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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
9/72

似合うドレス似合わないドレス

散歩を終えて、仕事に戻った俺は、お嬢様の直さなければいけないところが多すぎて、どこから手をつけようか頭を抱えていた。


 ダイエット食に関しては、作ってもらえる場と人材は確保したが、まだ数点レシピを教えないと、改良や創作には至らなそうだ。



 散歩兼ウォーキングと称しての運動も、毎日恒例化して欲しい。

 姿勢については助言したので、慣れてきたら第2段階に入ろう。


 マナーも問題だ。

 勉強嫌いからか、一通り習っているはずなのに全く形になっていない。

 この調子では、座学は目も当てられないのでは…。


 とりあえず、ファリスさんとレナとの関係改善から手をつけようか。

 お嬢様付きの侍女であるファリスさんが、お嬢様に味方してくれるようになると、他のメイド達との関係も良くなるはずだ。


 この間の夕食で、少し態度が軟化していそうだし、今日の散歩でも、お嬢様は暴れたりしていない。


 ここは、女性が興味のある話題で釣って、そこから仲良くなってもらおうではないか。

 女性の興味のあるものといったら、美容とファッションだろう。

 おっさんでは荷が重い、と思うなかれ。

 こう見えて末っ子で、上に義理の姉が二人更には姪までいるのだ。

 姪は一番上の姉の娘だ。

 休みの日になると荷物持ち兼足と称し、車を出していたものだ。

 その際に、どっちがいい、やら、どれにしようなどなど。

 答えないと怒られるので必死だ。

 そのせいもあり、女性のファッションには結構詳しいのである。



 そうと決まれば、明日の午後にでも時間を取ってもらおう。

 ワトソンさんを通してファリスさんに相談する。

 午後のマナーの授業が終わったあとなら、時間を取れるとなり、俺は前倒しで仕事を終わらせた。






 次の日の午後、約束の時間にお嬢様の部屋をノックする。

 中からファリスさんが顔を出し、挨拶をして入る。



「お嬢様、こんにちは。ご機嫌如何ですか?」



 俺は人差し指を口元にもっていき、上げながら挨拶する。

 お嬢様も、ぎこちなく口角を上げて微笑んだ。



「あらリオン。次は何を企んでいるの?」



 企んでいるだなんて人聞きの悪い。

 俺は苦笑しながらファリスさんの横に並んだ。



「お嬢様には遠回しに言っては伝わりませんからね」



 何を言われるのかと身構えたお嬢様に、俺はニッコリ微笑んだ。



「とりあえず、ファリスさんやレナと仲良くなって頂こうと思いました」



 俺は二人の方を振り返る。

 時間を取ってもらったものの、何をするかは聞いていない二人の顔が引き攣る。



「な、仲良く……?」

「はい。とりあえず。お嬢様にはいつも着ているドレスたちが、全然似合っていないと、この二人が言っております」



 俺は後ろの二人を振り返る。



「ちょっ!な、そ、そんな!」

「リオン!何を!」



 二人がそれは慌てて顔を真っ青にして、お嬢様に弁解しようとする。

 お嬢様はすぐに噛み付くかと思ったが、俺を笑顔を深くしながら見つめていた。



「リオン、どういう事か説明しなさい」



 お嬢様は笑顔で怒るという、器用な事をしながら問いかけた。



「はい。お嬢様は気付いていませんが、今のドレスはどれもお嬢様に似合ってまいません」




俺の言葉にメイド二人は青い顔で天を仰いだ。

俺はそんな様子を笑顔で見つめ、視線をお嬢様に戻した。

 お嬢様は、俺ではなく今日きているフリルの上等なドレスを見下ろしていた。

どうやら俺の辛口には慣れたようだ。

順応性が高い。

これは色々と見込みがあるかもしれない。

と、考えを巡らせていると、お嬢様はこちらに視線を向けた。

後ろからひぃっと、二人のメイドの声が聞こえる。



「でも、これは最高級の生地で仕立ててもらったのよ!これ以上なんて出来ないじゃない!」



 お嬢様が、立ち上がってドレスの裾を片手で広げる。

 確かに上等の生地だ。

 あのドレス一着で、平民の小さな家くらいなら建つんじゃなかろうか。



「はい。生地は最高級品だと思います。でも、お嬢様には似合いません」



 お嬢様がフグのように顔を膨らませる。



「何よ!どこが似合わないのよ!」



 そこで俺は後ろのファリスさんとレナを見た。

 ビクビクしていた二人だが、俺と目が合うと、二人で視線を合わせた。

 言い難いが、何か言いたい事があるらしい。

 でも、お嬢様が怖くて言い出せない…。と言った所か。



「ファリスさん、レナ。お嬢様はもうすぐに怒ったりしません。思っていることを教えてくれませんか?」



 二人はそれを聞いて、また視線を合わせた。

 俺はお嬢様の方を振り返り、返事を貰う。



「……ええ。もう怒鳴ったりクビにしようとしたり、理不尽に怒ったりしないわ……文句は全部リオンに聞いてもらうことにしたから」



 間違ってないが、文句は俺限定になったらしい。



「……という事なので、遠慮なく意見して下さい」



 俺は、お嬢様のフグのように膨らませた口の左右を、上に引っ張って答える。



「笑顔です」



 お嬢様は渋々、ニヤッと効果音がつきそうな笑顔を見せた。

 顔を見合わせていたファリスさんとレナは、そんな様子を見て、意を決したのか話し始めた。



「確かに……カーミラお嬢様には、お持ちのどのドレスも、あまり似合っていないように思われます……」



 同じ女性としてか、それとも侍女のファリスさんに言われたせいか。

 俺が言うより説得力があったようだ。

 お嬢様は着ているドレスをギュッと握った。



「そんな……」



 お嬢様が悲しそうに呟く。

 そこでコホンと咳払いして、お嬢様のドレスを指差す。



「お嬢様のドレスは、ピンクや、白、黄色やパステルカラーなど、薄い色が多いですよね?」

「……ええ……それが何か?」

「ファリスさん、黒のドレスってありますか?」

「黒ですか……確か紺だったら……」



 ファリスさんがクローゼットから、紺のドレスを持ってきてくれた。



「一回も着たことが無いドレスだわ。」



 お嬢様が持ってきてもらった紺のドレスを見て呟く。



「お嬢様がよく着ているドレスの色は、膨張色といって、実際の身体より太く見える特徴があるのです」



 鏡の前にお嬢様を誘導して、今日着ているピンクのフリフリのドレスを指差す。



「それから、フリルやレースも女性らしく華やかですが、ついてることでボリュームアップし、身体のシルエットが膨らんで見えます」



 鏡に映る自分を見て、お嬢様は顔を背けた。



「なので、まずこの紺のドレスに着替えてみましょう」



 ファリスさんが持ってきてくれた紺のドレスは、袖と裾、それから胸元に金の薔薇の刺繍が刺してある。

 とてもシンプルなものだ。


 ファリスさんとレナに連れられ、クローゼットの部屋へとお嬢様が移動する。

 すぐに着替え終わったお嬢様が戻ってきた。

 もう一度鏡の前に立ってもらう。



「如何ですか?」



 パッと見ですぐに差が出ていた。



「本当っ!少し痩せて見えるわ!」



 お嬢様も気づいたようで、鏡の前では裾を翻したり、背中を見たりしている。



「黒や紺、それから青や緑などの寒色、濃い色などは、収縮色といって、引き締まって見えるんです。ファリスさん、レナ、どうですか?」



 二人に意見を求める。



「え、ええ、とてもお似合いです!」

「本当に……全然違いますね……」



 ファリスさんもレナも、感心したように頷く。



「後は、このドレスのように、クビが出ている物の方が、スッキリして細見えします」



 俺は、二人にお嬢様の首元を指して説明する。



『細見え…………』



 三人の女性が細見えという言葉に食いつく。



「これを踏まえて、三人でトータルコーディネート……全身のコーディネートをして、私に見せて欲しいのです」



 三人が目を輝かせながら意見を出し合う。

 お嬢様は、急ぎ足でクローゼットに向かった。



「ファリス、レナ!これなんてどう?!」



 お嬢様を追って、二人もクローゼットへと入って行った。



「こちらのお色のドレスの方が、髪の色とも合うのでは?」

「お、お嬢様、こちらの髪飾りが合いそうですよ!」



 楽しそうな三人の声が聞こえる。

 ファッションをお題に、三人を仲良くする方法は、上手くいったようだ。

 しばらく、黄色い声が響いていたが、聞こえなくなったと思ったら、ファリスさんに手を引かれ、お嬢様が戻ってきた。

 深緑の膝下のドレスに、白い花の髪飾り、茶色のショートブーツ、青い宝石のついた黒いチョーカーだ。



「三人の見立ては流石ですね。とても可愛らしいです」



 俺はお嬢様の頭を撫でる。



「ファリスはとてもセンスがいいのよ!この髪飾りもファリスが選んだんだから!」



 お嬢様が得意気にファリスを褒めると、褒められたファリスがビックリしていた。



「それに、レナもこのブーツを選んでくれたのよ!最初はブーツなんて合わないんじゃないかと思ったけど、履いてみたらすごく合ってたわ!」



 レナも褒められた事に目を白黒させているが、興奮したお嬢様は気付かない。



「では、これからもファリスさんとレナと、ご自分に似合うドレスを 選んでくださいね」

「ええ!もちろんよ!ファリス、レナ、いいわね!」

「お嬢様、そこは、よろしくと頼めば良いのですよ。手を貸して貰うのは、何も恥ずかしい事ではありません。お嬢様が素直にお願いすれば、皆快く答えてくれます」



 俺が、ゆっくりお嬢様に語りかけると、二人に振り返ったお嬢様は、照れながらも素直に話した。



「ファリス……レナ……よ、よろしくね!」

「畏まりました」

「お、お嬢様、任せてください!」



 少し距離が縮まったようで何よりだ。

 一番顔を合わす侍女と仲が悪いと、使用人だけでなく、お嬢様もストレスになってしまう。

 ストレスが貯まれば、また暴飲暴食、暴言など……。

 悪循環だ。

 これから時間をかけて、少しずつ仲良くなってくれればいい。



「でも、この似合わない服はどうしようかしら」



 お嬢様が、今まで来ていたピンクのドレスを広げる。

 最高級の布を使って仕立てたドレスだ。

 捨てるなんて勿体ないが、お嬢様が今後頑張って痩せるならば、もう着ることもないだろう。



「リメイクしてみたらどうですか?」

『リメイク?』



 三人が揃って聞き返した。


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