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そして、黒百合は手折られた  作者: 中年だんご
第3話 黄金の螺旋
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黄金の螺旋 7



「ガーブーちゃーん! あーそーぼー!!」



「きゃあああああ!?」


 ノックも無しにドアを開くと、ガブリエラは半裸だった。


「あ、ごめん、着替え中だった?」


 そう言うと、聖技はドアを閉めた。部屋の中に残ったまま。


「着替え中なのにどうして部屋の中からドアを閉めましたの!? 普通は外で待っているものでは!?」


「いーじゃんいーじゃん。女同士なんだし。にしてもさぁ……」


 聖技は下着姿のガブリエラを上から下までジロジロ見た。太ももまでを覆う長さの、聖技の知識では名前すら知らない長くて白くて入口がレースになっている靴下が実にセクシー。こういうのってガーターベルトとか必要なんじゃないの? それともあそこがレースになってるから逆に着けない方がいいのかも? そんなことを思いながら視姦を続ける。


「な、なんなんですの?」


「ボクさぁ、小学2年の時だったかな? お母さんに頼まれてさ、スイカをさ、おすそ分けしに持って行ったんだよね」


「は、はぁ……」


「ほら、スイカって重いじゃん? 普通のビニール袋とかだと紐が伸びて落っことしちゃうかもしれないからってさ、布袋に入れてくれたんだよね」


「あの、一体さきほどから何の話をしておりますの……?」


「ガブちゃんのブラがあまりにもデカすぎてさ、そのことを思い出しただけだよ!」


 聖技はサムズアップと共ににっこり笑顔でそう言い切った。


 ガブリエラも、にっこり笑顔に青筋を浮かべた。


 そして、聖技を部屋から蹴り出した。


 ガブリエラは続けてサムターンを回し鍵を閉める。先ほども施錠していたはずなのだが、毎日のように繰り返しているせいか本当に閉めたのか記憶があいまいだ。なので今度こそしっかりと鍵が閉まっていることを確認し、


「……は?」


 そのサムターンが、ガチャリと音を立てて回転するのを目撃した。


「もーちょっと話くらい聞いてよ~」


「おぅ、邪魔するぜー」


「おじゃまじゃま~~~」


 そして我が物顔でドアを開き、聖技と葵、そして同じクラス内で聖技と一番仲の良いおとめも一緒に入室してくる。


 学生寮のドアの鍵は電子キー型だ。鍵穴などというものはなく、したがってピッキングなんてことは不可能なはずで、


「もしかして鍵が壊れておりますの!?」


「あ、ううん、違う違う。これこれ、これを使ったの」


 そう言って聖技が見せたのは、テレフォンカードくらいの大きさの、けれども分厚さは数センチほどもある、小さな液晶といくつかのボタンが付いた機器だった。そして妙に作っただみ声で、


「ぱらぱぱっぱら~~~! 電子キー解除装置ぃ~~~!」


「…………は?」


「知り合い? 上司? が作ってくれたものでね、車の鍵とかを外から開けることが出来るの」


「正しい使い道は有事の際の避難用だけれどな」


 第二次以上の避難警報が発令中の場合、乗り捨てられた自動車やバイク、自転車等は、無断での借用が認められている。その後に警察か軍に借りた旨を報告する必要はあるし、借りられた側も返却時に謝礼が貰えるように法整備済みだ。


 ちなみに聖技が初めてルインキャンサーで戦闘した後に勝手に借りたバイクも、もちろん無事に所有者の下へと返っている。


 ただし無断借用するためには、鍵が残っていなければどうしようもない、という制限が付く。そのための電子キー解除装置だ。


 ちなみにこの装置、もともとはルインキャンサーの各種ロックを解除するために開発されたものである。ハッキング対策が古めのドール・マキナであれば1秒とかからずコックピットハッチを外部から開くことも可能な代物であるのだが、残念ながら本命たるルインキャンサー相手には全く役に立たなかった。


「ちなみに~、おとめのお姉の発明品~~~」


「あぁ、あの伝説の問題児集団の……。あの、サオトメさん? 一応確認しておきたいのですが、もしかして、爆発したりは致しませんわよね……?」


「あ~~~、まぁ~~~、自壊装置は入ってるだろうけど~、自爆装置までは入ってないんじゃない~?」


「安心できるのかできないのか絶妙な線ということですわね……!? というかとんでもない代物ではありませんの!? セイギ・シモツケに持たせて本当に大丈夫なんですの!?」


「大丈夫大丈夫! いたずらには使うけど犯罪には使わないから」


「そのいたずらというのは世間一般では犯罪行為に含まれるのではなくって!? それだけではなくって貴女それを無くしそうで不安に思っておりますのよ!」


「あー、オレもそれ気になって確認したんだけどよ、紛失時の対策にな、それぞれのケータイが近くにねぇと動作しねえようになってんだわ」


 ついでに言うと、その携帯電話は聖技が普段使いしている普通の携帯電話ではなく、アストラから支給された暗号通信機能がモリモリに強化された軍用携帯電話の方である。


「まぁついでに後で対策してもらっとくわ。解除キーの方になるか寮の鍵全部差し替えになるかは知んねーけど」


「……まぁ、それならいいでしょう」


「ところでよ、デカパイ女」


「……その呼び方は大変に不本意ですが、なんでしょうか、アオイ様」


「いい加減服着たらどうだ? いつまでも半裸だと風邪ひくぞ?」


「それが分かっているのでしたら! まずは一度部屋から出て行ってもらえませんこと!?」


   ●


 ソファーに並んで座った聖技と葵は、ガブリエラの部屋を観察していた。落ち着いた色合いの部屋だ。勉強机に本棚。応接机にソファー。天蓋のあるベッドは、ガブリエラが高校一年生の女子はおろか男子の平均身長すらも大きく上回る長身であることを差し引いても随分と大きい。


 部屋の主たる少女は制服に着替え直し、ミニキッチンで紅茶の用意をしていた。夜8時過ぎに訪ねてきた非常識な客人たちを追い返さない辺り、随分と人がいい。


「あの、あまり不躾に見るのは止めていただけませんこと?」


「あー、ごめんごめん。薔薇の二重円の会(ドッペルローゼン)の活動時間が終わるまではおとめちゃんの部屋で待ってたんだけどさ、全然違うなーって。あっちは足の踏み場も無かったんだよねー」


「ミスリルの学術書とか論文が山っつーか塔みてーになってたな。なんか面白そうなモンあったら借りていいか?」


「いぃ~よぉ~」


 返事はベッドの上から聞こえた。


「サオトメさーん? 寝るならご自分のお部屋に戻られてはー?」


「おとめのへや~、ねるとこないし~」


「それは貴女が部屋を片付けないのが悪いのではなくって?」


 戸棚を、続けて冷蔵庫の中をガブリエラは確認する。うーん、と少し悩んで、


「日本ではライスにお茶を浸して出すのがお茶請けの礼儀だと聞いたのですけれど、ライスは常備しておりませんのよね……」


「そりゃもうお茶請けじゃなくってお茶漬けなんだわ。あとたぶん騙されてんぞテメー」


「クッキーならありますけれど、それでよろしいでしょうか?」


「いらねぇよ、こんな時間に食ったら太るだろ」


「アオイ先輩は太らないとダメなんじゃなかったですっけ?」


「入んねーんだよ。晩飯で腹ン中がもうパンパンでよぉ……」


「ちなみにボクは何十枚でもイケるよ!」


「ではお茶請けは無しにいたしましょう」


「そんな!?」


 戻ってきたガブリエラは2人の対面に座り、手ずから紅茶を配っていく。


「自分で淹れるんだね。お手伝いさんとか、召使い? そういう人たちにしてもらってるんだと思ってた」


「そのような生徒もいないわけではありませんが、わたくしはシュッツエンゲルですので。自分の世話くらい出来ますわ」


「へー、そうなんだー」


 返事をしながら、聖技は少し焦っていた。シュッツエンゲルって何だったっけ、と。少し前に葵が教えてくれた気がしてはいるのだが、どんな内容だったかは全く覚えていない。


「それで、このような時間にどのような御用件ですの?」


 つまらない用事だったらぶっ飛ばしましてよ、と表情に怒気を混ぜながらガブリエラは問うた。葵は全く意に介さず、鞄の中から答案用紙を一枚取り出した。


「おうよ、まずはこれを見てくれ」


「中間の小論文? それも白紙の答案、と。……セイギ・シモツケ、言っておきますが、白紙投票をしても抗議の意図ありとはみなされませんわ。単に無効票として処理されるだけでしてよ?」


「選挙じゃねーんだわ。いや確かによ、今回の設問は政治的スタンスを探ろうとする意図が見えねーわけでもねーんだけどよ。この馬鹿がそこまで考えられるほど頭いいワケねーだろ」


「……? では、なぜ白紙回答を?」


「この馬鹿、『マリウスの真実宣言』を知らねーんだよ」


 ガブリエラは照れ笑いをする聖技を見た。続けて葵が至極真面目な顔をしているのを見た。最後にベッドのおとめを見て、そちらはもう無視することにした。


「……お馬鹿さんなんですの?」


「ひどい!? 真実は時には人を傷つける鋭利な刃になるんだよ!? 時々ボソッとドイツ語でデレる隣の席のガブちゃんになってもいいんだよ!?」


「わたくしが貴女にそのような気持ちを持つことは未来永劫あり得ませんし、そもそも教室で貴女の隣でいつも寝ているのはそこのサオトメさんでしてよ」


 聖技はだらけるおとめを見ると、おとめは聖技に向かって気だるげに投げキッスをして、


「じゅて~~~む」


「フランス語じゃねーか」


「そういえばガブちゃん、ドイツ語で愛してるって何て言うの?」


「……その手には乗りませんわよ、セイギ・シモツケ。質問に見せかけて言動を誘導させるつもりでしたわね?」


「ウェ~イ偉人電柱~」


「それを言うなら以心伝心だ馬鹿。日本の恥を国際社会に晒すんじゃねぇ」


「はぁ……。貴女たちと話していると頭が痛くなりそうですわね。いい加減、用件をはっきりとしていただけないものかしら?」


「おぅ、そうだそうだ。この馬鹿によ、一つ説明してやってくれよ。『マリウスの真実宣言』についてよ。なぁ、今回の小論文で唯一の、満点回答者サマよ」


テレフォンカード分かんねーだろ最近の子

VS

作中は2004年設定だから最近の子を読者層として想定していない

VS

ダークライ

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