兵隊
モコはその後リトにべったりだった。サヤの一件は、小さなモコの心には受け止めきれない出来事だったはずだ。
「リト、これからどうしますか?モコは大丈夫でしょうか?」
「夜が明けたらこの国を後にする。急ぎサヤの残したものから衣食必要なものをまとめておくように。モコは…純粋な心の持ち主だ…立ち直るのに少し時間がかかるかもしれぬ」
モコに何か声をかけるべきかと迷ったが、ここはリトに任せたほうがよさそうだ。言われた通り支度をする。箪笥を開けると衣類がたくさん入っていた。その中からサイズの合いそうなものを選び袋に詰める。また、食料庫からパンや缶詰め、その他日持ちのするものを選んだ。
「モコ、我の膝に座らぬか?」
モコは言われた通り膝にポンと座りリトを見上げる。
「ぼくね、とっても悲しい」
「そうだな…。辛かったな。すまない…。
モコ、よければ少し話しをしても良いか?」
「うん」
「悲しいのはなぜだと思う?」
「それは…もう会えないから…だと思う」
「会えないのは悲しいな。しかし、いつでもサヤたちを思い出すことはできるのではないか?思い出して、心の中で会ってみるのはどうであろう」
「ぼくの思い出の中に生きてる?」
「そうだ」
「いつでも会える?」
「ああ」
純粋なモコは少し元気が出たようだった。
「それにな、そのクローバーはサヤがモコの未来を願ってお守りとしてくれたものだ。この先もし何か辛いことがあったとしてもきっと守ってくれる」
「そうなの?」
モコはクローバーをポケットから出してそっと手のひらに乗せる。
「いい子だ」
リトはモコの頭を優しく撫でた。
夜が明け荷馬車に乗って国門へ向かう。門は国内外へ品を運ぶ荷馬車に溢れている。あえて荷馬車に乗ったのは、その群れに紛れるためだ。顔を見られないように一応深く帽子を被る。
拍子抜けするほど順調に門のところまで来たが、門の下に見張りの兵隊がおり、荷馬車を止められる。
「すまぬが協力いたせ。王の命令で罪人を探しておる。人数は、3人だな。積み荷を確認する」
積み荷は少なく、すぐに確認は終わった。
「よし、杖や武器など怪しきものはないな。行ってよい」
思わず安堵のため息が漏れ、荷馬車はまた動き出した。
が、一人の屈強な兵士が去りかけた荷馬車から突如モコを引きずり下ろし蹴り飛ばした。
「やめてッ」
モコの悲鳴。
血が飛び散る。しかし、その血はモコのものではなく兵士のものだった。
リトは瞬時に荷馬車の上に立ち上がり杖を構えていた。
「次に手を出せば、容赦せぬ」
周りにいた兵士たちも武器を構え、真っ直ぐこちらへ向かって来る。さすが不老不死の国、傷を負おうと死ぬことに対する恐怖というものが、この兵士たちには全くなかった。私は荷馬車に積んであった重そうな鍋や皿を力任せに投げて対抗する。
屈強な兵士は血の滴る腕でモコを持ち上げ、檻の中に投げ入れた。
リトが荷馬車から飛び降り、その兵士の後頭部へ杖をつきつけるが、兵士は全く動揺する様子もなく檻を抱えて去ろうとする。彼はこの状況を見て判断したのだ。「あの解術師、兵士たちの疫を解して殺してしまうことだってできるはずなのに、それをしない」と。なかなか頭のきれる策士といえよう。
そこへ
「王直々のお出ましじゃ。静まれ」
との声。
振り返ればいつの間にか馬に乗った護衛と王冠を被った国王がこちらをじっと見ていた。
国王は…異様な見た目だった。
なんと、自らの首を脇に抱えているのだ。
「解術師よ、話がしたい。子どもを傷つけられたくなければついてくることだ」
こうなってはもうどうしようもない。リトは杖を投げ捨て、従う意思を示した。兵士がすかさず両腕を縛る。