったなー」


「待て、ノルマとは何だ?」


「いやぁ、今回は麒麟ちゃんは悪くないからさ」


「だからノルマとは何なのだ!?」


「つーかどっから湧いて出たんだあいつら」


「あの方角は……東京湾だね」


「何やってんだ米軍の連中。気付かなかったのか?」


「あるいは気付けなかったか」


「ステルス?」


「見たことないカーペットだったし、どこかの馬鹿がバックにでも着いたかな?」


「おい、私の話を聞け!」


「……あの、ところで皆さま? まだ避難なさらないんですの……?」


「あー、シュッツエンゲル・ガブリエラ。僕たちのことは気にせず、先に避難していただいてかまいませんよ」


「え?」


「外の様子が分からなくなるので、僕はこの場に残ります」


「オレも残る。見学するまたとない機会だからな」


「僕は避難してほしいんだけどなぁ……」


「双眼鏡返してほしいの間違いだろ」


 葵はそう言いながらも、双眼鏡を石川に返した。


「麒麟ちゃん、念のため、君もシュッツエンゲル・ガブリエラの護衛についてくれ」


「あい分かった」


「隊長ー、アオイ先輩に付き合っていいですかー?」


「いいよー」


「えぇ……? 皆さま、落ち着き過ぎじゃありません……?」


「慌てる必要がねぇんだよ。あー、こっからじゃ見えねぇな。バルコニー出りゃ見れっか?」


 全員揃ってバルコニーに出た。5月末の夜空は、風さえ吹かなければそれなりに暖かい。


 葵は階下を覗き見た。


「お、見ろよ。ちょうど起き上がってるぜ」


 聖技やガブリエラも同じように目を向けたると、白赤青のトリコロールカラーをしたドール・マキナが、四つん這いの姿勢から立ち上がろうとしていた。


「日本国産のハイエンド・マキャヴェリー、ホーシィ・ホーキィ。練習機(カリタ)よかよっぽど格上の、超高性能機だぜ」


   ●


 ―――ハイエンド・マキャヴェリー。それは、大型マキャヴェリーを大きく上回るスペックを持つドール・マキナだ。


 第二次世界大戦後、世界各地でドール・マキナを用いた犯罪が急増した。マキャヴェリー規格を利用した応急修理機、つまりパッチワーカーの大量発生が原因だ。


 この事態を受けて、一部の先進国はとある対策を考える。マキャヴェリー規格からの脱却だ。


 もともと大型マキャヴェリーが誕生したのは、第二次世界大戦中に誕生した新動力ミスリル・リアクターが中型マキャヴェリーには搭載できないことが判明した故の、応急処置(その場しのぎ)的な経緯がある。結果、必要な機能が足りていなかったり、逆に不要な機能が組み込まれていたりといった問題が後からいくつも見つかった。


 それらの問題点を解決し、パッチワーカーとしての利用をされないように、しかしながら多くの安くて高性能な大型マキャヴェリー用の兵装は使いたい。これらが合わさり生まれたのが、関節部の規格は完全に独自の、しかしながらマニピュレーターやハードポイント類は大型マキャヴェリー規格を採用した、厳密な定義においてはマキャヴェリーとは認められない、大型マキャヴェリーを超えたマキャヴェリー。それがハイエンド・マキャヴェリーである。


   ●


 警報が、第3次から第2次に切り替わった。


「数は負けてるがよ、1対5くれぇでも余裕だろ。パッチワーカーもちらほら混ざってるっぽいし」


「部品を融通し合って均等化してるみたいだね」


「頭数揃えるよかよ、何機か潰してでも純正機仕様にした方がいいだろうによ、ただでさえスペック低いのによ」


「スペックが低いからパッチワーカー化によるデメリットも少ない、と考えることも出来るよ」


「あー、そういう考えもあるか」


 地上からホーシィ・ホーキィが全機飛翔する。ホーシィ・ホーキィは空陸両用機だ。カリタと異なり何の追加装備も要らず、単独の能力で飛行することが出来る。2機はホテルの警護に屋上付近まで上昇し、残る6機は2機1組編成(エレメント)を組んで前進を始めた。


 聖技は極小穴の指眼鏡を覗き込む。


「なんか相手、変な装備持ってますね。なんだろあれ、トンファーガンのバズーカ版、みたいな……?」


「多分だけれど、アーマーブレイカーかな?」


「……なんですっけ、それ? DMMAには出てないですよね?」


学生(ガキ)の遊びに出せるかあんなもん。クソでけぇ杭をぶち込む近接用兵装だよ」


「パイルバンカー、というらしいですわね」


「知ってるのかガブちゃん!」


「何ですのその食いつきよう。詳しいわけではありませんわよ。南部重工の方たちとの話で出てきましたので」


「テメーも知ったばっかの言葉使いたがりかよ。デカくて重いから当てにくいし、そもそもダースや9Y相手に使うにゃ過剰火力だからな。日本、つーかヨーロッパ以外だとまず使われねぇ」


 遠く、光が幾度となく明滅するのが見えた。交戦の光だ。



○土下座降り

腹部にコックピットがあるドール・マキナが、野外で乗降する際に取らせる一般的な待機姿勢。ホーシィ・ホーキィもこの状態で待機していた。

土下座という呼び方だが実際には四つん這い。ドール・マキナにはバランサーが搭載されておらず、立った状態では転倒する危険性が高いため、4点接地で安定させる必要がある(頭部を下ろして5点接地にする場合も)。

コックピットハッチ部分をエレベーター代わりにしたり、ハッチからタラップが降りる機体も存在する。


聖技が1話でルインキャンサーから降りる際にもこの体勢を取らせている。が、ルインキャンサーには土下座降り用の乗降装置が搭載されていない(正確には野外での乗降自体が想定されていない)ため、結構な高度から飛び下り着地する羽目になった。聖技だったからよかったものの、仮に乗り込んだのが葵だった場合、着地時の衝撃で両足を骨折していた。


2chの誕生によってオーズ降り(orzのアスキーアートから)と呼ばれる場合も。

なおこの世界はまだ2004年であるからして、例のアレはまだ流行しておらず、仮に2020年くらいになった場合はヨツンヴァインという呼び方が流行する可能性が微粒子レベルで存在する。こわいなーとづまりすとこ


英語スラングの場合『Doggy style』と呼ばれる。つまりは背後位。

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