黄金の螺旋 1
今回は週1で更新予定です
間が開いたんで前回のあらすじでも書こうかなーと思ったけどあらすじ書くの苦手なんで誰か代わりに書いて欲しい……
「だぁーっ!? なんでそこで胴体斬るんだよバッカじゃねえの!?」
「いや……これはだな……操縦席を取り出そうとしてだな……」
星川葵に何度も叱責され、東郷麒麟はしどろもどろに言い訳をした。普段の凛とした雰囲気はすっかり霧散し、心なしかポニーテールと青のリボンもしなびていた。
「ていうか何でさっきのダルマにしなかったんです?」
「ダルマ?」
「手足を両方とも壊しちゃうんですよ。そうすれば攻撃も逃げるのも出来なくなりますから」
「内蔵火器とかは?」
「無視していいと思いますよ。中型マキャヴェリーなんてそんなの無いのが大半だし、あってもせいぜい豆鉄砲だし」
「だからここでよぉー、胴体じゃなくって残った右腕も切り飛ばしときゃよぉー、完全試合にゃあなってねーんだよぉー」
2004年度第1次バルサン作戦。国内に潜伏している外国人武装勢力の制圧任務は無事に完了し、ひと眠りした3人は、今はこうして反省会の真っ最中だった。
大型モニターに映っているのは、麒麟が操縦していたマガツアマツ弐号機の交戦記録映像だ。
3人が囲むテーブルの上には、空になった和食膳が4人分。綺麗に空っぽになったおひつは下野聖技の前に置かれていた。
「あ、でもこいつは例外。ダルマっても逃げられる」
新たにモニターに現れた5機の敵機、その1機を指差し、葵はそう言った。トレーラーヘッドから頭と手足が生えているドール・マキナだ。クルスと呼ばれる、自動車への変形機構を持つドール・マキナだった。
その映像が、一瞬ブレた。次に見えたのは5機の背中。そしてリンドウは、クルスの背中に手刀を突き刺した。
爆散。
煙が晴れる。赤黒く染まったリンドウの手が出てくる。
「「「……」」」
「……なぁ、何したかったんだアンタ」
「いや、そのだな、こう、背中から操縦者を捕まえようとしてだな」
「キルアが心臓引っこ抜いたみたいに?」
「キルアが誰かは知らねーが、言いてーことは分かった」
「……それで、だ。こやつは、どうやって捕まえればよかったのだ?」
「うーん、実際ムズいな。さっきも言ったけど、クルスは捕まえにくいんだよ」
「こう、縦に真っ二つにしては駄目なのか? 右の席に座っていたし」
「あ、それダメです。運転席のすぐ下にエンジンあるんで、さっきみたいにドカンします」
「ええい、ミスリル・リアクターなら爆発しないものを……!」
麒麟がそう言うのは、精製ミスリルを燃料とするミスリル・リアクターは、破壊されたとしても爆発することがないからだ。ただし、
「クルスには入りませんし、仮に入ったとしてもパイロットが焼け死にますよ?」
ミスリル・リアクターは超高温化することも特徴だ。機体の排熱能力が不十分だった場合、内部融解を引き起こす。8メートルサイズの中型マキャヴェリーにはかろうじて搭載可能だが、そのサイズでは排熱が追い付かない。仮に搭載した場合、コクピットの温度は軽く数百度に達するだろう。
というか実際に達した。第二次世界大戦の最中に完成したミスリル・リアクター、その起動実験で。中型マキャヴェリーの上位機種、大型マキャヴェリーが生み出されたのは、従来のマキャヴェリーではミスリル・リアクターを搭載できないことが判明したからだ。
「つーかよー、うっかりで殺しまくってんじゃねーよ。学園生活が心配だぜオレァよぉ」
現時点で判明している限り、捕縛者数は23名。対して死者数は44名におよぶ。
「失礼な。外国人重犯罪者とそうでない者の区別くらい出来る。少なくとも学園の生徒は殺さんぞ私は」
そして、麒麟の撃墜数は38機。……つまりこの女、捕獲任務であるにも関わらず、交戦した敵を1人の例外も無く殺している。
「そりゃ下っ端連中は多少間引いてもいいだろうよ。刑務所であのクソどもを生かすために血税が使われるワケだからよ。ここで殺しときゃ節税にも繋がるからなぁ。けどよ、これでリーダー格まで殺しちまってりゃ作戦失敗だぜこりゃ」
「あ~、その辺はたぶん大丈夫」
女3人の会話に、男の声が挟まった。特殊部隊アストラの隊長、石川だ。作業机に1人離れて座っている。顔色は悪く、目の下には隈が浮き、無精ひげも生えている。その疲れ果てた風貌に反して、隊服はパリッと糊がきいていた。
「僕がさぁ、麒麟ちゃんの血に飢えた妖刀じみた殺戮本能を考慮していないと思う?」
「おい言われてんぞ会長」
「ははは、そんなに褒めるな」
「いや絶対誉め言葉じゃないですよ今の」
「麒麟ちゃんが切り殺す前に、ダース3機を僕の方で撃墜済み。アニマキナでのトリモチ弾で拘束のおまけ付き。そうじゃなかったらその前に止めてるよ」
「言って止まるタマかよこの妖刀女が」
「まぁそこはねぇ……。僕が狙撃するより麒麟ちゃんが斬る方が早いしねぇ……」
「ダメじゃねえか」
「それで、隊長が倒した中に敵のリーダーはいたんです?」
胡乱な目で宙を眺める石川は、聖技の疑問に対して、直接的な返答をしなかった。
「敵がどんな構成だったか、覚えてるかい?」
「え? えーっと、大量のパッチワーカーと、クルスが何体か?」
マキャヴェリーというドール・マキナは『マキャヴェリー規格』と呼ばれる規格で製造されたものだ。各関節部やマニピュレーター、ハードポイントなどが共通しているため、他社はおろか他国で作られた機体であったとしても、サイズ帯が同一であれば互換性を持つ。この互換性を利用し、他の機体の手足などで応急修理を繰り返した機体。それがパッチワーカーだ。正規軍ではよほど困窮しない限りは起こり得ない状態であり、それゆえに、パッチワーカーは犯罪者の象徴的なドール・マキナとして知られている。
石川は長い欠伸をすると解説を続けた。
「外装を塗り替えてないから、カラーファミリーじゃあなぁぁぁあぁい……。つまりはチンピラの集まりで、組織権力による指揮系統じゃなく、もっと原始的な指揮系統ってことだね」
「……えーっと、つまり、どういうこと?」
「一番偉いやつは、一番強い機体に乗ってる。だから、首謀者の機体はダースってこと。残りの2機は側近か用心棒あたりかな?」
「つーか今更だけどよ、会長って戦わせていいのかよ。結構なオジョーサマだろコイツ」
「え、そうなんです?」
「コイツの爺さん、海軍のトップだぞ」
「滅茶苦茶偉い人じゃないですか!?」
「つか有名だろ、海軍名門の東郷さんってよ」
「海のことなどよく分からん。私は陸の上で刀を振るう方が性に合っている」
「麒麟ちゃんは軍とのパイプ役も兼ねているんだよ。近接戦も優秀だしね。あぁ、それと、そろそろ出ないと遅刻するよ?」
「あん? もうそんな時間かぁ?」
「え? 学園行くんですか?」
「じゃなきゃ制服に着替えねぇだろわざわざ。あー、オッサン、続きは放課後でいいよなー?」
「いいよ。僕も色々と事後作業があるしね」
「ホテル直通のエレベーターって使えっか?」
「使えるけれど……。え、もしかしてあそこから行くつもり?」
「そこしかねぇだろ。寮や校舎内で見つかったら面倒だし」
「あー」
石川は徹夜明けの脳みそで少しばかり考えた。まぁいいか、それで面倒ごとに巻き込まれるのは僕じゃないし、と。
「君たちがいいんなら止めないよ」
「それとよー、そろそろ研究室の方にも顔出してぇんだけどよー、また出撃の予定とかあったりすんのか?」
「いや、今回のは色々と特殊な条件が重なったからだから。ブリーフィングでも言った通りね、本来は軍の仕事だよこれは。肆号機、……クロユリの実機訓練はしてほしいけど、これは夜中の方が都合がいい。人目に付きにくくなるから。というかそのために夜間迷彩にしてあるからね。だから来るのが遅くなっても大丈夫。あー、下野さんはこれまでと同じようにお願いね。ルインキャンサーの解析作業、全然進んでないからさ」
「あいよ」
「分かりましたー」
「ふむ、話がまとまったようだし行くか」
ようやく解放される、とすがすがしい笑顔になった麒麟は立ち上がった。立てかけていた刀を手に取り腰に差す。が、
「麒麟ちゃんはちょい待ち」
「む?」
麒麟を止めた石川は、一枚の書類を掲げた。その書類の見出しには、こう書かれていた。
―――始末書。
「トンファーガンを壊した始末書、書いてから登校してね」
1人だけ、この世の終わりのような顔をしていた。
忘備録を兼ねて雑に機体の紹介でも
・ルインキャンサー
いけいけ僕らの主人公機。前回の戦いではひたすら地面撃ってるだけだった
全長約30メートル。黒くて光るバ火力系
・マガツアマツ
主人公のゆかいな仲間たちの機体。日本国産最強スペックの陸海空全領域対応型
全長約18メートル。外見は鬼面武者で赤と青紫と緑と黒の全4機。赤い壱号機は中国で活動中なので作中未登場
・中型マキャヴェリー
アメリカ大陸を開拓するために開発された、世界で最も量産されたドール・マキナ
全長8メートル前後。いわゆる雑魚敵。一応補足しておくと、中型マキャヴェリーというのは機体名ではなく分類名
別名9Y。8メートルは約9ヤードだから9Y
・大型マキャヴェリー
第二次世界大戦中に開発された、中型マキャヴェリーの上位種
全長だいたい12メートル。いわゆるエリート兵。これも機体名ではなく分類名
別名ダース。12メートルだからダース
・クルス
自動車への変形機構を持つドール・マキナのこと
全長は機種もとい車種によりけり。戦闘用としては失敗作の烙印を押されているのでつまりは雑魚敵
戦闘面では雑魚だけど、災害現場では超有能な『非戦闘用』ドール・マキナ
・タロス
作業用に民間でも広く使われているドール・マキナ。フォークリフトのように操縦席は胴体上部に露出している
全長4メートル前後。軽トラ、フォークリフト、そしてタロスは運搬車両三種の神器として重宝されている
たまに熊とかイノシシとかと戦ったりする
ガッツリ改造されて銃火器満載の軍用機にされることもある