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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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姿勢矯正

次の日の朝、自室で目を覚ました俺は、制服に着替えつつ、今日の予定を組み立てる。



 まずは、バーバラさんの所にいって、お嬢様の朝食チェックだ。

 この時、使用人用の朝食も貰って、手早く食べる。

 その後に、日課で俺の主な仕事でもある掃除。

 水汲み、薪運び、ゴミ出しなどの雑用。

 そして、昼食のチェックをしつつ、これまた手早く自分の昼食を済ませる。

 今日は、昨日お嬢様と約束した、庭の散歩が予定にある。

 ファリスさんとレナが、一緒に来てくれるらしい。

 少し早めにお嬢様の部屋へ向かったが、部屋の前でお嬢様が仁王立ちで待っていた。



「遅いわよ!リオン!寒いのに主人を待たせるなんて!」



 相変わらずのキツい目付きで睨みつけられた。

 どうやら相当楽しみにしていたらしい。

 後ろのファリスさんとレナが、苦笑いを浮かべていた。



「申し訳ございません、お待たせしました……と、ちょっとお待ちくださいね」



 俺はファリスさんに耳打ちして、つばの広い帽子を持ってきてもらった。

 季節は冬。

 紫外線は夏だけのものでは無い。

例え冬といえど油断は大敵だ。

若いうちからのケアが年をとった時に差が出ると、お義母さんがいっていたっけ。

 紫外線は冬が終わり、暖かくなってくると急激に増えてくる。

 特に10時から14時頃は、一番紫外線の多い時間だ。

 俺は帽子をお嬢様に被せる。

一応もってきていたショールもお嬢様に巻き付けた。

まるで雪だるまのように着膨れたお嬢様が、帽子を見上げた。



「折角の白いお肌が、焼けてしまったら勿体ないですよ」



 すぐ顔に出るお嬢様は、赤くなりながらモニョモニョしている。

 ファリスさん達に声をかけ、庭へと歩き出した。

 城の西側にある庭の入口に、庭師のルークさんが立って待っていた。

 まだ若い、長身の青年だ。



「ルークさん、こんにちは!今日はよろしくお願いします」



 俺が挨拶すると、寡黙なルークさんは少し表情を和らげた。

 薪運びの時など、顔を合わせる事の多いルークさんとは、ワトソンさんの次くらいに距離が近い。



「奥の庭の薔薇が見頃です。手前はまだ蕾が多いので」



 ルークさんもお嬢様が苦手なようで、案内などは断られてしまった。

 どれだけ嫌われているんだろうか、このお嬢様は。

 俺はお嬢様達と、奥へと歩いていく。

 奥へ続く道も、様々な花が咲き誇り、いい香りが漂う。



「とても綺麗ですね、お嬢様」

「そ、そうね!」



 目を忙しなく動かして、あっちこっちをキョロキョロとしている。



「お嬢様は、庭に来たりしていなかったんですか?」

「私、小さい頃は身体が弱かったから。だから外に出る事は止められていたの。今はよくなったけど」



 そういえば、お嬢様が小さい頃は、とても痩せていて、よく熱を出して寝込んでいたような気がする。

 よくワトソンさんが付き添っていた。



「良くなって私も嬉しいです。さぁ、お嬢様。歩きながらも特訓ですよ!」

「特訓?」

「はい。お嬢様は姿勢が悪いですからね。姿勢が悪いと痩せにくいですし、見た目も美しくありません。」

「な、なによ!アンタ文句しか言えないの!」



 お嬢様に言われると、なんとも言えない気持ちになるが、それは置いておこう。



「お嬢様、笑顔です、笑顔。」



 そう言って、人差し指で口の横を上げる。

 お嬢様もそれに気付き、引き攣らせながらも笑顔を作った。



「さて、姿勢ですが……頭に糸がついていて、引っ張られてる感覚をイメージして下さいね。今のお嬢様は、こんな感じです」



 お嬢様に分かりやすいように、俺はお嬢様の真似をして、少し前傾姿勢の猫背になる。



「そんなに変じゃないわよ!」



 お嬢様がキャンキャン吠えるので、俺はファリスさんに意見を求める。

 ファリスさんは顔を引き攣らせ、答えるのを躊躇ったが、俺が視線をそらさないので諦めたのか。

 青い顔で答えた。



「に、似ておられます……」

「何ですって!」



 俺は、すかさずお嬢様とファリスさんの間に立って、お嬢様を落ち着かせる。



「話は逸れちゃいましたが、そこを、こう糸に吊るされているように、胸を張り、背中に一本芯が通っているイメージで歩いてみてください」



 俺が人差し指を立てながら見本を見せる。

 確かに見た目の善し悪しが見て取れたのか、お嬢様も早速真似してみた。



「こうかしら」

「目線は一点をしっかり見つめて、顎を引いて……」

「ううう、難しいわね!一気に言わないで!」



 少し時間はかかったが、プルプル言いながらお嬢様が固まった。



「立ち姿が、淑女のようですね」

「ほんとに……まるで立派なレディーのようです……」



 ファリスさんが、俺の呟きに答えると、後ろでレナがコクコクと頷く。

 お嬢様は、それはもう顔を真っ赤にして、口をパクパクさせているが、言葉は出なかった。



「さあ、お嬢様。その姿勢を意識しながら行きましょう」



 ぎこちなく歩き始めたお嬢様は、姿勢を保つのにいっぱいいっぱいのようで、花を愛でる事が疎かになっていた。

 慣れない内は大変だろう。


 奥の庭にたどり着く頃には、お嬢様の額には玉のような汗が滲み、呼吸も荒い。



「ほら、お嬢様。お嬢様のお好きな薔薇が凄いですよ!」



 ファリスさんからハンカチを受け取り、汗を拭いていたお嬢様が目を見開く。



「ほんとにキレイ。それにとってもいいにおい」



 お嬢様がウットリ花を見つめる。

 俺は持ってきた水筒をお嬢様に渡した。



「お嬢様、喉が渇いたでしょう。こちらをどうぞ」

「あら、気が利くわね」



 お嬢様は、蓋を開けてごくごくと飲み始める。



「……美味しい……何だろう?爽やかで……レモリ?」



 俺が用意したのは、レモン水だ。

 こちらだと、レモリ水か。

 お水にレモリの輪切りと、ほんの少し塩を入れてある。

 汗をかいた後の水分補給にもってこいだ。

 水分は沢山取らないと、脂肪を燃やすエネルギーも上手く機能しない。

 お茶は程々にして、お水を沢山飲んで貰おう。



 俺は、お嬢様と庭を散策しながら、昨日家族で食事した事や、お腹が減ってなかなか寝れなかった話しを聞く。

 お嬢様の話を聞きながら、気になる事をメモしていった。

 好きな色が、意外にも白な事。

 好きな食べ物は、甘い物。

 嫌いな食べ物はピマル。

 この辺は、予想通りというか、子供ならほとんどそうなんじゃなかろうか。

 後は、これも意外な事に、お嬢様は刺繍がお好きらしい。

 刺繍について話す時のお嬢様は、それはそれは楽しそうだ。


 嫌いな勉強は、ほとんど全部らしい……。

 しかし、勉強が好きって胸を張って言える人が、どれくらいいるものだろうか。

 絶対にその子は少数派だ。

 でも、人は興味が有る事には、すぐに飛びつくものだ。

それを利用して、なんとか興味を持たせることが出来れば、上手くいくかもしれないな。


 お嬢様はまだ子供だし、元々の性格が短気で、集中力を途切れやすい。

 多分ダイエットも、順調にはいかないだろう。

 暴飲暴食の原因に、寂しさがあったとは言え、それも改善され始めたばかり。

 元々胃が大きくなっているのだ。

 いきなり少ない量になって、足りるはずがない。


 それでも、お嬢様には、もう馬鹿にされたくないと無い、変わりたい!という強い意思。

 それから、俺との約束がある。

 強い意志を損なわず、どう伸ばしていくか……だ。



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