第145話 第3回戦:【ネタバレ】必ずファイントが勝ちます(2)
【はぁ~い、全力で楽しみましょうね☆】
セーラー服を着たファイントそっくりの敵----《ルトナウム》赤鬼、またの名を偽ファイントは初手から全力で攻撃を開始していた。
偽ファイントが指をパチンと鳴らすと、途端に世界が著しく変化する。
世界はガクリと回転して、天井が下へ、そして俺達が足を着いているはずの床が上へとなっていた。
床に足を着いているはずなのに、天井が下にあるせいで、なんだか変な感覚だ。
変化はそれだけではなく、目に映る色も変化していた。
黒色が白色に、赤色はシアン色(やや緑みの明るい青)に、緑色はマゼンタ色(鮮やかな赤紫色)に----色合いまで反転していたのである。
「へぇ~……音によって、脳を揺らしてるんだね♪」
そんな状況を、ファイントは的確に分析していた。
【イェス♪ 音を操って、他人の平衡感覚と色彩感覚を狂わせる----それがこの【ブレーメンの音楽隊】という職業の力なのです♡】
偽ファイントは【お見事♪】と笑いながら拍手していた。
楽しい音楽を聴けば心が明るくなったり、悲しい音楽を聴けばどんよりとした気持ちになったりと、音によって人々の感情は左右されることがある。
その音を自由自在に操ることが出来れば、脳の平衡感覚を狂わせて天井と床の位置が反転していると誤認させたり、色合いも誤認識させることも出来るのだろう。
音によって、認識を歪める力。
「----だけじゃないわよね、偽ファイント?」
【えぇ、勿論ですよ☆ ファイント☆】
ファイントは自分の事だから、自分の姿を模した相手だからこそ、良く分かっていた。
音を用いるだけの力で、自分がここまで良い笑顔をしないことを。
ゆらりと、真っ白な所から人間が浮かび上がる。
いや、顔もない、ただ真っ白な人型のそれを人間と呼ぶべきか否か、だが。
【私の職業は音を操るだけではなく、影も操る。
基となった伝承にもあるでしょう、"泥棒を追い出すために、影を用いて化け物だと勘違いさせて追い払った"という話が。故に私の職業は、音と影を同時に操る能力】
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【ブレーメンの音楽隊】 スピリット系統職業
人間から逃亡を決意した動物たちを模した職業。この職業になった者は音と影を自由自在に操ることが出来る
音は人々の精神を狂わせ、幻を相手に植え付ける。そして影はこっそりと近づいて、化け物のように人を襲うのである
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【あなたが私なら、このような便利な職業をいただいたら、どんな事をするか分かるんじゃないかしら? 一緒に楽しみましょうよ?】
「えぇ、面白そうだわ☆」
隣で主人である冴島渉が「おいっ!」と言うが、ファイントはそれを制して話を聞き続ける。
ご主人である彼には悪いが、あの職業で出来る事を考えると、ワクワクが止まらなかった。
なにせ、人の意識を操る音の力、そして影から無限の軍団を生み出す力----それがあれば、どれだけ自由な事が出来るか、想像するだけでワクワクするからだ。
既に、この《クエスト》赤鬼なる空間からの脱出方法はできている。
この偽ファイントを倒さなくても、なんなら偽ファイントと共に、一緒に出ることも出来る。
そしたら、2人で一緒に悪事を楽しもうじゃないか。
自分と同じ考えの者が共にいれば、もっと自由に色々出来そうだ。
「実に、面白いわ☆ 良いわねぇ、一緒に外で暴れましょう?」
【私なら、そういうと思っていたわ☆ なにせ、私だもの♪】
ファイントは、素直に偽ファイントを誘って、外で一緒に暴れようとして----
【なら、そこの泥は要らないわね?】
----一瞬で、その気持ちを冷めさせられた。
【あら、どうして手を引っ込めるのかしら、私? 同じ私であるなら、分かるはずよ? そこの泥野郎が要らないことが☆
人間なんて、偉大なる神様が自分の姿を模して、そこいらの土塊から生み出した、話す泥。たかが泥の分際に、いつまでも固執するなんて、おかしいでしょう? 私?】
同じ自分である、だからこそ同じように思っているはずである。
自分と同じように、人間なんてたかが泥の分際程度と、その程度の存在にしか思っていないと。
偽ファイントは何故か提案に乗って来ないファイントを不思議に思いながら、【手を取るよね、私?】と手を差し出し続けていた。
「あぁ~☆ そういう事なのね☆」
ファイントは、額に青筋を立てていた。




