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私大入試で倫理力を存分に出した男

作者: タカヒロ

今日は俺の人生を大きく左右する1日だ。高校三年生で人生が変わるなんて大袈裟だろうが、この難関私大に入学できれば、俺の未来は約束されたも同然だ。


俺はこの日のために教科書がボロボロになるまで勉強した。たくさんの誘惑も断ち切り、合格するのを夢見て励んできた。だから俺は大丈夫だ。必ず合格できる。自分の力を信じるんだ。


最終教科国語


遂に最後になってしまった。国語は苦手でも得意でもない。だからここでどれだけ点を伸ばせるかによって大きく変わる。


ペンを握り続けたせいか指が思うように動かない。俺は手を開いたり、閉じたりして手をほぐした。


開始15分、俺は国語の問題に驚愕していた。別に難しくてペンが止まっているわけではない。問題の内容に問題があるからだ。これは現代文の評論の問い5で先生と生徒が本文の内容から発展して話し合っているところなのだが、会話の内容がヤバい。これがその内容だ。


たかし 「先生。この『お菓子から学ぶ生存戦略』にはフェアトレードについて書かれてましたよね。フェアトレードすることに何の意味があるのですか?」


先生 「そうですね。結論を言うと人間の醜い本性が顕著に現れた仕組みだと思います。


フェアトレードとは、貧困のない公正な社会をつくるために経済的に弱い立場にある生産者と経済的に強い先進国の消費者が対等な立場で行う貿易です。


例えばチョコレートなんていい例です。ガーナ産のカカオ豆が使われているチョコレートがフェアトレードされたものと同じ味でフェアトレードされてないカカオ豆では値段に大きな差が出るのです。


たかしくんは少し高いくらいならフェアトレードの方を選ぶ人間であることは分かっています。しかし、2倍3倍となると手を出さないでしょう。それは対等な立場であることの前に自分が消費者であるからです。


私も同じで教師というのは給料はそこまで高くないのでフェアトレードなんて気にしていたらお金がいくつあっても足りません。だから本来は富裕層が購入するべきなのですが、なかなか売れ筋は伸びない。我々は苦しみながら豆を栽培しているガーナの少年の顔を見たところでお金という壁は超えられないのです。


安さと公正な社会を個人が天秤にかけたところで意味がない。そして自分でこのことがわかっているのに、安価な特売のチョコレートを買ってしまう私は本当のクズといえるでしょう。」


たかし 「わかりました。僕は先生みたいなクズな大人にならないようにします。」


ここなんだよね。ここ。こんなに先生が熱弁してくれたのに、たかしが台無しにしてるんだよね。先生のありがたいお言葉を踏みにじるどころか焼却して新たな思考を生み出してるんだよね。たかしの倫理はどこに消えたのか。倫理を呼び戻せ。


それで、驚きなのが、この後の設問全くフェアトレードに関係ないんだよね。先生の言葉に出てくる顕著の読み方を聞いてきただけなんだよね。


俺はこの後の問題でもたかしに対する憤りと先生に対する敬意で集中できなかった。遂に俺は、解答用紙の裏に問題の作成者側にたかしと先生の問題についての意見文を書いてしまった。すごくペンが動いた。疲れてるはずなのにすごくペンが動いた。


「そこまで」


試験官の声が響き渡る。俺は部屋を退出したとき、晴れ晴れとした気分だった。大学には落ちたけど、先生が少しでも報われるのならばそれでよかった。


その後、俺は帰りにスーパーに寄り、お菓子コーナーに行く。そこでもちろん取ったのはガーナ産のカカオ豆を使用したチョコレートでフェアトレード商品だ。心なしかフェアトレード商品が品切れになってる気がする。これでガーナの少年が報われことを考えると嬉しかった。


数日後、俺は合格発表をオンラインで見た。落ちることはわかっているが、一応確認しておきたい。ちなみに受けたのは経済学部だ。まぁ他にも滑り止めを受けておいたから心配はない。受験番号を入力し、結果をクリックした


「倫理学部  合格  おめでとう」

と書かれていた。


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