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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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異世界は狭い


まるで、長い夢を見ていた様だ。

 俺が目を覚ますと、オルハとの一件から、もう一週間も立っていたらしい。

 一週間とはいえ、まるで浦島太郎の様だ。

 お嬢様から話しは聞いたが、何だかピンとこない。

 どんなに心配させたのだろう、お嬢様はあれからなんだか過保護になった気がする。

 それでも、お嬢様に何もなくて本当に良かった。



「リオン、休んでいなくて大丈夫ですの?」

「大丈夫です。何回目ですか?お嬢様」



 下げきった眉が、困っているのか心配しているのか、上がる事なく様子を伺う。

 お嬢様は、飲み掛けのコップを置くとこちらを覗き込んできた。

 俺は大丈夫な事をアピールしながら、あの日の事を思い出していた。


 身体が痛みに悲鳴をあげ、薄れ行く意識の中、一瞬感じたあの感覚は何なのだろうか……。

 ただ、そこにあったのは、果てしない悲しみだけだ。

 胸を鷲掴みにされた様な、込み上げる何かは…。



「やっぱり具合が……」

「……い、いいえ!ぼうっとしてしまいました……寝込んでいたせいか、時差ボケみたいなものですかね」

「時差ボケ?何ですかそれ」



 怪訝な顔で此方を見つめるお嬢様は、立ち上がり俺の額に手を当てると、熱ではなさそうですわ……と、表情を和らげた。

 ファリスさんとレナも、お嬢様の様に心配してくれているのだろう。

 気遣う様な視線が向けられている。



「それで、オルハはどうしているのですか?」



 俺の問い掛けに、悲しそうな顔を見せたお嬢様は、ポツリポツリと説明を始めた。

 今は自宅謹慎中で、ノヴァクさんが監視しているらしい。

 全てを忘れてしまったオルハは、自分のした事だけは覚えていた。

 それは、俺を殺しかけたという事実だけが、彼の中に残ったという事だ。



「オルハと話をする事は出来ないのですか?」

「……リオン。貴方はオルハにそんなつもりが無かったとはいえ、死にかけましたのよ?!それなのに、その殺しかけた本人に会いたいと仰っるの?!」

「……はい」

「事情なら、お父様が聞きましたわ!ジュダスから話しを聞けば宜しいではありませんか!」



 お嬢様の剣幕に、ファリスさんとレナはオロオロとしながら肩を押さえた。

 お嬢様の心配も分かるけど、オルハに俺を害すつもりが無かったのは間違い無いと思う。

 それなのに、殺しかけたというのは、尋常ではない罪の意識が残ると思う……。

 オルハの事は……好きな訳ではない。

 仲が良かった訳でもないし、身に覚えのない事で嫌われていたし、随分と嫌な事も言われた。

 それでも、その罪の意識を一生背負っていくのは、同情する。

 それを俺が解消出来るなら、してあげたいと思った。


 俺の決意の固さを悟ったのだろう。

 お嬢様は、大きくため息を吐いて首を振った。



「全く……。本当にリオンは頑固です事」

「ほ、本当に。お、お嬢様にそっくりです」

「違いますよ、レナ。お嬢様がリオンに似たのです」



 二人の言葉を聞いて、お嬢様はがっくりと肩を落とした。

 そして、俺の目を見て、腕を組むと渋々口を開いた。



「お父様が良いと仰ったらですわ!わたくしは、知りませんからね!」

「ありがとうございます。お嬢様。エメラダ先生とジュダスさんにもお礼を言わなくては」

「あの二人の所に行くのは、馬に蹴られる様な気もしますけど……?いえ、エメラダ先生に蹴られますわね」



 どういう意味だろうか?

 


「お二人は一緒にいるのですか?」

「お父様に報告なさった後、先生の杖を作る素材をジュダスから貰う事になったみたいで、昨日からお部屋に篭りきりですの……」



 そう言ったお嬢様の顔は何故か真っ赤だ。

 全く意味が分からないので、ファリスさんとレナを見ると、何故か二人も顔を赤らめている。

 ……益々意味が分からない……。

 でも、屋敷に二人がいるならお礼を言うのに好都合だ。



「では先にジュダスさんの所へ行ってきます」

「わ、わたくしも行きますわ!」



 真っ赤な顔のまま、お嬢様は椅子から立ち上がった。

 先程からお嬢様の行動は意味不明だ。

 


「いいですけど、お礼を言いに行くだけですよ?此方でゆっくりお待ちになっていれば……」

「いいえ!行きますわ!」





 お嬢様の方こそ熱があるのではなかろうか。

 俺は内心首を傾げたままお嬢様と部屋を出た。

 部屋の前で待っていたサイネルさんと、三人でジュダスさんの部屋のへと向かう。



「ジュダス先輩の所へ行くんですか?」

『先輩?』



 思わずお嬢様とハモッてしまった。

 驚いた顔をしたのは、俺達よりサイネルさんだった。



「あれ?聞いていませんか?ジュダス先輩もエメラダさんも先輩ですよ。魔術学園の」

「聞いていませんわ!二人と顔見知りだったなんて!」

「あ、いえ、ジュダス先輩とは知り合いですが、エメラダさんとは顔見知りでもなんでもありませんよ。ただもう一人を含めて、魔術学園ではそれはそれは有名でしたからね」

「もう一人というと……もしやエルさんでは……」



 俺の台詞に、お嬢様はああと納得顔を見せ、サイネルさんはゲッという様な引き攣った顔を見せた。



「リ、リオンはエルファーラン先輩もご存じで?」

「あれ?話しませんでしたっけ?ミラーダ商会の商品を作っている工房長さんですよ」

「そんなに有名なんですの?」



 サイネルさんは、まるで一番苦手なものを見た様に顔を引き攣らせている。

 糸目が更に細く横一線になっている。



「有名なんてものじゃありませんよ。あの学園に通っていた生徒なら知らない人はいないんじゃないですかね?あの三人組は」

「まあ!どんな風に有名でしたの?!」



 お嬢様が興味津々にサイネルさんに話しの続きを催促した。

 確かに俺も気になる。

 エメラダ先生はともかく、ジュダスさんからこの手の話を聞く事は不可能だろう。



「成績の優秀さは勿論なんですけど、実技でも三人は飛び抜けていましたからね。特にジュダス先輩は身分がそんなに高い訳ではありませんでしたし、あの性格ですからね。手合わせに来る輩を千切っては投げ千切っては投げ……」



 なんだか……想像出来る様な……出来ない様な……。

 そのまま完全に無視していそうな気もするし、叩きのめして二度と歯向かえない様にもしていそうな気がする。



「あとは、あのルックスですからね、三人とも物凄く人気があったんですよ。それこそ、ジュダス先輩なんて、女の子の事も千切っては投げ、千切っては……」

「……ほう……その話し、もっとよく聞かせて貰おうか。サイ」



 ゲッ!と言葉を漏らしたサイネルさんは、真っ青な顔で後ろを振り返った。

 後ろには腕を組んで仁王立ちしているジュダスさんがいた。



「い、いえ、あ?あー!思い出しました!ノヴァクに呼ばれていたんでした!ジュダス先輩がいるならカーミラ様も安心ですね!すぐに戻りますので、失礼します!」

「あ!ちょっと?!サイ?!」



 お嬢様の静止も虚しく、サイネルさんは物凄い早さで何処かへ行ってしまった。

 あのサイネルさんが、こんなに怯えるなんてジュダスさんって一体……。

 俺は、ジュダスさんをじっとりと見つめる。

 しかし、ジュダスさんは特に気にする素振りもなく、端正な顔のまま俺の方を振り向いた。



「それで?どうして二人でここに?」

「あ、はい。エメラダ先生もご一緒と聞いたので、お礼を言いに……」

「そこに私も含まれているのなら、私への感謝は必要有りません。しかし、貸しが増えた事は理解しておきなさい」

「は、はい……」



 こうして生死を彷徨った後とはいえ、ジュダスさんは相変わらずジュダスさんだった。

 その変わりのなさに、なんだか少し安心してしまったのも事実だ。



「ジュダスは何処かに行くんですの?」

「いえ、何だか不穏な空気を感じたので様子を見に来ただけです」

『……………』



 俺はお嬢様と顔を見合わせる。

 言いたい事は二人とも同じであろうけど、言葉にする事はなかった。

 

ミラーダ商会


最近いつ行っても混んでいますね

私の美に対する情熱を舐めて貰っては困ります

真夏とはいえ、紫外線対策もバッチリです

すみません、薔薇のリンスを三つ下さい

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