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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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オルハの真実


「ここがオルハが住んでいる場所です」



 ジュダスさんとノヴァクさんに案内され辿り着いたのは、王都の郊外にある小さな家だった。

 数軒家も並んでいるが、郊外という事もあり辺りは寂れている。

 家の前には近くの住民と一緒に使うであろう井戸があり、家の裏には森が広がっていた。



「ノヴァクは外で周囲を警戒して下さい。何かあればロートを」

「了解しました」

「カーミラ様は私から離れませんよう。リオン、君はサイに手解きを受けているのですから、自分の身は自分で守りなさい」

「分かりました」



 俺達は頷いてジュダスさんを先頭に、オルハの住む家に向かった。

 ジュダスさんは辺りをもう一度見回すと、扉を二回ノックした。

 少し待つと中から足音が聞こえ、オルハの声が響いた。



「はい。どちら様でしょうか」

「ジュダスです。開けなさい」



 一拍置いて、扉の中から緊張した面持ちのオルハが現れた。

 久しぶりに見たオルハは、目の下には濃い隈が表れ、酷くやつれた顔をしていた。

 ジュダスさんの後ろにいた俺を見つけると、やつれた顔を青褪めて驚きに目を見開いた。



「リ、リオン……」

「オルハ……」

「オルハ、中に入れて貰えませんか?ここでは人目がつきます」

「あ……はい……どうぞ……」



 オルハは俺に食ってかかっていたのが嘘の様に憔悴しきっていた。

 その後ろ姿は、俺が知っていた時に比べてやたら小さく見えたる。

 恐らく…痩せたんだと思う…。



「此方にどうぞ……狭くて申し訳ございません」



 オルハは、玄関から入って直ぐのキッチンのある部屋へ俺達を案内した。

 小さな二人掛けのテーブルが置いてあり、流し台には食べ終わった食器がそのままにされていた。

 椅子を勧められたが、誰も席に着く事は無かった。

 重い空気の中、話しを切り出そうと口を開く。



「……久しぶり……というのも変なのですけど…話しが聞きたくて来ました……」

 


 俺が口を開いた途端、激しく身体を震わせたオルハは、一度も此方を見ないまま、虚な瞳で答えた。



「……は、話しならシュトラーダ公爵に全部話した……。もう知っている事なんて何も無い……」

「いや、そういう話しではなくて……」

「そもそも……お前何しに来たんだよ……お、俺を笑いにきたのか…?」

「そんな事して何になるんですか…」

「お、俺は……何も知らない!何も覚えてない!!」



 ダン!



 物凄い音がしてそちらを振り返ると、お嬢様が手でテーブルを叩きつけていた。

 怒りを隠す事もなく、その目はオルハを睨み付けている。

 お嬢様を取り囲む、周りの空気が揺らいでいる様に見えた。



「……カーミラ様。お気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい。魔力が暴走しかけています」

「……貴方ね……そんな知らないとか、覚えていないとか……そんな事言う前に、リオンにいう事があるんじゃないの?!」



 ジュダスさんの言葉に、お嬢様は怒りを抑え込みながら言葉を発した。

 しかし、その目はオルハから逸らされる事はなく、射抜く程の強さを秘めている。

 オルハは完全にお嬢様の魔力の歪みに怯えていた。



「知らなかったとしても、リオンは死にかけたんだから!」



 そう叫ぶと、お嬢様は大粒の涙を溢れさせた。

 俺はオロオロしながら、ポケットからハンカチを取り出すと、お嬢様の顔を拭った。



「お嬢様……。お気持ちは有難いですが、落ち着かないと暴走してしまいますよ?」

「……な、なによ!リ、オンが…そんな調子だから…私は…」



 お嬢様がしゃくり上げながら、途切れ途切れに語ってくれる言葉と思いは、痛い程伝わった。

 俺はゆっくりオルハの方を振り返った。

 口を開こうとしたが、オルハの方が先に声を上げた。



「リオン……謝って済む事じゃないけど……悪かった……」

「何よ!その言い方!」

「お嬢様。俺は別に謝って欲しい訳ではありません。謝って貰ったからと言って事実は変わりませんし、俺が許すとも限りません」



 俺の言葉に、お嬢様もオルハも、ジュダスさんも驚いた様に此方を見た。

 何も俺は聖人君子じゃない。

 オルハの事情や話しは聞くけど、許す許さないはまた別の問題だ。

 俺の言い分に、お嬢様は納得した様に頷いた。



「俺は話をしに来たんです。オルハ。何があったのかもう旦那様にもジュダスさんにも聞かれたでしょうが、オルハの口から聞きたいんです。話してくれますか?」



 俺はオルハの目を見つめたまま語り掛けた。

 不思議と怒りは無かった。

 もっと怒ったり感情が波打ったりするかと思ったが、お嬢様が怒ってくれたせいかもしれない。

 俺は、素直な気持ちでオルハに話し掛けていた。

 オルハはずっと怯えた様な、全てを諦めた様な顔をしていたが、俺がそう話すと横を向いて歯を食いしばった。



「……マルガレット領の従者学校に通っていた俺は……六歳の時に、ホーミュラー家の一人息子で、俺と同い年のカリンツの従者として住み込みで雇われたんだ……。五年間何の問題も無く過ごして、ホーミュラー家の皆とも仲良くやっていた……」



 そこで、一旦言葉を区切ったオルハは、何かを気にする様に廊下の奥を気にしている。

 しかし、すぐに視線を戻すと重い口を開いた。



「でも……俺が十一になった夏。事態はおかしな事になったんだ……。休日、馬車に乗って出掛けたホーミュラー夫妻とカリンツは野党に襲われた……場所も大通りで治安も悪くない場所だった……ドアのすぐ近くに座っていたカリンツは攫われ……両目と片足……それに喉も潰されて街の外れで発見されたんだ……」



 お嬢様が息を呑んだ。

 幼い子供が受けた傷としては、肉体的にも精神的にも惨過ぎる…。

 


「そうしたら……ホーミュラー夫妻は……直ぐに俺を養子にしたんだ……そして……カリンツは居なかった(・・・・・)事にされた……俺は……ホーミュラー家の跡取りになっていた……俺がそんな事望んだ訳じゃない……ずっとアイツの傍でアイツを支えて行こうと思ってた……なのに……」



 オルハの金の瞳には涙が浮かんだ。

 しかし、それを見せまいと、歯を食いしばって堪える。



「そこに、従者学校の先生からレベッカ様の従者にならないかと誘いが来たんだ……俺は二つ返事で答えたさ……レベッカ様が光属性を発現させたのは、マルガレット領じゃ有名な話しだ。俺はカリンツをレベッカ様に治して貰おうと思った……そのツテが幸運にも回って来たんだ……神は俺達を見捨てていなかったんだと……」

「レベッカ様に治して貰う…?」



 俺は話しが繋がらず首を傾げた。

 レベッカ様が光属性を発現したのは知っているが、それがどう関係があるというのだろうか?

 俺の疑問はジュダスさんが答えてくれた。



「発現する事自体希少な光属性は、傷を癒す力を持っているのです」



 なる程。

 やっと話が噛み合った。

 お嬢様と俺は、視線を合わせて頷いた。



「レベッカ様の従者に選ばれた名誉に、ホーミュラー夫妻は繋がりが出来たと喜んだが、俺はそんな物関係なかった。レベッカ様に頼んでカリンツを治して貰えば、全て元通りになる筈だった……例え俺がアイツの傍にいれなくても、カリンツの身体が戻れば元通りになる筈だったんだ……」



 オルハは悔しげに涙を流し、俯いたまま手を握り締めた。

 涙が一つ床に落ちると、涙は堰を切ったように止めどなく後を追う様に流れ続ける。

 長い間、オルハは声を押し殺して泣いていた。

 そして、呼吸が整うと、再び話しを聞かせてくれた。



「その後は……お前に言った通りさ……お前とカーミラ様の我儘で、従者学校の優秀者から手解きを受ける為に、従者に雇いたいと言われた。マルガレット家よりシュトラーダ家の方が力はデカいから、断る事が出来なかったと……俺は折角掴みかけた希望を、また失った……でも、カーミラ様の魔術講師は王宮魔導士だ……でもそれも、俺は話を聞いて貰う事すら許されなかったんだ……」




 それで……あんなにエメラダ先生に食い下がっていたのか……。

 俺は、全ての辻褄とオルハの態度が話を聞く事でようやく通じた。



「……だからと言って、俺がした事がお前の言う通りなかった事にはならない……本当に……本当に悪かった……お、俺は…お前を殺そうなんて……思っちゃ…いなかった……」



 再び涙を流したオルハは、謝罪を口にしながら顔を覆った。

 誰が彼を責められるのだろうか……。

 全ては、オルハを良い様に操った誰か(・・)の仕業ではないか。



「アイツは……親も……身体も……声も……未来まで失ったんだ……まだ俺と同じ……たった十一歳でだ……俺はどうなったっていい……だから……だから…アイツを助けてくれよ…!!」



 オルハは顔を上げると、もう涙を隠す事はなかった。

 そこに、偽善心や自己犠牲なんてものは何もない。

 ただ純粋に助けを呼ぶ声だけがあった。

 しかし、色々と引っかかりがあるのも事実だ。

 そう思ったのは、俺だけで無かった様だ。

 ずっと話しを聞いていたジュダスさんは、オルハに一つ問い掛けた。



「オルハ。十一の夏と言いましたが、正確にはいつなのですか?」

「……?いつって……八月十三日ですけど……」

「!」



 お嬢様の誕生日は八月の上旬、八月十日だ。

 いくらなんでも出来すぎていないか?

 お嬢様の誕生日の後、直ぐに誕生日を迎えたオルハは、仕えていた主人のカリンツを何者かに重症を負わされた。

 そしてタイミングよく、レベッカ様の従者に選ばれるも、シュトラーダ家が横槍を入れ、オルハを従者として雇った。



「ジュダスさん、そもそもオルハをシュトラーダ家が雇うきっかけとは何だったのですか?」

「……マルガレット家の従者を断られた、行く当ての無い従者見習いがいると従者学校から打診があったのです。聞けばその者は成績が優秀で、家族に重傷者がいて治せる者を探していると。それでライナス様はカーミラ様の従者として雇いつつ、光属性を持った者を探して下っておいでです。今の所良い報告は出来ませんでしたが」



 オルハが、始めて知ったかの様に驚愕に目を見開いた。

 そして、呆然と口から言葉が溢れた。



「探して……くれている……?」

「勿論です。ライナス様はずっと光属性を持つ者を探させています。しかし…タイミングが悪いのです……この国にいた三人の光属性の内、一人は神の元へ、そして残り一人は友好の証としてナナクーンに留学。もう一人は教会の元にいて教会から出る事は出来ません。いくらライナス様でも、教会に口出しは出来ませんから」

「でも……いくらなんでも不自然ですわ……本当にこれは偶然ですの……?」



 お嬢様の言う事は最もだ。

 いくらなんでも出来すぎている。

 何か俺達の知らない何かが起こっている…?

 それに、知らず知らずの内に巻き込まれているのでは……。

 俺達三人は、言い様のない悪意に晒されている様な、そんな気がしていた。

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