黄金の螺旋 13
聖技の背丈に合うドレスがどう見ても小学生が着るようなデザインのものしか無かったり、葵の背丈に合わせると胸がガバガバでスカスカなドレスしか無かったりと一悶着あったりもしたのだが、一応ではあるものの、年相応の、体格にも合ったドレスは無事に用意できた。
「……まぁ、うん。馬子にも衣裳ってやつだね」
写真でドレス姿の2人を確認した石川の感想である。とりあえず殴っておくか、と2人してそう思った時には、目にも止まらぬ速度で麒麟がチョップを石川の頭に叩き込んでいた。
「……恐ろしく早い手刀。ボクでなきゃ見逃しちゃうね」
「マジかよ。オレ見えなかった」
「ごめんなさいウソです。ボクも見えませんでした」
「じゃあ何で言ったんだ……?」
●
パーティ当日を迎えた。
聖技と葵、加えて麒麟の3人で、花山院学園の隣にある獅子王家邸宅へ訪問する。
前回は馬鹿みたいに広い衣裳部屋に案内されたのだが、今回は普通の和室だった。
部屋の中には、3人それぞれの服が移動されていた。
聖技用の、青のドレス。
葵が選んだ、黒一色のドレス。
そして麒麟の、青紫の、
「あ? ひょっとして着物で行かなきゃなんねぇのか? あの隊長ドレスって言ってなかったか?」
「む? いや、貴様らはドレスで合っている。これは暗黙の了解のようなものでな、和装をするのは獅子王家の当主か、その代行だけなんだ」
「あぁ、じゃあ今回はアンタが姐さんの代役っつーわけだ」
「うむ。まぁ私は突っ立っているだけで、基本的には石川隊長が全部対応してくれるのだが」
政治のことは分からん、と麒麟は悪びれることなく笑った。
「ていうか、あの隊長で大丈夫なんです?」
「見てくれはああだが、あれでも獅子王総帥の従姉弟だからな」
「あー、そういや警視庁長官って獅子王家からの入婿だっけか」
「しかし星川、貴様のはこの全身真っ黒のやつか?」
「おうよ、分かりやすいだろ。機体と同じ色だからな」
「別にクロユリのに合わせる必要はないのだが……」
「鏡見て言えや」
マガツアマツ弐号機リンドウ、その機体色は青紫色だ。着物の生地とも近い色味だった。
さて、と言う言葉と共に、麒麟は丁寧な手つきでリボンを外し、ポニーテールを解いた。
「私は先に髪を整えてもらってくる。貴様たちはどうする?」
「オレァ別に」
「ボクも必要ないです」
「そうか。ではまた後でな」
麒麟は一人、部屋から出て行った。何度も世話になっているのだろう、案内は必要としていないようだ。
「……アオイ先輩、一個気になったんですけど」
「ンだよ?」
「キリン会長って、あの刀も持っていくんですかね?」
「……いや、せいぜい短刀だろ」
聖技は頭の中で、目の前の和服を来た麒麟が、帯に短刀を挿し込んでいるのを想像した。びっくりするほど違和感がなかった。
2人してさっさと着替えていく。一度来たことがあるのでスムーズだ。2人とも着替え終えると、葵は持ち込んでいた鞄に手を突っ込みながら、
「おい聖技。片っぽやる」
「え?」
葵が取り出したのは、ピアスだ。左耳の金色ピアスを3つ全て外しながら、
「結局左にしか開けなかったからなお前。片っぽありゃ十分だろ」
「もう片方は?」
「やるのは片っぽっつっただろ」
言うが早いか、葵は自身の左耳にそのピアスを挿していた。
つまり、それは、
「にぇへへへへへへへへ……お揃いですね♡」
「はいはい」
麒麟が戻ってきても、車に乗って山を下りる途中も、聖技はニマニマと笑うのを止められなかった。
●
パーティ会場へと到着した。麒麟と石川とは別行動だ。一緒に入室すると面倒ごとが増えるから遅れて入ってくれ、という石川の指示だった。
広く、やや薄暗い。料理は立食スタイルだった。2人は早速そちらへと足を向ける。
「おー。隊長はあんなこと言ってましたけど、見たことないやつも結構ありますねー」
「ドレス汚すなよー。借りモンだからなコレ」
「流石に分かってますって」
ひょいパクひょいパクと食べていく。取り皿も持ってはいるのだが、皿の上に乗るのは一瞬だ。葵はテーブルマナーには明るくないので、今聖技がやっていることは大丈夫なのかどうか判断が付かない。
「なんかオッサンばっかだなー。どれが誰だか全然……いや全然分かるわ。どいつもこいつも新聞やニュースでよく見るようなビッグネームばっかじゃねえか」
考えてみれば、これはスサノオ・プランの、つまりは政府が注力している軍事力増強計画のパーティだ。政治家や権力者が集まるのは当然だった。
「ボク全然わかんないです。あ、でもキリン会長はすぐ見つかりますね」
「一人だけ着物だからな。風習っつーよりか、分かりやすい目印って感じか」
「隊長は、……いつもの隊服ですね」
「つまんねーな。あのオッサンにもドレス着せりゃよかったぜ」
はて、と葵は気付いた。花山院学園理事長にしてレムナント財閥総帥たる獅子王麗奈は、明るく長い金髪を持つ美女である。白人の血が強いのか、肌の色も日本人らしからぬ明るさだった。背も高く、胸も非常に豊満だ。
(……姐さんに和服って、似合うのか?)
残念ながら、葵の想像力ではうまくイメージ出来なかった。
「アオイ先輩アオイ先輩! これなんでしょうね? ていうか食べ方分かります?」
「食いモンのことはテメーの方が詳しいだろ」
「ファーストペンギン行きまーす!」
「テメェのそれは勇気じゃなくって単なる食い意地。さっきも言ったけどドレスは汚すなよー」
「アオイ先輩も食べなきゃですよ。ノルマ課されてるでしょ?」
「あー、そうだった。量が少なくて味が薄くてカロリー高いのどれ?」
「いいですか、アオイ先輩。ハイカロリーは量と味の濃さに比例します」
「覚えたばかりの言葉使いたがりか? 比例ってまだ中1の範囲だからなそれ」
好きな人にピアス穴を開けてもらうシチュエーションはエッチだと思うおじさん「好きな人にピアス穴を開けてもらうシチュエーションはエッチだと思う」
ちなみに2人は左耳にだけピアスを刺すことの意味を知りません
無知もまたイエスだね!!!(超力説)