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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第1話 悪を滅ぼす者
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悪を滅ぼす者 5

前話のあとがきにも書いた通り、今話は世界観の説明回です。話は1ミリも進みません


 ドール・マキナ避難警報。


 人形機械(ドール・マキナ)とは、読んで字のごとく、人の形をした機械のことだ。


 その用途は多岐にわたる。軍事兵器、民間事業、スポーツ競技などなど。聖技の田舎の場合だとイノシシ狩りにも持ち出されていた。日常的に目にする機会も多い。例えば救急車とかパトカーとか、農作業に使うトラクターとかと同じ程度には。


 そしてドール・マキナ避難警報とは、戦闘用ドール・マキナが居住地に現れた場合や、民間用のドール・マキナが犯罪に用いられた場合に発令される警報だ。


 聖技がいた小中学校では年に一度の避難訓練が行われていたが、この時に使われるシナリオは、もっぱら火事か第三次より下のサイレンだった。三次以上と四時以下では危険度があまりに違い過ぎて間違ってでも実警報と訓練の混合を避けるため、という話を以前にハカセから聞いたことがあった。


 だから実際の三次以降のサイレンは、カセットテープを使って聞かされることになる。聞いたことも無いのに三次とか二次とかを判断できるはずも無いからだ。だが聖技は、すぐには一次警報が鳴っていると気付けなかった。


「……クソッ」


 もっと早く気付いていれば、もっと早く動けたはずだった。何がお昼のサイレンかな、だクソ間抜けめ。即座に動けていれば今頃は、向日葵と二人でシェルターに非難できていたかもしれなかったのに。


 首を振って、苛立ちを振り払う。


 次に考えたのは、街に現れたドール・マキナ、その正体についてだ。


 姿を見れたのは一瞬だったし頭と肩と胴体しか見えていない。だが、それだけでもおおよその見当はつく。


 特徴的な一つ目ハゲの頭部パーツ。あれは”キュプロ”で、肩のサッカーボールに似た模様は”アンドロニカ”だ。異なる機体のパーツが、一機のドール・マキナに組み込まれている。


 ドール・マキナは戦闘用だけでも膨大な種類が存在する。聖技が知らない機体も多い。が、もちろん広く知られた機体も存在する。キュプロもアンドロニカも長い歴史を持ち、大量生産されている有名な機体だ。胴体は何の機体か分からなかったが、逆に考えると、キュプロでもアンドロニカでもない、別の機体の胴体なのは確実だった。


 これだけ情報があれば、ほぼ断言できる。


(……マキャヴェリー、9Y(ナインワイ)の、継ぎ接ぎ機(パッチワーカー)


 戦闘用ドール・マキナのカテゴリーの一つ、マキャヴェリー。世界で最も多く生産されていると言われるドール・マキナ。


 マキャヴェリーは関節やハードポイント、マニピュレータなどの規格が統一されている。異なる機体であったとしても、それらが同じマキャヴェリーであるのなら互換性があるのだ。


 8メートル程度の全長を想定した中型(ミドル)マキャヴェリーと、12メートル程度の全長を想定した大型(ラージ)マキャヴェリーの二種類の規格が存在する。長ったらしいし同じ『マキャヴェリー』だしで混在ミスを避けるために、もっぱら前者は”9Y”、後者は”ダース”という通称が使われていた。ちなみにキュプロもアンドロニカも、どちらも9Yに属する機体だ。


 そして、パッチワーカー。継ぎ接ぎ機(パッチワーカー)の名の通り、複数の機体のパーツを使って組み上げられた戦闘用ドール・マキナだ。ドール・マキナ犯罪の代名詞的存在でもある。


 古戦場などでパーツを漁るハゲタカ行為(バルチャリング)で代替部位を入手して機体を修理したり、あるいは新規に組み上げられて、パッチワーカーは誕生する。人を襲うために。街を襲うために。


 しかしながら聖技はこの情報に、少なからず安堵を覚えてもいた。


(じゃあ、ロシアとの戦争が始まったわけではないはず)


 では、中国だろうか。否、それは100パーセントありえないと断言できる。何故なら、()()()()()()()()()()()()からだ。


 だから、消去法で答えは一つ。


 ―――ポツダム半島。

 

 かつて朝鮮半島と呼ばれた土地は、今ではその名で呼ぶものはほとんどいない。


 第二次世界大戦の終結を目前に、事件が起こった。一匹の()()によって、朝鮮人が皆殺しにされたのだ。


 通称、ポツダム動乱。


 その後、日本は統治していた朝鮮半島全域の放棄を早々に決定した。戦争大勝国、世界で最も戦死者が少ないと言われた国は、わずか1週間で世界一死者が多い国へと変貌した。残された、住む者のいなくなった朝鮮半島をどうするかでソ連、中国、アメリカを中心に、にらみ合いが続き―――


 世界中からマフィアを始めとする犯罪者集団や複数の国の反政府勢力、カルト集団、テロ組織などに侵入されて、気付いた頃には、実効支配されてしまっていたのである。


 以降、ポツダム動乱を機に誕生したリアル・愚か者の町(ゴッサムシティ)は、その動乱の名を取って、こう呼ばれるようになった。


 ポツダム半島、と。


 ちなみに聖技はこの内容を授業で習った時、当時の政治家ってみんなアホかマヌケだったのかな、と思った。ちょっと協力して駐屯軍を置いておけば防げたんじゃないの、と。


 街中で犯罪者が暴れている、となれば決して安心できるものではないが、少なくとも国同士での戦争よりはマシだろう。


「で、あとは……、今いる場所がどこかについて、かな?」


 地面に空いた地下深くまで通じる穴、と聞いて、聖技が真っ先に思いつくのはマンホールだ。


「……えー、あー、マンホールって、下水道と繋がってるんだったっけ?」


 自信がない。ちなみに落ちたのがマンホールでない場合、聖技の残る心当たりは、汲み取り式便所の便槽である。


 ウンコの臭いはおろか、悪臭すらしない。そもそも水の流れる音すら聞こえてこない。空気は澄んでいるとも濁っているとも言えず、微妙に濡れたようなアスファルトの匂いがする。


「あ、地下鉄……? いや青梅って地下鉄はなかったような……。工事中とか? でも、それだと明かりが無いのも変だし」


 他に何かあっただろうか、と唸りながら考えて、一つ、残された可能性に思い至った。


「……シェルターの、物資運搬路?」


 聞いたことがある。


 北は北海道から南は九州沖縄にいたるまで、日本は全国各地に大小さまざまなシェルターが点在している。何故か。簡単だ。ポツダム半島があるからだ。


 コンビニエンスストアも無ければ病院の一つもないドがつく田舎や、子供がいなくなって唯一の学校が廃校になったような限界集落の離島でも、少なくともシェルターだけは建てられている。


 学校とか役所とか、多くの人が集まる場所には必ず大型のシェルターが併設されているし、企業も敷地面積と従業員数に応じた規模のシェルターを用意することが義務付けられている。


 そして、学校や役所といった公的運用されるシェルターの中には、近隣の基地から様々な物資を直接届けることが出来るようにと、地下深くに運搬用の通路が存在するらしい。


 聖技の住んでいた町は基地からも遠く、一番大きなシェルターにもそんな機能は無かったのだが、避難訓練の時にそんなシェルターもある、と習ったのを思い出した。


 だから、ここはその地下通路なのではないだろうか。


「じゃあ、どこか近くの基地に繋がってるかも」


 少し希望が見えてきた。誰に知られることなく東京の地下で白骨死体になる未来は避けられるかもしれない。


 それに、もしここが基地と繋がっているのであれば、無くした聖技の携帯電話を探してもらえる可能性も高い。よもや基地との直通路に通信装置を放置はすまい。ひょっとしたら携帯電話は聖技の手元に帰ってこないかもしれないが、友情ストラップくらいは返してもらえるんじゃないだろうか。


(……いやでもメカマンのことだから中に発信機とか仕込んでるかも。そういうところあるからなー。戻ってこないかも、ストラップ……)


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